祈祷師の娘 (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834020106

作品紹介・あらすじ

祈祷師の家に育った主人公、春永はお父さん、お母さんとは血がつながっておらず、お祓いの能力を持っていません。姉の和花ちゃんには霊能力があり、祈祷師をつぐことになります。自分に霊能力のない春永は悩みますが、中学校での恋のまねごとのような人間関係や、霊能力を持ってしまった小学生の女の子とのふれあい、そして実の親に会いに行く小さな旅を通して、少しずつ自分らしさをつかんでいきます。

感想・レビュー・書評

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  • 春永は中学生の女の子。実のお父さんは早くに亡くなり、お母さんは今のおとうさんと再婚した後、彼女を置いて出ていった。彼女はおとうさん、おとうさんの妹である「おかあさん」とその娘の和花ちゃんと暮らしている。
    おとうさんとおかあさん、和花ちゃんの家は祈祷師の家系で、3人にはその能力があるが春永にはない。おとうさんもおかあさんも和花ちゃんも、みんな春永を本当の子供だと思ってくれているが、春永は自分だけ血がつながっていないという事実を否がおうにも自覚せざるを得ない。

    彼女は、どうか自分にも祈祷師の能力があらわれますように、といつも祈っている。一方で、お母さんとの唯一の思い出である金魚を世話しながら、今はほとんど覚えていないお母さんのことを何度も夢に見る。
    別れた旦那さんの生霊がとりついて具合が悪くなった女性が祈祷所にやって来たあと、おかあさんに、私は小さいころ病気をしたことがあったか、とたずねる春永の気持ちが切ない。

    高校生の和花ちゃんは、強い能力の片鱗を見せる。明るく人気者で、自分の能力と折り合いをつけて生きているようにみえる彼女だが、本格的に祈祷師として生きていく運命が訪れた時、彼女はそれを拒否しようともがく。血筋のせいで、自分の意思とは関係なく人と違う能力を持ち、他人の痛みを背負っていかなければいけない彼女も、春永とは別の意味で苦しんでいる。

    この物語にはもう一人苦しむ少女がいる。小学生のひかるちゃんは、祈祷師の家系でもないのに、目に見えないがあちこちに存在する「さわり」を体に引き付けてしまう。ひかるちゃんと違って何の能力も持たない彼女の母親は、彼女が自分たちにはわからない何かのためにもだえ苦しむのを見て気味が悪い、と泣き、父親はその事実から目を背ける。
    ひかるちゃんのエピソードは、実の親子なのに分かり合えないつらさを物語る。

    物語の最後、小学生のひかるちゃん、中学生の春永、高校生の和花ちゃん、それぞれの年代の少女たちが、苦しみながらも自分の置かれた環境と向き合い、覚悟を決めて生きていく様子はけなげで、そっと抱きしめてあげたくなる。

    悩みを抱える思春期の少年少女たちにも、また子を持つ親にも読んでもらいたい物語。
    装幀と挿絵に使用されている卯月みゆきさんの版画も、本書の繊細な印象を良く表していて味わいがあるので、ぜひ堪能してほしい。

  • 『フツーの子の思春期』で紹介されてて読んだ。
    超イイ!
    自分が「何者でもない」事を受け入れるのも
    「何者かである」事を受け入れるのも、
    結局は同じで。
    思春期、自分と折り合いをつけて、「この自分でやってく」って覚悟をする。その時期の多感さ、危うさ、なんかが痛い程伝わってくる。
    特殊な境遇で描いてるからこそ普遍っていう…。
    うん。いい小説だ。

