ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822279325

作品紹介・あらすじ

ドラッカー、ポーターしか知らないあなたへ。
「ビジネススクールで学べる経営学は、最先端からかけ離れている!」
米国で10年にわたり経営学研究に携わってきた気鋭の日本人学者が、
世界最先端の経営学から得られるビジネスの見方を、
日本企業の事例も豊富にまじえながら圧倒的に分かりやすく紹介。
世界の最先端の「知」こそが、現代のビジネス課題を鮮やかに解き明かす!

感想・レビュー・書評

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  • 最初の部分を読み進めると、その内容やトーンがどこかで読んだことがあるなあと思ったら、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』と同じ著者だったことにそこで初めて気がついた。あとがきによると、著者はビジネススクールの価値を貶めるつもりはないからとして、出版社から勧められたこのタイトルに乗り気ではないようだが、自分に対しては少なくとも営業効果があったようだ。前著の中で、経営学者はドラッカーは読まないと書かれていたのが印象に残ったのだが、多くの人がそうだったらしく、著者も前著出版後によくドラッカーが重視されない理由を聞かれたそうだ。本書によると、アカデミックの論文重視の世界において、「Rigorous」(厳密性)と「Novel」(先進性)を重視することからだという。経営学の三要素として、「Rigorous」、「Novel」、「Practically Useful」を挙げているが、先端の経営学では最後の「Practically Useful」は重視されないという。著者はジム・コリンズも読んだことがないそうだ。 なお前著執筆当時は米国にいたようだが、今は日本にいて活躍されているようである。

    本書で取り上げられるテーマは、競争戦略、ビジネスモデル、イノベーション、トランザクティブメモリーなど組織学習力、グローバル化、ダイバーシティ、リーダーシップ、同族経営、CSR、ハイブリッド起業、メタアナリシス、リアルオプション、などである。その中では「経営学」らしく事例研究ではなく統計的解析を使った分析結果が主に紹介される。例えば、イノベーションにおいては「知の探究」と「知の深化」の両方が必要である、とか、グローバル化/フラット化というものの実際のデータでは全くそうなっていない、とか、副業としての起業はキャリアのリアルオプションとして有効だ、とか、いったことを統計データを使った最新研究動向とともに紹介する。リーダシップについては、「トランザクティブ・リーダーシップ」と「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ」の二つの型がある。「マネジメント・バイ・エクセプション」という考え方も初めて知った。なかなかに面白い。

    本書のテーマのひとつは、タイトルとも関係するが、MBAを取得するビジネススクールとPh-D取得を目指す研究との違いを読者に対して明らかにすることだろう。前者はより事例研究などより実践的で確立した理論を学ぶことが中心で、学生が安くないお金を払ってコースを取るのに対して、著者のような後者のパターンでは最先端の新しい経営学の研究をして論文を書き、大学の評価を上げるための人材確保の意味合いも多くほぼ全額奨学金が出ることが多いという(著者もそうだったと)。また、経営学が役に立つ立たないというとき、多くの場合は経営学に正解を求めているようであるが、経営学をうまく使う人は、経営学の知見を「思考の軸・ベンチマーク」としている人が多いのではという。経営学が提供できるのは、「(1)理論研究から導かれた「真理に近いかもしれない経営法則」と(2)実証分析などを通して、その法則が一般に多くの企業・組織・人に当てはまりやすい法則かどうかの検証結果、の二つだけ」だという。企業の戦略には適用される範囲があるというのをわからずに使っている経営者も多い。ポーターのSCPとバーニーのRBVは適用される範囲が違うのだ。また、競争戦略と企業戦略を分けていない場合も多い。そこが日本の戦略が世界で通じなくなっている理由ではないかという。 著者も、経営学を「思考の軸」もしくは「羅針盤」として使うことが正しい活用の仕方だと結論づける。

    また本書の最後に米国の大学院での学生の出身国の状況に触れらているが、残念なことに日本人が極端に少なく、インド人次いで中国人が多数を占めているらしい。博士課程の授業では、教員・学生の全員が東アジア人かインド人であったこともあったという。インド人については、アカデミックな場だけにとどまらず、ハイテク産業を中心に実ビジネス業界でトップを占めることも多くなっているのはすでによく知られるところである。 また中国人の情報ネットワークは太く、入学前から大学や先生たちの詳しい状況についての情報が回っているという。1998年にアメリカの電子工学科の大学院にいたが、そのころも台湾や韓国からの留学生が多く、いわゆる米国人は少なかったことを思い出した。その傾向はおそらくは経営学だけではないだろう。これからずいぶんとグローバル競争において日本の影が薄くなってしまうのかもしれない。

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    『世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4862761097

