文学効能事典 あなたの悩みに効く小説

  • フィルムアート社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784845916207

作品紹介・あらすじ

読むクスリ、処方します。小説で愉しむ「病」と「悩み」の処方箋。

感想・レビュー・書評

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  • ひとの抱える大小の悩み190に効く文学作品を処方してくれるという、読書療法の本。
    と簡単に言ってしまうのはあまりに惜しい。
    この本そのものがものすごく面白いのだ。
    処方された本を読むよりも、まずこちらをじっくり読んでいたい。
    悩みというのは、こういったものだ。
    「悪魔に魂を売り渡したくなったとき」
    「悪夢を見るとき」
    「頭が良すぎるとき」
    「恨めしいとき」」
    「もうろくしてきたとき」

    もっとくだらないので、こういうのがある。
    「堅物すぎるとき」
    「着ていく服がないとき」
    「100歳になったとき」
    「秘密をもらしたくなったとき」
    「容姿に自信がありすぎるとき」

    とまぁこの調子で190もある。
    それぞれの悩みに対して一冊から数冊の本を処方し、その本のあらすじ(ほぼネタバレ)効能について解説されている。
    世界の名作のブックガイドとして読めるのだが、初めて出会う試みだ。
    そして効果のほどはかなり怪しい。
    おかしさに笑うしかないもの、ふむふむと感心するほど哲学的なもの、的を射ているもの、まるで的外れなものと、ツッコミどころ満載の本。
    「読書の悩み解決!」という27編のコラムもある。
    「家にあるはずの本が見つからない」「文学通に見られたい」「読書健忘症」「読み終わるのが怖い」等々。
    真面目に語っているかと思うとはぐらかされ、それでも案外そうかもと思わせる。
    どこまで本気なのかふざけているのか、全くもう笑い死にしそうだ。

    「罪悪感にさいなまれたとき」に読むのはドストエフスキーの「罪と罰」。
    文学史上もっとも深く罪悪感について探求した作品だからだそうだ。
    しかし自分には「ソーニャ」がいないという場合はラスコリー二コフから「ソーニャ」を借りよう。告白し、罪を贖い、罪悪感を消し去ろう。・・だそうです。

    「鍵がなくて家に入れないとき」は、時間つぶしに探偵小説・犯罪小説、スパイ小説などの傑作を読むのが良いそうだ。
    あらかじめ家の外の物置に何冊か用意しておくといいのだとか。
    そしてディック・フランシスの「侵入」を処方してくれている。
    鍵がなくても家の中に入れる本を処方してくれるわけじゃない。
    「飛行機がこわいとき」に読むのは、サン・テグジュペリの「夜間飛行」。もっと怖いやん!

    巻末の索引は4種類。「処方箋索引」「読書の悩み索引」「おすすめ小説リスト索引」「作家名・作品名索引」。お好きな箇所から入って読める。
    該当する悩みがもしあったら、処方された本を一定期間内に最後まで読み切るのがいい結果につながるのだそうのだ。読んでいる間は、症状は確かに緩和されるだろう。
    少なくとも私は、たっぷり笑い続けた
    知性とユーモアにあふれた、ビブリオセラピーの一冊をどうぞ。

  • 様々な悩みや症状に効く古今東西の名作を勧める、一風変わった読書ガイド。
    面白かったー!
    飛行機に乗るのが怖い時に「夜間飛行」なんて絶対だめなやつ!(笑)
    文章も軽妙で、この本自体の読書をまず楽しめる。
    読みたい本リストがどこまでも伸びていくことだけが欠点か…。
    既読の本が大してないのは覚悟していたが、まずタイトルすら知らない本の多いこと!
    読書の森はどこまでも深い…。

  • ずいぶん前に購入し、ちびちび読んでいたのを、2年くらいかかってだいたい読み終えた(と思う)ので、遅まきながら感想を書きとめておく。

    原題は”THE NOVEL CURE: An A to Z of Literary Remedies”なので、邦題のほうが硬軟のコントロールが効いていると思うが、おおむね同じと考えてよい。ある一定のシチュエーションにちなんだ小説を、これでもかと山のように紹介していく趣向。挙げられる症状が面白い。「悪魔に魂を売り渡したくなったとき」「ネクタイに卵がついたとき」といったユーモアをたたえたものから、「職を失ったとき」「変化に抵抗があるとき」という自己啓発的なものまで、幅は広い。ただし、後者の処方箋がお金やライフスタイルの打開策を提示しているかというと、まあ、どうかな…こういった場合に落ち込みがちな気分を紛らわしてくれる作品には出会えるかな?とは思う。私は「〇〇のときに読む」などのちなみ読みにほとんど興味がないので、本書にリストアップされた症状を呈したからといって、紹介された本を読むことはないと思うけれど、一定のシチュエーションを扱ったり、そうした雰囲気をたたえた小説を探すレファレンスとして重宝するのではないか、という感じで読んでいた。

