- Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
- / ISBN・EAN: 9784815805999
感想・レビュー・書評
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動物愛護などから倫理学を考える良本。人間と動物の間にはっきりした境界なんてあるのか?というのから倫理・道徳につながっていく。
印象に残っているのがさまざまなベジタリアンについて。ベジタリアンは当然肉は食べないが,卵や牛乳を摂るかどうか,などいろいろ違いがあるそうだ。ヴィーガンと呼ばれる人々は動物性の食品を一切食べない。さらにフルータリアンと呼ばれる,植物の命にかかわるものも食べない(植物が食べてもらうために提供してくれる果実しか食べない)人たちもいる。それじゃ栄養足りないだろう。さらにネット情報によると,果実も食べないブレザリアン(息しかしない=霞しか食わない?)というほとんど仙人という人間もいるらしいが,これはウソだろう。それって即身仏だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
動物に対して人間と同じように権利を認めるべきか、そこまでいかずともある程度利害に配慮すべきか、という問題がこの本の主軸。読書会の題材で、メンバーに理解を助けていただきながらではあるが、はじめに倫理学全般についての説明もあるし、著者が心がけたという曲がり角の案内具合(できるだけ簡単に、でもゴールまで誘導できるように)はちょうど良かった、
倫理とか権利とかは人間が作ったフィクションなんだから動物に対して適用しなくても問題ない、とはじめは思っていた。しかし、その回答は動物に対する配慮のあり方をきちんと考えられていないんだなと気づいた。(自分は事実として存在する倫理のあり方を考えていたに過ぎなかった)
最後まで読んで動物に対する配慮を少しも認めないのは難しいと思った。反動物解放論者の議論は全体的に弱い。
meet your meatも見ました。見たら気分が落ち込むのは自明だったんで見ないと決めてたけども、最後に伊勢田さんが「まずは動物の福利について、現状を知ることとそれについて考えることが最初の一歩」と言われていて反省して見ました。すぐ菜食主義者になるのは正直厳しい(恥ずかしながら)が、思うところはあるのでとりあえず工場畜産は避けるような努力をしてみよう。 -
期待度★★★★☆(何となくの期待度)
読みはじめ:20120601
購入日:20120127
以下内容より
動物と人間とでは、なにが違うの? 動物倫理という「応用問題」を通して、倫理学全体へとフィードバック。動物実験、肉食、野生動物保護といった切り口から、人間の道徳までも考えてしまう、柔らかでスリリングでまっとうな入門書 -
同著者『疑似科学と科学の哲学』 http://booklog.jp/users/donaldmac/archives/4815804532 と併読。
どちらも初心者向け導入ガイド本で、紹介内容は広く浅く。倫理学や論理学をはじめて触れるには、説明もわかりやすく例示もさほど古びていない良書です。
反面、両書ともに初心者向け故、ちょっと読むのを留め考え直すと「え?え?その論理展開、ちと強引(笑)」な荒技は、ご愛嬌。
難しい概念用語も上手な例えで、キレイに説明してくれます。 -
倫理学の教科書と動物倫理の教科書を一冊で済ませた、いまいち誰向けか分からない本。読了しておいてなんだが、倫理学専攻の学生がレポートや研究の資料として使うような本で門外漢の通読には適さなかったかもしれない。
まず横書き脚注ありで、章立ても細かくて非常に教科書的で読みづらい。紹介される学者や理論の名前も多く、読みながら自分用のメモを作ってようやく本文の流れが掴めたといったところ。
そして倫理学理論の解説と動物倫理上のトピックがきっぱり分かれていて、章によってはシナジーも微妙。
参考までに、各章の倫理学/動物倫理のトピックは以下のような感じ。
第1章:功利主義と義務論/動物解放論
第2章:メタ倫理学/種差別
