- Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
- / ISBN・EAN: 9784835057545
感想・レビュー・書評
-
◆『カーネーション』にも描写された戦争と軍国主義の本質
◆精神障害兵士から戦争を照射する
1930年代(昭和初期)から洋裁店を始めたコシノジュンコ姉妹の母親・小篠綾子の実話を元にした昨年のNHK朝ドラ『カーネーション』で、幼馴染の弱虫で心優しい安岡勘助が、1937(昭和12)年に赤紙で出征して4年後の夏に帰還して心がなくなった廃人のようになり部屋に引きこもるというシーンが描かれていましたが、この本こそがその軍隊で出現する多くの弱兵・異常兵・不良兵に再教育・懲罰・隔離という想像を絶する処遇をし、そして戦争を目の前にして発病する彼ら精神障害兵たちがいかに過酷な非人間的治療を強制され置き去りにされてきたかを暴いた本です。
明治からの国民皆兵で日本軍国主義は障害者も例外なく戦争へと駆り出し、そして兵隊になれない者は役に立たない非国民として排除してきました。中国での日本軍の残虐行為、殺し焼き奪い尽くした三光作戦などは、戦争は本来理不尽なもので殺されるか殺すしかない究極の極限状況ですが、良心や理性や倫理が壊れて精神障害になる一歩手前で、タガが外れて凶暴化していった結果かもしれません。
アメリカでも精神的ストレスを原因とする内科的疾患・精神病は、ベトナム戦争や幾多の紛争後、PTSD(心的外傷後ストレス障害/戦争後遺症)として広く知られるようになりましたが、自衛隊員が35人死亡した小泉政権時のイラク派遣で、後に16人が自殺したことは明らかにPTSDと想像できますがひた隠しにされているとか。
敗戦後67年経っても戦争後遺症に苦しむ人たちがいるという事実や、日露戦争以降に組織された不良兵士・知的障害兵士だけを集めた陸軍懲治隊陸軍教化隊や、未復員兵という療養所に置き去りにされた元兵士のことなど、まったく今まで隠されていた戦争の影の部分、否、本質的な真実を洗いざらい暴露した貴重な調査研究の書です。
それにしても『カーネーション』でのヒロイン小原糸子役の尾野真千子は、歯切れのいい岸和田弁とチャキチャキの快活さの熱演がとても見事でしたが、1957年の木下恵介『喜びも悲しみも幾年月』で32歳頃の高峰秀子が新妻から老婆までを自然に演じ、司葉子31歳頃の66年の有吉佐和子原作『紀ノ川』で、22歳から72歳までを見事に演じて主演女優賞を総なめにし代表作なのはよく知られていますが、あっさりと22週目の127回からの老け役を夏木マリに明け渡してしまったのには度肝を抜かれました。 -
『文献渉猟2007』より。
-
歴史
戦争
-
最近、ベトナム戦争後のアメリカ軍兵士のPTSD、イラク戦争でのアメリカ軍兵士の帰還兵のPTSDに関する本を読んで、兵士と精神疾患との関係に関心を持つようになった。
(再び、そういう時代が来ないことを祈るだけだが…。)
そんな時、図書館でこの本を見つけた。『日本帝国陸軍と精神障害兵士』。
およそ10年前の2007年に出版された本。正確には2006年が初版(この点については、後に詳述)。
書名通りの本。
戦争という非日常をはるかに超えたものが、人の心をいかに病ませ、戦争での死を免れたものの、「精神分裂病」に罹る悲惨さを明らかにしている。
(「精神分裂病」は現代では「統合失調症」に病名が変わっているが、この『日本帝国陸軍と精神障害兵士』では、この「精神分裂病」という呼称を使っているので、ここでもそうする)
国府台陸軍病院の『病床日誌』という戦争時の膨大な記録((カルテ)や、その他の記録、また、他の多くの学術書・文献を参考にし、その“実態”を明らかにしているのである。
日中戦争・太平洋戦争時に召集された20歳前後の若者たち。
頭脳明晰な者もいれば、家庭環境により文字が読めない若者も多く、また中には、知的障害者もいたことがわかる。
徴兵検査で「不適格」とされた者の分類・病気の発症原因・その治療の実態、予後(転院・退院・悪化の有無など)についても詳述されている。
旧陸軍、軍部の教育(と称する身体的懲罰)、隔離された病院で治療の実態には呆れる。