    意外に実用的なのがところどころに配されたコラムで、「忙しすぎて本が読めない」なら「オーディオブックを聴こう」、「パートナーが読書好きでない」なら「パートナーを読書好きにするか、別れる」などというソリューションを提供しており、ライフハックを求めるなら本編よりむしろこっち、という感じの面白さもあった。

    もともとはイギリスの高級紙・ガーディアンの連載だったということと、お医者さん(とそれに類する職種)的な立場での情報提供の体裁を取っているからか、日本の新聞に掲載される人生相談のような記事よりはやや硬めの筆致。それがまどろっこしいというわけではないが、日本のブックガイドと同列に考えると、ちょっと読みにくいかもしれない。

    私にはもともとリストマニアの気があるので、これだけデータを並べられると嬉しくなってしまって最初から律義に読んでしまうのだが、ランダムに読んで楽しむのもいいと思う(いつ読み終わったか曖昧になるけど)。訳者あとがきによれば、邦訳は、未訳作品を扱った項目を主に除外した抄訳ということなので、海外文学ガチ勢の皆様におかれましては、原著を読むのもまた一興かと。

  • 体や心の様々な症状別に「効く」文学作品を処方し、その理由も書かれた風変りなブックリスト。

    症状は多岐に渡り、「不安なとき」「心が折れてしまったとき」といった確かに本に縋りたくなるようなものから、「お茶がほしくてたまらないとき」「鍵がなくて家に入れないとき」といった本を手に取る前に他の解決法が即座に頭に浮かびそうなものもあれば、「悪魔に魂を売り渡したくなったとき」「結婚相手をまちがえたとき」といった割とショッキングな症状まで網羅されています。冒頭から読み進めていくというより、目次から気になる症状の頁を眺めていき、目に留まった文学作品はひと先ず片っ端にチェックしていく、という使い方が正しいように思います。

    海外の著者ということもあり、扱われているのは主に海外作品が中心で知らなかった作品も多く掲載されていました。あまり症状に捕らわれることなく、気になる作品に手を伸ばしてみようと思います。

  • 人が本当に何かを学んだときって、誰かから正しいことを教えてもらったからって場合もあるけれど、どちらかというと、反面教師的に正しくないものを見たり聞いたりしたことによって、逆に自分にとっての、正しい方向を学ぶことのほうが多いと思う。僕が単にひねくれものなのかもしれないけれど、正直なところ、教師よりも反面教師に助けてもらったことのほうが僕は多い。

     例えば、僕は以前かなりまずいくらのレベルでギャンブルにはまっていたことがある。その結果散々な目にあったわけだが、そこから抜け出る事が出来たのは「カイジ」というマンガの中のある一場面が、妙に頭に焼き付いて離れなかったからだ。そこで描かれていたギャンブルの闇に取り込まれている人たちの、姿と言葉はとても怖かった。そうはなりたくないと思った。それで僕はギャンブル依存症から抜け出たわけだ。つまりマンガが僕のギャンブル依存症という病気を直す薬となったということになる。

     つまりマンガでも小説でも映画でもだが、物語というものは人の病気やケガを治す力をもつ場合がある。それはおそらく教科書のように、正しい事だけを書かなくてなならない、という縛りがないからだ。物語は自由だ。ストレートに正しいことも描かれるが、全く正しくない残酷で身の毛もよだつものも描かれる。そこから教訓を得る、または自分自身の傷を癒すための薬とするのかは、物語を体験するものの側にまかされている。物語をどう書くかも、どう読むかも、これもまた自由なのだ。

     今回ご紹介する本は、人の心の病気やケガを治療する効果のある文学作品を、著者の治癒効果の解説(つまり薬効だ)とともに読める一冊である。中には劇薬と思われているものもある。しかしその劇薬にもある種の治療効果があることを教えてくれる本でもある。