  • ▼総評
    一章が割と短く、さくさく読める。
    経営学の割と先端の(なお5年前に出版された本なので恐らく当時は本当に最先端の)研究をビジネスパーソン向けにひと通りいいとこ取りしているというのは、多分本当なんだろう。

    ▼特に興味深かったポイント
    ・弱い繋がりで遠くまで繋がってる方が、クリエイティブになれる。
    ある程度の強さがない人間関係なんて意味がない、つまり関係性が無いも同然なんだと思いきや。弱い繋がりだからと遠慮せず、むしろダメ元でどんどん活用してしまえばいいんだね。名刺は召喚カードという考え方と似てる。
    矢野和男著「データの見えざる手」を思い出します。

    ・トランザクティブ・メモリー
    「誰が何を知っているか」を知っていること。大事だよね。

    ・近代経営学は、企業経営の一側面に焦点を定めて分析する。一方で、現実の経営は、複数からなるこれらの「部分」たちを足し合わせ、すり合わせて、最終的に「一つだけの意思決定」をしなければならない。そして、このようなプロセスにおいて、現在の経営学は決定的な理論をまだ持っていない。(P306-308要約)
    これだな。経営学がどうも不毛な結果論でしか無いという印象しか持てないのは。

    ・知識はインフォーマルなものこそ重要
    シリコンバレーにIT企業が集積するのも、実際そこでしか得られないインフォーマルな知、暗黙知などを求めるから。
    それにしても、中華系にしろユダヤ系にしろネットワークの強い民族に比べて、日本人という属性がグローバルにおいてメリットになることってほとんど聞かないよなぁ…。

    ▼もやもやポイント
    本書は、基本的に、統計分析に基づく研究を引用することを徹底している。

    なんというか….経営学や社会学などは統計分析を盲信し過ぎているきらいがあるように思う。身も蓋もない言い方をすれば、ランダムな対照実験などで検証されることのない理論など、どんなに尤もらしく捏ねくり回したところで、ただの結果論である。現実世界での再現性は保証されないし、それを指摘しようものならさらに色々な言い訳を捏ねくり回される。
    経営学の世界では、「そうそう実験なんて出来ないから、「ありもののデータを分析する」のが研究」というのが当然なのかもしれないけど…。それを良しとしない経営学者が書いた本があれば、是非読んでみたい。
    (少なくとも著者は、その点について何の疑問も抱いていないようだった。)
    (なお、組織論の領域に限っては、比較的進んでいるように見える。)
    (先日読んだ、リチャード・E・ニスベット著「世界で最も美しい問題解決法」の影響を多分に受けております…。)

    特に、本書にはメタ・アナリシスによる分析に基づいた研究も多く引用されるが、それらなんかは特に、結論だけ引き合いに出されたところで、素人目にはとても疑わしく映る。
    さすがに、「平均の平均」のようなことではないだろうとは思うものの、メタ・アナリシスとやらで導かれた結論にどれだけの信憑性があるのか、正直理解出来ない。(そんなこと言うならメタ・アナリシスをちゃんと勉強しなさいということですね、はい…。)

    でもまあ、真理に近づくという目的に真摯に向き合っている方々が、十分有用な道具であると考えているならば、そういうものなのかなぁ…。

  • 面白かったけど、いったんフルタイムワーカーを辞めた自分には不要な本なので、売ってしまいました。

  • 暗黙知を形式知に変えてくれる一冊。

  • タイトルとおり ビジネススクールでは通常教えていない、比較的新しい経営学の知識を紹介
    110ページまで読んだ。続き読みたい。

    9/24 最後まで読んだ。大変面白い。いくつか抜粋
    市場の状況に応じて取るべき競争戦略は異なる。
    プレーヤの数が少ない安定した市場:ポーター型のポジショニング戦略により、差別化またはコスト戦略
    プレーヤの数がある程度多い競争市場:バーニーのRBV自分の強みを磨くことにより競争する
    不安定な市場:先の見通しが立たず長期戦略が使えない。リアルオプションによりリスクを抑えつつ新規投資。

    組織のトランズアクティブ・メモリー(誰が知っていそうかという知識を共有する)が重要。そのためには、対面のコミュニケーションのっかいが必要。ブレストは新しいアイデアを出すためには、意外と効率が悪いが、組織のトランズアクティブ・メモリーを向上するには役に立つ。

    成功体験は成功の確率を上げる。失敗体験は、サーチ行動の昂進により成功の確率を上げる。失敗経験が一度もないのは危険。

    市場はグローバル化していない。ごく少数の例外を除き、ほとんどの企業は母体地域での売り上げが50%を超える。世界はフラットではなく、距離は情報の流通を妨げる。しかし、特にある地域と別の国のある地域が強い結びつきを持つことがある。これは、留学などによる。

    タスク型(能力による)ダイバーシティはプラスだが、デモグラフィー(性別、国籍、年齢など)によるダイバーシティーは中立またはネガティブ。後者は、分派の対立が生じることによるので、細かくダイバーシティを進めると解決するかも。

