▼あらすじ
思いがけず痛みで快感を得てしまった星卯は、憧れている職場の先輩・波留河に相談した。
すると、試してみようと尻を叩かれ、未知の愉悦に身悶えてしまった。
恋人が見つかるまでの仮の主人となってもらうも、やがて波留河への恋心を自覚する。
彼好みになりたいが、従順にすればするほどその眼差しは冷たくなっていく。
その上、想いを伝えても「最低のスレイブだ」と突き放され…。
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雪路先生の表紙イラストに釣られて普段はあまり買わないSMものを購入し、少しビクビクしながら本を開いたのですが、あれよあれよという内に作品の世界にのめり込んでしまい、最近の自分にしては珍しく一気読みしてしまいました。
こんなにも読みながら先が気になって仕方無いと思えるような小説に出会ったのは久し振りで、自分が今まで読んで来たSMものの中ではダントツで面白かったと言える作品です。
受けの星卯は階段から落ちた事がきっかけでMの扉を開くという、出だしはちょっと間抜けな感じなんですが、そんな軽い感じも最初だけで読み進める内に良い意味でどんどん重たく、読み応えが増して行くんですね。
吃驚したのは星卯の上司であり、生粋のSである波留河の態度の変化。
最初は温和で紳士的だった波留河ですが、星卯が波留河への恋心を自覚し、波留河に少しでも喜んでもらおうと健気に尽くせば尽くすほど、彼の態度はどんどん冷たく、素っ気なくなっていくんです。
挙げ句、想いを告げた星卯をかなり残酷なやり方で振るのですが、この時の波留河の拒絶っぷりたるや凄まじく、読んでいるこっちまで星卯とリンクしたようにショックを受け、星卯が涙を流すシーンでは思わずこっちまでほろりと来てしまいそうになるほど……。
それもそのはず、この作品はとにかく心理描写が丁寧で説得力がある為、感情移入せずにはいられないんです…!
しかも攻めと受け、両視点からストーリーが描かれており、受け側から見ると理解し難い攻めの行動や言動でも、攻め側の視点になると言ってる事が何となく分からないでもないから、結果的にどちらにも感情移入出来て凄く面白いんです。
それでも波留河がこじらせているのは確実で、面倒くさいやつだな!と思ったりもしたんですが、そんな波留河が最後は恋人兼パートナーとして星卯を受け入れたのには心底ホッとし、ラストのえっちの最中で波留河が「認める。きみが好きだ。好きで――好きでたまらない」と言った時は心の中で大きくガッツポーズを決めるほど嬉しかったです(笑)
同時に、よくこんな上手に話を纏められたなあと作者さんの力量に心底感心してしまいました。それくらい面白く、大変納得のいくラストでした。
因みに波留河は好き嫌いが分かれそうなキャラですが、星卯の方はただ従順なだけじゃなくて裸エプロンで料理をしたり、波留河の頬に不意打ちでキスしたりとどこまでもひたむきで可愛く、好感の持てるキャラでした。
SMをテーマにした作品なので内容はエロ多め、且つ甘さ控えめではありますが、精神的な繋がりに重きを置いた内容なのでそこまでハードなプレイはしておらず、SMがあまり得意じゃない方でも読み応えのある作品が好きならまず間違いなく最後まで楽しめる内容なんじゃないかと思います。
また、特典の小冊子も、作者さんのサイトで公開されているSSも読み応えがあって大変面白かったので、個人的には大大大満足な一冊でした。
SMだからと言って敬遠せず、是非、色んな方に読んでいただきたい作品の一つです。