夏の朝 (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
3.96
  • (22)
  • (39)
  • (21)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 296
感想 : 47
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834081015

作品紹介・あらすじ

忘れないで。とてもたいせつなことなの。取り壊されるのを待つばかりとなった祖父が暮らした家。庭の蓮が花開くとき、時間を越え、少女はいつかの夏へと旅をする。第16回児童文学ファンタジー大賞佳作受賞作!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 梅雨明けの少し前から真夏へと向かう季節に咲く蓮の花。
    四日の命といわれるその花は、早朝に蕾をほどき始め、陽が高くなる前には再び花を閉じてしまい、四日を過ぎれば散りじたくを始めてしまう。
    あまりにも儚い命。
    けれどその潔い生き様に、見る者は毎夏のように魅せられている。
    次の夏も、また次の夏も。
    毎夏変わらぬ色鮮やかな紅色の花びらと甘い香りは、遠い夏の記憶を呼び起こす。

    今は亡き祖父の庭で、蓮の蕾の中に隠されている"想い"を受け取った中学2年生の莉子。
    それは自分のルーツを遡る時空を超えた旅だった。
    亡き母や祖父母との再会は少女を"大人"へと導いていく。
    莉子はこの夏の貴い記憶をいつまでも忘れないだろう。
    言葉数は少ないけれど、じわりと伝わってくる祖父の優しさが胸に染み入る。
    声には出さないけれど、いつでも莉子を想い見守っている。

    莉子に向けられた祖父の温かな眼差しに、私も今は亡き祖父の温もりを思い出した。
    挿絵の美しさにもため息がもれる。
    中学校の課題図書という本作、多くの中学生に届くといいな。

  • フォローさせて頂いている方のレビューを見て
    読みたいと思い図書館で借りてくる。児童文学。
    中学二年生の女の子莉子が主人公。
    父母姉弟の普通の家族かなと思うと少し事情がある。
    亡くなった母方のお祖父ちゃんとその田舎のおうちの
    蓮の花が物語の中心。莉子がお祖父ちゃんの
    一周忌で田舎のおうちに泊まることから物語が
    進んでいく。面白くてあっという間に読了。

    莉子が蓮の花が咲く音を聞こうと
    毎日早起きして蓮池に向かっていると何故か時代が
    逆戻っていく。お母さんがまだその家で娘だった頃から
    お祖父ちゃんがまだ少年だった頃まで。毎朝毎朝
    はっきりと見る過去の世界。莉子が突然いても
    どこの子と疑わずもてなす田舎ののんびりとした
    開放的な様子が読んでいて気持ちが良い。
    莉子の叔母さんの佳乃おばさんは、お祖父ちゃんの
    家を片づけるために莉子と一緒に泊っているのだけど
    毎朝蓮の花が見せた幻のような莉子の話を最初から
    信じて熱心に聞いてくれる。莉子も佳乃さんもとても
    素直でひねくれていなくて、心が洗われる気持ち。

    莉子は本当のお母さんを亡くしていて
    新しいお母さんがいる。新しいお母さんの存在感が
    どんどん溢れて本当のお母さんの存在すべてが無に
    なってしまうような恐怖感を味わって
    お祖父ちゃんの家にお母さんの気配を探そうと向かう。
    その時のお祖父ちゃんとの思い出がとても
    鮮明で素敵で涙が出た。人は亡くなってもなくならない
    その人を思う人の心にきちんと必ず残っているんだ
    その思い出を反芻するときには亡くなった人も
    そこにいて、死=無ではないと感じられた。
    蓮の花と蓮の実が物語のキーポイントになっているけれど
    蓮を取り巻く自然いっぱいのお祖父ちゃんの家の様子が
    目に浮かんでとても清々しい読後感だった。

