広島の原爆 (福音館の科学シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
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感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (84ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834012651

作品紹介・あらすじ

本書は、生存者の証言をもとに再現された、広島の町と、そこに暮らす人びとのようすが描かれています。小学校上級〜大人まで。

感想・レビュー・書評

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  • 科学絵本。
    文の那須正幹は「ズッコケ三人組」シリーズで知られる児童文学作家である。広島生まれ、3歳の頃に被爆している。自身は軽傷であったが、原爆のことはずっと心の中にあり、広島に住む人から原爆について書いてほしいという話もあった。原爆に関する児童書は数多くあったが、個人の被爆体験に基づく者が多く、全貌を描くものではないように思われた。どんな形で書くのがよいのか。迷いの中で、科学絵本『ぼくらの地図旅行』の仕事で組んだ西村繁男の絵を見て、これだ、とピンときた。街を俯瞰する鳥瞰図である。
    西村は広島出身ではないが、長く広島の原爆に関心を抱いており、被爆者との交流もあった。編集者から那須の意向を聞き、乗り気になる。
    被爆者であるが、さまざまな資料から原爆を客観的・多角的に捉えようとする那須。
    証言者を訪ね歩き、戦前戦後の広島の姿を具体的に立ち上がらせようとする西村。
    そして両者をつなぐ編集者。
    3つの力で結実したのが本書である。

    戦前の広島の賑やかな様子。戦時中の徐々に抑圧されていくさま。そして原爆投下直後。焼けただれた街。そこから復興へ向かう街並み。
    地上の人たちが何をしているかわかるくらいの少し上空から、街の様子が細密に描き出される。広島はきれいな街、川ではエビや魚も取れ、温暖で住みやすいところだったという。馬車で荷物を運ぶ人、にぎやかな店先、チンチン電車。学生や女高生、子供たち、親子連れ。のどかな街並み。それが地獄絵図と化す。
    俯瞰図の合間には、原爆の基本知識の解説も織り込まれる。原理や開発の歴史、広島に投下されたリトル・ボーイと長崎に投下されたファット・マンの図解。熱風・爆風・放射線のデータ。放射線障害について。原爆投下後の核を巡る世界の動きの年表。
    巻末には、俯瞰図の詳しい解説も付く。その中には数多くの証言も含まれる。
    初版は1995年だが、その後、新たにわかった知識に基づき、絵の差し替えや新たな注の付記なども行われている。

    表紙にも描かれているが、絵の上を1人の少年が飛ぶ。
    あの日、広島で生きていた多くの人が突然に命を奪われた。その魂はどこへ行っただろう。

    広島と原爆を客観的に俯瞰しつつ、しかしやはり客観的という枠には入りきらない原爆の怖ろしさも響いてくる。力作。

  • この作品は中学生にお勧めしたいものである。中学生になると勉強の範囲も増えそれなりの知識量になってくると思う、そして中学生のうちに日本の過去の過ち、どれほど悲惨なことがあったのかを知る必要があると考えるのでこの本を選んだ。

  • 図書館。8/6に向けて、年長娘と、絵本を通して少しずつ話し合ってみようと思って借りた。が、今回は私が読むにとどめた。
    娘とは当日NHKで放送された式典を観ながら、戦争があったこと、今もなお戦争はあって、戦争により沢山の人が悲しい気持ちになること、もう二度とそんな悲しい戦争をしないぞという誓いを立てている式典が今広島で行なわれていること、平和という概念があること、私も、この式典に参加している人たちも、平和を望んでいること、を話した。原爆のことには、言葉を選べず、触れられなかった。

    話しながら、自分の言葉に薄っぺらさを感じたというのが正直なところ。

    なぜ、戦争が起きるのか。抑止力・防衛の名の下に、今なお核兵器は存在し、日本も核兵器こそ保有していないものの、核兵器禁止条約を批准していないという事実。

    個人として平和を望む気持ちと、しかしその反面、国のもつ防衛装備に守られ、かつ核を持つ米国に守られている…(のだろうか)という事実。守られている中で平和を望む…自分は甘いのだろうか?

    昨年8月、ピースポート提供の動画で、サーロー節子さんが、「理想主義者になるということは、非現実的になるということではありません」と仰っていた。この動画を視聴して以来、エネルギー政策について考える時にもよく頭の中でサーローさんの言葉を反芻する。そして、自分にとっての理想は何なのかを考える。そして、現実にある問題を、ともすると積極的に見ようとしなければ見えなくなってしまいそうな問題を、しっかり見ようと意識する。それでも、時間は有限で、日々の生活でいっぱいいっぱいになってしまう日もある。知ろうとするたびに、自分の知らなさや、想像力の欠如を自覚する。結局自分は頭の中でぐるぐる考えているだけで、問題解決のために何も貢献できていやしないではないか、とも思う。まずは、知る事、考える事。そこから逃げたくない。そして加えて投票で意思表示する以外の行動を起こさなくてはという気持ちと、尻込みする気持ちと。

    ・・・書きながら、平和についてのことと、エネルギーについてのことが、ごっちゃになってしまった。

    この本は、考えるきっかけをくれる。夏が来るたびに読み返したい。
    2021/8/9

  • 原爆の恐ろしさだけではなく、広島に原爆が落とされるまでの経緯なども書かれている。
    広島に修学旅行生の事前学習に適した書籍を作成して欲しい、という要望から出版された1冊ということもあり、内容の濃いものだった。

