ハケンアニメ!

著者 :
  • マガジンハウス
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  • Amazon.co.jp ・本 (441ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838726905

作品紹介・あらすじ

監督が消えた! ?
伝説の天才アニメ監督・王子千晴が、9年ぶりに挑む『運命戦線リデルライト』。
プロデューサーの有科香屋子が渾身の願いを込めて口説いた作品だ。
同じクールには、期待の新人監督・斎藤瞳と次々にヒットを飛ばすプロデューサー・行城理が組む『サウンドバック 奏の石』もオンエアされる。
ハケンをとるのは、はたしてどっち?
そこに絡むのはネットで話題のアニメーター・並澤和奈、聖地巡礼で観光の活性化を期待する公務員・宗森周平……。
ふたつの番組を巡り、誰かの熱意が、各人の思惑が、次から次へと謎を呼び新たな事件を起こす!
熱血お仕事小説。

感想・レビュー・書評

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  • あー、やっぱり辻村深月さんは面白いなぁ。
    辻村深月さんの読む順番が大切なあの一連のシリーズ、ほぼ読み終わっていたと思っていたのだけれど、この作品だけノーマークでした。
    読みたい、読みたいと思っていながら、数々の他の読みたい本に追いかけられて(?)いたところ、映画化!ということで、今だ!と手に取りました。
    おかげで、懐かしのあの人にも会えて大満足。
    私は読む順番が大切なんてこと全く知らずにあの一連シリーズを読んでいたので、これから辻村深月さんを読み始める人がとっても羨ましいです!

    さて、こちらの『ハケンアニメ!』
    アニメ制作に様々な角度から携わる人たちのお話です。
    仕事のやり方の違いから、初めは受け入れられなかった相手を、出し方が違うだけで、“アニメへの愛“は一緒なんだ!と気付いていく過程が熱くて清々しい。
    そして、なんといってもアニメ=ヲタというイメージはやはり少なからずある。アニメの仕事を愛を持ってしながらも、『私はヲタですから、リア充ではありませんから‥‥』と思い込んでいる登場人物の気持ちが変わっていく様が良かったなぁ。そして、会う人会う人を萌え要素があるかないかで判断したりとかw面白すぎますw
    私も推しがいたり、収集癖があったり、立派なヲタですので、制作側の人たちの描写も面白かったけれど、ファンの盛り上がりの描写もとってもとっても理解できて面白かったです。

  • ◇◆━━━━━━━━━━━━
    1.感想 
    ━━━━━━━━━━━━◆
    それぞれに仕事にかける情熱や想いが溢れ出ていて、そんな想いが一つの方向に向かっていく繋がりが、羨ましく、感動しました。

    やはり、好きなものと、自身の仕事がリンクしていることは、働く上では前提条件だなと、改めて感じました。それは、若い人に限った話でなく、年老いても、今好きなものは何であるのかを見い出して、それを仕事にするように動いていくことは、よりよい人生には必要なことだと感じます。

    感情が動きやすい私の場合は、とても熱く感じるシーンが多くて、面白かったです。とくに、終盤に向け、関係者が繋がっていく感じがとてもよかったです。

    登場人物が多くて、さらに珍しい名前が連発していて、メモを疎かにしてしまいましたが、ちゃんと、人物が繋がっていき、その繋がりが、また、感動をよぶものであったので、しっかりメモしておけばよかったと後悔( ; ; )

    登場人物一人一人に目を向けて読み進めていくと、感動がより大きな作品だと思いますので、読む際は、ぜひ、じっくり読んでください。


    ◇◆━━━━━━━━━━━━
    2.あらすじ 
    ━━━━━━━━━━━━◆
    アニメ制作と、そこに関係して働く人たちの、熱いお話。スタジオえっじの作品と、とうけい動画の作品、それぞれの制作に関わる人たちが、熱く、感動する物語になっています。


    ◇◆━━━━━━━━━━━━
    3.主な登場人物 
    ━━━━━━━━━━━━◆
    1. 中堅アニメ会社スタジオえっじ
    有科香屋子 ありしなかやこ、背が高い
    王子千春 クリエーター、監督、イケメン、背は低い