  • 祖父の一周忌に、田舎の亡き祖父の家を訪れた莉子。家の取り壊しに伴い、片付けのためにしばし伯母と滞在することに。早朝に咲く蓮の花の秘密を探ろうとする莉子は、開花と共にタイムスリップする…。
    まるでうたた寝時に見るような夢、みたいに時が遡る。それも、繰り返すほどに時は過去へ。タイムスリップのたびに出会う祖父、莉子が生まれていない時代に出会っても、何故か莉子のことを知っている。どうやら鍵は蓮の花にあるようだが…。
    ちょっとミステリー的な仕掛け、古きよき昭和の家の描写、蓮の実ごはんや葡萄のジャムのパンケーキといったフード描写など、読みどころは沢山あるが、何より美しい自然の描写!むせかえるような草花の匂いを、そのままに運んでくるような文章。木村彩子さんの挿絵も本当に素晴らしい。鮮やかな蓮の花に目を奪われる。
    懐かしく、瑞々しく、余韻の美しい、夏に読んで欲しい珠玉の一冊だ。

  • 蓮が咲くころに想い出しては読みたくなる物語です。
    装画は美しい蓮の花が描かれ、半透明のカバー越しに蓮がぼんやりと透けるようにみえる。それは蓮にまつわる不思議な物語にいざなう扉のよう。
     
    莉子がおばあちゃんの家で時を遡る5日間の物語。
    そこで出会うのは祖父。
    祖父にとっては少年期、青年期、壮年期、老年期、そして最期を迎える時と人生全般で5回出会った少女。その少女は孫だったのだと気づく祖父のもうひとつの物語がまたおもしろい。

    莉子の過去への旅は偶然ではなく必然だったのだろうか?
    祖父亡き後、壊されようとしている家や蓮の池は『あるべき場所にあるはずのもの』が消えようとしている。
    祖父から莉子へと手渡された想いを受け止めることで、物が消えても家族の「想い」や「物語」は消えないことを莉子は知る。
    母親を亡くした莉子は、母の存在が消えてしまう淋しさを抱えていた。
    過去への旅は、母の写真がなくなっても母の想い、母の物語はなくならない。その確認の旅だったのかもしれない。
    「蓮のつぼみの中には『想い』が詰まっている。言葉になることができなくて、空をさまよっていた誰かの想い。露と一緒に蓮の中に沁み込んで根や茎を巡り、最後は蕾に溜まって、開花とともに再び空へ放たれるのです。受け取ってくれる人が現れるまで、同じことが何度も繰り返されます。」
    蓮の花を観る度に思い描くフレーズになりました。

  • タイムトリップ系。読み終えた時、もう一度読み返したくなる。

  • 久しぶりに読んだけど良かった。。おじいちゃん泣

  • 蓮の花の開花とともに過去へタイムスリップする、というユニークな設定ですが、穏やかで品のある文章のため、最後までスムーズに読み進めることができました。全体を通して温かく、優しさにあふれた物語です。

  • 図書館でジャケ借りした児童文学。不思議なことが起こる夏の朝、その意味が徐々に分かっていくにつれて、物語の中に引き込まれていった。表紙の絵を見て感じた透明感がそのまま文章にも感じられて、綺麗な風景を想像しながら読めた。調べたら2015年の課題図書(中学生の部)だったそうで。納得。

  • 主人公と一緒に時間を旅しているような感覚になった。
    読後は優しい気持ちになって今をより大切に生きようと思えた。
    当たり前にある身の回りの環境も長い年月の中で少しずつ変わっていて、たくさんの人達の物語を紡いできているのだと思った。

  • おじいちゃんが暮らした家で夏の少しの間を過ごす莉子。蓮の花が開く朝に時間を遡って過去の祖父や母に出会う。家族がいて代々繋がってきて今の自分があるということ。そしてこの先も繋がっていくということ。私の今までの物語は?これからの物語は?私も物語で出来ているんだな。故郷に帰りたくなる。

全47件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

本田昌子 著者本田昌子1959年、山口県生まれ。山口大学文理学部理学科化学専攻卒業。子どもたちに手描きの絵本を作ることから始め、児童文学を志すよ うになる。『未完成ライラック』(岩崎書店)で福島正実 記念SF童話賞、『朝がくるまで』(『万里子へを改題』)(講談社)で講談社児童文学新人賞ともに佳作を受賞。マレーシア在住を経たのち、「スコールでダンス」で児童文学ファンタジー大賞奨励賞、本作で同佳作を受賞。他の著書に『はるかなるサンタ・マリア』(講談社)。東京都在住。

「2014年 『夏の朝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

本田昌子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×