ロリータ、ロリータ、ロリータ

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著者 : 若島正
  • 作品社 (2007年10月23日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861821578

ロリータ、ロリータ、ロリータの感想・レビュー・書評

  • 『ロリータ』を好きだといっても自分の理解できる箇所だけ拾い集めてためつすがめつしては悦に入っていた自分にとっては冷や水を浴びせられる心地。特に最終章の、文章の美しさに酔いしれる安易な読み方への警鐘には冷水どころでなくハンマーで頭を殴られている気分にさせられた。とはいえ本書もまたわたしの読解力を超える解釈を論じていて、『ロリータ』本篇同様わかるところだけ噛みしめたにすぎない。
    ナボコフが仕掛けたプロブレムを嬉々として解いていく著者の足どりは弾んでいるもののうまく同調できない。解答の筋道は得心のゆくものであるにも拘らず。きっと問題は感覚的にしか『ロリータ』を味わえないわたしの方にある。
    一つひっかかったこと、ハンバートの「改心」について。まるで彼の悔悛は作家にも読者にも大前提であるように聞こえる(「改心」したかどうかが問題になる時点でそうでしょう)けれど本当に?『ロリータ』ではそこは論点にならないと思ってわたしは読んできたのに。そういう「物語」として簡単に読めないからこれほど混乱するのだ。
    ハンバートの文体からは一人の生身の男の像は結ばれない。散りばめられた無数の断片としての思念を一つ一つ感じとるだけだ。こんな手記を書く男性の実体はまずは狂人と想定するしかないけれど、これが精神に異常を来たした人間の書く文だろうか?この錯綜は恐らくは意図的なものだ。だとしたらハンバート・ハンバートとは何者なのだろう?
    あまりレビューの体をなしていなくてごめんなさい。一言だけ。『ロリータ』をまともに読もうともせず断定口調で語る多くの人々への若島先生の抗議が実に直截で、胸がすっとしました。

  • 新訳『ロリータ』の訳者が、『ロリータ』について書き下ろした書物と聞いて、アッペルの書いた注釈本のような本を期待すると裏切られる。たしかに、『ロリータ』について書かれた論考を集めたものだが、「これが、ロリータだ」といった、いわば『ロリータ』解読の定本を目指した体のものではないからだ。これまで折にふれて書かれた『ロリータ』についての文章をもとに自分の考えをまとめたもので、整理はされているものの体系だったものではない。

    著者はまず、ナボコフがチェス・プロブレム作者であったことにふれ、チェスとチェス・プロブレムのちがいを説きながら、一般の文学作品とナボコフのそれの差異について次のように述べる。一般の文学作品はチェスに似ていて、「指される一手の意味や価値が、見る者の主観によって変化する」。ところが、プロブレムというパズルの場合、主観性の介入は起こらず、誰が解いても同じ答えが出てくる。ナボコフの小説は文学の中でいちばんプロブレムに近いものだという。

    「ナボコフ=パズル小説作者」論とも言うべき、著者のこのナボコフ理解を受け容れられる読者だけが、この本の読者たり得る資格を持っている。評者は、文学の読み方の一つとして、そのような理解の仕方があることを認めるのに吝かではないが、自身プロブレム作者でもある著者のようには、とても読むことはできない。しかし、ことナボコフに限って言えば彼の小説を読む面白さのかなりの部分がそこにあることは理解できる。

    著者は、「プロブレムを解くように論理の筋道をたどることでしか小説を読めないし、曖昧な美ではなく、論理が鮮やかに結晶したような作品を最も美しいと感じる」ので、作者の構想がつかめたときがいちばんうれしいという。その著者にして、『ロリータ』における駒の配置の意味はつかめたものの、その配置が意味する作者の構想はまだ読み切れていないと言う。この本は著者の読み筋を示す中間報告のようなものであるらしい。

    さて、その読み筋だが、新潮文庫版でわずか5ページ分にあたる文章を精読することで、ナボコフを読む実例を示している。二つの映画版を参考にしながら、脚本と原作では何がつけ加えられ、何が省略されているかを追うことで、作者ナボコフの意図したことを探ってみせる。なぜ、小説では壁に掛けられた絵がゴッホ作「アルルの女」とあるのに自身が書いた脚本では、その絵の記述がないのかという、言語レベルと映像レベルの想像力の喚起するものの差異を論じたあたりは知的なミステリでも読むようで、論理と想像力の結びつきが愉しい。

