船に乗れ!〈1〉合奏と協奏

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著者 : 藤谷治
  • ジャイブ (2008年10月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861765797

船に乗れ!〈1〉合奏と協奏の感想・レビュー・書評

  •  最後に先生は「オーケストラはきついんだ」といった。
    「ソロの演奏とは、まったく違う。みんなと合わさなきゃいけない。私が私がっていって、一人で前に出てきてもいけない。弾けないからってみんなの陰に隠れることもできない。全員がひとつの音楽をいっせいに鳴らさなきゃいけない。だから練習をしっかりしなきゃいけないし、どんなときでも気を抜けない。失敗すれば連帯責任だ。きつい。だけど、ただきついだけだったら、こんなことやる奴はいないわけだ。やっぱりそうやって練習して、みんなの音がピタッと合うと、オーケストラっていうのは本当に美しい音を出すもんなんだよ。どんなソロの楽器よりもダイナミックで繊細で、多彩な音を出すことができる。それがみんなで力を合わせてできたときの喜び、それが僕は音楽の本当の喜びだと思う。
     それをね、君たちにも早く味わってほしい。僕も先生方も、君たちには相当ひどいことを言っている。僕たちも自分の師匠にさんざんなことをいわれてきたわけだ。それはなぜかっていうと、君たちの演奏を僕が代わってやることができないからだ。僕たちは音楽の先輩で、苦労して練習した果てにどんなに大きな喜びがあるかを知っている。君たちはまだ知らない。
     十一月に、その喜びがみんなで味わえるようにしましょう。僕はそれを願っています。

     恋の苦しみ、愛の嘆き。そんな言葉は小説でも映画でも、そこらに転がっている。テレビのメロドラマでも見たことがあった。それらの中で、愛する人に振り向いてもらえない男たちは、泣いたりため息をついたり日記を書いたり、壁を叩いたり、雨の中で絶叫したりしていた。小説はそんな男たちを美しくうたい、映画は切ない音楽で彼らを飾る。だけど実際自分がそうなってみると、どんなにひいき目の甘い点数を付けようとしても、そこにうるわしいものを見つけることはできなかった。恋というのはうじうじして神経質で無意味で、馬鹿げた妄想に満ちており、食事もチェロの練習も睡眠さえも、どうやってするのか忘れたかのようにぎこちなくなって、誰もなんにも言われてないのに恥ずかしくなったり腹立たしくなったりする、そんな陰湿な感情の総体だ。その陰湿さの理由も僕には判っていた。世界中の何十億人もいる女性の中からたった一人をこちらの勝手に選び出し、この人でなければ駄目だと取り替えのきかない存在にしてしまうこと。その容赦ないエゴイズムは、当然のことながら相手の身になって考えてもいないし、どんな理屈も受け付けず、いかなる賢人の言葉にも耳を貸さない。それは最初から反社会的な、非民主的な、レヴェルの低い身勝手な感情であって、だから現実の世界からは拒否されることは、あらかじめきまっているものなのだ。ーー当の相手が、その感情を受け入れてくれない限りは。
     高一坊主が隣のクラスの女の子に声ひとつかけるために、ずいぶんと大げさなことを考えるじゃないかと、笑う人もいるかもしれない。だけどあの頃の僕は真剣そのものだったからこそ、声をかけるのは恐ろしかった。自分の気持ちを南が受け入れてくれるかどうかは、僕という人間がこの世界にちゃんとした居場所を持っている存在なのか、それともただの身勝手な空想をするだけの薄ら馬鹿なのかを審判されるのに等しい重要性を持っていたからだ。

     アンサンブルは二種類ある。「合奏」と「協奏」だ。全員がひとつの音楽を奏でるために、気持ちをひとつにして大きなハーモニーを作り上げていくのが、合奏。自分が全体の部分であることをわきまえて、一人ではできない音楽を全員でめざす。このあいだまで苦労していたオーケストラはそういう音楽だった。
     反対に、一人ひとりがせり合って、隙あらば自分が前に出ようとする、ときにはそのために共演者音を食っていこうとさえする、それが僕のいう「協奏」だ。そこでは人を引き立て... 続きを読む

  • 卑下するように振り返ってるけど1度もそんな風に読めていない。むしろ気持ちが彼の語りに持ってかれている。なかなかオモロイ。

  • 音楽が好きな人も、そうでない人も楽しめる!!
    話口調の所もあって、馴染みやすく、読みやすかったです。

  • バッハのとこで泣いた

  • 高1の津島サトルの音楽と恋と周りとの交流を丁寧に描いた「青春小説。それを何十年後に、サトルが語るという形になっている。
     今の自分がその時の自分と「しっかりと向き合わなければいけない」という状況に、いま語り手がいるらしい。
     この今の自分がどんな状況の下にいるかというナゾの中で、過去のお話がすすんでいく。

