10万年の世界経済史 下

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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822247423

作品紹介・あらすじ

近代の急激な経済成長をもたらした勤勉な中産階級的価値観がなぜ生まれたのか?日本や中国ではなく、英国が産業革命で先行したのは、文化的、遺伝的な「偶然」の産物だった。英国で産業革命が起きた謎を大胆に解く。

感想・レビュー・書評

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  • 産業革命後、どうして人口が増えたか? 国の間の格差はなぜ広がったか?

  • 論理的な面で筆者の主張に違和感を感じてしまうのは気のせいなのか・・
    イギリスではなく、なぜ他国で産業革命が初めに起きなかったかの考察では、アジア諸国ではなく、欧米諸国との比較が欲しかった。 長期安定国家の存続という要素に基づき中国や日本でも時間軸次第では産業革命の自発的勃興が起こり得たとの見解と、社会階層の下方推移が産業革命成立の長期的要因であるとの作者説明は相反するように感じた。
    今日の国際国家間の貧富の差が、国民各々の効率性によるものである、との一点張りも苦しい説明で、なぜ効率性の違いが社会によって違うかについては立証不可能として匙を投げてしまってるのもどうかと思った。結局は18世紀以前の社会についてはマルサス経済論のモデルをうまく当てはめることができるが、それ以降は複雑すぎて分からないということが結論とされており、何のための書籍だったのかと残念に思った。
    格差拡大の近因についても、先進国の人たちはマジメだから成功した、インド人はアホで怠け者な労働者しかいないからダメだ、という薄い内容にしか読み取れず…紡績ラインに絞った米印比較だけでは説得力もない。
    貧者がいて初めて富者は満足するという主張は分からなくもないが、豊かな国と幸福度に相関関係が無いなどの話題は、そもそも本書のテーマに沿わずに無意味。

  • 上下刊の大著。$$なぜ1800年代の産業革命まで同様の発展がなかったか

  • 下巻の方が遥かに面白かった。まず上巻では、社会と経済の誕生から1800年ぐらいまで人類はマルサス的経済(経済の付加価値が増してもそれは人口増にフィードバックされてしまい、一人当たり所得の向上には決してつながらない経済)の下で他の生物と同様の経済原理の下にいたことを解明した。

    下巻では、そのマルサス経済が産業革命とそれによって訪れた一人当たりの所得の飛躍的向上の原因とそれが全世界に訪れるのではなく世界のごく一部の国にだけ起こり、結果として世界における所得の格差を作り出している原因に迫ったり、哲学したり(結局、その要因は最後まで分からないのだが、それを考え続ける知的好奇心を人類が持つことが重要、みたいな哲学的結論となる)する内容となっている。

    ザクッと関係性を書いておくと、まず産業革命がイギリスに生まれた理由は、よく言われる社会的安定性や民主主義、私有財産、それを守るための特許制度等によるものではなく、どうにも文化的、遺伝的背景を元にしつつたまたまイギリスで生じたようである。そして、西欧諸国の帝国主義に呼応する形で、産業化とそれに伴う付加価値や所得向上の波が世界中を覆い始める。が、帝国主義も終わった現代までをスコープに入れると、産業化できた国とそうでない国とが世界中にはあることがわかる。その要因をこの本では数々の可能性をいちいち検証して考えるのだが、どうも最終的医は技術利用の効率性(生産性)の違いが、この所得格差を生み出している根本の要因であると断定する。では、その技術利用における生産性の違いは何から生じるのか?これもまた上巻において莫大な経済データを用いてマルサス的経済を論証したのと同じように綿密に検証した結果、それは各国語との人材の質の違いに要因が求められるという。そして、人材の質の違いがなぜ生じるのかについては、現在の経済学や社会学でも有意な回答が出ておらず、何かしらの文化的、遺伝的な要因がそれを作り出す、程度にしか理解が進んでいないようである。

    そうか、やはり、最後は労働者の知力や勤勉さなどの要因で差がつくのかー、というのはこの本を読むとよく分かるが、では、その理論で今の効率性の悪い、所得格差の低い国を変えるとなるとかなりの困難さが予測されてしまう。また、現在の格差は産業革命を自国に取り込めたかの差であり、要因であるので、この先の高度情報化社会の中でその人材の質がそのまま成功の要因となるのかは、分からないところがある。

    そうしている内の最終章で、「幸福と所得格差」という経済学の最終到達地点のようなテーマを語る。そして、語るに立って、最後の重要なデータを高度成長時代から現在までの日本人の所得と幸福の認識の推移のグラフを用いる。日本は1950年代に始まった高度成長から現在まででなんと7倍もの平均所得の上昇がみられるが、いっぽうで幸福の認識は50年代から現在までほとんど変化がないのである。この本では人は幸せかどうかを「幸せでない物証を見たり、感じたりすることによって感じる」としている(私は必ずしもそうでないと思うが)。。故に、全世界には生じた所得格差を通じて幸せを感じられる矛盾に満ちた人間模様があるし、この問題から逃げず、全世界の所得増と所得の格差の是正を考えることが、知的な人類の使命であると閉めている。

