猫を拾いに

著者 :
  • マガジンハウス
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本棚登録 : 715
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838726196

作品紹介・あらすじ

川上マジックがいっぱいの最新短篇集はたとえばこんな話が21篇も収められている。
     
《好きになった時には、好きは永遠につづくはずだったのに、いつの間にか恋はさめ、ひとときも離れたくなかった男はただのかさばる存在になり、そのたびにわたしは率直に、前向きに、「別れよう」と宣言した。》――〈わたし〉の新しい旅立ちを描く「旅は、無料」。
     *
《日本の人口が減りはじめたのは五十年ほど前のことだ。それまでにもすでに少子高齢化が進み、生殖可能な人口の絶対数が減ってしまっていたので、減りかたは急激だった。》
――若い人が激減した近未来の日本を描くSF風味の「猫を拾いに」。
     *
《私の人生で、最大の悔恨。それは、息子がゲイになってしまった、ということなのである。》――川上ファンならおなじみの〈ゲイの修三くん〉の母が登場する「はにわ」。
     *
《結婚なんてさ、脳天がしびれる感じでばかになってなきゃ、できないことだよ。きちんと考え始めちゃったら、怖くてできないでしょ。》――優しくって顔も声もいい、清潔で趣味もいい。そんな言うことなしの恋人と別れた〈あたし〉の心の底を描いた「ホットココアにチョコレート」。
     *
《そのお店はとても不思議なお店なのだと桐谷さんは言う。お店に入れるのは、恋の悩みを持つ人間だけ。悩みをうちあけると、店主が必ず解決してくれる。》――日常とファンタジーが入り混じる「まっさおな部屋」。
     *
《マルイさんは、僕の両のてのひらをあわせた上に乗っかってしまうくらい小さいけれど、れっきとした人間である。》――少年と〈小さい人〉の交流を描く「ミンミン」。
     *
《たぬきのつがいと鶴が三羽、くだをまきながらビールを飲んでいる。キッチンでは地球外生物らしき浅葱色のぼやけた存在が、よごれものをていねいに洗っていた。》――わたしの誕生日のパーティにはいろんな人がやってきた。地球外生物も現われる「誕生日の夜」。
     *
《なにしろ、京都は怨霊のメッカだから、と新田義雄は言うのだ》――あたしの同僚の新田は霊能者らしい。信長の怨霊とふたりの絶叫がこだまする「信長、よーじや、阿闍梨餅」。
     
技巧をこらしたヴァラエティ豊かな傑作が21篇――贅沢で楽しい短篇小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 雑誌「クウネル」に連載された21編を収録した
    ヴァラエティに富んだ高水準の短編集。


    いやはや、これはオススメ!
    音楽に例えれば
    オリジナルアルバムなのに
    すべてシングルカット可能な超強力盤といった感じ(笑)で
    ホント贅沢で読み応えのある短編集。

    日常と異世界とが淡く混じり合った不思議な世界観がまた
    妙にクセになるんよなぁ~(笑)


    誰かの依頼で文章を書く「わたし」の次の仕事はラブレター代筆の依頼だった…
    『朝顔のピアス』、

    大学の映画研究会の続木くんに
    ホットケーキで釣られたマミちゃん。
    連れて来られたのは、不思議な青年求太がホットケーキを焼く
    ハイム鯖(さば)という名のマンションだった…
    『ハイム鯖』、

    亡くなった夫の弟に恋した女性の
    揺れ動く心理描写が秀逸な
    『ぞうげ色で、つめたくて』、

    ゲイになった息子に戸惑う母親の姿をほのぼのと描いた
    『はにわ』、

    証券会社を辞め「包丁研ぎ」の職人になった、ちょっと変わった女の子、ひでちゃんの愛すべきキャラが炸裂する(笑)
    『ひでちゃんの話』、

    交通量調査に使うカウンター機を毎日カチカチ押している女子大生の秘密。
    カウンター機の使い方が斬新で面白い!
    『真面目な二人』、

    若い人が激減した近未来の日本を舞台に、わたしが勝手に「ダッシュ」と呼ぶお節介だけど憎めないおばあさんとわたしとの触れ合いを描いた表題作
    『猫を拾いに』、

    三万九千五百円を払えば
    恋の悩みを必ず解決してくれる不思議な店。
    元カレの名前を彫った入れ墨を消したいひよりは意を決して店を訪ねるが…
    『まっさおな部屋』、

    サンタクロースを信じる
    夢をたっぷりと持っている男と
    サンタクロースを信じない
    夢のない女の恋の行方は…?
    『クリスマス・コンサート』、

    シングルマザーの理絵とリツに
    夜毎かかってくる
    波の音しか聞こえない謎の電話の正体は…
    『うみのしーる』、

    京都出張になるといつも風邪を引いてズル休みしてしまう新田義雄の行動に怪しさを覚える江木亜由。
    そんなある日、江木と京都出張に行くハズの上司が盲腸になり、変わりに新田義夫と行くことに…
    新田義夫が異常に京都を恐れるワケとは?
    『信長、よーじや、阿闍梨餅』

