ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート (MF文庫 J も 2-1)
- KADOKAWA(メディアファクトリー) (2008年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
- / ISBN・EAN: 9784840124225
作品紹介・あらすじ
「僕、女の子を殺したんだ」-始まりは、思いがけない人物からのそんな電話。どこか満たされない日々を送る高校生の明海は、孤高の歌姫に魅せられた同級生の少年・神野の信じがたいような昔話をいともあっさりと受け入れてしまう。なぜなら明海も小学生の頃、神野と同じく一人の少女を殺めたことがあるからだった-。よみがえるひと夏の記憶、殺されるためだけに存在する「イケニエビト」の少女、人の記憶を食らう「タマシイビト」からの逃避行。第4回MF文庫Jライトノベル新人賞「優秀賞」受賞作。三人の少年少女によるビター・スウィート・ストーリー。
感想・レビュー・書評
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都市伝説怪談ベースのほんのり青春小説。ライトノベルにしては硬派な印象。中心登場人物が落ち着いてるタイプが多いからか。
「ベネズエラビター」なるバンドが物語の重要なものであるのは間違いないんだけど、タイトルとしての必然性はあったかい?と思う。主人公がギターを握ることもないし、つまりは表紙詐欺感がちょっとある。
読みやすいし話の構成はうまいと思う。ホラーで想い人が死んでるのにちょっと希望が持てる感じで終わるのはこの作品ならでは。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
森田さんは良いですね。読み終わってからすべてが繋がっていくような不思議な感覚になりました。恋愛はわかりやすい甘さではなく、さわやかなものになっていたかな。続きにも期待。
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ギターを抱えた少女の表紙とスタイリッシュなタイトルに惹かれて購入したんですが、面白かったです。
基本女子高生の一人称で話が進むんですが、これが凄くリアル。
外面はいいけどその実世間を斜に見る冷めた女の子の心情が「あるある!」「いるいる!」「むしろこれ私!」という絶妙な比喩で表現され小気味よい。
男子をじゃがいもにたとえ「せいぜい男爵芋とメークインの違いしかない」と辛辣に批評したかと思えば、ぜんぜんタイプの違う男子三人が親友である現実に「それだけの違いを許せるすきまがどこにあるのだろうか」と思索を巡らしたり……とにかく心情描写がリアルですいすい読ませる。
タマシイビトに食われるためだけに生かされるイケニエビト。
殺した人だけ存在を覚えているというイケニエビトの少女と関係を持ったことで、明海と神野は人殺しの罪の記憶を共有する。
タマシイビトに食われた瞬間イケニエビトは記憶を失い、世界から痕跡が消える。
中学時代、洋楽好きな少女・烏子とベネズエラビターなるバンドを結成した神野。
全方位いい人だった小学生時代、ひとりクラスに馴染まない少女・実折を振り向かせようとしつこくちょっかいをかけた明海。
特に明海の回想が読ませます。
「自分で言うのもなんだけど私は結構要領がいい。どんなジャンルの子とも仲良くなれる自信があるし、今までだってそうやってきた。うるさいのにはうるさいのに、静かなのには静かなのに、真面目なのには真面目なのに対応して話をすればいい」
誰とでも仲良くなる自信があると豪語する小四の明海は、その前提にそぐわない実折に反発し、いつもつまらなそうな顔をした彼女の感情を引き出そうと試行錯誤する。
しかし実折は相変わらずで、やがてそれはクラス全体を巻き込む陰湿ないじめへと変わっていく……。
この描写が凄いです。
いじめの内容も陰惨なんですが、それ以上に、自分が発端となったいじめから抜け出せず悪循環に嵌まっていく胸苦しさがじわじわ表現される。
仲良くなりたいからちょっかいを出してたのに、クラスで除け者にされるのがいやでいじめグループに加わらざる得なかった明海の葛藤や罪悪感がひしひし伝わる。
とまあ陰湿な展開もあるんですが、実折の天然ボケな言動が息抜きになってます。