     そしてこの本の特筆すべき点としては、著者があげている心の病気やケガのバリエーションが豊かなことである。その項目が目次でずらりと並んでいるのだが、それを見ているだけで面白い。そしてその中でドキッとする項目だけを開いて読むというのも楽しいかと思う。

     紹介されている薬効のある本には、聞いた事もない本もあれば、超有名な古典もある。日本人作家としては安部公房と村上春樹が1作ずつ選ばれている。ふたりがどんな症状に効くのか、気になる方は本書をご覧になってみて下さい。

    以下に私が気になった症状と薬効のある本のリストをまとめます。
    ☆買物依存症
    【夜はやさし F・スコット・フィッツジェラルド】
    www.amazon.co.jp/dp/486182480X
    当時最も美しいと言われていたニコルという女性でさえ、自分の価値を容姿やファッション以外に見いだせなかった、という姿を読んだ後どう感じるか?
    【アメリカン・サイコ ブレット・イーストン・エリス】
    www.amazon.co.jp/dp/4047912107
    ここに登場するサイコパスにとっての人生の価値は、いかにより良いレストランで食事が出来るか?にかかっている。

    ☆希望を失ったとき
    【ハツカネズミと人間 ジョン スタインベック】
    www.amazon.co.jp/dp/410210108X
    ジョージは、力はあるけれど頭は鈍いレニーに、二人が将来住む事を夢見る居心地の良い家の話を、時折しなければならない。誰の心にもレニーは住んでいる。だから我々は時に自分にも他人に対してもジョージになって希望を語らなければならない。

    ☆窮地に陥ったとき
    【パイの物語 ヤン マーテル】
    www.amazon.co.jp/dp/4812415330
    ピンチだと思った時は、大海原に浮かんだ船の中で虎と航海した少年の機転や勇気を思い出そう。

    ☆罪悪感に陥ったとき
    【罪と罰フョードル・ミハイロヴィチ ドストエフスキー 】
    www.amazon.co.jp/dp/4334751687
    罪悪感と羞恥心は社会をまとめるための社会的道徳として不可欠なものだ。しかし行き過ぎた罪悪感はよくない。ラスコーリコフから少しだけソーニャをお借りして、罪を告白し、罪をあがない、罪悪感を許そう。

    ☆自己中心的なとき
    【カッコーの巣の上で ケン キージー (著),】
    www.amazon.co.jp/dp/4572008531
    「笑いを失うってことは自分の足場を失うってことだ」自分がどういう人間として記憶に残りたいのかを考えよう。まわりの人たちの人生に喜びと笑いをもたらした人か、それとも自分の人生だけがうまくいくことばかり考えていた人間としてか?

    ☆周囲にとけこめないとき
    【かもめのジョナサン リチャードバック】
    www.amazon.co.jp/dp/B01916B8V8
    人と違うことをプラスと思えれるようになれば人生はずっとうまくいく。他の人がやっていないことで、自分に出来る事があればもっと取り組もう。

    ☆食欲がないとき
    【山猫 (岩波文庫) トマージ・ディ ランペドゥーサ】
    www.amazon.co.jp/dp/4003271610
    年老いた貴族による欲望への賛美にうっとりしよう。何よりも大切な命そのものへの欲望を再発見しよう。

    ☆ズボラで困る
    【星の王子さま サン=テグジュペリ】
    www.amazon.co.jp/dp/4102122044
    小さな星のたったひとつの花に水をやるように、自分のまわりの花に水をやろう。時間と手間をかければ、ただのものが大切なものになることを実感できる。もしも世話を怠ったらある朝目覚めて、まわりのものすべてが色あせて見えて大切さを感じられなくなる。自分の星をB612くらい大切にしよう。

    ☆チャンスをつかむのが下手だと思ったら。
    【窓から逃げた100歳老人 ヨナス ヨナソン】
    www.amazon.co.jp/dp/4890137068
    「これをやるべきだろうか?」という問いが生じたら、答えは必ずYES。

    ☆憎しみを感じたら
    【一九八四年[新訳版] オーウエル】
    www.amazon.co.jp/dp/4151200533
    憎悪習慣において、大衆の憎しみが、いとも簡単にユーラシアからイースタニアへ変わって行く 様子を観察しよう。そして憎しみの感情と憎しみの対象に本当に関係があるのかを考えよう。