    などなど、よくもまぁ、これだけ
    面白い短編を毎回書き続けたなぁ~っと感心することしきり。

    「恋をすると、誰でもちょっぴりずつ不幸になるよ」「恋って、たまらん」など、
    恋の名言に目から鱗が落ちる『まっさおな部屋』の
    イノセンスが沁みたなぁ~。

    プラトニックだけど妙に官能的な
    文章に川上さんの代表作『センセイの鞄』を思い出した
    『ぞうげ色で、つめたくて』も味わい深いし、
    つか、『ハイム鯖』の
    使いこんだ大根おろしの板が怖い!
    いったい何に使ってたんか気になる~(汗)( >_<)


    それにしても
    川上弘美の短編はなぜ、こうも心地いいのだろう。

    ラブレターの代筆を仕事とする女性、ホットケーキ作りの名人、缶ビールを飲む鶴、律儀に洗い物をする地球外生物、地獄から来たおばあさん、包丁研ぎの職人、交通量調査に使うカウンター機を常にカチカチと押している女の子、誕生日プレゼントに猫を探しに行く女の子、密やかに暮らしている小人、人間のオーラが色で見えるおじさんなど、
    一つは物語に変な人たちが
    当たり前のように次々と出てくるから、
    興味を惹きやすいし、飽きさせない点。

    そしてもう一つは
    その変な登場人物たちがみな、
    異端者であるにもかかわらず
    憎めないし愛くるしい存在であること。
    (川上弘美は変な人を可愛く書くのが抜群に上手い!)

    そして、ひらがなを多用した
    すぅ~っと心に染み入る柔らかで澄んだ文体が、
    読む者を日常と異世界が溶け合った川上ワールドへとスムーズに誘う筆力。

    他にも、クスクスと微笑ましいおかしみと
    ほんのり胸を打つ切なさの
    絶妙な塩梅も心地良さの要因だし、
    思わずハッとさせられる
    登場人物たちの何気ないセリフや、
    不思議なことや
    もやもやした心模様を主人公が受け入れ、
    そこから一歩(もしくは半歩)踏み出す希望を感じさせるラストが多いのも
    読後感の心地よさに繋がってるような気がする。
    (コレは最近の短編に関する考察です。長編や初期の作品ではこの要素+寂寥感や官能的な匂いが色濃く付いて来る)


    そして忘れてはならないのが
    食べ物描写の魅力。

    桜の木の下で食べるおにぎりや唐揚げ。
    ぽってりと厚ぼったくて、
    メープルシロップがたらりとかかった
    ふわふわのホットケーキ。
    かやくごはんとさわらの焼き魚と白味噌のお味噌汁。
    たっぷりと太った丸干しいわし。
    豚のしょうが焼きとご飯とたくあん。
    五本でワンセットの居酒屋の焼き鳥。
    チョコレートサンデーとホットココアと
    しびれるように甘いホワイトチョコレートケーキ。

    などこの短編集も他の川上作品と同様に
    登場人物たちの意思を反映し、
    さり気ないんだけど
    生活の息吹きを感じさせてくれる食べ物描写の数々が
    心地良さを演出している。
    (川上さん曰わく食べ物が出てくる小説が好きなので、いつも意識的に書いてるそう)

    それにしても何度となく読み返したくなる短編集って実は少ないんだけど、
    川上弘美の短編集は読むほどに味わい深くてクセになる。

    気軽に読めて、なおかつ心に残る短編集を探してる人、
    日常の中に潜む不思議な話が好きな人、
    小川洋子やよしもとばななや江國香織の世界観が心地良いと思える人、
    甘いだけの恋愛小説に飽きた人などにオススメします。
    あっ、初めて川上作品を読んでみようかなって人にもピッタリですよ。

  • ああ楽しかったー!
    色とりどりの21篇。どれも楽しく、ときに切なく情緒的。

    珍客万来いろんな意味で懐が深い「誕生日の夜」。
    きれいな叔母の思い出、異国情緒溢れる「トンボ玉」。
    表題作の近未来SF?「猫を拾いに」。
    恋しさが金色に色づく「金色の道」。
    怖いようで優しい「九月の精霊」。

    そして、太陽一周無料旅行という考えが素敵な「旅は無料」が特に好き。

    “「こないだ本読んでたらさ」
    「こんなことが書いてあった。地球上の生活には金がかかるかもしれないけど、太陽のまわりを年に一周する旅が無料でついてくる、って」
    「そうかあ、いつも旅してるのか、わたしたち」”(P169より該当会話のみ引用)

    これ!すごく素敵だなぁと。冷静に見ると、甲斐性のなさそうな会話なのですけれど(笑)


    実は川上さんの作品は、雑誌とかアンソロジーで読むばかりで、一冊通して読んだのはこれが初めて。(※レビューUPは「七夜物語」と前後しています)
    クウネル連載の短編集はこれが3冊目だそうなので、遡って読もうと思う♪

    • 山本 あやさん
      七夜物語もこの本も、悲しいお話なのかなぁ…って
      躊躇して買うのを迷ってたのー[´iωi`]