    2. トウケイ動画
    行城理 ゆきしろおさむ、プロデューサー、表面的な出来る人
    斉藤瞳 監督、トウケイ動画

    3.ファインガーデン
    並澤和奈 26歳、イラストレーター
    宗森 市の職員

    ----
    迫水 イラストレーター
    江藤
    垣内
    フィギュア会社 ブルー・オープン・トイ
    逢里哲哉 おうさと、ブルーオープントイ部長、29歳
    黒木
    チヨダさん
    太陽 瞳の近所に住んでる子ども
    葵 声優
    杏樹 声優
    藤谷 イラストレーター
    関 アニメーターのチーフ
    鞠野カエデ ナンバーワン造形師、美人

  • 『ハケンアニメ!』??
    「ああ、『派遣アニメ』ね」アニメをよくご存知の方に思いっきり笑われそうだ。読み進めてようやく理解する『覇権アニメ』。
    しかもネットで調べたら結構メジャーなようで、詳しく定義まで記載されていた。

    本作はアニメ制作を仕事にしている3人の女性をそれぞれ主役としてオムニバス形式で描かれた小説。アニメをこよなく愛する彼女たちの仕事に対する情熱を感じることはもちろん、アニメが私たちに届けられるまでの過程を知ることができる。

    第一章の「王子と猛獣使い」は、伝説の天才アニメ監督・王子千晴があの大ヒットアニメ「光のヨスガ」から9年ぶりにして「運命戦線リデルライト」の制作に挑む。スタジオえっじのアニメプロデューサーの有科香屋子は、そんな王子大ファンで、今回、王子の担当になる。
    しかしながら前作「光のヨスガ」からのプレッシャーからか王子は、突如行方不明となる。
    関係者が王子の失踪に監督の変更を決める中、香屋子だけは王子が戻ってくることを信じ、彼の帰りを待つ。
    香屋子の必死さが王子の作品への想いの大きさを表しているようで、時に王子の無責任さに腹が立ち、それでもやっぱり香屋子の元に戻ってきたときには、安堵感から王子のその身勝手さも許してしまう。

    第二章の「女王様と風見鶏」の主人公は、新人監督・斎藤瞳。「リデルライト」と同シーズンで覇権争いをするトウケイ動画「サウンドバック 奏の石」の監督である。人気プロデューサーの行城理が、斎藤の担当である。
    「サバク」に全身全霊を注ぎ、寝る間も惜しみ制作に打ち込む斎藤。斎藤のアニメ愛に対する行城の斎藤への思いやりが、ちらほらと感じられる。

    第一章で、冷淡な印象であった行城の人間性が斎藤監督により引き出され、その意外性にやっぱり行城もアニメを愛する人間なのだと実感する。

    人気女性声優の美末杏樹、群野葵との関係構築にあの王子が斎藤に助言する場面があり、これが第三章にも繋がっていく。

    第三章「軍隊アリと公務員」。アニメ原画スタジオ「ファインガーデン」で働くアニメーター・並澤和奈が主人公だ。和奈の原画は、神原画と称されており、第二章で、行城ご指定であの「アニメゾン」の表紙を書いた神アニメーターである。
    ファインガーデンは新潟県選永市を拠点としており、「サバク」の舞台モデルとなった土地である。選永市役所の観光課の宗森周平がファインガーデンに市の活性化のためスタンプラリーの協力を求めてやってくる。社長の古泉から宗森と一緒に地元活性化に貢献するように指示される。
    アニメから遠く離れた公務員の発想に最初はイライラしていた和奈であったが、彼の真摯、誠実な態度にいつしか感化され、賛同し、積極的に協力していくようになる。

    そして選永市の商工会の副理事がなんと王子の父であった。美形の副理事長との説明に「ああ、美形とつけていた意味がわかった!」
    しかも王子の母、斎藤監督、行城と、第三章では、今までの主要な登場人物が絡んでくる。アニメ愛で満たされた選永市といったところであろうか。

    アニメのことは未だよく理解はできていないと思うが、終始、アニメへの情熱が感じられる作品であった。また、若干偏った四角い性格の登場人物たちが、仕事を通して視野、思考、対人関係が広がり、人間的な成長も感じられた。

  • まず素直に 面白かった‼︎
    こんなにも人気作家なのに初辻村です( ̄▽ ̄)テヘ

    初めて読む作家さんはワクワクしますね♪
    認知度低い(わたし基準)作家さんだと尚よろしい。
    面白かった時はお宝発掘した気分です\(//∇//)