第3章:ロールズ/動物と社会契約説
第4章:「道徳の理由」の問題/進化生物学
第5章:福利/動物実験
第6章:功利主義,厚生経済学/菜食主義
第7章:徳倫理学ほか/野生動物保護
総じて読み物としての面白みには欠ける。知識ゼロの状態からなんとなく倫理学に触れてみたい人は、著者も紹介していた加藤尚武『現代倫理学入門』の方がよっぽどいいはず。
ただ内容はかなり充実しているので読み通せば自信はつく。個人的には功利主義がピンと来ず、倫理学的にも動物倫理的にもカント主義やノージックがわりとしっくり来た。
以下は読みながら書いた自分用メモ↓
第1章…功利主義と義務論 / 動物解放論
ピーター・シンガー「動物の解放」(1973)
…功利主義者,死の概念,障害者の権利も否定
ロス「一見自明の義務」論 (1930年代)
規則功利主義(↔︎行為功利主義) 義務論へ接近
ヘアの二層理論…義務の絶対視や功利主義の嫌悪を功利主義的に正当化。非常に例外的な場合のみその場の功利計算に従うべき。
トム・レーガン:義務論からの動物解放論者
尊重原理(「生の主体」の内在的価値)
第2章…メタ倫理学 / 種差別
ヒュームの法則
G.E.ムーア「自然主義的誤謬」,直観主義
形而上学的自然主義
認知動物行動学
限界事例
認知主義(自然主義,直観主義,≒道徳実在論)
非認知主義(情動主義,指令主義,≒反実在論)
ヘア 普遍的指令主義 →普遍化可能性テスト
外在主義(自然主義)vs内在主義(非認知主義)
第3章…ロールズ社会契約説 / 動物と契約説
1.古典的契約説とロールズ『正義論』(1971)
手続的正義論
2.契約説と動物
契約説は動物の権利に否定的。限界事例↓
ジャン・ナーヴソン
カーラザース 滑りやすい坂道の論法
動物解放論における人間優先の議論
J.S.ミル:快楽の質,レーガン:最悪回避原理
スライディング・スケール・モデル
(例:人間にはカント主義,動物には功利主義)
3.ロールズへの批判
ドウォーキン 資源の平等
ジョン・ハーサニー 平均功利主義
※無知のヴェールは規範倫理学とメタ倫理学の橋渡し。思考プロセスとして契約を想定
ロバート・ノージック …ロックを継承
権利付与のルール,ロックの但し書き
横からの制約(≒内在的制約?)
カント
定言命法の第一式:普遍法則の公式
第二式:他の人格を目的自体として扱え
第三式:目的の王国の立法者として行動
第4章…「道徳の理由」の問題 / 進化生物学
1.道徳の理由
『国家』 グラウコンの指輪(ギュゲスの指輪)
心理的利己主義 …反証可能性に問題あり
倫理的利己主義
サンクション(≒賞罰)
道徳の理由:①社会契約、②共感能力
2.進化倫理学
スペンサー →社会ダーウィニズム
生物学的利他行動(血縁選択,互恵的利他性)
ゲーム理論
アクセルロッド「しっぺ返し」戦略
ゴーチェ:ホッブズのゲーム理論的分析
(コラム)義務論は二分法的。共通先祖説のドーキンスは連続性を重視すべきと批判。
第5章…福利 / 動物実験
1.福利論
主観主義的価値論と客観主義的価値論
主観主義①快楽説(マズロー,エピクロス他)
↔︎ノージック「経験機械」(マトリックス)
②選好充足説(ハーサニー,ヘア他)
↔︎依存症,適応的選好形成,外的選好
客観主義①主要財(ロールズ)≒基本的人権
②潜在能力説(セン,ナスボーム) …機能充足
2.応用
動物福利派と動物実験全廃派
快楽説→環境エンリッチメント
潜在能力説→機能充足説,本性説(テロス)
統合案:合理的選好充足(認知的心理療法)
(コラム)自由の価値
ミル:快楽に奉仕する価値 →主観主義
ロック,ノージック:自由に価値→客観主義
ロールズ:民主社会実現に価値 →客観主義
セン:積極的自由(=機能充足)実現に価値 →客観主義
第6章…功利主義,厚生経済学 / 菜食主義
1.菜食主義の歴史
『食生活の倫理』(1883)→トルストイへ影響
ルース・ハリソン『動物工場』(1964)
工場畜産 ↔︎PETA "Meet Your Meat"
2.功利主義のバージョン
総量功利主義と平均功利主義
置き換え可能性テーゼ ←先行存在説?