何度も明海の名前を間違え脱力させ、スクール水着のまま椅子に座り……シリアス一辺倒だとさすがに疲れるんですが、こういうちょっとした描写が、作中の表現を借りればコーヒーに添えたシナモンのように味を引き立てる。
三人の距離が次第に近付いていくところも微笑ましい。
ぼんやりした神野ですが、誰とでも繋がれると自慢する明海に
「だれともつながってるってことは、だれともつながってないってことじゃないかな」
などと鋭い言葉を吐き、しばしばはっとさせる。
キャラ立ち重視のラノベというより雰囲気重視のヤングアダルト向けな作品。
桜庭一樹の少女物が好きな人ははまるんじゃないでしょうか。
ひそかにカナとリアの二人組が大好きです(笑) -
だいぶ以前に読了。とりあえず「子どもの本」枠に入れたけど、ライトノベルは迷うなぁ。
読後、でもそれじゃあタマシイビトはどうなるの…?と思ってしまった。無粋だけど。イケニエビト寄りの展開だから、何となく落ちた感じがするけど、これってタマシイビトにとっては苦行の始まりなのじゃないかしら。
ベネズエラ・ビターの演奏をきいてみたいな。 -
学校の怪談と都市伝説と世にも不思議な物語と初恋と生け贄と、どうにも一言で言い表しにくい不思議な物語。キーワードはイケニエビト。踏まれても喰われても何度でも生き返り強かに生きていこうとする者の物語。表紙イラストがギターを持った女の子なので、軽音部の青春的な話かと思ったら全然違かった。ひどく辛く悲しい生であるのだが、泣かされる感じじゃなくて涙も枯れ果てるというか涙を流すことを忘れ去るような。兎が狼に食べられるのは当たり前のことであるように、イケニエビトの生も当たり前ででも人間だから仕方がないねでは済ませられない。なんとも言い表しにくい。この物語と絵師と合ってないことは言える。
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デビュー作だけど、なんか、全てがあるというか。まあ、おちゃらけていないか。でも、おちゃらけは未だにぎこちない感じがあるので、やっぱり苦手なんだろう。といういみで、それは除外する。故に、全てがここにある。
ライトな伝奇感。弁の立つ女の子。ちょっと百合っぽい雰囲気。そうしたフレーバーを纏いつつ、京都という具体的な舞台をつかって、関係性を希求するドラマを展開する。
とまあ、偉そうに言いましたが、未だに京都の地理って判らなくって、恐らくは彼が書いている世界の1/3くらいは受容できていない、そこは残念だなと思う。京都なんて、高校生の頃に修学旅行で出かけたっきり……と、言いたかったけど、ああ、院生の時に一度京大に出かけたか。うちの師匠の師匠の講座があったからなぁ。でも、街の様子が全然記憶にないので意味はないのでした。 -
某やる夫スレで紹介されててずっと読みたかった本。長い間放置してたがようやく読んだ。前半がゾクリとして素晴らしかった。かなり強引な話で、ラストもあっけないが読ませる本だった。電車の中でJ・A・シーザーを聞きながら読み始めたら止まらなくなった。最寄駅についても終わらなかったが、本を閉じるのが惜しくて、駅前の薄暗がりの中で最後まで読み切った。
●面白かった点
・雰囲気。
●気になった点
・ラストがあっけない -
-何度でも殺したらいい、何度でも蘇るから-
「タマシイビト」に周囲の記憶毎その存在を喰われ、別人として生まれ変わる「イケニエビト」実祈。
彼女を覚えているためには、彼女を自ら殺さなければならない。
彼女との思い出を守ろうとする少年少女を描いた切なくほろ苦くてでもどこか少し甘いラブストーリー。
第4回MF文庫J 優秀賞受賞作品。
ラノベでは珍しくキャラではなくて設定をベースにしてストーリーが展開していくタイプで、
読んでいる間は続きが気になって引き込まれました。
文体は殺伐とした世界観と若者特有の世界に対する諦念があらわれているように、
一人称文体にも関わらずどこか客観的で淡々としていて、
どこかもの侘しさを感じさせてくれます。
読み終わりは完全なハッピーエンドではないですが、
それ故にむしろ希望のあふれた清々しいものになっています。
全体的に少し青臭く淡々としているけど、
とても心に染みいり記憶に残るタイプの作品だと思いました。
このごろ漠然とした無感動な日々に一種の諦念を抱いている人に読んでほしい一冊 -
※主人公はギターを弾きません。
イケニエビトの条件が上手で良かった。