    これがすでにベストセラー作家の場合ちょっと、いやかなり躊躇します。
    あれ?そんなに良い作品かな?わたしがおかしいの?
    なんて考えますね(*´-`)

    さて初辻村作品は「ハケンアニメ」
    黒辻村・白辻村を知り尽くしたブグログ隊長
    「ひまわりメロリン」から初体験はコレだ‼︎
    とおすすめされた作品です_φ(・_・

    漫画、アニメ、声優…好きです\(//∇//)\
    凄まじい取材をされたんだなぁと感服しました。

    28歳の娘は「プリキュア」オタクです笑
    毎回新シリーズが始まると巻き込まれる母(u_u)

    TVの前にかぶりつきオープニングで涙…
    「観て!一緒に観て!」「今回のキャラデザは◯代と同じなの!」「神だ!ヤバい!」etc…

    自分の稼いだお金で食玩を箱買いし、ガチャガチャをひたすら回す…なんて幸せそうな娘( ̄▽ ̄)笑

    この作品読んでまたまた娘と会話が弾むと思うと
    めちゃくちゃ嬉しい(〃ω〃)

    さぁ次の白辻村はどれにしましょう?

    • ひまわりめろんさん
      でしょ!
      コアなアニメファンも納得のいやコアなアニメファンだからこそ楽しめる!それが『ハケンアニメ』ですよ

      みんみんの最初の一冊としてはベ...
      でしょ!
      コアなアニメファンも納得のいやコアなアニメファンだからこそ楽しめる!それが『ハケンアニメ』ですよ

      みんみんの最初の一冊としてはベストだと思ったよ
      ブクログ界のコンシェルジュとお呼びください

      『ハケンアニメ』が気に入ったなら次は『スロウハイツの神様』だね
      なぜかというと…読めばわかるさ迷わず進め!元気ですかーっ!(アントニオめろ木)
      2022/09/28
    • みんみんさん
      元気があればなんでもできる!
      めろ木ボンバイエ〜\(//∇//)

      白辻村のお仕事小説はちょっと一穂ミチのお仕事小説と同じ匂いがします(^ ...
      元気があればなんでもできる!
      めろ木ボンバイエ〜\(//∇//)

      白辻村のお仕事小説はちょっと一穂ミチのお仕事小説と同じ匂いがします(^ ^)
      2022/09/28
  • いやー、面白かった。純粋に楽しんだ。
    のっけから王子千春に恋してしまいました。
    一章の「王子と猛獣使い」が最高に良かったので、次章から主人公が変わってしまいやや凹む。
    それくらいのめり込んで一気に読ませる作品だった。

    これがいわゆる白辻村か。
    今まで読んできたのは黒辻村だったみたい。
    やっぱり作家の相性を数冊で判断してはいけませんな。
    他も読んでみないと。

    たくさんのレビューがあるので細かいことは省略。
    私も小さい頃からテレビっ子でありとあらゆるアニメを見てきたはずなのに、いつの間にか遠のいていた。
    子供の影響で最近また見るようになったけれど、深夜枠などで放映される1クールで終わってしまうアニメの存在は全く知らなかった。
    そう言えば、聖地巡礼って時々話題になってるよね。
    これって深夜枠のアニメから来てるのか―!
    勉強になるな。

    これって昔と違って純粋な子供向けアニメと違ったジャンルに、新しいジャンルが確立したってことなのかな??
    いつの間に!!
    全然ついて行けてない。

    こんなすっかり時代に取り残されている私でも十分楽しめながらアニメ業界が分かるのが良かった。
    おまけにベタな恋愛もテンコ盛りで、ご都合主義的な感もあるけれどまあ良しとしよう。

  • 話題作に惹かれ読んでみました。
    アニメ制作を軸としたお仕事物語。
    それぞれの立場での役割、仕事、プライド。
    そして根本を成すアニメ愛。
    自分的にはアニメには疎いですが、制作に関わる信念を感じられて面白かったです。
    3人それぞれの立場の女性の視点で進行し、ラストの結末まで。
    映像化されたものも見てみたいと思いました。

  • 実は再読!です。
    こちらの続編というかスピンオフ作である「レジェンドアニメ!」を読もうと手に取ったのですが、登場人物をかなり忘れてしまっていて…(汗)
    というわけで再度手に取った「ハケンアニメ!」。
    前回読んだときから3〜4 年くらい?は経っていて、その頃はブクログもしていなかったため、読書ノートにしか記録なし。(読書ノート、見返してないけど)
    なのでいい意味で程よくストーリーや登場人物を忘れていて、再読でしたがおもしろく、夜更かしして読み切ってしまいました!
    おかげで今日の目のクマは一段とひどいです(笑)