     途中、大きな影響を受けた「倫社」の教師、この人こそ、これを書かなくてはいけなくなった「おおもと」なのだという。
     彼は、自由に哲学を語った。

     そして、最終章で、恋人とピアノ講師と自分のチェロでトリオの演奏を成功させたとき、父と叔父(ピアニスト)が話をしていて、、これが翌年からの自分の運命を決めたという。
     「それはいい運命ではなかった。」「僕は滑り台みたいに運命の下り坂をずるずると落ちていって、下にいた人を突き飛ばしてしまったのだ。」

     最後に、恋人、南枝里子とお互いの気持ちを確認し、いい感じでおわるのだが、さて、サトルのそれからが、どうなるのか、第2部へ続くのである。

     つまり、サトルと枝里子、彼らを取り巻く、心温かな仲間や家族や教師などとの話も楽しめて、今のサトルがどうなっているのかというナゾもワクワクさせて、2倍楽しめる小説というわけなのです。

     それにしても、「船に乗れ」というこの小説の題名が、最大のナゾなのかもしれません。

  • ダ・ヴィンチ プラチナ本 2010年1月号
    3巻(全巻)読了

    文章がとても読みやすく、クラッシックに疎い私でも楽しく読めた。3巻まであったが、サクサクと読み進められたのもよかったが、3巻まであるにしてはダラダラとしていてつまらない。1巻ぐらいでまとめてくれたら、★3だったけど。
    主人公の津島くんの中2病のような性格もおもしろかったし、南との恋愛もよかったのに、南が妊娠して結婚しちゃったあたりで、なんだかなぁと。一気に、つまらなくなった。

  • 何度か読んでいるのだけれど、今年自分がアマチュアオーケストラに入ったから、オーケストラの練習場面なんかがとても良くわかって面白かった。宮本輝の「青が散る」を思い出させるような藤谷治の自伝的小説。恋をしてる女の子をアンサンブルに誘い、演奏する場面があるのだけれど、そこで音高の学長である主人公のおじいさんがバッハのオルガン小曲を演奏する。とくに曲の紹介もせずに演奏した二曲の楽譜を見て主人公のサトルが覚えておいたBWV605,BWV615。そのミニコンサートの15年後におじいさんが亡くなったあとにふとその番号を思い出し図書館で調べて不覚にも泣いてしまったというシーンがあるのだけれど、僕もそこには泣いてしまった。
    BWV605はDer Tag, der ist so Freudenreich かくも喜びに溢れる日
    BWV615はIn dir ist Freude 汝のうちに喜びあり
    おじいさんは厳しくも孫が演奏するピアノトリオのホームコンサートがとても嬉しく、また音楽家を目指している高校生である孫への祝福の気持ちを、密やかに誰にも知られることもなくバッハの小曲を使って伝えていたんだよね。美しい。
    第2部も楽しみ。

  • 私の好きな部活青春小説。バイオリンとチェロ奏者が主人公って、素敵。おとなしめの津島君と勝ち気な南ちゃん、今後の展開が楽しみ

  • こんな面白い本だったんだ。
    3冊もあるから構えてしまったけど、1冊目読み終わった段階で、速く2冊目にいきたくてしかたあい。
    最後まで、イヤなことが起こらなかったらいいのになぁ。

  • ちょっとウンチクが多い気がするけれど、豆知識と思えば勉強になる〜。
    「のだめ」でもそうだったけど、楽器やオケを本気でやって来た人ってこうなの?という感じ。

  • ちょっとリフレッシュしよーと本をひらいてみたのですが…面白すぎて止まらず。
    あああ時間がないのにーやることあるのにー止まらない…と一気読み。
    これは怖い本です…。

    津島は自分のこと、得意がって知ったかぶりしている嫌な奴、みたいに書いているけど、読めば読むほど、そんなことないんじゃない?と思えてきたり。
    それと同時に、自分も中学生くらいにこいう痛い時期あったなーとか思い出したり。
    難しい話を理解できていないのに、読んで得意になったりだとか。いたた。

