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- Amazon.co.jp ・本 (99ページ)
- / ISBN・EAN: 9784829810774
感想・レビュー・書評
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まずはじめに、1980年代までの部落史研究の進展によって、「豊臣秀吉によって、農民の不満を逸らすために、最下層の身分が設定された」という政治起源説が否定されたことを述べる。そして、えた・非人身分の具体的ありよう(関東の弾左衛門による支配や、関西の渡辺村の様子)を述べて、「諸身分全体が単位社会集団を形成し、社会的役割を担い、全体社会に位置付いているという「身分秩序」」(p.32)を説得的に説き起こしている。
しかしそれでも、近世社会といえば「士農工商」というイメージ、そしてその背後に暗然と聳える政治起源説は、依然社会に根強く残っている。そのことは、近代から現代に至る差別の問題をどう考えるかという問題へと繋がっている。政治起源説からすれば、「もともと人間は平等なんだけど、恣意的に被差別身分とされたので、もとに戻しましょう」という理屈になる。わかりやすいのだが、歴史的事実と異なる、ということでこの戦略は採用されない。
では、近世の差別が本書で述べるようなものだとしたとき、差別をいかになくしていくか。本書では、貧人=乞食はいつの時代でも存在するが、その人々がどういう社会的な存在形態をとるかということでは、それぞれの時代による、という。だとすれば、現在の貧人がいかにして生まれたか、それぞれの時代の社会の様相を知ることが重要だということになるだろう。そうすれば、現在の私たちがもつ差別意識も、歴史によって相対化され、克服されていく。そういうことが求められているのだと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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