かはたれ (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834021486

作品紹介・あらすじ

河童族の生き残りの中で、8歳になったばかりの「八寸」と呼ばれる河童が、修行を積んで人の目から姿を隠す術を学ぶため、猫に姿を変えて人間の世界に送り込まれることになった。八寸は麻という女の子の家で暮らすことになり、母親を亡くしたばかりの麻は、猫の八寸に大いに慰められるが、ある日猫を洗ってやると、八寸は河童の姿に戻ってしまったのだった…。心の問題を抱える少女とかわいらしい子どもの河童とのユーモアと感動に満ちたファンタジー。

感想・レビュー・書評

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  •  読み終わって、まだ余韻に浸る中、最初から挿絵だけを順にもう一度見ていった。1枚1枚の絵に、物語を大切にし、それぞれのキャラクターに愛情が込められているのが伝わってくる。挿絵にここまで心を持っていかれるのは初めての経験だった。

     絵を書くために目の前の景色と対峙してじっと見つめているかのような写実的な表現の文章がとても美しい。しんと静まりかえった空気の肌触り、子河童の、触れるのが少し面映ゆいような心地良さげな繊細な手触り、植物の、生命力まで伝わってきそうなエネルギッシュさとたゆたい。

    物語が、俗世と結界を張られているように独自の美の中にある。

    登場人物の心の純粋さも、美しさの一つ。
    子河童、八寸を助けて保護した女の子は、独自の美意識と感受性をもつ。
    子河童が、浅沼を去る時に焼き付けるようにして見たその美しさ、住み慣れた場所と、そこで経験した時間を愛し、その風景を美しいと感じた子河童の心の綺麗さは、読んでいるこちらにまで透き通っていくよう。

     人も風景も美しいこの世界が、現実の世にあればどんなに良いだろうかと憧れる。どんな人間でも、ほんのたまに、一瞬だけは、純粋で綺麗な心になることもあるのかもしれないと想像できた。

     しばらくは、辛くなった時、この物語の世界の中に逃避しようと思う。

  • 終盤、ちいかわばりに泣いてしまってもう…
    そこまでハードじゃないですが、現代の小学生が出てくるとなるといじめの描写もありますのでその点はしんどい方は注意が必要です。が、休み休みでいい、読んでほしい。犬猫の描写が、五感に訴える細やかさで動物好きさんにもおすすめ。

  • 河童の八寸がとにかく可愛い。
    女の子の麻も好感が持てる少女で、両者の交流がとてもハートウォーミング。
    おすすめです。

  • 価値観ってなんなのか?どこからくるものなのか?母親を亡くした少女を通して、そんな、かつての私も悩んだ疑問が迫ってくる。
    自分の根っこを探している子どもたちに、是非、勧めてあげたい一冊。そして、かつて子どもだった大人にも。

  • 家族がいなくなって一人ぼっちで小さな沼に住んでいたこどもの河童がいました。名前を八寸と言います。
    近くの沼の長老に、この夏人間を観察しておいでと猫になる魔法をかけられ、町におります。
    長老との約束は水を被らないこと(河童に戻るから)、人に河童と見破られないこと。
    また、願いを3つ叶えてくれる玉を渡してくれ、月の光を浴びさせることも約束しました。

    恐る恐る町に行った八寸ですが、子ガッパらしい好奇心で歩き回ります。
    やがて麻という女の子、チェスタートンという犬と知り合って、猫として居候することになりますが…?

    〇文章も物語も美しかった。ゆっくり乾いたところに染み入るようでした。
    〇八寸のちびっ子ぶり、麻の強く優しく寂しく賢いところ、チェスタートンの静かな存在感。河童社会の世知辛さ。
    〇聞こえない音、自分の目には何が映っているのか、聞いていきたい、考えてみたいなあ。
    〇麻の、お父さんの手紙や独白、お母さんのお話がよかった。

  • 「かわたれ」とは、国語辞書に《「彼 (か) は誰 (たれ) 時」の意。あれはだれだとはっきり見分けられない頃》はっきりものの見分けのつかない、薄暗い時刻。夕方を「たそがれどき」というのに対して、多くは明け方をいう、とあります。母を亡くしてしまった少女の心の動きにぐっときます。
    児童文学もいいな、思える良書です。
    「耳に聞こえない音楽を探してみる」。哲学的です。
    また、多くの方のレビューでも言及されている、最初と最後にしか出てこない陶芸家の先生が、またね、いい味なんです。
    日常生活に一服の清涼剤のような本でした。

  • 最初は河童の八寸のかわいらしい描写、さみしい気持ちに心動かされ、途中からは感受性の強い麻の心中を思い、最後は涙があふれました。

  • 平成17年度の日本児童文学者協会と日本児童文芸家協会両方の新人賞受賞作品。
    20200809日曜日読書欄で早稲田大学教授でアイルランド文学者の何とかセンセイがすすめていた。私にとっても朽木文学のファンになった記念すべき1冊。

  • 目に見えない本質に悩む麻の感性がすばらしいです。
    また河童の八寸がかわいらしくもありました。

  • 人間のことを観察するべく、河童の八寸がネコの姿になって女の子の家で暮らすお話。

    ひとりぼっちになってしまった八寸と、お母さんを亡くして間もない麻、麻の飼っている犬のチェスタトン。3人(ひとりと2匹?ふたりと1匹?)がともにすごすことで、それぞれが抱えるどうにもならないさみしさや悲しみが徐々に変化していく。

    ひとりぼっちになってしまった河童がネコになるという設定にちょっと詰め込みすぎな印象もあったけれど、それぞれが出会い、ともに過ごし、心を強くしていく様はぐっとくるものがある。陶芸の先生も最初と最後しかでてこないのに、いい役だった。

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著者プロフィール

広島出身。被爆2世。
デビュー作『かはたれ』(福音館書店)で児童文芸新人賞、日本児童文学者協会新人賞、産経児童出版文化賞受賞。その後『彼岸花はきつねのかんざし』(学習研究社)で日本児童文芸家協会賞受賞。『風の靴』(講談社)で産経児童出版文化賞大賞受賞。『光のうつしえ』(講談社)で小学館児童出版文化賞、福田清人賞受賞。『あひるの手紙』(佼成出版社)で日本児童文学者協会賞受賞。ほかの著書に『引き出しの中の家』(ポプラ社)、『月白青船山』(岩波書店)、『八月の光 失われた声に耳をすませて』(小学館)などがある。
近年では、『光のうつしえ』が英訳刊行され、アメリカでベストブックス2021に選定されるなど、海外での評価も高まっている。

「2023年 『かげふみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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