桃源郷ものがたり (世界傑作絵本シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
4.03
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (48ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834017991

作品紹介・あらすじ

ある日、漁師が舟をこいで川をさかのぼっていくと、いままで見たこともないみごとな桃の林が、両岸にどこまでも続いています。そして、みなれない山の洞穴からほのかな光がもれています。不思議に思った漁師はほら穴に入り、そろりそろりと進むと、突然、目の前に肥えた田んぼやきれいな池、楽しそうな人々が現れます……。古代中国の大詩人、陶淵明の『桃花源記』を原典として、中国を代表する絵本画家が描いた心の安らぐ理想郷。

感想・レビュー・書評

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  • これは表紙を見るだけで、作者の思いの深さが感じられる素晴らしさで、堂々とした美しい書体に、中央の桃色の靄で囲まれた、華やかながらも素朴な幸せを感じさせる世界は、まさにこれがあの・・・

    絵本にしては、かなりの大きさがあり、それは、頁を捲る度にその雄大な世界の中へ入り込めるような大迫力であり、その絵柄は、上手い下手というよりは、まさに味があるそれであり、一見不格好であるように見えるけれど、しばらくじっと見ていたら、実は達筆過ぎただけだったみたいな感じで、一度その美味を堪能してしまうと、その世界はたちまち、朴訥な温かさと遠い日の夢へと変貌し、それは、真の闇の濃さを感じさせる洞穴の中や、薄く青みがかった淡い夜景色、川の両岸にどこまでも続く、見事な桃の林の下に生えている草から漂う、とても良い香りであったりと、確かに私の夢見た桃源郷に纏わる断片だったように思われて、何か、忘れかけていた心の引き出しを開けてくれたような感覚には、奇妙ながらも心地よいものがありました。


    本書は、作者の「松居直」さんの、子どもの頃のファンタジー好きの始まりまで遡る、壮大な夢物語の実現でもあり、それについては、巻末の「新たに語り伝える理想郷」に、詳しく書かれております。

    きっかけは、松居さんが小学生の頃、お父さんがとりかえた掛け軸の絵が何なのか聞いたときに、『ブリョウトウゲン』という絵だと答えられた事で、「桃源郷ものがたり」が、中国の晋の武陵というところを舞台としているのもありますが、松居さんが中学三年生の頃、漢文の教科書で『陶淵明』の『桃花源記』という名文を学んだ時に、その絵を思い出し、あれは『武陵桃源』だったのだと納得されたそうです。

    陶淵明は中国だけでなく、日本でも古くから尊崇されている大詩人で、彼の生きた時代は、戦国争乱の悲惨な世の中で、人々は平和で豊かな暮らしに心から憧れていて、その気持ちを理想郷に託して描きだしたのが桃花源記であり、物のあふれたぜいたくな暮らしよりも、質素でも心の安らぐ田園生活のなかに真の豊かさがあることを、陶淵明は桃源郷の物語として語っており、以来、桃源郷という言葉は戦争のない、平等に助けあって人々が暮らしている理想社会=ユートピアを現わす代名詞となったそうで、まさか桃源郷の誕生が、戦争のない平和な世の中を夢見たものだったとは知らず、遥か遠い晋の頃から、このような思いを抱いていた人が居たことに、私は思わず、言葉にならない感情を掻き抱き、そこから歴史のもつ重みと、それを知ることの大切さ、世界も歴史も繋がっていることを、改めて痛感いたしました。

    そして、1995年に北京で国際図書展が開催されたときに、本書の絵を描かれた、現代中国を代表する絵本画家の、「蔡さん」にお会いして、『桃花源記』の絵本をつくるという新しい夢が生まれて、こうして日中合作の『桃源郷ものがたり』は完成されました。


    松居直さんが昨年永眠されたことを、遅ればせながら知りました。

    松居さんについて、「こどものとも」初代編集長や、福音館書店の相談役であったり、1996年に児童文芸家協会より「児童文化功労者」の表彰を受けたりと、輝かしい実績があるのですが、私が知ったのは、つい最近読んだ「絵本のつくりかた」の記事であり、これまで知らなかった事を恥ずかしく思いましたが、それでも知ることが出来て嬉しかったですし、何より、これだけ絵本に思いと情熱をかける人が、私の生きている時代に存在したという事実が、私にとって、何よりの幸せです。今頃はきっと、松居さんがかつて夢見た武陵桃源で、安らかに暮らされているのかもしれませんね。