      タイトルからなんだか猫ちゃんがかわいそう...
      七夜物語もこの本も、悲しいお話なのかなぁ…って
      躊躇して買うのを迷ってたのー[´iωi`]

      タイトルからなんだか猫ちゃんがかわいそうな
      お話がありそうでびくびくしちゃって[笑]
      でも、みーちゃんが読んでるから安心だ~♡

      川上さんの短編大好きだから楽しみ~♡
      2014/06/07
    • 九月猫さん
      あやちゃん、こんにちは♪
      (おおっ、なんかこちらでコメントが新鮮に感じる(笑))

      あやちゃんは川上さんの短編集大好きなんだね(*'ω...
      あやちゃん、こんにちは♪
      (おおっ、なんかこちらでコメントが新鮮に感じる(笑))

      あやちゃんは川上さんの短編集大好きなんだね(*'ω'*)
      わたし、初めて一冊通して読んだので、読む前は飽きるかなぁ?と
      思っていたんだけど、ぜーーんぜんそんなことなかった!
      すんごーく楽しかったよー♪おススメ♪
      なかには切ないお話もあるんだけど、全体的には
      川上さんの不思議おもしろワールド全開って感じで♪
      表題作の猫ちゃんの拾い方(使い方、かなぁ)もすごくよかったよーー!
      短編だから、あまり語るとネタばれるので・・・お口チャック( *´艸`)
      あやちゃんが読んだときに、がっつり語り合おうね♡
      2014/06/07
  • 「誕生日の夜」「まっさらなお部屋」「信長、よーじや、阿闍梨望」「猫を拾いに」が良い。
    そもそも『大きな鳥にさらわれないよう』の文体と世界観が好きで川上弘美を読みはじめていたの、忘れていた。この人はただ恋愛を書くだけじゃないから好き。
    何より、文体が良い〜。川上弘美がかく女たちは、世の中をぼんやりと達観しているから嫌いになれない。
    ドライヤーで髪を乾かしたり、バスでうとうとしながら読んだり、ちょっとずつ読みすすめた。装丁も可愛いし、手元に置いておきたいから星5。

  • 個人的には大好きな1冊。全ての物語が面白過ぎて、読むのが楽し過ぎました。恋愛モノが多い。そんな人いるの?と思えたり、いるいる、と思えるような登場人物。そしてどれを読んでもなるほどな、面白かったなと思える結末です。ただ主人公が私と同年代(20代半ば)の作品が多めかも。私は年代が近く感じて、わくわくサクサクと読めてしまいました。他の作品も絶対読んでみようと思います。

  • 雑誌『クウネル』に連載された21話からなる短編集。
    『朝顔のピアス』『ぞうげ色で、つめたくて』『クリスマス・コンサート』『旅は、無料』『ピーカン』『ホットココアにチョコレート』が特に良かった。
    男女間の秘かな想いに共感し胸がふるえた。
    これらは是非長編で読んでみたい。

    うそ話からリアルな恋愛ものまで多様な短編の詰まった玉手箱なような作品集。
    お得な気分になれた。
    この短編集シリーズの第一弾第二弾は以前から積みっぱなしになっているので読むのが楽しみになった。

  • 短編21編。短い話ばかりなので隙間時間に読めます。
    日常だったり、ちょっと不思議世界にぶっ飛んでいたり、すごく納得したり、なんだか遠くへ投げられる感じがしたり、フンワリしたり、グサッときたり、いろんなパターンがあり、川上さんらしい世界観が詰め込まれています。
    言葉選びが心地よいので、疲れていても気楽に読めます。

  • 10ページ程度の短いお話が21編収録された短編集。
    日常のようでいて、どことなく不思議なお話が多い。
    個人的に1番好きなのは『朝顔のピアス』。

    <収録作品>
    朝顔のピアス/ハイム鯖/ぞうげ色で、つめたくて/誕生日の夜/はにわ/新年のお客/トンボ玉/ひでちゃんの話/真面目な二人/猫を拾いに/まっさおな部屋/ミンミン/クリスマス・コンサート/旅は、無料/ピーカン/うみのしーる/金色の道/九月の妖精/ラッキーカラーは黄/ホットココアにチョコレート/信長、よーじや、阿闍梨餅

  • 感情移入し過ぎずに淡々と気楽に読めるのが良いです!

  • *恋をすると、誰でもちょっぴりずつ不幸になるよ。いろんな色の恋がある。小さな人や地球外生物、そして怨霊も現われる。心がふるえる21篇。傑作短篇小説集*

    優しくて切なくて愛おしくて繊細で・・・一粒で二度も三度も美味しい、極上のスイーツを集めたような贅沢極まりない短編集。特に、恋の機微の描かれ方ときたら・・・!もうたまりません。短編なので読みやすいですが、一編一編、丁寧に味わって読まないともったいない。今からこの本を読める人が羨ましい・・・

  • 猫の話が多くおさめられているのかと思い手にしてみたが、数あるエッセイの中で一話しかなかった。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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