ねずみ女房 (世界傑作童話シリーズ)

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  • Amazon.co.jp ・本 (52ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834005400

感想・レビュー・書評

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  • 来年の干支に合わせて「ねずみ」の登場する話を探していたら、この本を見つけて久々の再読。初版は1977年。
    ところが今読み返しても古さは全くと言ってよいほど感じない。
    ストーリーテリングの巧さと石井桃子さんの翻訳の良さか。
    有名なお話なのでご存じの方も多いかもしれないが、今更ながら載せてみる。

    バーバラ・ウィルキンソンさんの家に住むねずみの夫婦。
    このめすねずみの方が、他のねずみとは少し変わっている。
    それは「今持ってない何かが欲しい」と望んでいること。
    それが何なのかは、自分でも分からない。ただ、何かが満たされない。
    おすねずみにはそれが不満でもある。
    ある日この家で鳥籠に入れられたハトを発見しためすねずみは、餌の調達をしながらだんだん言葉を交わすようになる。
    ハトが語る自由な頃の世界はめすねずみの心を惹きつける。
    「風のにおい、木々のざわめき、それらが失われた今は生きる意味もない」・・・
    ハトが失ったもの、それこそが自分が得られなかったものであると気が付いためすねずみは・・

    これは1951年に書かれた作品で、ゴッデンはこのとき44歳。
    専業主婦が「ここではないどこか」「これではない、何か」を望むなど、到底理解を得られなかったことだろう。
    めずねずみ自身も、自分の気持ちを言い表すことさえ出来ない。
    何か新しい体験をしたい、外の世界というものを見てみたい、
    そこで新しい自分を発見したい、そしてそれを肯定して生きたい、
    そんな些細なことも許されない時代がどんなに長かったことだろう。

    ある夜、めすねずみはとうとう行動に出る。
    鳥籠を渾身の力を込めて開け、ハトを逃がすのだ。
    そんなことをしたら二度と話相手もいなくなると知っていて。
    そして、窓の向こうの夜空に輝く星を見る・・
    ここのめすねずみの心情とその後の経過が非常に心に残る描写なので、ぜひともお読みいただきたい。

    小学校中学年くらいからとあるが、いやいや、これは大人向け。
    特に女性の皆さんにおすすめ。

    めすねずみに共感しすぎるとおすねずみが悪者になりそうだが、決してそうではない。
    彼女を現実に引き戻す重要な役目を担っている。
    めすねずみは元の暮らしに戻り、少し変わったおばあちゃんねずみとして孫たちから大変尊敬されることになる。
    あの日勇気を出して失ったことで、もっと大きなものを得たのだから。
    主人公の心の動きをそれは丁寧に描いた、ルーマー・ゴッデンの名作。

    佐野洋子さんは「不義密通の話」とどこかで解説されていたが、そこまで深読みせずとも楽しめます。

  • 自分でものを見るということ。
    自分の目で確かめるということ。

  • わたしも新しい世界に胸をときめかせ、自ら行動できるねずみになろう。一生井の中で暮らさなければいけないとしても、海を知りたい。知って、ときどき忘れつつ、恋焦がれながら暮らしたい。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ラララライブラリさん
      ねずみのお話は秀作が多数ありますか、ルーマー・ゴッデンの此の作品は、斎藤惇夫「冒険者たち」とは別の意味で波乱万丈の作品...
      ラララライブラリさん
      ねずみのお話は秀作が多数ありますか、ルーマー・ゴッデンの此の作品は、斎藤惇夫「冒険者たち」とは別の意味で波乱万丈の作品。素晴らしいです!
      ・・・矢川澄子の一言は、きっと何か嫌なコトがあったんだろう、、、と思っています。
      2021/05/22
    • ラララライブラリさん
      猫丸さん、コメントありがとうございます!いろんな読み方ができる作品ですよね。長く読み継がれている児童文学作品って本当にあなどれません。
      猫丸さん、コメントありがとうございます!いろんな読み方ができる作品ですよね。長く読み継がれている児童文学作品って本当にあなどれません。
      2021/05/22
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ラララライブラリさん
      仰言る通りにゃん
      ラララライブラリさん
      仰言る通りにゃん
      2021/05/22
  • ウィルキンソンさんの家に住み、この家が全世界と思って生きてきた、女房ねずみ。
    我儘なオットと、小さな子どもたちを抱え、日々の生活に追われる。

