中国動漫新人類 (NB Online book)

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (441ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822246273

作品紹介・あらすじ

アニメと漫画が中国の若者を変えた。動漫は「民主主義の教科書」です!動漫=アニメ+漫画。激変する中国のいまを知るための最新にして最深の書。

感想・レビュー・書評

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  •  世界経済にますます存在感を高めている「中国」。その中国と日本の様々な軋轢を聞くにつれて、なかなか理解しにくい国であると思っていたが、本書を読んでその真の姿がわかる思いがした。そのキーワードが、中国で「動漫」と言われる「日本の漫画とアニメ」であるとは、全く驚きである。
     中国の若者の多くが「一人っ子世代」であり、「小皇帝」「小皇后」と呼ばれる新人類であることはすでに有名であるが、「80後」と呼ばれる1980年代生まれの若者たちのほとんど全てが「スラムダンク」や「セーラームーン」などの日本の漫画に「ハマって」いたなどと、日本の誰も想像できないと思った。
     しかし、本書はその事実を詳細に調査検証したうえで、より深い考察をしている。著者はそのために60代後半の身で「スラムダンク」全巻を読破し「セーラームーン」のビデオを見たという。いやいや、すごいとしか言い様がない。
     中国で著作権を無視した「海賊版」がまんえんしていることはよく知られているが、この中国の少年少女の世界を席巻した「動漫」のほとんどが「海賊版」であり、その安さにより巨大な市場を形成した事実には驚いた。
     そして、中国唯一の政権党である「中国共産党」が「たかが漫画」と気にもしなかったことにより、政治性の強い中国においても「日本の漫画とアニメ」が許容されたこと。そして、その結果、中国の少年少女達に日本のアニメや漫画に描かれている「恋愛やセックス、友情、スポーツに音楽、はたまたファッションといった日常生活の楽しさ、リアルな消費の楽しさ」の価値観が刷り込まれる結果になるとは! まさに驚きであるが、かつて「漫画なんか読んでないで勉強しなさい!」と親に怒られながら漫画を読んできた団塊世代としては、思わず頷いてしまう、納得する思いも持った。
     しかし、同時に思い起こすのが、2005年に中国で吹き出た「反日デモ」の時の風景である。「国連における日本の常任理事国入り」問題や「歴史教科書問題」等々により悪化していた中国の反日感情の高まりによる「反日デモ」が中国の若者たちによって激烈に行われたことは記憶に新しい。
     この若者たちの姿と「日本のアニメ・漫画大好き」との姿は結びつかないように思えるが、本書によると、若者たちの中に「教育による反日感情」と「日本大好き」という二つの相反するダブルスタンダードが矛盾なく同居しているのだという。
     「反日的知識」という主文化と「日本大好き」というサブカルチャーが同居する中国の若者たち。その結果は「民主化への道へつながる」との本書の見解には瞠目した。
     日本の動漫による価値観をぬぐい去ることはできないというのだ。インターネットというツールを手にした中国の若者たちは、もう過去へ戻ることはできないのだろう。
     同時に「愛国主義教育・反日教育」についても詳細な考察があるが、父親を共産党政権に殺されたサンフランシスコの老華僑の発言には考えさせられた。「そりゃ、正直言って恨んでいないといえば嘘になるでしょう。・・・でもねぇ、中国は結局経済発展しました。彼らの勝ち。共産党政権は正解だったってことになります」。これは、中国の崩壊は中国共産党に反対する者たちも含めて、誰も望んでいないということか。
     そして、「日本大好き」と「反日」のダブルスタンダーを持つ若者が「ネット」を通して「発言」や「行動」を行う。これは「民主化への道」そのものだという本書の見解に同感する。
     本書は、誰も想像しなかった中国の現状と未来を詳細に考察した良書である。441ページの分厚さも全く気にならずに一気に読むことができた。本書を高く評価したい。

  • 筑波大学名誉教授で今年で70歳に著者が中国文化研究の一環で出版したのが本書。中国の教育、経済などもレポートしているが、今回は動漫~日本のアニメや漫画を指すもの~を中心に支持する若者やそれらをめぐる中国当局の動きを詳しく書いており、いま中国では動漫がどのように受け入れられているかを知るためにはとてもいい本。
    それにしてもご高齢でいまの漫画やアニメなんか触れる機会ないだろうに、頭がさがります。

  • 1冊の本で、前半と後半の内容がこんなに違う本も珍しい。
    タイトルからはサブカル分析だと思うけれど、実際は著者の思いを書いた本なのだろう。

    前半はタイトル通り、中国の動漫事情、および若い世代の中国人に対する日本動漫の影響力に関する独自調査、分析で占められている。著者自身が、長きにわたって中国人留学生と交流してきたこと、現在も学生の中にいて、若い世代に理解があることがあり、実感の上に立った若者世代に関する分析は面白い。