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    舞台はアニメ制作の現場。
    第1章の主人公はアニメプロデューサー有科香屋子(ありしなかやこ)。
    彼女に多大な影響を与えたアニメ「光のヨスガ」の監督・王子千晴(おうじちはる、男性)は以後フリーとなり、さまざまなアニメ作品に助監督や演出として関わっていたものの、メイン監督作品を作らずにいた。
    有科はそんな王子と仕事をすることを夢みて、ひたすら仕事をしてきた。

    そして「光のヨスガ」から9年…
    有科はついに、王子監督のアニメ作品のプロデューサーを務めることになる。
    しかしその制作中、大問題が持ち上がり…

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    第2章の主人公はアニメ監督の斎藤瞳。
    親の借金問題であまり裕福でない家庭で育った瞳は、お金の稼げる仕事につこうと、大学も法学部を選んだ。
    しかし大学2年のとき、友だちが貸してくれた1本のアニメが、瞳の人生を変えた。

    このアニメを作った監督と、仕事がしたい。
    アニメ制作の現場で働きたい。

    そんなおもいに突き動かされた瞳は、業界大手であるトウケイ動画へ入職。仕事に邁進し、ついにアニメ監督となった。

    王道ともいえる夕方枠のアニメ作品監督となった瞳だったが、プロデューサーの行城の方針と噛み合わないことが出てきた。
    さらには出演声優陣とも、ある出来事から溝を抱えてしまい…

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    第3章の主人公はアニメーターの並澤和奈。
    新潟で起業されたアニメ原画を受託する「ファインガーデン」の所属である。
    原画で関わった斎藤瞳監督アニメ作品の舞台モデルが和奈の住む地方だったことから、聖地巡礼で地元に賑わいを作り出そうと観光課が乗り出してきた。
    和奈は観光課の宗森周平から、聖地巡礼の準備への協力を依頼されるのだが…

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    辻村深月さんのお話はどちらかというとダークな色合いが濃いめの作品が多いのですが、この「ハケンアニメ!」はエンターテイメント!という感じで、お仕事小説でありながらそれぞれの人間ドラマでもせつなくなったりキュンとしちゃうのです。
    またいけ好かないヤツだった人が、主人公が変わることで見方が変わり、そんな悪いやつじゃないんじゃん、ちゃんと考えあってやってるんじゃん…とわかるところも、人間くさくて憎めないなあ〜とおもいました。
    連作短編なのですが、章を重ねるごとに人間関係が深く重なり合い、話の厚み・盛り上がりが増し増しに!
    第3章はもう、いままでの人間関係性をあますところなく絡めまくって、ぐわっと最高潮!でした!(←言葉のチョイスおかしい)

    辻村深月さんの他の作品で出てきたキャラも脇役として出てきて、「ウホッ!」となりました。
    「ウホッ!」となりたい方はぜひ、「スロウハイツの神様」(←結構長い小説で、人間関係がつかめるまではちょっと大変ですが、つかんでしまえば夜通し読めます)と「V.T.R.」(←こちらは中身まで読まなくても、存在さえ知ってればOK)を手に取ってから「ハケンアニメ!」を読んでみてください。

    更に挿絵がCLAMP先生なところも「ウホッ!」ポイントに!
    小中学生の頃、CLAMP先生にドハマリしたことのあるわたしにとっては、もう心躍る挿絵でした。
    登場人物がわかってきてからは、表紙・裏表紙の人物が誰かわかるようになったので、脳内ではそのビジュアルで場面が再生されまくってました。

    あとは、登場人物メモがいるかも!?しれません。
    数年前に読んだときはメモも取らずに読み切れたのですが、今回はムリでした(脳の老化…(汗))
    名字だけ登場の人もあわせると、かなりの人数が出てきます。
    また登場人物が名前の読みはよくある人でも、漢字がキラキラしてる人も何人かいて覚えきれず、メモを取って読みました。

    フィクションとはいえアニメ制作の大変さもつまりまくっているこのお話ですが、制作現場の知識がほぼないところから取材して、この小説を書かれた辻村深月さんの並々ならぬ熱意を感じました。
    スピンオフ続編「レジェンドアニメ!」はどんなお話になっているのか?!とてもたのしみです。

