- Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
- / ISBN・EAN: 9784861010422
感想・レビュー・書評
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今でこそ絵本作家さんとして有名なあべ弘士さんだが、旭山動物園の魅力を全国に知らしめたひとでもある。
飼育員として24年間勤めていた頃の、動物辞典が本書。
でもひと味もふた味も違うのは、登場する39種類の動物の、それぞれにまつわることわざ・慣用句・時に歌・経験談などが盛り込まれて、肩の凝らない辞典に仕上がっていること。
抱腹絶倒の章もあり、深い課題を投げかけられる章もあり、時には涙したり、しみじみと感慨にふけったり。
あべさんて、こんなにうまい書き手だったのね、と感嘆。
中ほどにご本人の手による動物たちの挿絵が15枚差し込まれているというプレゼントも。
どの章も面白いが、特に印象に残ったのが【赤いベレー帽】のクマゲラとの出会い。
当地ではコゲラしかみられないため、クマゲラは私にとっても憧れなのだ。
姿をひそめて胸の高鳴りを抑えながらクマゲラに見入る場面では、こちらまでドキドキしてきた。
最終章は【人間】で、ここがまたしみじみと良い。
読みながら「生き物万歳」の気分になっていたものだが、最後でひとが大好きになってしまう。
あべさん、叶わないと知りつつ言うけど、いつか一献かたむけたいものです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
旭山動物園に飼育員として二十年と、飼育員を辞めたあとの動物たちとの交流を辞典として紹介していったもの。
文章はかなりユーモラス。
中ほどに、カラーでの動物絵がありますが、どれもシンプルながら迫力があります。
私はこのブクログは「ほとんどの本は一度しか読まないので、自分のレビューを読んで、読んだ当時の感覚を思い出すため」に記載しているので、
印象的だった内容をかなり意訳して書いておきます。
「海豹」
ゴマフアザラシの赤ちゃんの飼育を任された。めんこい。
ミルクを飲めるように工夫した。飲んで体重も増えた。めんこい。
だんだん灰色っぽくなってきた。めんこい。
ある日死んでいた。餌が合っていなくて栄養が足りなくなってしまったんだ。
その後海獣用粉ミルクが開発されてそんな風に死んでしまうことはなくなった。
飼育員として過ごしていると病気や死にはどうしても直面します。
餌を与えして、餌も減っているのに餓死してしまった、餌を食べている実は外から入ったネズミが餌をかじり肝心の動物は食べていなかった…とか、
住居を工夫したのだが本当に小さな隙間にはまり込んで死んでしまった…とか、
どれも突然です。
「麒麟」
キリンといえば首が長い、しかしキリンの出産を目撃して思ったことは「赤ちゃんキリンの首って短い!」だった。
「鰐」
鰐の瞳の水晶体のマーブル模様は、宇宙に浮かぶ地球にそっくりだ。
「梟」
ワシミミズクが保護されたとき、ギョロッとした目もゴロンとして茶色い体も狸にそっくりで、狐狸舎に連れて行こうかと思ったよ。「おまえ本当に飼育員?辞めたら?」「…」
「鶴」
ツルの嘴は本当に「鶴嘴(ツルハシ)」です。
「雁」
ガンたちはかなりの上空から体を捻り沼に向って真っ逆さまに落ちてきた。「危ない!水にドボンだ」なんてのは人間の鳥越…取り越し苦労。
こうしてガンたちがみごとに足からパシャパシャ着水する様子を見て、和菓子落雁の命名由来が分かったのでした。
「象」
象はすごいぞう。たくさん食べてたくさんウンコするぞう。
一日にどのくらいのウンコをするか是非確認したい。夏休みに子供たちの飼育実習があったから、うまいこと言って子供たちにゾウのウンコを集めさせた。子供たちはノートにスケッチして、手に持て匂いを嗅いで、はかりに乗せて重さを計り、物差しで長さを計り、一日分のぜーーんぶのウンコを計ってくれました。結果と言えば約80キロありました。ゾウの体重5トン、一日に食べる餌150キロに対して、訳半分量のウンコでした。
「燕」
-燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや-
いやいや、ツバメを見てみよう、スマートな姿形、あのスピード、長距離ランナー、子育て熱心、人間にとっての害虫を食べてくれる。どれをとっても立派なヤツだ。そのへんの沼や野原でぼーーっと生きてる鴻だか鵠なんぞにまけるもんかい、おっと失礼。
動物園内でもそうなんです。大きな動物のほうが飼いやすく、日本産の野鳥などは相当難しいんですよ。
「鳥」
●渡り鳥たちの空中飛行は実に見事だ。
アクロバチックで、優雅で、大袈裟で、清々しく、明るく、なんと私たちを感動させてくれるのだろう。北国の春は渡り鳥の歌で始まりはじまり。
●カワセミはツィーっと水面を翔ぶ。カワガラスはヒョイーン ヒョン ヒョン、アオサギならバファランだし、コチドリならチョィンツ チョィンツ、カルガモならパタパタパタパタ、子連れならパタトトパタパトトトトアトトト。
そんなわけでツィーっという翔びかたはカワセミにしか似合わない。
その翡翠色のカワセミ(翡翠)がだんだん消えている、とっても寂しい。
「蜻蛉」