    一方で、その若者達に多大な影響を与えてきたという日本動漫や、その業界については、著者自身の見識が浅い(多分、基本的に興味が薄い)ため、腑に落ちない部分が多々あった。

    「海賊版の取り締まりに甘かったことが、皮肉にも日本への理解を高めることになった」というのは理解できるが、では今後、それをどうすべきなのか。中国も発展した今、海賊版をビジネス的問題として解決すべきなのか、解決は無理と割り切って、文化的影響力を利と取り、政治的に活用するのか。「そういう事実があった」と述べるだけで、議論はない。

    やや不満に思いながら、読み進むと、後半はいきなり著者の経験に基づく知識と思いが爆発する。

    毛沢東、鄧小平、江沢民と、時代時代の指導者の特性にも触れつつ、戦後の中国の政治的背景、国民の持つイデオロギーの変化、反日運動の背景などを分析していく記述は非常に分かりやすい。こういう分析はあまり読んだことがなかったので、私としては新しい知識を得た感じがした。そして、「ああ、この人はこれが書きたかったんだなぁ」と思った。

    著者自身が思いも寄らぬ深みにはまったと認めているとおり、動漫から入って、本人の根源的な疑問にぶち当たったのかもしれない。それはそれでいいことだ。事実、後半の方が読み応えはあった。

    ただ、タイトルで期待すると、若干肩すかしを食らうのも事実。ということで★は3つ。

  • 今とこれからの中国市場を考える上で呼んでおくべきと声に出していえる本。あー、もっと早く読んでおきたかった。後半は作者の想いが先行してしまうが、それを差し引いても中国市場を狙う人にとって教科書と呼ぶべき本になっている(と強く感じる)。これからの中国の消費を担う人間の情操教育が何によってなされたのか、きっちり理解できる。

  • 日本の漫画やアニメに熱狂するとともに、2005年には反日デモに加わり日本への激しい抗議を叫ぶ中国の若者たちの実態を、戦後の日中関係などを踏まえながら論じている本です。

    前半では、日本に留学している大学生への聞き取りのほか、中国のアニメ産業にたずさわる人びとへのインタビューなどもなされており、サブカルチャーについてのルポとして、よくまとまっているように思います。また後半では、江沢民時代の反日政策の背景や、サンフランシスコに発する華僑華人たちの人権保護団体と中国政府との微妙な関係などに切り込みつつ、国際社会における日本と中国のそれぞれの立場について著者自身の考えが展開されています。

    著者は、1941年に長春で生まれ、国共内戦で家族をうしなうという辛い目に遭い、53年に日本に帰国したという経歴の持ち主で、そうした著者自身の中国に対するアンビバレントな思いが本書の底流にあることが本文のそこかしこにうかがわれます。いわゆるサブカルチャー畑のライターではないので、作品の内容にそくした考察が展開されているわけではありませんが、中国の人びとの考えに迫った本だと思います。

  • 2008年刊行。著者は筑波大学名誉教授。中国人、特に青少年層を席巻するジャパニメーションとマンガ。一方、反日デモに参加する中国人青年。本書はこのアンビバレントな心性の実相とそこに至った過程、理由を解読し、中国人の今の一面を照射してみせる。中国通らしく先の心性の両立可能性を上手く根拠づける。興味深いのは、大量の安価な海賊版が、著作権侵害という害悪の一方。ジャパニメーションの質の高さを知らしめ、知名度アップと広範な普及に寄与したらしい事実。また、愛国教育が共産党賛美のみならず、台湾取込みを目的としている点。
    必然的に、仮想敵は国民党ではなく、日本が標的となる。しかも、その際、対ファシズム戦、すなわち第二次大戦において米英露中は同盟国で、日本は共通の敵であった事実を活用。すなわち、現代での欧米との連携強化、緊密化のため、この紐帯を共産党が政治的に活用。この愛国化教育は国内安定にも有益。このような中国にとって一石二鳥となる政治戦略を、日本も直視する必要があるだろう。これが1994年鄧小平死去と、95年以降の江沢民による反日教育の流布につながった点は注目すべきか。
    台湾独立→中台対立や戦争を忌避したい華僑の米国内ロビー活動と米国世論の琴線への配慮は無視できない要素。これらの事実をジャパニメーションを一つの素材にしつつ活写したのは見事である。ただ、中国分析の素材が大学生という絶対的少数派を核としている点には注意が必要。