    でも津島は本当に理解しているところも大いにあり、それはすごいと思うんだけどなー。

    恋の始まり、ウキウキします。
    はやく次読みたいけど……また一気読みになるかと思うと怖い…くらい面白い。

  • ピアノやってたわたしにとっては自分の憧れを形にしたみたいな作品。
    登場人物がちゃんと人間臭くてよかった。

  • 若きチェリスト・津島サトルは、芸高受験に失敗し、不本意ながら新生学園大学附属高校音楽科に進む。
    そこで、フルート専攻の伊藤慧やヴァイオリン専攻の南枝里子と出会った津島は、夏休みのオーケストラ合宿、初舞台、ピアノの北島先生と南とのトリオ結成、文化祭、オーケストラ発表会と、慌しい一年を過ごし……。

    3部作構成。
    だって高校は3年間だからね。w

  • 最初の方は主人公の性格がなんか嫌で、正直面白くないと思ってしまったのだけど、主人公が音楽を通じて人と関わり成長していくにつれ面白くなってきた!おじいちゃんの曲選びがじーんときた。続きものだし、まだまだ序奏なんだろうな。続きも借りてこなくては。そして作者さん、音楽高校卒業なのか。2012/112

  • 学生の頃の恋愛やら何やら 懐かしく感じながら読みました。
    まぁ、音楽科の話は良くわからないけれども…
    文化祭の高揚感とかワクワクしました。

  • 圧倒された。圧倒されて涙が出た。
    音楽やオーケストラへの造詣の深さは、関係ないです。
    でもたとえば吹奏楽をやってたり、一時期でもどっぷり音楽をやっていた人なんかは、
    もっともっと感じるものがあるのかなぁ。
    ひたすらに、ときに狂気的に、なにかに打ち込むこと、とか、なにかをつくりあげること、とか、
    ただただそのことが美しい。
    場面が見える。音が聴こえる。
    筆力にも圧倒される作品。
    続編に期待~!

  • 音楽大学教授の祖父、祖母はピアノの講師、
    叔父たちはプロの音楽家
    音楽一家に生まれた津島サトル

    大人になったサトルが、高校時代の頃を
    思い出したように語る・・・
    その様子は、懐かしく振り返ると言うよりも、
    どこか自虐的で後悔ただよう雰囲気

    音楽一家に生まれながらも、才能も努力も
    センスも運も、どこかあと少し足りない
    プロの音楽家になるには、その少しは
    とてつもなく大きく立ちはだかる壁

    名門音楽学校への受験を失敗し、
    入学したのは、祖父が学長を勤める大学の
    附属高校音楽科
    音楽学校としては三流、さらにもと女子高で
    男子は全校でも数人。
    恋もするけどうまくいかず、
    というより、波乱の展開となる高校2年。
    将来、音楽家として歩むかどうかの選択を
    迫られる高校3年生・・突きつけられる厳しい現実。

    芸術家として生きるのって厳しいんだなぁ
    っていうリアリティ感じた。

  • 序章から引き込まれました
    チェロ弾きの男子高校生のお話
    音楽に疎い自分でも演奏の難しさや楽しさが伝わってきておもしろく読みました
    続きが楽しみです

    20130510

  • とにかく続きが読みたくなる。ⅡとⅢも出ているのだから早く読みたいのだが。
    話は、チェロをやっている津島サトルの高校生活。音楽に明け暮れる生活。バイオリン専攻の南枝里子への恋心。倫理社会の金窪先生との哲学的な話。挫折や自尊心と言うものが静かだが熱く語られて行く。
    音楽がわかる人はもっと興奮して読めるのかも。音楽に全く縁の無い私でもとっても面白かった。

  • 最高の青春小説!!続きが楽しみ。最初の書き出しからあまりハッピーな最後を感じないけど果たしてどうなるのか

  • 本屋大賞ノミネート。Y氏お勧め本。全3巻。クラシック音楽と哲学。青春時代の葛藤。
    1巻の中ごろまで読むのがきつかったため途中で挫折して再読。
    1年のオケの合宿が始まるとのってきてサクサク読める。
    チェロ専攻の高校生津島サトルが恋するヒロイン南の良さがわからない。ダントツキャラはフルートの伊藤。
    3巻でチェロをやめると決めてから最後どうなったかが知りたくてイライラしつつ読み進める。読後、あまり心に残るものがなくスッキリもしない。
    自分含め、こういう人生を送る人は多いんだろうなという感じで、ある意味リアルだけど夢がない。
    番外編「再会」はよかった。

  • 新生学園音楽科に入学したチェロ弾き高校生が主人公。

    音楽学校生活を舞台にオーケストラ練習や
    ヴァイオリン弾き“南”との恋愛模様が描かれる。

    そう・・・一冊目までは爽やかな青春小説だったのだ。

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