債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか?

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制作 : 高遠 裕子 
  • 日経BP社 (2016年12月23日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822251888

債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか?の感想・レビュー・書評

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  • 「借金が厖大なら大量に造幣すればいい」、テレビでそんなトンデモ持論をぶちまける自称知見派を度々見かける。当然単相関を根拠とする彼らの主張は論外だが、本書はその理論、いわゆるヘリマネを2008年の金融メルトダウンを踏まえ真面目に検討した書籍だ。非常に興味深い。日本でも高橋是清が大蔵大臣に実際に政策として行い成功させている。ヘリマネは当然ハイパーインフレを引き起こしかねない劇薬だが、元々はフリードマンがマネタリーファイナンスとして提唱しており、実際に元FRBバーナンキ氏が日本に提言したこともある。

    なお筆者は債務削減の特効薬としてヘリマネや公的債務の償却を提言しているものの、本書が指摘する本質はGDP成長率とインフレと比較して債務対GDP比の伸び率の乖離である。経済学においては乗数効果による信用創出は正義とされてきたが、その信用創造が設備投資ではなく既存不動産へ回される点を問題視し、経済学の「完全な世界」の前提にもメスを入れている。金融メルトダウンにより結果的に民間債務から公的債務への付替や国際間収支の不均衡が生じたが、それ自体を批判するのではなく、原因と結果を丁寧に解き明かし、著しい信用創造がもたらす負の側面と、それを理論的に裏付ける(とされていた)経済学信仰に対する警報を鳴らしている。

    元FSAの筆者が書いてるだけあって、刺激的なタイトルとは裏腹に、2008年の経済危機を「ウォール街の強欲」で済ますことなく民間信用創造のシステム的欠陥を炙り出し、何をすれば経済が再起動するのか真面目に考察した本であり、大変面白かった。

  • 債務創造は行き過ぎれば大惨事を引き起こす。

    南北戦争の際にリンカーンはグリーンバックを発行した=政府紙幣。高橋是清の通貨増発など、リフレの成功例もある。一方で、ワイマール共和国、ジンバブエなどのハイパーインフレの例もある。適正量なら利便性がまさる。

    金融依存度を高めると市場の働きでより良い「価格発見」がなされる、という理論が自由市場用擁護の一般理論。市場の流動性が高まることは社会的に有用。

    効率的市場仮説と合理的期待形成仮説が成り立たない理由=群れをなして動く。市場全体はその通りにはならない。ケインズの美人投票=全体に従うほうが合理的、しかし効率的ではない。完全市場は幻想。

    流動性の増加による価格発見力に対する限界効用は低下する。取引の増加とボラティリティの増減はどちらもあり得る。

    株式は、資金の出し手のコントロールできないリスクを含む。金融は確定利付なのでそれがない。

    金融の仲介機能は、設備投資ではなく不動産の購入に当てられている。
    民間から公的部門に債務が付け替えられた。

    量的緩和は富裕層に分配される。

    国債発行による財政政策は、クラウディングアウトとリカードの等価定理で効果がない、とされた。しかし合理的でない人間のおかげで、そうなるとは限らない。

    人口が多い国で生活水準が西欧並みに上昇した国は、日本、韓国、台湾しかない。

    VARのような高度なリスク管理システムは、信用と資産価格の変動を増幅する可能性がある。すべての金融機関がこれでリスク管理をすると、金融システム全体が不安定になる。

    債務契約に対する課税をすれば、過剰債務が発生しない。現代は債務契約を優遇している。
    銀行の廃止=民間の信用創造の禁止。債務契約ではなく株式契約。株式を新たな形にできないか。

    ヘリコプターマネーで消費を刺激する=インフレ率の上昇と生産の増加につながる。
    政府紙幣なら増税がないので、等価定理は成り立たない。
    マネタリファイナンス以外の選択肢=政府紙幣の発行。
    劇薬と同じ。摂取量の調節が難しい。民間の信用創造よりいいのではないか。一回限りに限る。

  • 全15章の内でヘリコプターマネー(ヘリマネ)に触れているのが、14章と15章。残り8割が世界金融危機を引き起こした金融システム、信用創造と主流派経済学批判の話だった。最終部まで読むのに、延々と金融の話が続いて経済学素人には正直途中で飽きてしまった。

    ターナー卿の現在の金融システム批判としては、まとめれば
    1.金融の自由化が行なわれた結果、金融システムの過剰な信用創造が生み出されて、それが金融危機によって過剰な債務を生み出した。また、現代の金融システムは”新規の設備投資にあてるのではなく、不動産などの既存資産の購入にあてる債務が膨らむ。” (P.30)
    2.「効率的市場仮説」と「合理的期待仮説」を主旨とする主流派経済学は金融およびマクロ経済の不安定性を理解するのに役立たなかった。

    また、各国で行われている財政政策や量的緩和には批判的だ。財政政策への批判点はクラウデイングアウトやリカードの等価定理、巨額の政務債務のために思い切った財政政策が打てないという批判。政務債務については、ロゴフ=ラインハート論文が肯定的に引用されていて筋悪だと感じられた(P.361)。 例の論文のexcelの間違いについては触れてなかったのに不満が残る。量的緩和についての評価は、やらないよりやった方がよかったが、格差を広めてしまうと両義的な評価で、この辺はクリスティーナ・ローマやスティグリッツと認識は同じかな。以下引用。

