水はみどろの宮 (福音館文庫 物語)

著者 :
  • 福音館書店
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834082517

作品紹介・あらすじ

七つになるお葉は、山犬らんに導かれて山の懐へと入っていく。山の湖の底深く、「水はみどろの宮」の穢れを祓う千年狐のごんの守と出会ったお葉は、山の声を聴くようになった。そんなお葉のもとに、片目の黒猫おノンがやってくる。やがて山の精たちの祀りに招かれたお葉が見たものとは……。「遠い原初の呼び声に耳をすまし、未来にむけてそのメッセージを送るために」、作者から子どもたちに贈る珠玉の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 七つのお葉は幼い頃に両親を川で亡くし、爺さまに慈しみ育てられている。
    喪失の哀しみを持った子どもは、声なき声に耳を澄まし、異界に足を踏み込んでしまうのだろうか。
    お葉の幼いながらも凛とした強さと優しさが、種を越えたものたちをも惹き付けるのだろうか。

    山犬ランや黒猫おノン、千年狐のごんの守、大なまず、木の精など不思議な力を持つものに対する畏敬を念を持ち、人々の暮らしと共にある。
    今はどうだろう。大切で美しいものを手放してしまったような気がする。

    この不思議な話は、まさに阿蘇山のまわり山岳地帯から生まれた。雄大な阿蘇の自然と高千穂の神話、民間伝承や信仰が息づいている。
    阿蘇の草千里、秋の野の尾花すすきが陽(ひい)さまに照らされ金色の光の波となって輝き、恐竜が走り回って遊ぶ情景が目に浮かぶ。
    川が人々の暮らしと密接に関わり、あの世とこの世を繋ぐ。
    長い歴史のある土地ならではの、時空間を越えた神と種を越えたものたちの大きな不思議で美しい世界を堪能しました。

    爺さまの言葉に
    「片目じゃの、片耳じゃの、ものの言えない者じゃの、どこか、人とはちがう見かけの者に逢うたら、神さまの位を持った人じゃと思え」とあった。石牟礼道子さんの声と重なる。
    山福朱実さんの木版画が力強くあたたかい。

  • 八歳のお葉は船頭の祖父千松爺と二人暮らし。
    父と母は水に呑まれてしまった。
    両親がいなくて町はずれに住むお葉は村の子供たちと一緒に遊べない。
    お葉は大犬の”らん”と親しくなる。らんは盲の山伏に寄り添っていた犬で、きっと山の神様のおつかいだ。
    らんに連れられお葉は山の奥深くに入り込む。
    お葉は”ごんの守”に会う。

    ごんの守は神様のおつかいで、位の良い狐だ。そしてそのお役目は、山の胎の水を浄めることだ。
    お葉はごんの守と一緒に山のお胎(おなか)のような湖の底にお籠りをして、その時から山の声が聞こえるようになった。

    ある時地面が揺れ山が火と石とを飛び散らせる。
    山が火を噴けば石は飛び地面は割れ山の水は枯れてしまう。
    村人だけでなく、ごんの守、らん、そして片耳片目の黒猫”おノン”も山を守ろうとするのだ。

    村人は「どこか人とは違う見かけのものは神様の位を持った人だ」と思っている。
    だから片目片耳の黒猫おノンは特別な猫だ。
    人間の村には、たまに人間の世界とは違う風貌の動物がいる。おノンもそうだ。おノンは人間には行けない”猫嶽”と人間会とを出入りしているのだろう。

    おノン強い雌猫だ、しかし強すぎて赤子にはすべて死なれてしまった。
    山では神や精霊たちのお祭りがおこなわれる。おノンは今年のお祭りで山を守った霊力が認められ神様から位を与えられるという。しかしおノンが欲しかったのは、ただ小さな子供だったのだ…。

  • 何度も感嘆のため息が出た。
    言葉の美しさ、描写の鮮やかさ、想像の豊かさに体と心の隅々まで潤っていくようだった。
    ファンタジーだが、舞台は明確に熊本で、水俣病にも触れていて胸が痛む。
    挿画もぴったりで、より物語を楽しめた。

  • 久しぶりに心に染み入る本に出会えました。
    景色がすーっと目の前にうかんできて、思わず万物の神様に手を合わせたくなる、そんなお話しでした。
    苦海浄土とは違った感慨がありました。

  • 昨年末に南九州の高千穂峡から天孫降臨の地と言われている天岩戸神社、霧島人社、えびの高原、宮崎の鵜戸神宮、青島神社、鹿児島、桜島をめぐり、神話の世界を堪能しました。

    高千穂峡では、山伏の姿をした狐のごんの守が銀色に光る錫杖の音をしゃらしゃら慣らし、山犬のらんが駆け回り、えびの高原のすすきの原で黒猫おノンが神楽を舞っている姿が見えるようです。

    石牟礼道子の描く物語世界は独特の魅力があり、忘れかけたアニミズムの記憶を呼び覚まされます。
    読書会のすすめで読んだ本ですが、貴重な本に出会えたと思っています。

  • 2017.10/28 昔語り、方言が耳に心地よく、細部まで描ききらないところに想像の目が羽ばたく。大人にも十分楽しめる児童文学。

  • 神様と動物と人間の魂が、今よりも近くつながっていた頃のお話しです。
    いろんなところに神様がおられて、お葉もおじいさんもそのことをとても大切にして暮らしています。
    私はこの時代に生きたことがないけど、胸がじんとして懐かしい気持ちになります。
    石牟礼さんの書く物語は、人間の深いところに流れているものと繋がっているからでしょう。
    山福朱実さんの版画も本当に素敵です。
    小学校上級以上と書いてありますが、子どもの頃に読んでいても、あらすじだけを楽しんで、この本のしみじみとしみ入るようなよさはわからなかっただろうなと思います。
    今、出会えてよかったです。
    手元に置いて何度も読み返したい1冊になりました。

  • これを読めてしまうお子さんは神隠しに遭ってしまいそう。文字で表現されたものなのに言葉や理屈とは違う領域が解き放たれるような感じで圧倒されました。九州の人、山育ちの人には特におすすめ。また、山福朱実さんの版画もすばらしいので福音館のがおすすめです。

  • 中学生以上。かなり難しい。自然の中で暮らすお葉のことが、豊かな表現で描かれている。二部構成。

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著者プロフィール

1927年、熊本県天草郡(現天草市)生まれ。
1969年、『苦海浄土―わが水俣病』(講談社)の刊行により注目される。
1973年、季刊誌「暗河」を渡辺京二、松浦豊敏らと創刊。マグサイサイ賞受賞。
1993年、『十六夜橋』(径書房)で紫式部賞受賞。
1996年、第一回水俣・東京展で、緒方正人が回航した打瀬船日月丸を舞台とした「出魂儀」が感動を呼んだ。
2001年、朝日賞受賞。2003年、『はにかみの国 石牟礼道子全詩集』(石風社)で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2014年、『石牟礼道子全集』全十七巻・別巻一(藤原書店)が完結。2018年二月、死去。

「2023年 『新装版 ヤポネシアの海辺から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石牟礼道子の作品

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