  • 冒頭───

     どうしてアニメ業界に入ったんですか。
     という質問をされる時がある。
     さあ、どうしてでしょうね、と首を傾げる。アニメが好きだからですよ、と答えることもある。
     もう少し熱く、答える時もある。
     大好きだったからです。昔から。アニメが、キャラが、あの声優が、あの作画が、設定が、監督が、音楽が、主題歌が、世界観の、それこそ、すべてが。

    この作品にはいろいろな愛があふれている。
    アニメそのものに対する愛。
    アニメ作画家に対する愛。
    アニメ監督に対する愛。
    アニメ声優に対する愛。
    アニメのキャラクタに対する愛。
    そして、アニメを愛する人間すべてに対する愛。

    アニメ業界の中では、『覇権』と称するそのクールのアニメでトップを取るために業界内での争いが繰り広げられる。
    そこでは、アニメに対する愛と情熱が試される。
    オタクと呼ばれ、リア充でなくとも、彼、彼女らの情熱が冷めることはない。
    そのなかでの人間模様。
    アニメへの愛を媒介にして、人間同士の愛も生まれる。

    前半は、アニメ制作の構造や、業界の内幕の説明など、初めて知る世界が多すぎて、物語に入りにくくやや読みづらい。
    “スロウハイツの神様”のような展開------。
    だが第三章『軍隊アリと公務員』から一気に人間くさくなる。
    そして、ところどころの著者独特の仕掛けで、ほろりとする場面が。
    “白辻村”の本領発揮だ。
    最後、作中で話題になる『ハッピーエンドで終わるべきか、否か』の論争と異なり、この作品自体は、ハッピーエンドで終わったと言っても問題ないだろう。

    この『ハッピーエンド論争』は、辻村氏自身の“白辻村“と黒辻村””という二面性の自らへの問いかけではないのか?
    私個人の見解で言えば、「ベタでもハッピーエンドで終わらせたい」と数年前に言った彼女の言葉を支持する。
    たとえそれによって、文学的な作品の完成度が劣るとしてもだ。
    彼女の爽快な終わり方は、本当に心が温まり、胸を打つ。
    大の男が、憚ることなく涙を流すような終わり方だ。
    そんな作品を書ける作家は数少ない。

    ブクログのレビューを見ても、“黒”の直木賞受賞作「鍵のない夢を見る」と“白”の「スロウハイツの神様」や「名前探しの放課後」では、1点近い評価の差がある。
    それだけ、“白辻村作品”が読者に評価されているということなのだから。
    そんな彼女の最大限の長所を活かした作品を、これからもより多く発表してほしいと願うのみだ。

  • 「ここで働けて幸せだ、と心の底から思う。」

    愛がぎゅーーーーーーーーーーーーーーーっと詰まったお仕事小説。
    もうめっっっっっっさカッコイイ。
    アニメへの愛。
    仕事に対する誇り。
    仲間への信頼。
    これでもか!という格好よさ。
    くらくらしました。

    「覇権アニメ」という言葉を初めて知った。
    深夜に放送されるアニメが多いというのにも驚いた。最近アニメが減ったと思っていたら…。
    そして、視聴率よりもDVDなどの売り上げが勝負ということにも。
    最近のアニメ事情にただただ驚く。私が知らなかっただけで昔からそうだったのかもしれないけど。
    プロデューサーと監督の関係性とか本当にすごい。
    ここまで近いと合わなかった時最悪だよなぁ…とか考えてしまうのは、職場の人間関係にネガティブになり過ぎている証拠かもしれない。
    危ない危ない。

    アニメ制作の現場だけに限定せずにアニメ周りのこと全部(じゃないかもしれないけど)が登場している。
    フィギュアとか、聖地巡礼とか。
    この物語で描かれる大人達のほとんど(一部例外あり)は、ありとあらゆる困難を体当たりで蹴散らしている。
    その力の源は「愛」だと描かれている。
    それがもうカッコイイのだ。

    こんな世界があると信じることは心の救いです。

  • 面白かったこの!
    途中うーんと思うところもあったけど終盤の疾走感や小気味いい裏切りの連続、こうなるといいなをどんどん実現してくれるのはなんだか嬉しくなる
    大団円のハッピーエンドは大好きだ

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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