    でも彼女は他のねずみとはちょっとちがう。

    窓ガラスを通して見る、遠くの庭の花々や、木々に憧れを抱いていた。

    ある日、金ピカの鳥かごの中にある豆を取ろうとカゴに入り、そこにはハトがいることに気づく。

    そしてハトとはなかよくなり、ハトから外の世界のことを聞かせてもらうことが、何よりも楽しみになっていく。、ハトも、捕らわれ、飛べなくなってしまったやるせない身の上から、
    女房ねずみと話すのを唯一の楽しみとしている。

    オットに耳を噛まれようが、外の世界とハトが気になって仕方ない女房。

    彼女の決断は。。



    素敵なお話だった。まるで恋みたいに。
    フランス文学かと思った!

  • 河合隼雄推薦の書。
    無意識の世界へ導くアニムスがハト。
    見かけは変わらないけど飛ぶということを知ったねずみ女房は何か違うと思われていた、というところがいい

  • 同僚から児童書なんだけどに大人の女性が好きだと思う、と聞いて手に取る。
    以下内容覚書と感想

    めすねずみとして忙しく暮らす中、鳥かごに囚われたハトと出会う。
    何も食べようとしないハト。口にしたいものはコレジャナイ。自由に空を飛び朝のつゆをついばみたい。めすねずみはハトから空を飛ぶことの素晴らしさや自由な外の暮らしを聞く。
    空を飛べたら、外の世界を見られたらと憧れを抱きながらこねずみがうまれ、ハトに会えない日が続くが思い立ってハトの元へ。ハトはめすねずみの訪れををずっと待っていた。もう会えないかもと思ったよぅと何度も言いハグをするハト。羽毛の胸は暖かく。
    ある日めすねずみはハトを逃がす。
    ※こんなに短いお話なのに、暖かくて切なくて胸がぎゅぅぅとなった。小さな生きものたちのお話ではあるがいわずもがな、置き換えて思うところがあるヒトはたくさんいることだろう。おすねずみも登場するがこういう夫さんいるよねという感じ。
    昔の映画「テルマ&ルイーズ」とかちょっと思い出した。
    著者には『ねずみの家』というお話もあり、こちらはどうなっているか気になる。

  • 河合隼雄さんの本ではじめて知り、図書館で借りました。これは大人の女性のための本ですね。主人公のめすねずみに自分を重ねて読んでしまいます…。
    なんて書くと、既婚女性にしか面白くない本みたいに思わせてしまうかもしれませんが、もちろんそんなことはないです。

    外の世界を知らないめすねずみの素直な質問や行動はかわいいですし、ハトとのやりとりはさり気なくても心打たれるものがあります。

    それに何といっても挿絵がとっても素敵。細かな表情の描き分けもされていて、お話を一層魅力的にしてくれています。

    私も狭い世界で生きているので、このねずみにとっても共感してしまいました。広い世界に自由に羽ばたいていくものを見送る立場は少し切ないですが、ねずみは自分なりに納得できる答えを見つけたので良かったです。

    いろいろな気持ちにが沸き起こってくる本で、とても感動しました。母親にも見せてあげたかったな。
    子供向けの本だなんて、なんだか信じられない。

  • タイトルだけではどんな話なのか想像しにくい。
    しかし児童文学という枠におさめるにはもったいない。
    いろいろな方が推薦されていて、だいたい内容を分かった上で読みました。それでも、非常に味わい深く物語の意味するところが、またメッセージが何だったのか、考えさせられました。