    これらの政策(量的緩和政策)は、それらがなかった場合に比べて名目需要の伸びを高め、インフレ率がさらに低下するか実質成長率がさらに低下するのを防いだのは、ほぼ確実である。(p.362)

    量的緩和策が機能するのは、低い利回り曲線が資産価格を押し上げ、資産を増やす事で、資産保有者の消費や投資を促進するからだ。それゆえ、必然的に格差を拡大することになる。(P.363)

    なぜヘリマネの提言か?ターナー卿曰く、巨額の政府債務のために思い切った財政政策が打てない。そのために直接財政ファイナンスによって、財政赤字をチャラにして財政政策をすべきだとか。以下引用

    政府と中央銀行は、時に通貨を増発して拡大する財政赤字を穴埋めすることで景気を刺激する必要がある(P.22)。

    増大する財政赤字のマネタリーファイナンスを伴うものであり、純粋な財政政策・金融政策に比べてクラウデイングアウトやリカードの等価定理の恐れがないため、景気刺激効果が大きいと考えられる(p.366)。

    全体の感想として、ターナー卿は政府債務を気にし過ぎだと思った。主流派批判しつつも政府債務を問題視している点は、主流派経済学から逃れられてないのでは?
    井上智洋『ヘリコプターマネー』と信用創造が駄目だという認識は同じだけど、ヘリマネを推奨する理由は異なる。併せて読むと面白いかもしれないが、井上ヘリマネ本の方がはるかに読みやすい。金融危機関連の知識があったらもっと読みやすかっただろうと思った。

    評点:6点/10点。

  • 著者は元英FSA長官。こんな正統派な人物にしては、本書は過激だ。
    著者は金融危機を振り返り、民間債務の無秩序な膨張に要因を求め、民間のレバレッジ削減を主張する。
    タイトルは、債務=民間債務、悪魔=いわゆるヘリマネの意。著者は、どちらも危険だが政府債務だけを忌み、民間債務の膨張を許すのはさらに危険だ、と説く。
    劇薬を薦めているようではあるが、自由化を盲信する経済学や金融膨張への批判など、知的刺激になる一書。
    巻末の早川元日銀理事の解説が再整理になっていてよい。

  • 金融機関による無秩序な信用創造がバブルを生み、経済の不安定性を高めているという問題意識から、金融機関の資本規制を大幅に強化した上で、信用創造のチャネルをマネタリーファイナンスにシフトして政府がコントロールすることを提言している。
    原著のタイトルには「ヘリマネ」はないし、本質としては金融機関のレバレッジと、債務契約という仕組みの持つ問題点を指摘しているもの。
    政策提言レベルでは財政ガバナンスに対する考慮があまりないため、筆者のマネタリーファイナンスに関する主張はそのまま受け入れられるものではないが、考え方としては非常にクリアで、一読の価値はある。

    ヘリマネの部分だけが独り歩きするのは非常に残念。

    ※筆者は、スティグリッツらのINETの一員。INETの提言は非常に本質をついている部分もあると感じるが、日本に持ち込まれるときには米国と日本の背景の違いを十分考慮されていないため、政治利用されている感があって残念です。 

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債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか?の作品紹介

■恒久的なマネタリーファイナンス、いわゆるヘリコプタマネー論議の火付け役となった元英金融サービス機構(FSA)長官が書き下ろした衝撃の書。解説は早川英男氏(富士通総研経済研究所エグゼクティブ・フェロー、元日本銀行理事)。

以下は、アデア・ターナーが寄せた日本語版への序文「なぜ私は『劇薬』を主張するのか?」から冒頭部分を抜粋した。

 「本書の英語版を書き終えた2015年時点で、世界経済が過剰債務に起因する低インフレと低成長の罠にはまっていて、かつタブーとされた大胆な政策を実施しなければ脱却できないことは既にはっきりしていた。この1年でそうした現実はさらに明白になったが、どこよりも明白なのが日本である。(中略)

 本書の中心テーマは2008年の金融危機とそれ以降の長期的な景気低迷だが、この背景には金融システム内の過剰なリスクテイクにくわえ、2008年まで半世紀にわたって続いてきた民間債務の大幅な拡大がある。先進国における家計と企業を合わせた民間債務残高のGDP比は、1950年の約50%から2007年には170%強に達しており、この間、ほぼ毎年上昇してきた。

 だが当時、正統派の経済学はこうした債務比率(レバレッジ)の上昇の危険性をほぼ無視していた。それどころか信用供給を緩和し、レバレッジが上昇することは経済成長にはプラスであり、中央銀行が低インフレを安定的に達成すれば、マクロ経済の安定は確保されると自信をもって主張していた。日本の経験を見ていれば、こうした想定が危険な間違いであることはわかるはずだった。(中略)

 金利がきわめて低い水準に達すると、さらに引き下げても個人消費や設備投資を刺激する効果は低い。そして、この一年の日本やユーロ圏のようにマイナス金利が導入されると、名目需要に対する効果はマイナスになるかもしれない。だが、超低金利がもたらした結果として何より明白なのは、既存の資産保有者の資産が増加したことである。英国では、2008年以降、1人あたりの所得は2%しか増えていないが、既存資産の残高は30%増加している。

 景気の回復力は弱く、その果実は平等に分配されていない。政治的な反発から英国はEU(欧州連合)離脱を決め、米大統領戦で共和党のドナルド・トランプ候補が躍進しているが、それは驚くべきことではない。」

債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか?はこんな本です

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