3.厚生経済学
幸福の個人間比較:功利主義の難点。
→多数決,ボーダ法?社会的選択理論
ピグー
新厚生経済学:パレート最適,社会的厚生関数
アロー:一般可能性定理(独立性,独裁者×他)
ハーサニー:幸福の個人間比較比較で回避
セン:パレート派リベラルの不可能性
(コラム)ポパー:マイナス功利主義
第7章…環境倫理,共同体主義,徳倫理学,ケアの倫理学 / 野生動物保護
1.環境倫理学 …人間中心主義を批判
①生命中心主義
シュヴァイツァー「生への畏敬」
テイラー:生命の目的(≒テロス)を尊重
②生態系中心主義 …全体論↔︎個体主義
アルド・レオポルド 土地倫理
人間中心主義,動物解放論と三項対立関係
批判:「環境ファシズム」
2.徳倫理学 …古代。20世紀後半まで忘却
キリスト教四元徳:節制,正義,勇気,知恵
七つの枢要徳:上四つ+博愛,謙虚,信仰心
儒教の五常:仁・義・礼・智・信
中庸の徳
ウィリアムズ:統合性の徳(功利主義を批判)
ケアの倫理 …ケアも徳の一種と解される。
対話重視,文脈依存的,身内向き,女性的?
キャロル・ギリガン『もうひとつの声』
共同体主義 …徳倫理学と密接に関連。
マッキンタイア『美徳なき時代』(1981)
物語的秩序による人生の目的→徳を設定
サンデル:状況の中の自己,構造主義的?
3.徳倫理学ほかの動物倫理への応用
ハーストハウス:徳倫理学は第三者的なルール決定でなく一人称の判断に有用。自分の行為がどう形容されるか,自己欺瞞でないか?
ノディングズ:ケアは相互関係,相対的で可
環境フェミニズム:「男性的」既成倫理批判
共同体主義:伝統的な動物利用には寛容?
↔︎混合共同体:動物への共感,配慮の根拠
キャリコット:共同体は重層的,より身近な共同体の義務が優先。ただし強い利害は別
・徳倫理学ほかは感情,伝統などから「やわらかい倫理」を導く,80年代以降の新しい潮流。
↔︎批判:①あいまいでルール作りに不向き,②ヒュームの法則違反,③文化相対主義的,④権利運動の成果を無に帰しかねない
(④:黒人解放論者は「黒人愛好家」ではない)
→徳倫理学的アプローチは,権利義務論の補完として使うのがいい?
(コラム)徳倫理学とメタ倫理学
徳倫理学と義務論の違い:コード化不可能性
アリストテレス:フロネーシス(賢慮)
感受性理論:パターン認識→「理由の空間」
…認知主義的(事実ではなく理由を認知)
終章…往復均衡法 / 動物倫理のまとめ
1.倫理学理論の比較検討
功利主義:直観的,統一的見解
義務論:幸福以外の道徳的直観も考慮
潜在能力説,徳倫理学:補完的 ↔︎統一性低下
新厚生経済学:大小比較回避 ↔︎実用性乏しい
往復均衡法(ロールズ)…抽象と具体を往復しながら、理論または「熟慮された判断」を修正
2.動物倫理についてのまとめ
限界事例などいくつかの前提を組み合わせると、動物の権利を否定するのは難しい。
しかし、これに「ぎりぎりの選択では動物より人間が優先される」という前提を加えると、全体の辻褄が合わなくなってしまう。
この問題を一気に解決する倫理学理論は見つからない以上、往復均衡的に考え続ける姿勢が必要。 -
【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/324433 -
分厚くハードだが読み返すのでお得
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ちょーむずかった記憶がある
人間と動物って境界線突き詰めれば曖昧だよね
筆者が結構功利主義推しだとのちに判明したのは覚えてる -
主に動物倫理の観点から、その倫理学や関連領域の考え方などを紹介してくれている。
個人的には、シンガーやレーガンだけでなく、ゲイリー・フランシオンなどの論者も解説して欲しかった。厚生経済学の話などもあるが、本の趣旨を考慮に入れるとそこまで必要なかったのではないだろうか。もちろん個々の説明は流石に明快で分かりやすいが、全体としては意外とまとまりがよくないのかもしれない。
動物倫理に関心を持っている人だけでなく、動物の福祉や権利について懐疑的なひとこそ読んで欲しい本ではある。 -
こんな本があったら勉強しやすいだろう。