どろぼうのどろぼん (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
4.19
  • (56)
  • (44)
  • (27)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 446
感想 : 52
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834081220

作品紹介・あらすじ

「声」は、いつもむこうからやってきた。ぜったいにつかまらないはずだったどろぼうのはなし。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 斉藤倫さんの、「波うちぎわのシアン」が、独特な雰囲気を纏っていたのがずっと気になってまして。
    次に読んだこの作品は初の長篇物語で、シアンより以前の作品なのですが、テーマは似たものを感じました。

    「波うちぎわのシアン」が、生まれる前の映像を見られる能力で、子供が生まれようとする当時の、忘れかけていた喜びや思いに気づくことの大切さだったのに対して、今作は、物の声を聞くことができる能力なのですが、ただし、それは、持ち主に忘れられてしまい、無くなっても気づかれない物です。

    そして、自分がなくなったほうがいいと思っている物も含まれ、しかもそれは物だけではなく、それ以外の声もあり、その内容は胸を引き裂かれる思いでした。

    悲しいけれど、現実に起こっていることなのですね。

    そんなものたちの視点に立つことで教えてくれるのは、ものを大切にする気持ちとともに、思いこみなしに、どんな小さな声にも耳をかたむけて、世界を視ることでした。

    かといって、それで世界を救えると安易に言っているわけでもなく、むしろ、人間みんな間違いもするし、その小さな無数の間違いが集まって、世界はできていて、私たちにできるのは、自分の近くにある間違いに寄り添い、手をさしのべるしかないこと。

    ただ、それで自分の世界は成り立っていけるという思いは、この物語の主人公「どろぼん」にとって、大きな慰めになったのだろうと思います。

    物たちの声を聞きながら、どろぼうをしていた、どろぼんにとって初めて訪れた、信頼されることや、胸が苦しくなるような気持ち。

    それまで自然に行動することができたどろぼんが、当惑しつつも、考え続け、本当に聞きたい声が何なのかを実感し、自らの思いで行動に移す。

    その行動には能力ではない、どろぼん自身の人間性が問われることになり、怖いと思うけれど、それでも、その声を欲する強い思いに、これまでの行いが報われる形となり、また、それに関わる刑事たちの思いこみなしの人間性(それはどろぼんが教えてくれた)に、あたたかい感動を覚えました。

    また、「信じられているということは、ひなたの大きな岩の上にねころんだみたいな心地」のような、共感できる詩的な表現が所々、印象的だったのですが、斉藤倫さんは詩人ということを今更知り、なるほどと。

    シアンもどろぼんも、自然の表現に独特な美しさを感じたのですが、詩人の方が書く物語の味や雰囲気みたいなものも、なんかいいですよね。
    やはり、世界の視方が新鮮で面白い。

    そして、「牡丹靖佳」さんの、時折、メリハリの効いたカラフルな絵も、また印象的で興味深かったし、斉藤倫さんの詩集も是非読みたいです。

  • 詩人の斉藤倫さんの美しい言葉に惹かれた。
    優しく美しいものは、心がしーんと哀しくなる。
    どろぼんの生立ちを知ると、なぜ物の声が聞こえ、その物たちを救ってしまうかが分かる。
    たまよさんの言葉の意味がずっしり胸に迫る。
    どろぼんは、幸せなんだね。

  • 雨の夜どろぼんはある家に入ろうとしていた。張り込み中の刑事のぼくがどろぼんに出逢ったのはその時。どろぼんはぼくに言ったんだ。「よぞらを見てください」こんな雨の夜に?
    警察の取り調べ室でぼくはどろぼんの話を聞いたんだ。彼の半生、彼の不思議な力。
    どろぼんは物の声が聞こえるという。その場にいたくない”物”、持ち主に忘れ去られた”物”、そして持ち主を縛り付けている”物”。それらの物を盗み出す。でも持ち主は誰も気が付かない。だって忘れ去られたんだ、むしろ解放される人だっている。
    どろぼうも、人の家に忍び込むのも、どろぼんには息をするみたいに当たり前のこと。だって声たちはいつも向こうからやってきたし、鍵は自然に開いたんだ。
    でも最近その力が弱まってきたらしい。
    それは生き物の声を聞いたから。
    生きた者の声を聞くと、物の声は遠ざかって行くという。

