- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784861821578
感想・レビュー・書評
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『ロリータ』を好きだといっても自分の理解できる箇所だけ拾い集めてためつすがめつしては悦に入っていた自分にとっては冷や水を浴びせられる心地。特に最終章の、文章の美しさに酔いしれる安易な読み方への警鐘には冷水どころでなくハンマーで頭を殴られている気分にさせられた。とはいえ本書もまたわたしの読解力を超える解釈を論じていて、『ロリータ』本篇同様わかるところだけ噛みしめたにすぎない。
ナボコフが仕掛けたプロブレムを嬉々として解いていく著者の足どりは弾んでいるもののうまく同調できない。解答の筋道は得心のゆくものであるにも拘らず。きっと問題は感覚的にしか『ロリータ』を味わえないわたしの方にある。
一つひっかかったこと、ハンバートの「改心」について。まるで彼の悔悛は作家にも読者にも大前提であるように聞こえる(「改心」したかどうかが問題になる時点でそうでしょう)けれど本当に?『ロリータ』ではそこは論点にならないと思ってわたしは読んできたのに。そういう「物語」として簡単に読めないからこれほど混乱するのだ。
ハンバートの文体からは一人の生身の男の像は結ばれない。散りばめられた無数の断片としての思念を一つ一つ感じとるだけだ。こんな手記を書く男性の実体はまずは狂人と想定するしかないけれど、これが精神に異常を来たした人間の書く文だろうか?この錯綜は恐らくは意図的なものだ。だとしたらハンバート・ハンバートとは何者なのだろう?
あまりレビューの体をなしていなくてごめんなさい。一言だけ。『ロリータ』をまともに読もうともせず断定口調で語る多くの人々への若島先生の抗議が実に直截で、胸がすっとしました。詳細をみるコメント0件をすべて表示