新しいペンギン館が完成したのでペンギンたちは約1キロのお引越しです。
キングペンギンは堂々整然型、ジェンツーペンギンはてんでんばらばらあっちこっちに興味を示して寄り道道草型、フンボルトペンギンは身体を寄せ合い肩を落として俯き加減で歩く根暗型。
途中で会ったトンボの群れに興味を示したのはジェンツーペンギン。「なんじゃありゃ」なんて全員が追いかけぴょんぴょん飛び跳ねパクッと食べちゃった。
キングは淡々、フンボルトは黙々と歩く中、ジェンツーはトンボしか目につかなくなっていたのでありました。
「鮒」
鮒寿司は臭いがうまい。
くさやの干物も臭いがうまい。園内の調理棟でくさやの干物を焼いていたら、匂いが園内に流れて動物たちが騒ぎ始めてしまった。嗅覚の鋭い動物にとっては、鼻が曲がる思いだったに違いない。
「鼠」
アフリカタテガミヤマアラシの針は鋭い。長さ20センチくらいで大きさは鉛筆くらい。その針の威力を実験したことがある。
果物、豆腐、…簡単簡単。紙、帽子、ちょっと硬い果物、浮き輪、プスップスッ。テニスボール、貫通はしないがザックリ。三輪車タイヤ、ジュースのアルミ缶、刺さった。スチール缶…さすがにダメだった。でも人の手には突き刺さるよ、身をもって体験したから。
「狼」
動物園では死んだ動物の供養をする。神主が「獣魂碑」で祝詞をあげる。笏を構えて「オ~~ ~ ~ 」と発生すると、園内のオオカミが「オオ~~~ ウオオ~~ン」と返礼の吠え声を挙げた。集団生活をするオオカミにとって声のコミュニケーションは欠かせない。
「馬」
病気の動物に麻酔をかけて獣医が手術をしていた。
視線が気になって窓を見たら、シマウマとロバがじーーーーっとこっちを見ている。これは病気の治療だって説得して解散させた。彼らの野次馬根性は治りそうにない。
「猿」
サルとは目を合わせない、サルの前で転んではいけないのだそうです。
飼育員になって、両方やってしまったので、サルに格下扱いされてしまいました。
「人」
生まれたばかりの頃は「ヒト」だが、親に育てられ友達を遊ぶうちに「ひと」になる。そして善や悪や人間社会で生きてゆくのに必要なものを知り経験して「人」になってゆく。
かつてそうであった「ヒト」も「ひと」も好きだが、いまの私の「人」のほうが好きだ。大人になって、子供時代とは比べ物にならないほど楽しい。 -
「どうぶつえんガイド」から大ファンのあべさん、最近講演会に行ったので、思い出してこれを読みました。
動物のテーマでエッセイ、というだけでなく、さらに動物のことわざをテーマにして書くという凝った方法。狐の項には「きつねうどん」なんてのもあったけど。
動物園の飼育員って、動物が逃げちゃったり、噛まれたり、突然死んじゃったり、もう大変。でもこれを読むと楽しそうに見えちゃいます。 -
旭山動物園に飼育員として勤務していた著書。動物にまつわる話、その他諸々が著者ならではの温かい眼差し、飼育員としての体験、どうでも良い話(笑)などが綴られている。
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あべさんの温かい文章に癒されます。新しい発見の数々・・・
娘に“がんもどき”の話をしたら「そんなことも知らなかったの」と笑われました(^^ゞ -
いやー、おもしろかったー。
ジャンル分けすると、なんになるのだろ。
動物エッセイ、かな。
「辞典」というタイトルのとおり、獅子、豹、虎、梟(この動物名がすべて漢字表記なのも、読むと納得なのです。)などなどの項目に分かれ、それぞれの動物の「諺」や「慣用句」「伝説」を、あべ弘士さんが物語ってる。
動物と長く、密接にかかわったひとだからこそなエピソードは、ときに涙がにじみ、ときに「くすり。」と笑え、ときに「ほぉ〜。」と思えます。
どれもいいのだけど、特に…
35pの「象印」
143pの「蛇腹模様」
188pの「獺祭」
243pの「満月とオオカミ」
299pの「猿まね」
あべ弘士さんの文章は、肩の力をぬいて読める気軽さと、あったかさがある気がします。
本のまんなかあたりには、カラーの絵が数ページ。
シベリアオオカミの絵が、たまんなくイイです。
高学年のみんな〜、読んでね〜。ぜひぜひ。 -
動物との関わり方、愛情があり、ギャグ、皮肉が超面白く楽しい、読みながら何度笑ったことか‼️
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動物園で関わった動物のエピソード
うんちく
ことわざ
だじゃれ
なんでもありの読み物。
装丁は辞典ぽく作ってあってたいそうに見えますが、
なかみはふわふわ。
でも、動物への愛情にあふれていて、
骨格はしっかりとした、読み物です。
あべさんの絵本(たくさんある)と併せて
楽しく読みたい。 -
子どもの頃から自然や動物たちと深くかかわってきた人ならではのエッセイ。引き取った動物が本当に噂通り狩りをするかヒヨコなどを与えて「実験」した所が、単に動物可愛い~と言ってばかりでない著者の本質が垣間見えていて、私は逆に好感がもてた。
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動物への愛情がたっぷりの、ユーモアあるお話。
園内のエピソードを絡めながら、身近に動物と接してきた著者ならではの視点で描かれる“辞典”