    本書の最後にある「世界経済史は直観に反する因果関係や驚き、謎に満ちている」とあるが、まさしくそれを感じられ、考えさせられた良書であったと思います。

  • 所得は増えても幸福度はそんなに変わらない。

  • 下巻は産業革命について。著者は、スミスは社会制度が発展の要件だったということを言ったとして執拗に批判しているが、私の理解では、スミスがいっていたのは、社会制度は必要条件にすぎず、それ以上に重要なことは市場機構がしっかりと働くことだ、ということだ。18世紀になるまで産業革命が起きなかったのは、市場機構を十分に機能させるために最重要の交換手段である貨幣が圧倒的に不足していたためだろう。要するに、社会制度の一部は十分に機能していたが、それを経済という側面に反映させるための貨幣が不足していたということなのだ。経済というのは、貨幣ですべてを計測しようとしているのだから、それがなければ計測上の数値が伸びないのは当然のことだろう。これもまた単に定義の問題であり、貨幣の流通が広がるにつれて計測できる経済価値が上がったから、それが幸せになったとかそうではないとか、そんな話をすること自体が的外れなことなのだ。それをさも有難げに経済上の数値が伸びたことがすごいことだ、のように延々と書き連ねているのが、もうピンボケ過ぎて議論する気にもなれない。
    なぜ中国や日本で産業革命が起きなかったのか、というのも同様の理由で、中国では、明、清の時代に、元時代の貨幣乱発の羹に懲りてという感じで、貨幣流通を抑えて明白なデフレ政策をとったためであり、日本では全国規模の貨幣は発行されずに藩札にとどまったために市場規模が十分に広がらなかったためだろう。それは技術力とかましてや知識水準とかそういった話ではなく、単に計測・交換手段がいきわたっていたかどうかの経済学上の技術的な問題にすぎないのだ。もちろんそれが結果として人々のマインドに影響を及ぼして実際の経済力や技術力に差をもたらしたのは言うまでもないことだが。
    効率性が高いことが鍵だった、のような話もしているが、それもまた何を言っているのか、という感じだ。成長率の高いところと低いところを取り上げて、その差は何かと問われてその伸び率が高いことがその理由だ、などというの、まさに何も言っていないのと同様だ。それは因果関係でも何でもなく、計算式の問題だ。少なくとも理由づけとして一番に挙げられる話ではない。
    第二次世界大戦後に世界人口が急速に伸びたのも、兌換貨幣が不換貨幣になったことにより、さらに貨幣発行の上限が取り払われ、資本上限が無くなったためだろう。これを見ても、マルサスの罠が土地の罠ではなく資本の罠だったことが明白だろう。
    本当に突っ込みどころ満載で、読んでいたら頭が痛くなるようなことばかりなのだが、これがまあ世間一般的な経済学者の考えていることなのだろうな、ということが典型的にわかって、大変興味深い本だったともいえる。

  • 産業革命前と後を中心とした経済状況について論じた本。
    下巻は産業革命とその後の格差が大きく開く大いなる分岐に焦点を当てて考察されてます。

    ただ、この時代にこういう事が起こったというにとどめ、なぜ産業革命が可能だったのか、他の地域で起きなかった(そして今も達成されていないのか)については答えはない。
    ただ一ついえることは、現代の私達が普通に感じている物事は人類史から見るとごくごく最近の出来事でしかないということか。
    興味深いのは技術の進歩があった分だけ人口を増やしてきた人類が、産業革命以後そうはならなかったということ。
    人々の考え方に大きな変換点が起きた理由を想像するのは面白い話だと思う。

    経済学が真の意味で科学となるには世界経済史に共通する知見を見出さなければならない。そう思う良い本でした。

  • 第10章 近代的な経済成長-国富の形成
    第11章 産業革命の謎
    第12章 英国の産業革命
    第13章 産業革命はなぜ中国やインド、日本ではなく、英国で起きたのか
    第14章 産業革命の社会的影響
    第15章 1800年以降の世界における経済成長
    第16章 格差拡大の近因
    第17章 なぜ世界全体が発展しなかったのか
    第18章 結論 未知の新世界

  • なぜ産業革命がイギリスであの時期に起きたのか。
    なぜ国々の間で格差が起きてしまっているのか。を解き明かそうとする本です。
    アダム・スミスの否定もしています。
    以下、ネタバレ多です。


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    総合的に

    ■なぜ英国で産業革命が起きたか。
    ①長期にわたる経済制度の安定
    ②富裕層の出生率向上
    ③富裕層の子供が下流層に下る
    ④下流層に知識・価値観の伝承
    ⑤社会全体に知識蓄積
    ⑥知識人多数により産業革命