    ☆腹が立ったとき
    【老人と海 アーネスト ヘミングウェイ】
    www.amazon.co.jp/dp/4334752993
    老人とともに船に乗り、少年や海や魚に対する老人の愛を目撃しよう。過去の自分でも、今後なりたい自分でもない、今の自分を受け入れよう。人は時にとても遠い所まで行ってしまうこともあるが、帰ってこられないわけでもない。老人が海辺のライオンを思い浮かべたように、腹が立った時は自分の好きなものを思い浮かべよう。

    ☆悲観的なとき
    【ロビンソン・クルーソー  ダニエル デフォー】
    www.amazon.co.jp/dp/4087520463
    ロビンソンクルーソーのように紙とペンを見つけて、良い点と悪い点を書いてみよう。どんな現象にも何かしら感謝すべき点はあるはずだ。楽観的な考えを掘り起こして明るい見通しを発見しよう。

    ☆無意味なことをしてしまう
    【人生 使用法 ジョルジュ ペレック】
    www.amazon.co.jp/dp/4891762535
    こんな事をして何になるのか?と心配するのをやめて、その無意味さが提供する生活や突拍子もない出来事やこじつけを楽しみさえすれば、無意味な事自体が大きな喜びとなる。人生最後のパズルのピースがうまくはまらなくとも、そこにいたるまでの旅路には魅力的なものや、楽しい事で満ちている。

    ☆先送りしてしまう。
    【日の名残り カズオ イシグロ】
    www.amazon.co.jp/dp/4151200037
    先送りと忙しいことは関係ない。原因は感情にある。その仕事を意識的にまたは無意識的に不快な感情と結びつけているからだ。それは先送りしているうちにどんどん大きくなる。その結果として悲しみがこの小説では描かれている。不快な感情に手を差し出してあいさつしよう。心の中に招き入れ、席を与え、くつろがせよう。そして仕事にとりかかろう。そうすれば不快な感情は立ち上がり出て行くだろう。そして望ましい感情がやってくるはずだ。
    2017/09/15 13:40

  • 高橋源一郎のエッセイに掲載。

    人生に悩みはつきものだ。
    あるテレビ番組を見ていたら、モデル・女優のある女性が「悩んだことない」「悩むことなんてなくないですか?」と言っていたのは衝撃的だったが、まあ、大抵の人は悩むことが何かしらあるはずだ。

    例えば、インフルエンザに罹り、辛い日々を超えてしかしなお家にいなけりゃいけないとき。
    Netflixもいいけれど、『アクロイド殺し』はいかが?
    あっという間に弱った灰色の脳細胞が奮い立つ。

    ストレスがあるときは『木を植えた男』。
    あの素晴らしい絵は、物語は、疲れて弱った心を優しく包む。
    ストレスなんてない時も、何度も読み返したい。

    読書の悩み:「読んでいる本を見られるのが恥ずかしい」(383頁)
    そんな人にもし私が処方箋を書くなら?
    こうだ。
    日本に行きましょう。日本ならブックカバーだらけです。
    100円均一の店にもあるし、書店で紙のカバーをつけてくれます。
    そして何より英語で書かれた本の表紙を見る人はいませんし、みんなスマホに夢中です。

    「本を大事にしすぎてしまう」(342頁)
    本は書き込んでいいです、だって?
    いやいや、私は書き込みや折り目なんてつけない。
    風呂に持ち込むことだってしない。
    手垢なら許せる。
    大事にしすぎて何が悪い!

    薬は人によって効果が違う。
    効く本もあれば、そうでない本もある。
    是非ともこの本を読んで人生を楽しもう。
    でも、あまりに薬が多すぎるので、メモを取るのを忘れずに。

    最後に一つ。
    実存的不安を感じるとき(165頁)で紹介されている『シッダールタ』。
    古代インドの架空の人物、とされているがゴウタマ=シッダールタは実在、ですよね?
    それともそもそもその認識が間違っている?
    いやいや、ここで書かれているシッダールタは釈迦とは別人?
    気になる点だ。

  • 自分が読んだ本が何の悩みに効くか、という逆の読み方をした。

  • 悩みに効くかどうかは別としても、読みたい本、読んでみたい本がたくさんみつかった。あ、それでもう、悩みのひとつは解消されてるのか。。

  • 2023年9-10月期展示本です。
    最新の所在はOPACを確認してください。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00535033

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/699093

    1週間の始まりは楽しみでもあるけど、少し憂鬱な気分にもなりがち…。
    そんなネガティブ要素に”効く”本をご紹介。
    日常や人生における悩みに対し、効果的な小説を紹介してくれます。
    いつもと違う視点で本を見つけられるかも。

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