  • 子どもだけでなく、大人にも読んでほしい本です。
    原子爆弾に対して、科学的に書かれていて、初めて知ることが多かったです。
    広島と長崎に投下された爆弾の違いもわかりましたが、消化しきれなかったので、もう一度読み直したいです。


    本文から
    56p
    ・45年7月、米国のアラモゴードの砂漠で行われた最初の核実験以来、核保有国は、何百回となく、実験を繰り返してきました。その数は確認されているだけでも1951回(1993年現在)にのぼります。たびかさなる実験は、周辺の住民にも、深刻な影響与えました。
    ・原爆の材料となるプルトニウムは、原子炉以外からは、生産されないのです。その意味では原子炉は、核兵器と切っても切り離せない関係にあります。
    57p
    ・…世界の被曝者数は、約3,500,000人に上ると推定されています。中でも旧ソ連の2,487,000人と米国の885,000人は群を抜いています。

  • 子ども向けの絵本と思っていたが、もっともっと深いものだった。
    核の傘に身を置く愚劣さに怒り心頭。広島出身の現首相はどれだけ腐った人間か。

  • 「広島の原爆」を知るうえで必携の一冊。文は先日急逝された那須正幹さん。原子爆弾の投下に至る戦争の過程、原爆の原理、広島の原爆被害とそれが人々に残した傷痕、さらにはその後の核開発の問題が丁寧に解かれています。宙に漂う死者から見通された克明な「復元図」も心を打ちます。

  • 当時こちら確かSLBMの解説まで入ってたのよね。
    記憶違いなら申し訳ない…

  • なんとなく今日手に取ったのは何かのメッセージかな。
    8月6日に紹介されていたので、遅ればせながら。
    この本が出来た時には東海村臨界事故もなく、福島の事故もなかったというのが、人間の繰り返す業というものを物語っている気がしてならない。
    私の最寄りの図書館では児童向けの本棚に置かれていたけどヘビーすぎる。
    被害だけを描くのではなく、そもそも原爆とは何か、どうやって作るのか、誰が作って誰が命令し誰が投下したか、その人たちが後の世で何を発言したか、戦争に至るまでの(ざっくりですが)流れ、非戦闘員を対象にした無差別爆撃が始まった歴史、原爆が投下された思惑背景、かかった費用、それからも続いた核実験の流れ、何故広島と長崎が選ばれたか…と流して読むことの出来ないぎっしり詰まった内容がドドドドっと押し寄せてきます。覚悟が必要な本ですね。
    絵そのものも直視出来ない悲惨さなんですが、その絵につけられた解説(もっと読みやすく見易いとありがたかった)がむごすぎて地獄はここかと思ってしまう。
    拾い書きしてみます。
    「家の下じきになったまま、火勢のつのる中で『君が代』を合唱しながら死んでいった学徒」
    「子どもが家の下じきになり泣きわめいている父親」
    「飛び出てしまった目玉を手のひらに乗せて歩く人」
    「頭のない赤んぼうを背負ったまま、何事もなかったように黙々と歩いている母親」
    何よりも。
    原爆が投下された日本の首相が核兵器を容認する発言をしていたこと、亡き昭和天皇が、原爆投下もやむなしと発言したことまで克明に書いてあるのが胃にずっしり来る。
    原発が生まれた理由も知ってしまい吐き気もするわこれ。
    それでもヒバクシャは増え続ける。その事実が今生きる人間としてキツい。

  • 原爆の落ちる日の朝、落ちた後の広島市内の各所が、実際に体験した人の証言をもとに書かれている。
    途中途中で、原爆や戦争に関する解説のページも挟んでいる。

    細かい説明は飛ばして絵くらいしか見ていないけれど。
    絵も細かくて、様子が伝わってくる。
    解説の文章も読めば戦争とと原爆についてかなり勉強になる。
    広島が選ばれた理由は、原爆の威力を観察しやすいようにあまり攻撃されていない場所を選んだのだとか。
    日本とドイツで何故日本が選ばれたのかは、日本は原爆の報復を出来るような軍事力がなかったからだとか。
    知らないことばかり。

    巻末にはそれぞれの場面の詳しい解説も載っている。

    作者の那須正幹は広島関連の本をいくつか出しているが、戦争経験者だったとは。
    3才のころに爆心地から3キロのところにいたらしい。
    絵を描いている西村繁男は、ユーモラスな絵本が多いけれど、こんな絵も描くんだ、と驚き。

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著者プロフィール

那須正幹(なすまさもと):広島県生まれ。児童書の大ベストセラー「ズッコケ三人組」シリーズ全50巻(日本児童文学者協会賞特別賞・ポプラ社)をはじめ、200冊以上の本を執筆。主な作品に『絵で読む 広島の原爆』(産経児童出版文化賞・福音館書店)『ズッコケ三人組のバック・トゥ・ザ・フューチャー』(野間児童文芸賞・ポプラ社)など。JXTG児童文化賞、巖谷小波文芸賞など受賞多数。

「2021年 『めいたんていサムくんと なぞの地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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