    ■マルサス的経済では生活水準と総人口は均衡状態だった
    ①一時的に人口が増えると一人あたりの食料が減り、人口が元の水準に戻る
    ②一時的に食料が増えると出生率が増加し、一人あたりの生活水準は元の水準に戻る

    ■盲点だったのは産業革命で恩恵を受けたのは、上流階級ではなく下流階級だったということ。確かに、上流階級の生活感は変わっていない中で下流階級の底上げが行われ、中流階級が増えている感覚が一番しっくりくる。

    ■産業革命は特定の日に起きたのではなく、知識の蓄積により徐々にもたらされた。

    ■現段階で国々の格差は効率性の違いしか説明できる要素がない。


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    上巻

    ■人間の幸福度が自分の生活の絶対的な水準で半九、他の基準的な集団と比較した相対的水準によって決まっているのは明らかだ。p38

    ■産業革命前、任意の所得水準下において、ヨーロッパよりアジアの方が死亡率が低かった。(アジア人の方が所得が少なくても生きていけた)それはアジアの清潔な文化(湯船につかるなど)が関係している。p152

    ■父から息子に受け継がれたおもな優位性とは、経済的な成功のノウハウなどの文化的なもの、あるいは経済的成功をもたらした父親の生来の性質という遺伝的なものだったのである。(遺産ではないと言っている)p201

    ■インフレは死重損失を生む。p254

    ■技能や訓練に対する報酬がもっとも多かったのは、産業革命よりずっと前の労働市場だった。p293



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    下巻

    ■イギリスで産業革命(工業化)が成り立ったのは、同時期にアメリカで農産物の生産性が向上し、それらの輸出入によって、工業に集中できたからでもある。p92

    ■産業化以前の社会については、技術革新が起きない場合の効率性上昇率をゼロとする仮説は誤りである。生物依存的な生産体制では、ギジュて確信がなければ、同じ生産性を維持することも出来なかったのだ。p105(⇒p102)

    ■クズネッツ曲線の見解が違う。p136
    ○一般的には
    経済発展の初期には農業部門から工業部門に資金が移動して格差が拡大する一方、経済発展によって中間層が増えてくると所得再分配が行われるようになって格差が縮小する現象
    ○本書では
    農業部門から工業部門に資金が移動する(産業革命)すると格差が縮小する

    ■不平等の度合いを決定する極めて重要な要因の一つは総所得に占める労働所得の割合である。他の条件が同じならば、この割合が大きいほど、不平等の度合いが小さくなる。なぜなら、労働はすべての人間に平等に与えられるから。p139

    ■豊かな国と貧しい国の所得の違い
    ①効率性の違い
    ②効率性の低い(ミスが多い)貧しい国はミスを補うため人を投入する。(人件費が安いから人の補充はコスト)
    ③その結果、教育されず効率性は向上しない。
    ③また、生産高あたりの労働者数の割合が高いため、人件費の面での優位性は得られにくい。

    ■産業革命によって生まれた新しい技術は、より大規模な分業をようするものであり、その過程でのミスは以前より許されなくなった。p268

  • 上: 人類の技術進歩が人口増で帳消しになり、結局生活水準が上がらない「マルサスの罠」と呼ばれる停滞時代は、アフリカのサバンナで始まった原始的な狩猟採集社会から、1800年ごろの定住農耕社会に至るまで続いた。それはなぜか?

    下: 10万年間は続いたマルサス的経済が、近代的経済へ移行したのは、産業革命がきっかけとされるがそれは真実か。また日本や中国ではなく、なぜ英国で産業革命が先行したのか?
    またその後、富める国はますます富み、貧しい国がいつまでも貧困から抜け出せずに経済格差が広がる「大いなる分岐」はなぜ起こったのか?

    という壮大な疑問に挑戦する書。
    論点がありすぎて書ききれませんが、とりあえず

    ・ 人類の技術進歩が人口増で帳消しになり、結局生活水準が上がらないという現象そのもの
    ・ 狩猟採集時代より物質的に貧しい社会が19世紀、現代でも出現している

    という点が意外で衝撃的でありました。
    この文章だと余りうまく伝わらなさそうですが、文明の進化→物質的な生活水準の安定(と上昇)ではないというあたりが。

    そして下巻で散々にグラフを見せられて疲労した挙句、
    「物質的豊かさの上昇は幸福感の上昇に余り繋がっていない」
    「幸福感は、隣人より相対的に経済的成功をしたときに感じる」
    といった当たりのなんともいえない感じも。

    と書くと余りほめていないようですが、人類の発展を超マクロ経済史?から見る興味があれば、一読の価値有りです。

    アマゾンでは、
    [人類の「ビッグ・ヒストリー」を描いた本書は、マルクス『資本論』、スミス『国富論』、ダイヤモンド『銃・病原菌・鉄』に匹敵する]とあるので、次は『銃・病原菌・鉄』かな。

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