歌舞伎ナビ

著者 :
  • マガジンハウス
4.25
  • (4)
  • (2)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 35
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838714025

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ずっと手元に置いておきたい1冊。
    写真も多く、写真を見ながら文章を読むと分かり易くて理解が深まりますね。

  • 気合いの入った一冊である。今、この国で歌舞伎を語らせたら、この人の右に出る者はいない。その著者が、「この秘伝は私が五十年あまりもかかって一生懸命に覚えたもので、私にとっては大事なものですから、できることなら他人には教えたくない」とまでいう歌舞伎の見方の秘伝を伝授してくれると、開巻劈頭に宣言しているのだ。これを読まないという手はないではないか。

    ではなぜ、それほど大事なものを、披瀝しようというのだろうか。歌舞伎に限らずものを見るには鑑賞眼が必要だというのは誰にでも分かる理屈である。古典劇である歌舞伎を見るにはコツがいる。著者が秘伝と呼ぶそのコツを伝えようと思った理由は二つある。「一つは歌舞伎の見方の秘伝は、基本的には一つしかないと思うようになったからであり、もう一つは、いま、歌舞伎の世界では、その本来の伝統が消えかかっているのではないかと思うから」である。

    著者は歌舞伎には二つの見方があるという。一つは人間のドラマとして、今ひとつは、役者の芸を主に見るという見方である。人間のドラマとしての歌舞伎という点については解説を読めば、まあ誰にでも分かる。問題は、一人一人の役者によってそれが演じられるとき、演じ方のちがいによって、人間ドラマが深いものにも浅薄なものにもなるという点である。

    歌舞伎は型の演劇である。一つの役柄には決まった髪、衣裳、型、性根というものがある。役者によって、それぞれの工夫のあるところだが、どう演じてもいいというものではない。そこには規範とも言うべき「たった一つのこと」がある、というのが著者が五十有余年もかかって到達した結論である。そのたった一つのことが今日、風前の灯だという。著者の執筆理由はこの危機感にある。

    芝居というものは、人間の身体によって成立する芸術である。いわば、演じられる傍から過去となってしまう。過去の名優の芸といっても、写真や映画によって記録されているもの以外は、その芝居を直接見た人の記憶に頼るしかない。しかも、見るためには規範を知っている必要がある。襲名流行りで、一見隆盛を極めているような歌舞伎界だが、それは五代目、九代目は言うに及ばず六代目を直に見た人が、歌舞伎界から消えつつあることを意味してもいる。

    芝居小屋仕立てで、一番目狂言の時代物に「寺子屋」「忠臣蔵」「妹背山」。中幕の歌舞伎十八番「助六」「勧進帳」を挟んで、二番目狂言の世話物に「髪結新三」「切られ与三」「弁天小僧」。そして最後、大喜利の所作事「鏡獅子」「娘道成寺」に至るまで、誰でも一度くらいは、見たことがあるという人気演目が並ぶ。著者は二つの視点を用いてそれらを縦横無尽に語り尽くす。

    貴重な写真を惜しげもなく使って、懇切丁寧に解説される名優たちの競演はまさに豪華絢爛だが、そこは辛口で知られる著者のこと、返す刀で当世風の演出に注文をつけることも忘れない。「弁天小僧」や「切られ与三」の花道の引っ込みはTVで見ていると、そこばかり映すので、観客も喜ぶところだが、本舞台にいる役者を考え、あっさりやるものという指摘など、なるほど、そういうものかと目から鱗が落ちることも一度や二度のことではない。これから歌舞伎を見てみようかという人にも、愛好家にも必読の一冊と言いたい。

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

演劇評論家。1936年、東京生まれ。初めて歌舞伎を見たのは6歳のとき。中学生の頃から芝居を見るたびにノートをつけるようになる。古典に限らず、現代劇や舞踊についても、どこをどう見るべきなのか、積み重ねてきた方法論はとても理論的でわかりやすい。『女形の運命』で芸術選奨文部大臣新人賞、『娘道成寺』で読売文学賞、『四代目市川團十郎』で芸術選奨文部大臣賞。著書に『歌舞伎ナビ』『能ナビ』(ともにマガジンハウス)など多数。

「2020年 『文楽ナビ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

渡辺保の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
松下 幸之助
高野 和明
ヴィクトール・E...
リンダ グラット...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×