  • 2008年2月12日、初、並、帯付
    2016年4月30日、伊勢BF

  •  たくさん発見が詰まっている、読み応えのあるノンフィクション。著者は1941年・中国長春市に生まれ、53年に帰国するまで中国で育った女性研究者。生まれ故郷である中国への愛を隠さずに、しかし視点としてはたいへんバランスを持って書かれていると感じる。内容としてはあちこちで書かれているのだが、自分のメモとして。
     論旨は明快で、後書きにまとめられているとおり

    1.80年代初期に中国へ入ってきた日本動漫(漫画・アニメ)は中国で「大衆文化」となっている。『スラムダンク(灌籃高手)』や『セーラームーン』は幼少時から中国の若者の精神風土に深く浸透している。その背景には海賊版が「タダ同然」で入手できたことが大きかった。海賊版だからこそ、中国政府も日本動漫の普及を問題視しなかったし、また止めようもなかった。アメリカ産コンテンツに比べ、日本産は表面的には政治思想的な内容に乏しかったため、中国政府は「たかが動漫」と見くびってその普及を野放しにした。そこに中国政府の誤算があった。
    2.日本動漫の消費を通して、日本の精神文化に使ってきた中国の若者だが、一方で愛国主義教育の影響もたっぷりと受けている。その結果、若者たちは「スイッチを切り替える」ように、その両面を使い分けるようになっている。
    3.最近の「反日デモ」はインターネットを介して自らが選び取った海外からの情報に基づいていて、中国政府はこうした動きを「反体制的行動」の呼び水として恐れ、押さえ込もうとしている。
    4.中華民国から中華人民共和国に政権が移るとき、この革命の中心を担ったのは農民たちだった。地主を激しく糾弾・罵倒しなければ、自分が売国奴として殺される「踏み絵」が精神風土として受け継がれてきた。一時期、強化された反日教育によって、現在も誰かひとりでも「反日」を叫ぶや否や、より大きい声で叫ばなければ自分が売国奴呼ばわりされるかも、という群衆心理は、ネットの無軌道性によってさらに拡大している。

     おおまかにいえばそんなかんじなのだが、400ページ以上にも及ぶボリュームがある本なので、この論旨の「肉付け」こそがおもしろい部分。アンケートやインタビューなど、一時情報が豊富に詰め込まれていて、生々しい実感が味わえる。
     以下、興味深いところ抜き書き。

    ・中国ではコスプレ大会がさかんで、政府主催のモノもある。
    ・中国の大学・専門学校の75%がアニメ学科を持っている。
    ・中国は国策として「動漫事業」を起こそうとしているが、まだまだ日本動漫ほどの支持は得られず、日本製アニメの盗作疑惑なども生じている。
    ・中国を日本産アニメが席巻したのは、格安で入手できたから。
    ・しかも、これに対して中国政府は「日本はダンピングによって、中国のアニメ産業をつぶし、中国の若者たちを洗脳しようとしている」と位置づけている。
    ・中国で「愛国主義教育」がはじまったのは92年以来と意外に最近。しかも、その中に「抗日戦争」という要素を入れて激しく強調し始めたのは95年。天安門事件(89年)直後は反米のための「愛国主義」教育だったのだが、江沢民が「親米色」を強めたために、かわりに「反日」を強めた。背景には台湾統一をにらんで、従来批判してきた国民党を持ち上げる必要があり、「抗日戦争」での共闘を強調するのが効果的と判断したため。
    ・昔は「革命」を叫ぶことが「革命的」であることのアピールだったのに、今では「抗日」を叫ぶことが保身となっている。
    ・日本動漫を愛しながら、「反日」と叫ばなければ売国奴とののしられる中国の若者たち。ところが最近の日本は彼らを「大地のトラウマ」に追いやるシグナルばかりを発している。これはたいへん不幸なことだ。

  • 中国における漫画を調べるために必読の本である。また漫画好きと反日の関係がパラレルだとしている。これは、日本の戦争中、声高にお国のタメと言わないと非国民として迫害されたことと同じことであろう。

  • ゼミの教授だった高島肇久先生オススメの一冊。
    漫画やアニメを子どもの頃からみてきたひとりっ子の中国の若者たち。彼らは、動漫新人類として、大きな流行を作り出している。
    一方で、反日デモを起こし、ネットなどで日本批判を続ける中国の若者たち。
    なにが、中国で起きているのか?
    そこには、中国政府からのトップダウンの政策と、日本アニメのボトムアップの民意があった。
    なにが、中国で起きているのか?
    中国出身の同期に聞いたけど、人気違いじゃないかもな!大枠では、中国の現状がよくわかる作品。

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著者プロフィール

1941年中国吉林省長春市生まれ。1953年帰国。東京福祉大学国際交流センター長。筑波大学名誉教授。理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『チャイナ・セブン 〈紅い皇帝〉習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(以上、朝日新聞出版)、『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(WAC)、『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)など多数。

「2015年 『香港バリケード』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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