    最も考えさせられたのは、ハンバートの改心が本物かどうかという問いである。たしかに、谷間から少女たちの声が聞こえてくる場面でのハンバートの心情には、ニンフェットではない現実のロリータへの愛がうかがわれ、評者のようなナイーブな読者は感動を禁じ得ないところだが、著者はそれに疑義を呈する。果たして、ハンバートは本当に改心しているのだろうか、と。その一つの根拠として、話法の問題を採り上げる。直接話法の記述を間接話法に変換することから生じる滑稽味を例にとり、ハンバートの回想録の信憑性を括弧の中に入れるのだ。

    真に反省している人間が、自分の過去を語る文体を喜劇的なタッチで飾ろうとするだろうか、という疑問はたしかにあり得る。作中のハンバートには登場人物としてのハンバートと回想記の作者としての二つの位相があり、先に採り上げた場面を含め、その場面のレベルでは感動しても、読みすすむ中で文章を記述しているハンバートという話者のレベルに立つと、回想録に一切の作為がないとは言えなくなるからだ。

    『ロリータ』はジョン・レイ・ジュニア博士の序文にはじまり、第一部、第二部とハンバートの回想が綴られる。多くの読者は最後まで読んで、もう一度序文に戻るだろうが、二度目に読むときは、同じ場所ではなく一段高い位置に立っている。著者はその構造を円環的でなく螺旋的と表現する。すなわち、読めば読むほどより高い読みが発見できる。『ロリータ』という小説の持つ魅力はそこにあるのではないか。緻密な読みであるが、これですべて語り尽くされた訳ではない。なにせ、たった5ページ足らずである。読者には著者に倣って自分の読み筋を見つけていく楽しみが残されている。『ロリータ』読みなら、外せない一冊である。

  • 先日この著者の新訳『ロリータ』を読み、今ワタシが文学部の学生だったらナボコフを研究テーマに選ぶだろう、と、思うくらいおもしろかったので購入。細部が網の目の様に張り巡らされ、その細部が結節点として無数の他の場面に見えないリンクが張られ、ナボコフが如何に用意周到な作家だと言う事が良くわかる。他の作品も引用してあり、英語の原文と日本語訳との対比もあり、対立し矛盾するものを同時に視野に収め、或いは1つのものを2つの目で立体的に捉える、「ナボコフを読む」という事はこういう事なのか、と、これは1つの読み方の提示。

  • 6/26 読了。
    今「世界で1番面白い本は?」と聞かれたら「ロリータ!」と答える。

  • 推薦者 共通講座 春木有亮 先生

    *図書館の所蔵状況はこちらから確認できます*
    http://opac.lib.kitami-it.ac.jp/webopac/catdbl.do?pkey=BB50100870&initFlg=_RESULT_SET_NOTBIB

  • 『ロリータ』は昨年夏に読み返したばかりなのだが、何の因果か今月の猫町課題図書になっていて、もう一度読むことに。せっかくなので、若島先生の『ロリータ、ロリータ、ロリータ』を読んでから読み返すことにした次第。テクストの細部の細部を、それこそ「霜の針」を拾うかのように丁寧に、丁寧に拾い上げていく 3章は若島節の真骨頂。マイナーな登場人物に焦点を合わせた 7章、(原文では)難解な自由間接話法をどう翻訳したか、どう楽しむべきかを平易に解説した 10章も秀逸。少なからず「それは(きっとナボコフが意識すらしていない)勝手読みというものだろう」と思われる部分もあるが、所詮、小説を読むことなんて個人の趣味なのだから、本人が面白いと思えば、それでいいのだ。

    文庫版解説では触れられていないが、修正派が生まれたきっかけとされる「ヘーゲル的ジンテーゼ」部分のより合理的な解釈は、(この本に引用されている個所だけから判断すると)若島先生の解釈の方が筋が通っていると思わざるを得ない。でも、修正派的な読みの方が、小説としては面白いんだよな…。

  • ナボコフ『ロリータ』を再読するとき、ヒントになる一冊。
    すごくいい本だった。詳細は読書メモへ。

    読書メモ:
    http://haiiro-canvas.blogspot.jp/2012/12/blog-post_31.html

  • Vナボコフの作品の読本。
    VN学会会長(日本)若島さんのアツキ一冊(だとおもう)。
    ちょっと表紙がごにょごにょでちょっと恥ずかしいので自宅で読む。

    「ロリータ」作品についてがメインであるが、
    色々な作品の事ももちろんでているのでVNファンは必読だとおもいます。

    [2008/12/25]図書館で借りる。

  • 「ロリータ」というのがどれほどとんでもなく手のこんだテキストであるか、書く方も書く方だし、読み解く方も読み解く方で、もう唖然とする。頭脳構造が完全にチェスとか将棋のそれ。

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