    トランズアクティブ・リーダーシップ(1対1の対応)とトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(メッセージとモティベーション):日本では後者が不足している

    同族経営は、プラスとマイナスがある。マイナスを避けるためには、同族外から優秀な人材を同族に取り込む婿養子制度が有効。

  • 経営学者の教える経営学を大学院で学んだばかりだったので、それらのコンセプトを実際のビジネスにどう役立てるか、という視点で書かれた本書は大変興味深かったです。

    「知の深化」と「知の探索」とを同時にバランスをとる「両利きの経営」が大切、と書かれた章が印象的でした。
    自分はどちらかというと「知の深化」に重点を置きすぎていたと思います。

    「知の探索」とは、自分から離れた遠い知を幅広く探し、既知の知と結びつけることだそうです。弱いつながりを多く持つ「チャラ男」的発想が良いとのこと。私はこのような感覚を持っていなかったので、改心しようと思いました。仕事の上では、弱くても広い人間関係を持ち、創造性や発想力を高める事が必要だ、と学びました。

  • 国際標準化する最先端の経営学について知る機会は少なく、ポーターの5forcesやBCGのPPMといったツール化されたコンセプトが以前として使用されている現状に対する問題意識から本書は書かれています。

    私自身経営学といえば遠い昔に学んだことから、本書により少なくとも主要なコンセプトを概観することができ、とてもためになりました。

    特に参考になったのは、以下の点でしょうか。

    a- 企業のポジショニング(SCP)を重視する考え方に対するリソース重視の考え方(RBV)、この二つの戦略に加えてリアルオプション戦略が、競争の3つの型 IO、チェンバレン、シュンペーターに対応する、ということ。

    b-リアルオプションによるフレキシビリティーの高い投資戦略が、不確実性の高い事業や新興国での投資戦略として有効なこと。

    c- Exploitation(知の深化)とExploration(知の探索)をバランスよく行うことが、中長期的イノベーションを実現するために必要なこと。これは、成功するとサーチ行動をしなくなり、パフォーマンスを下げることにつながる、という点とも関連する。

    d- 組織のナレッジマネージメントで重要なのは、トランザクティブメモリー。「組織のメンバーが、「他のメンバーの誰が何を知っているのか」を知っていること」

    e- 組織に重要なダイバーシティーとは「タスク型の人材多様性」であり、デモグラフィーの多様性は組織的グループ間の軋轢を生じることとなり、パフォーマンスを停滞させる(!)しかし、デモグラフィーのダイバーシティーが多元化すれば軋轢は回避可能。

    f- トランザクティブリーダーシップとトランスフォーメーショナルリーダーシップ。そして、リーダーが必要とする言葉の使い方(イメージ言語)

    他にもCSR、エージェンシー問題、アントレプレナーに必要な資質、パフォーマンスと企業効果対産業効果などが取り上げられています。

    筆者はある意味、リスクをとって米国に渡り、"内発的動機”により本書をしたためる、という極めて能動的な人物です。その人となりにも感銘するところがありました。

  • 【変動解】
    世の中の常識、成功法則は常に変化しています。

    ひとりの経営者による過去の成功体験が、30年後、40年後も使える法則とは限りません。
    ここがワンマン経営の問題であると考えます。

    ただ、そのワンマンが過去の成功法則にとらわれない、常に変化を求める変人であり、しかも賢い人で、会社全体を一気に大きく変化させるのではなく、いろいろなことを小さくはじめて、うまくいけば大きく投資をするというスタンスをとることができれば最高のワンマンです。

    なかなか、こうだと思ったことを小さくはじめることは難しいのですが。。。

    本書ではこれをリアル・オプションと表現されています。

    なんでもリアル・オプションで手を広げておけば、何かが当たる状態、数を打てば当たるということになります。
    しかし、相当なアイデアマンで行動力がない限り、数を打つことすらできませんが。。。

  • 経営層と話す機会も出てきたので一読。経営に関する論点と先端の知見を知れて面白かった。意思決定に携わる際に定石を知ってると立ち振る舞いに自信を持てるなと。書籍の性質上、本書は簡単な内容に留めていると思うので、他の著作で踏み込んだものがあれば読んでみたい。

  • <シラバス掲載参考図書一覧は、図書館HPから確認できます>https://libipu.iwate-pu.ac.jp/drupal/ja/node/190

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著者プロフィール

入山 章栄(イリヤマ アキエ)
早稲田大学ビジネススクール教授
1972年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年にピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーを経て、2013年より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。主な著書に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)のほか、Strategic Management Journal、Journal of International Business Studiesなどの国際的ジャーナルへの論文発表も多数。

「2022年 『両利きの経営(増補改訂版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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