TN君の伝記 (福音館文庫 ノンフィクション)

著者 :
  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834018844

作品紹介・あらすじ

幕府を倒したのは、世の中を変えるためじゃなかったか。足軽の子に生まれ、ルソーに学び、人間の自由をもとめつづけた思想家・TN君とはいったい誰?その歩みをたどりながら、明治という時代のおもしろさ、そして現代にまでつながるさまざまな問題について考えよう。伝記文学の楽しさを満喫できる作品。小学校上級以上。

感想・レビュー・書評

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  • 1976年に刊行された伝記。『子どもの館』という雑誌に連帯されたそうだ。TN君は「東洋のルソー」とも呼ばれた著名な思想家のことだが、本書では本名は一切出てこない。何べんも名前を聞くと、それだけで分かった気になってしまう、と著者は考えるからだ。

    本書で描かれるTN君は、理想を追求しつつ、それを現実にどう落とし込むかも考える人物である。だから、自由民権運動の過激化を批判し、その大同団結を唱える(そして、失敗する)。一方で、自由党系の伊藤博文との合流については、手厳しく批判する(が、結局合流して立憲政友会ができる)。

    1976年という時代に、このようなTN君のイメージが描かれているのが、面白い。著者の念頭には、過激化した学生運動と野党の内部対立とがあり、これらを乗り越える存在として、TN君のような人物に期待したようだ。果たして、著者の期待は叶えられたのだろうか。

  • 子どもの頃から図書館にあり、気になってはいたが読まずに来た。ティーンエイジャーになってからTN君が誰かということも知ったが、さして興味がある人物でもないし、ティーンエイジャーは児童書を進んで読みたくないので、放置。
    さらに長い時間が経ち、ふと図書館を見るとまだある。
    数十年間出版され続けている(しかも売れてなさそう、読まれてもなさそうなのに)ということは、何か理由があるに違いないと、やっと読むに至った。

    いい本だった。
    たいして売れていないだろうに、出し続けている福音館書店にまず敬意を表したい。

    で、この本はTN君こと中江兆民の伝記であると思っていたが、読んでみると兆民の私生活の描写などはあまりない。確かに彼の生涯を描いてはいるのだが、兆民という、自由民権運動の思想的柱となった人物を通して、幕末から明治という時代がどんな時代だったか、また歴史の教科書に載っている人物たちが何を考え、どう行動したかを描く作品だった。
    あとがきで著者が書いている通り、「TN君の伝記を書いたのは、君たち(読者)に、その見えない部分(歴史のかげになって見えない部分)を、TN君の目をかりて見てほしいと思ったから」(p389 カッコ内は本文にない)という意図が、読めばはっきりする。

    大久保利通、木戸孝允、西郷隆盛、西園寺公望、伊藤博文、幸徳秋水…歴史に名を遺すという意味では、兆民より上の人物たちだが、ほとんど表に出ることなく生涯を終えた兆民の思想がどれほど影響を与えたか(あるいは反発を招いたか)が伝わる。

    とにかく名言、名場面続きで、面白いので、暗い挿絵を敬遠しないで若い人にも大人にも読んでほしい名著。

    「権利ってもんはな、天から降ってくるようなもんじゃねえ。いくら、あって当然の権利でもよ、待ってて手に入るわけじゃねえぜ。」(p84)
    「より自由になるということは、より進歩することではない。より文明開化することではない。ひとりひとりが、より自己に目覚めることだ。だれもたよりにせず、だれにも支配されずに生きることに目覚めることだ」(p163)
    「いいかね。西郷が立ったのは仕方がない。彼は追いこまれたのだ。彼は機を見て行動する人間ではない。義のために行動する古い武士だ。それが、彼の人望のささえとなっている。機を見、行動する大久保には、人望がない。だが、義によって行動するものは、機をえらべない。わかるかね。人間には、そうした二種類の人間がいる。西郷は失敗する。それは、彼自身にもわかっている。それを知りながら立ったのが西郷なのだ。そして、それを知りながらくわわっているのが、西郷軍の若者だ。だから成功はおぼつかない。しかし、それが意味のないことだといったらまちがいだ。彼は革命をしようとしているのではない。抵抗だ。抵抗には抵抗の意味がある。しかし、君が革命を考えているのだったら、それは、このあとにしかこないだろう。」(p204)
    「なにを理想とするかということと、いま、なにをするかということを、ごっちゃにしてはいかん。」(p296)

