前作『春恋』から5年後。アキは人気イラストレーターのかたわら子供向けの絵画教室を開いている。美里も在学中に小説で賞を取り、卒業した今は本屋のバイトで食いつなぎながら新人作家として創作活動に打ちこんでいる。ふたりの隣にはそれぞれ恋人がいる。
アキの教室の展示会に訪れて、5年振りの再会。自分の気持ちは1ミリもどこにも動いてないのだと再確認する美里。それでも一緒にはなれない。『お前が女ならよかったのに』と5年前別れ際にアキが告げた言葉を美里は一生忘れないだろう。真実で、でも残酷な言葉。
再会してから、人目もはばからずお互いへの愛情を隠さないふたり。それを何だか生暖かく見守る周囲の眼差しにも、それでも結ばれることはないのだと、頑なに不器用に美里と距離を取ろうとするアキにも、アキに心を捧げているのに、今の恋人シーナをまだ隣に置こうとする美里の無神経さと傲慢さにも、どこか釈然としなかった。
シーナの未熟さにも狭量さにも辟易したけれど、そうさせているのは美里。
周りを巻き込みながらも、結局はなるべくして元サヤにおさまったふたり。
5年の歳月を経て、何が変わったんだろうか。5年前はダメで、今はOKだった理由は何…? とひとしきり考えた。経済的に自立してそれなりに夢を実現して、もう何も持たない子供ではなくなったから? 5年経っても少しも色褪せなかった気持ちが興味本位や気まぐれじゃないと周りに証明できたから? 正直よくわからなかった。
それでも『春恋』のあのエンドのままではつらすぎるし、満を持して愛し合えるふたりを見れて心底ホッとして嬉しかった。
『同性愛はなだらかな自殺』という作中のアキの言葉。
世間の常識からはずれ、種を残さず、ふたりだけで育む孤独な愛情。
前作でBLというファンタジー枠を飛び越えて、同性愛という現実を突きつけられた読者が与えられた答えは、それでも寄り添うことを選んだふたりを見守ること。
その後の甘い甘いふたりの新生活を目の当たりにして、とてつもない安堵の気持ちと、一方あの悲壮感の正体はなんだったのかとどこか判然としない気持ちで本を閉じました。