まぼろし闇市へ、ふたたび 続東京裏路地「懐」食紀行

  • ミリオン出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784813020752

感想・レビュー・書評

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  • 飲み屋街を歩き倒して書いた軽妙なルポ。闇市取材のヒントになった。さっそくハモニカ横丁のキラス巻を食べに行った。

  • まぼろし闇市をゆく 東京裏路地「懐」食紀行の続編です。おなじみのコンビがまた、焼け跡闇市を期限に持つ飲み屋街で、飲みかつくらい語り倒します。

    ブタドウフ。とんもつスープ。牛ホルモン。満州焼・・・。この本の中に出るメニューを見るだけで、心がわくわくしてきます。この本は以前紹介した
    『まぼろし闇市をゆく 東京裏路地「懐」食紀行/藤木 TDC』
    の続編です。僕が東京にいたころ、新宿は思い出横丁をはじめとしたこの本で言うところの「闇市」のにおいが強くするところで飲みかつ喰らい、明け方まであーでもない、こーでもない。という議論をしては、ラーメンと餃子を〆に喰らい、翌朝の黄色い太陽を拝み、そして性懲りもなくまたしても平日の午前中から歌舞伎町に戻ってまた平日の昼間からビールを呷るという絵に描いたようなロクデナシデイズを思い起こさせる本です。

    現在の地元での蟄居生活では『飲む・打つ・買う』の三冠王は返上(もしくは剥奪ともいう)され、東京時代の友人から
    「修行僧のような生活だねぇ。」
    などと揶揄される始末で、
    「またいつかこういうところでうまい酒を飲みたいなぁ」
    というのが現在の僕の生きるモチベーションです。僕は、新宿の歌舞伎町で多くのことを学びましたが、それについてはまた後日。

  • 戦後の食糧や物資が不足した時代に、混乱に乗じて成立したブラックマーケット、それが闇市だ。そんな闇市で大食い労働者は胃袋を満たし、そして労働者達を目当てにした赤線が蔓延り、「地獄」の名の付く荒ぶる街へと変貌していった横丁も多い。世紀は変わり、もはや闇市など無くなったのかと思いきや、日本全国にはまだまだ闇市横丁が残存している。本書はそんな残存闇市横丁を探して、西へ東へ。そこで見つけた戦後遺跡食の数々を紹介した、古くて新しい食紀行である。

    「ヘイ」という著者のご機嫌な掛け声で始まるグルメレポートの数々は、店主との掛け合いも調味料である。街の風情、年季の入った鍋、閉店を知らせる貼り紙、怪味と渾沌の食の世界、随分と贅沢な貧乏飯である。

    ◆本書で紹介されている戦後遺跡食の一例
    ・鴬谷  鴬谷公園横「スナック 一」の”すいとん”
    鉄鍋にドカッと山盛りのメリケン粉団子。時間が経てば経つほどふくらんで腹にたまる。中華風と和風の味噌味、正油味がある。
    ・東十条 駅北口「とん八」の”からし焼き”
    赤唐辛子・ニンニク・豚バラ肉・豆腐の強烈四重奏。大量の豆腐の下に大量の豚肉が盛られている。
    ・中野  駅南口「いちふじ」の”とんもつスープ”
    一口含めば体内に一気に広がる強壮ニンニクパワー。ちぎられたお豆腐をかき分ければ肉厚な豚モツが大量に現れる。
    ・吉祥寺 ハモニカ横丁「美舟」の”キラス料理”
    お魚を酢を混ぜてオカラで巻いた奇蹟の残存戦後食。オカラのカッパ巻き「野菜キラス」も哀愁がにじみ出ている。
    ・横浜  リバーサイド屋台街「菊水」の”魚すじ”
    原料は謎。お店の人も「ウチだけしか、だしとらんから」と教えてくれない。おそらくサメが主原料。値段は酒代と合体のドンブリ勘定。
    ・大阪  大阪城公園近く「ふみちゃん」の”すじポッカ”
    「ポッカ」とは炒めモン。つまり牛すじ炒め。牛すじはすっかり高級食材。その高級食材をバクバク食べられる。
    ・仙台  壱弐参横丁「ツルヤ」のメヌケのアラ
    本体はさぞや立派なメヌケ(赤魚鯛)。しかし通は身よりアラを好む。料理屋の歴史が刻まれた絶妙の味付け。

    そして、グルメレポートの合間にひっそりと挟まる冷静なルポも、実にいい味を出している。日本全国のあちこちにあるションベン横丁。その由来は安普請が密集して共同便所の整備もままならず、酔客たちが線路わきの道にジャージャーたれ流したことに始まるという。しかし、いまや高級背広の御大尽や見目麗しき御夫人も来店するようになり、どこもかしこも立派な共同水洗便所になってしまった。

    しかし、仙台・東一センターの手洗いは一味違う。東京で言えば銀座に位置するような仙台の中心地にある、ここの共同便所は男女共同。男子用は仕切りなしの、壁面かけ流し。女子用個室との仕切りは、かろうじてのアルミドア一枚。さらに、頭上にある水槽の鎖を引くと水が流れる旧式水洗であるそうだ。戦後闇市から仙台市の歴史をすべて眺めてきた東一センターこそ、由緒正しきションベン横丁なのである。

    これらの残存闇市横丁の存在が表しているのは、いったい何なのか?それは、「昭和のクラウド化」ということではないだろうか。かつて誰もが所有していた「昭和」は「利用」の時代へ。コストはチープに、そして時間が蓄積されていく。リアルタイムな「こちら側」とノスタルジーな「あちら側」。しかしこのクラウド、残念ながらマテリアルで構成されており、有限なシロモノなのである。再開発という波や、新しいノスタルジーが押し寄せ、消えゆく時を迎えようとしている店も多いという。

    懐かしさが消えることを無責任に惜しむことは簡単である。しかし「こちら側」にとっては非日常なノスタルジーであっても、「あちら側」にとっては、リアルタイムな日常なのである。そこでの暮らしが消える切実さに耳を傾けること、それこそが最も求められている在りようなのではないだろうか。

  • 09/01/05購入
    09/09/10読了

  • ●No.3

  • 2008/6
    前作と同じく、闇市の雰囲気を残している路地裏の飲食店を紹介している。表現の毒々しさは若干薄くなっているが、戦後史について触れている部分までも薄くなってしまい、ただの質の悪いグルメ本程度のものになっている。前作は参考になったが、これはオススメできない。

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著者プロフィール

1962年生まれ。ライター。
映画、庶民史、酒場ルポ等のテーマを中心に雑誌・書籍に執筆している。
主な著作に「東京戦後地図 ヤミ市跡を歩く」(実業之日本社)、
「辺境酒場ぶらり飲み」(リイド社)、「消えゆく横丁: 平成酒場始末記」 (筑摩書房)など。

「2022年 『失われゆく娯楽の図鑑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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