  • 陶淵明の「桃花源記」が出処で、現代の子どもたちに語り伝える物語として、再話されたもの。
    もちろん、大人が読んでもじゅうぶん鑑賞に堪える素晴らしい一冊。
    特に絵の美しさはこれまで想像してきた「桃源郷」の風景を決して損なうことなく、実に雄大で美しい。
    その絵は、中国の絵本画家・蔡皋(さいこう)によるもの。
    絵巻物のような美しい世界を、読むたびに堪能できる。
    舟を漕いで行くと現れる桃の花の咲く風景。
    手入れされた田畑と家々、家の中の様子や食卓の料理。
    桃源郷の人々の暮らしぶりが、とても丁寧に描き込まれている。
    高校の漢文の授業で【桃花源記】を学んだ方は、懐かしく思われるかもしれない。
    約11分。低学年から。
    桃の花の咲く季節に。

    読み終えてから調べてみて、驚いたことがひとつ。
    桃源郷イコール理想郷(ユートピア)ではないのだ。
    似て非なるものどころか、正反対。
    ユートピアは、理想社会を築こうと人々が努力している社会主義国家。
    ところが桃源郷は、理想社会の実現をあきらめ、人々は外界との接触を一切絶って貧しく質素に暮らしている。
    その穏やかな世界を、争いだらけの時代に陶淵明は夢見たのだろう。

    そしてそれは、誰しもが心の奥底に持っているもので、心の外に求めた二度目の訪問では、
    決してたどり着くことが出来なかったのかもしれない。

    読み終えて気づいたことがもうひとつ。
    白黒の扉絵には、戦乱から逃げ惑う人々や連行される人、焼き討ちにあった家や殺された人などが描かれている。う~ん、うっかり見逃したけどこれがお話の導入になっていたのね。
    よくよく見ると、お話の主人公である漁師の一家らしい姿も。

    さて、私も心の中の桃源郷で、ゆったりと過ごしてみようか。。。出来るかな?

    • だいさん
      >桃源郷イコール理想郷(ユートピア)ではないのだ。

      これ、いいですね!
      私は、ザナドゥを思い浮かべてしまいます。
      >桃源郷イコール理想郷(ユートピア)ではないのだ。

      これ、いいですね!
      私は、ザナドゥを思い浮かべてしまいます。
      2014/04/23
    • nejidonさん
      だいさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。
      桃源郷イコール理想郷ではないと、これこそ言いたかったようなレビューです(笑
      私...
      だいさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。
      桃源郷イコール理想郷ではないと、これこそ言いたかったようなレビューです(笑
      私も含めて、大半の方が思い違いをしていそうですよね。
      もっとも、かたや「社会主義国家」ですから、崩壊は目に見えていますが。

      「ザナドゥ」と聞いて最初は???でしたが、「キサナドゥ」のことですよね!
      おお、久々に聞いた単語です。
      これも「桃源郷」のことでしたね。だいさん、さすがです!

      2014/04/23
  • 綺麗。
    桃源郷がどんなところかよくわかった。

  • 2023.6.12 5-1
    2023.7.3 5-2

  • 桃源郷の世界に惹き込まれます。
    松居さん素敵です

  • 漁師が偶然見つけた桃源郷。肥えた田んぼ、きれいな池、楽しそうな人々…。夢か幻か。とても美しい絵と桃色に目を奪われる。
    桃源郷のような世界は理想でしかないの?争いのない世界がいい。

  • 桃源郷という言葉の起源を、はじめて知った。

  • ご飯がおいしそうでした

  • 絵が素晴らしくとても贅沢な絵本。偶然行き着いた桃源郷。そこは何百年の間外界との接触を断ち争いが無く民が皆笑顔溢れる理想郷だった。そこで数日を過ごし村へ戻る際このことは他言しないようにと言われるが…。桃の花が咲き誇る川の源流の風景が圧巻でした。

  • 絵が好き

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著者プロフィール

松居 直(まつい・ただし):1926-2022年。京都生まれ。同志社大学卒業とともに福音館書店に入社。絵本の出版・編集に従事し、1956年に「こどものとも」を創刊。石井桃子、瀬田貞二、松岡享子などと交流を深めるとともに、加古里子、赤羽末吉、堀内誠一、長新太、瀬川康男、安野光雅、中川李枝子ら多くの絵本作家を発掘。『おおきなかぶ』『ぐりとぐら』『だるまちゃんとてんぐちゃん』など、今なお愛される絵本が生まれた。自身も絵本の文や再話を手がけ、海外の優れた絵本も紹介。日本の絵本文化の発展に大きく貢献した。1993年出版界で初めてモービル児童文化賞を受賞。1996年日本児童文芸家協会より「児童文化功労者」の表彰を受ける。著書に『私のことば体験』(福音館書店)、『絵本は心のへその緒』(ブックスタート)、『松居直のすすめる50の絵本』(教文館)など多数。

「2023年 『絵本とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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