    どろぼんは、今は本当に自分に必要な存在を見つけたんだ、自分の意志で声を聞こうとしたんだ…。

    ***
    静かな雰囲気の語り口がなんとも胸が締め付けられるような。
    とにかく整理整頓片付けが大の苦手な私には、私の元を去りたがっている物も多かろうと、そういう意味でも胸が締め付けられたりorz

  • 面白くて感動するステキなお話でした。

    挿絵も独特の色使いとタッチで、挿絵も気に入りました✨
    特にカラーの挿絵が好きです✨

  • 読んでいて、チョン・セラン作品を思い出した。
    親切であろうとすること。
    手を差し伸べられるところにいるなら、そうすること。
    終盤の展開がとても良くて胸がいっぱいになり、涙が出た。
    どろぼん、私のところにも来たかな。
    何を持って行ったかな。
    それを私は思い出すことはできないのだけど、ごめんねって伝えて欲しい。
    それから、あなたにどろぼんを呼ばせた時よりも少しでも善くあるようにする、とも。

  • うちにはどろぼんに盗んでもらいたいと思っているものがたくさんある気がする。
    私がそう思っているのも、ものの方がそう思っているのも、どちらもありそう。

  • 詩人でもある斉藤倫さんの作品。この題名から、子供向けの小説かと思いきや、大人の心にも響く心温まる物語。物の声が聞こえる主人公のどろぼん。ここから救ってと言ってるようなちいさき声が聞こえる。ところが、それに誰も気がつかない。必要とされていない物は、誰も気にもとめていないのだ。それどころか、幸せになることも。そんなある日、世話を放棄したような手入れされていない、虐げられた子犬を救う。物の声ではなく、生き物の声が聞こえ始めたどろぼんは、刑事に捕まってしまう。事情聴取されてしまうが、刑事も書記もいつのまにか、どろぼんの話に引き込まれる。。。

    大人の童話だ。年末の気ぜわしいこの時期、ホッと温かい涙に洗われるのもいいかもしれない。

  • ものの声。
    それは役割があって生まれてきていて、その人のところにものを戻すのがどろぼんなのかな。
    私も何かをどろぼんに盗んでもらったのかな。
    部屋の中のものと会いたくなった。

  • 面白い

  • 「どろぼうのどろぼん」という題名に興味をもち、読んでみた本です。
    挿絵も温かみを感じ、物語との共作にも感動しました。
    不思議なストーリーに惹き込まれて、あっという間に読み終えた1冊です。
    ラストシーンには思わず涙がキラリ。あ~あ、感動する本はいいなぁ!
    時々読み返したくもなる本ですね。

全52件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

斉藤倫 詩人。『どろぼうのどろぼん』(福音館書店)で、第48回児童文学者協会新人賞、第64回小学館児童出版文化賞を受賞。おもな作品に『せなか町から、ずっと』『クリスマスがちかづくと』『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』『さいごのゆうれい』(以上福音館書店)、『レディオワン』(光村図書)、『あしたもオカピ』(偕成社)、『新月の子どもたち』(ブロンズ新社)』絵本『とうだい』(絵 小池アミイゴ/福音館書店)、うきまるとの共作で『はるとあき』(絵 吉田尚令/小学館)、『のせのせ せーの!』(絵 くのまり/ブロンズ新社)などがある。

「2022年 『私立探検家学園2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

斉藤倫の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ビバリー ドノフ...
梨木 香歩
恩田 陸
R・J・パラシオ
福田 隆浩
ドロシー・マリノ
ヨシタケ シンス...
柴崎 友香
三浦 しをん
ミヒャエル・エン...
モーリス・センダ...
アクセル ハッケ
辻村 深月
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×