  • 出版社が福音館書店ということに少し驚く。主軸は主人公の心の成長と家族のかたちなのだけど、彼女のおうちは平らかに言ってしまうと霊媒師を家業にしていてこの物語のベースをずっと流れている。しかも複雑な家族構成。私は抵抗がない部類だが、超自然的なことが沢山出てくるわけで読み手によっては拒否反応が出るだろう。理解できない人がいても仕方ないし、実際そんな人たちも登場する。
    成長期にある少女が家業と複雑な家庭環境の中で荒ぶることなく穏やかに自分の気持ちに正直に向き合い気づいてゆくのが好ましかった。育ての親の義父母の性格も大きいと思う。全てお見通しの上であるがままを受け入れている器の大きさよ、、、
    見えることも見えないことも全ておぼしめし、人はそうやって生きる。
    中脇さんの本「きみはいい子」も読後にくたくたになったガーゼケットに包まれるような優しさを感じる。

  • 『女子読みのすすめ』で紹介されていたので、読みました。

    自分は決して友人のように少女マンガの主人公にはなれないと感じている中学生の春永。
    普通とはちがう家族に囲まれ、普通の自分は無力だと感じています。
    バケモノになりたい、どんなに努力しても、バケモノにはなれない。葛藤が切ないです。

    バケモノと呼ばれて苦しんでいるひかるちゃんが、人間になりたいから「見えているものも、見ないようにする」という葛藤も、また切ない。
    それと同時に、わたしも苦しいときには、わざと自分をマヒさせて見ないようにしたり、聞かないようにしたりしていることがあると思うと、刺さります……。ひかるちゃんみたいに、いつか無視できなくなるときが来るのでしょう。

    神様に選ばれなかった主人公が出した答えは………。
    最後まで、考えさせられます。

  • とある事情で血の繋がらない祈祷師の家で暮らす春永。
    祈祷師という特殊な環境下で、自分だけが能力を持たない彼女の胸に宿る様々な葛藤が胸に迫ります。
    自らの存在意義に答を見いだせず悩み苦しみながらも、望まぬままに能力を持たされたひかるちゃんの心や境遇に胸を痛め、温かく手を差し伸べる彼女の心の有り様が非常に良い。
    産みの母を訪ねた先で何かを感じ取り、あるがままの自分を受け入れて前を向いていく姿に静かな感動を覚えます。
    児童書ではあるものの、大人が読むに耐えうる作品ですね。
    他の作品も読んでみようと思います。

  • ★3.5

  • 祈祷師とその娘を身近で見ている中学生の成長を描いた作品。
    望んでも手に入らない力、知っていても何も出来ないもどかしさ、子どもの個性を受け入れられない両親など考えさせられます。

  • タイトル通り育ちが独特だからか、サワリの話や長生きする金魚の話も違和感なく飲み込めました。血は繋がっていないものの、祈祷師の娘として育ち、血が繋がっていない故に祈祷師としての能力がない事を残念に思う。どんなに信頼し合った家族であっても越えられない一線があるんだよなぁ。漢字には大体ふりがなが丁寧にふられてますし、読書慣れしていない人でも読みやすいのではないでしょうか。ただし、この本から学べることはあまり多くないと思います。まぁエンターテインメントですね。

  • 「あんたはそういう器をもってる。みんな、あんたに救われてる。」 P225。
    どんな才能や技術より、人を癒し助けるのは、その人を受け止める人間の器の大きさなのかもしれない。
    ふしぎ系小説、ちょっとしたファンタジーと思って読んでいたけれど、それよりずっと深い人間の物語だった。

  • 『きみはいい子』で話題になった中脇初枝の初期作品。

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著者プロフィール

徳島県に生まれ高知県で育つ。高校在学中に坊っちゃん文学賞を受賞。筑波大学で民俗学を学ぶ。創作、昔話を再話し語る。昔話集に『女の子の昔話 日本につたわるとっておきのおはなし』『ちゃあちゃんのむかしばなし』(産経児童出版文化賞JR賞)、絵本に「女の子の昔話えほん」シリーズ、『つるかめつるかめ』など。小説に『きみはいい子』(坪田譲治文学賞)『わたしをみつけて』『世界の果てのこどもたち』『神の島のこどもたち』などがある。

「2023年 『世界の女の子の昔話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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