    家庭を持っているねずみの奥さんが、自分の気持ちや意志、行動の選択などを、悩み、考え、自ら切り開いていく物語です。
    いつの時代も変わらない、女性の生き様・悩みなど児童文学には収まらないメッセージ性があるように思います。
    女性が読むも良し、男性が読むも良し、高校生くらいなら教科書に載せてディスカッションしても良いくらいかと思います。
    後半、涙が出ました。何と言ったら良いのか。自分はどの登場人物(動物)に当てはまるのか。ふさわしい場所に居場所があることが幸せなんだろうけど、もっともっと素敵な場所もたくさんある。自分が見たい場所、行きたい場所、でも自分が選ぶ場所、選んだ場所。人生はまさに選択の連続、そして解答のない問い。

    ねずみ女房が、晩年家族に囲まれていたことが救いでした。

    • moyojiさん
      nejidonさん、こちらこそはじめまして!
      コメントくださり、ありがとうございます。つい嬉しくてコメントしました! ゴッデン作品、他も読み...
      nejidonさん、こちらこそはじめまして!
      コメントくださり、ありがとうございます。つい嬉しくてコメントしました! ゴッデン作品、他も読みたくなりました。そしてnejidonさんのレビュー、文章力が高く感心いたしました。
      この本に限らずですが、「児童文学は奥が深い」と改めて感じているところです。
      これからも素晴らしい本に出会いたいので、nejidonさんの本棚も参考にさせてください。
      2020/11/25
    • nejidonさん
      moyojiさん、お返事を下さりありがとうございます!
      始めてコメントするときはいつもドキドキします(*'▽')
      児童文学、いいですよね...
      moyojiさん、お返事を下さりありがとうございます!
      始めてコメントするときはいつもドキドキします(*'▽')
      児童文学、いいですよね。
      心がすっきりしますし、生きる力がわいてきます。
      昨年から「本にまつわる本」を集め出して少し遠ざかっていますが、たまに読みますので
      思い出したときに覗きに来てくださいませ♪
      こちらからもフォローさせていただきます。
      どうぞよろしくお願いします。
      2020/11/25
    • moyojiさん
      nejidonさん、こちらこそよろしくお願いします!
      本棚、チラッと拝見させていただきましたが、複数かぶってる本があったので興味が出ました。...
      nejidonさん、こちらこそよろしくお願いします!
      本棚、チラッと拝見させていただきましたが、複数かぶってる本があったので興味が出ました。お互いマイペースで読みたい本、読んでいきましょう!
      2020/11/25
  • ルーマー・ゴッデンの中では一番好き。

  • 2015.9.19市立図書館
    40ページあまりのささやかなお話。
    このお話については、いろいろな批評がでているけれど(河合隼雄や赤木かん子、清水真砂子のは読んだが他にもあるらしい)、わたしにとって、めすねずみの鳩への感情は友情とも恋・愛情ともちがう、でもとても尊い気持ちだという印象だった。そしてそれは、鳩から見たことのない世界の話を聞くことでしだいに養われた「想像力」によってうまれた感情なのだと思う。
    遠いものへ憧れ、他者への共感、そうした気持ちを通じて行動する源泉である想像力をもって、ねずみはちょっと変わった、でもひいひいまごたちから一目置かれる存在になり得たのだろうな。想像力を得ても、ねずみは自分のテリトリーから出て行かず、相変わらずの暮らしのまま老いたけれど、それでもねずみはしあわせだったのだとわたしは思う。

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著者プロフィール

ルーマー・ゴッデンRumerGodden1907~1998。英国サセックス州生まれ。父の仕事の関係で、生後六カ月で当時英国領だったインドに移り住む。十二歳のときに英国へもどるが、その後もインドとを行き来して暮らした。一九三五年に作家として活動をはじめ、おとな向けや子ども向けに数々の作品を生み出した。作品は長編小説、短編小説、戯曲、詩など多岐にわたる。日本で紹介されている子どもむけの本に、『人形の家』(岩波書店)、『ねずみ女房』(福音館書店)、『バレエダンサー』(偕成社)、『ディダコイ』(評論社、ウィットブレッド賞)、『ねずみの家』『おすのつぼにすんでいたおばあさん』『帰ってきた船乗り人形』『すももの夏』などがある。

「2019年 『ふしぎなようせい人形』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ルーマー・ゴッデンの作品

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