そして、出兵し、「戦争神経症」となって、病院に送られた者人数・病状の内訳、など、詳細に述べられている。
その多くは、20歳前後の若者がほとんどであり、入隊後すぐに「精神分裂病」を発症した者が多いこともわかる。
「戦争神経症」(現代では「戦闘ストレス反応」「戦争後遺症」とも呼ぶ)になった若者。
以下、少し本文をもとに列挙する。
1 戦闘行為での恐怖・不安によるもの(戦闘恐怖)
2 戦闘行動での疲労によるもの(戦闘消耗)
3 軍隊生活への不適応によるもの(軍隊不適応)
4 軍隊生活での私的制裁によるもの(私的制裁)
5 軍事行動に対する自責感によるもの(自責感)
6 加害行為に対する罪悪感によるもの(加害による罪悪感)
「4」に関しては、今の海上自衛隊での「いじめ」が原因で自殺した例が思い出される。ある意味、旧日本軍の「悪い部分」を受け継いでしまったとしかいいようがない。
「5」「6」が特に、「精神分裂病」となる者が多く、一番始めに述べたように、PTSDとなり、治療を要するようになる。
徴兵検査で「不適格」となった者への教育・懲罰・隔離という想像を絶する処遇。
そして、実際に目の当たりにした悲惨な光景により、発病する彼ら精神障害兵たちがいかに過酷な非人間的治療を強制され置き去りにされてきたかを思うと胸が痛い。
(終戦後、ほどなく「精神分裂病」が噓のように回復していったという元医師の証言(文献)もあるのも興味深い。)
「精神分裂病」を発症した若者の多くが、戦争末期に多く、また、20歳前後が多いという点を考えても、日中戦争・太平洋戦争がもたらしたものの影響は大きい。
本著の最後の章では、今なお入院しているご高齢の元日本軍兵士へのインタビューも少しあり、重要な証言ともなっている。
また、「結びに代えて」では、韓国・朝鮮人もと精神障害軍人(台湾人も含む)の戦後問題について、少し触れられているが、この問題も大きいだろう。
国民皆兵のもと、健常者・障害者の別なく戦場へと駆り出し、そして「兵隊になれなかった者」あるいは、負傷して帰国した兵士は“役に立たない非国民として排除してきた”実態も浮かび上がらせた本著。
日本の戦争がもたらした精神障害軍人の問題は重要であり、やはり、日本にも数多くのPTSDを抱えて生きた人が多かったことを知り、有意義だった。
巻末には、参考文献などがあり、読みたい本があるので、メモをした。
また、本書をまとめるにあたって収集した資料・文献をもとにした『資料集成・戦争と障害者』(第Ⅰ期)全七冊(不二出版)もあるとのこと。
さて、長くなったが、最後に、この本の出版について。
冒頭にも書いたが、初版は2006年12月2日初版第一刷である。
しかし、「著者自身の引用の誤り」図表の数字の誤記などによる「編集部の校正の間違い」が多数あり(「第二版刊行にあたって」より)、2007年4月10日第二版第一刷となり、改めて刊行された。
しかし、である。
まだ、文字の誤記、図表のデータの間違いなどが多くあり、筆者と編集部、出版社と協議したうえ、「絶版」となっている。
惜しい。
出版社のホームページにも、その旨のことが書かれている。
ただ、精神障害兵士に関する新たなデータが見つかったこと、新たに公開となった資料もあることから、加筆・訂正する必要となったこともあり、「絶版にした」とも。
望むらくは、ぜひとも、加筆・修正して、著者・出版社には、再再度刊行してもらいたいと希望する。
日中戦争・太平洋戦争がもたらしたものの“一つ”を後世に残す意味においても。 -
計見先生の本で引用されていたのでパラ読み。
旧日本軍の無茶の知らなかった一面を見た。
あの「カーネーション」の中で心に残る場面は沢山ありました。
戦争から帰ってきた勘助があんな廃人のようになっ...
あの「カーネーション」の中で心に残る場面は沢山ありました。
戦争から帰ってきた勘助があんな廃人のようになってしまっていたという描写、朝ドラなのに、ずしんときました。そして、勘助の母が晩年、その理由に思い至ったシーンを忘れることができません。
「カーネーション」は本当に奥行きがあって面白かったです。
この本はとても重々しい内容ですね。
手に取るのには勇気がいりそうです(^ ^);