  • TN君とは誰なのか。最後まで名前が明かされることはありません。名前なんて必要なかった。偉人としてではなく、ひとりの人間として彼と出会うことができたから。

  •  読み始めて半分ぐらいまでは 面白く、わくわくして読み進めました。が。途中から主人公TN君の人生がだんだんうまくいかなくなり、事業に手を出して失敗、食べるにもことかくようになり、社会からも「過去の人」「時代遅れの人」とみなされるようになってくると、読むのがつらかったです。反権力の側でがんばる人たちはたいがいそうなるのが、わかっているだけに、もっとうまく世渡りして!といいたくなってしまう。こんなヘンな読み方をしたのは私が妻の立場で読んでいるからかな?
    主人は すごく感激して、私にもぜひ読むようにと言っていたのですが、彼もどちらかというと、反体制支持で、選挙ではいつもがっかりしていたことを思い出します。

  •  著者のなだいなだ氏は医師でもあり、本名は堀内秀という。TN君(名前は明かされない)の医師がたまたま堀内という名だったらしい。余命を宣告してしまう場面にもユーモアが混じる。おかげで「一年半有」と「続一年半有」という名著が生まれた。

     TN君は語る。“より自由になるということは、より進歩することではない。より文明開化することではない。ひとりひとりが、より自己に目覚めることだ。だれもたよりにせず、だれに支配もされずに生きることに目覚めることだ。”

    世の中がいっぺんに変わり、3か月先さえ読めない今、明治という曲がり角を生きたTN君の思想や陰日向の活動は、未来をほんのり灯す希望に感じられた。

  • ある思想家についての伝記である。
    物語として面白かった。

    近代化の当事者たちのリアルな姿。

  • 教科書では学ばなかった大きな歴史

    明治維新という激動をTN君を軸に見ていて、教科書の歴史とは違った深さがある。垣間見られるおおらかな時代感もよき。

  • 2019.8月。
    大好物。日本史の授業は好きだったけど、授業は歴史の表面だけ、概要だけをなぞったもの。それを痛感。1つの時代、出来事、人物にはそれぞれ当たり前だけど深い物語があるわけで。こういうの学んだ方がよっぽどいい。読んでておもしろいのと同時にちょっと前の日本で起きたこと、そして今の時代と重なってみえてくることが、ぞわぞわ恐ろしくて。TN君はあなたでしたか。

  • 三酔人経綸問答の南海先生の恩賜民権から回復民権議論へ;戦後の新憲法はアメリカから与えられたものだが、それをよりどころとして、自分たちの力でえた権利と同じものにするべきでは?303〜4p

    もし選挙人が、選挙の時に投票しただけで、全ての責任を議員に預けてしまったら、国会は、せみやかえるの競走場か、いもむしの陳列場と変わらない。337p

    帝国主義;それは、愛国心というやつをたていととし、軍国主義をよこいととして織り上げた政策です。377p→幸徳秋水『20世紀の怪物・帝国主義』

    無神論の哲学がないところでは、理は感情につねに打ちのめされてしまう。384p

  • なかなかの良書。高校時代にいろいろと読んでたのを思い出しました。

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著者プロフィール

なだいなだ:1929-2013年。東京生まれ。精神科医、作家。フランス留学後、東京武蔵野病院などを経て、国立療養所久里浜病院のアルコール依存治療専門病棟に勤務。1965年、『パパのおくりもの』で作家デビュー。著書に『TN君の伝記』『くるいきちがい考』『心の底をのぞいたら』『こころの底に見えたもの』『ふり返る勇気』などがある。

「2023年 『娘の学校』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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