21世紀の歴史――未来の人類から見た世界

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861821950

作品紹介・あらすじ

2050年、そして2100年、世界の"中心都市"はどこか?国家、資本主義、宗教、民主主義は、どうなっているのか?「ヨーロッパ復興開発銀行」初代総裁にして経済学者・思想家・作家であり、"ヨーロッパ最高の知性"と称されるジャック・アタリ。これまでも、ソ連崩壊、金融バブル、新たなテロの脅威、インターネットによる世界変化を予測し、見事に的中させてきた。本書は、アタリが、長年の政界・経済界での実績、研究と思索の集大成として「21世紀の歴史」を大胆に見通し、ヨーロッパで大ベストセラーとなったものである。サルコジ仏大統領は、本書に感銘を受け、"21世紀フランス"変革のための仏大統領諮問委員会「アタリ政策委員会」を設置した。

感想・レビュー・書評

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  • はじめに遊牧民・定住民、宗教・軍事・市場の権力の推移という観点から、中心都市の変遷を軸に歴史を概観する。そこから、前衛のディストピア小説のような「21世紀の歴史」を、超帝国、超紛争、超民主主義といった概念によって描いていく。これらの概念によって既存のシステムの欠陥を暴き、そしていかなる個人が絶望的な未来を防ぎうるかを説く。
    個人は歴史から自由にはなれない。それでも「21世紀の歴史」に生きる僕らは、歴史の潮流に対峙し、自らの指針を明確にせねばならない。歴史を超越するほどの力を個人は持たないだろうが、凋落の流れから逃れ、未来を創る組織に属するよう身を処することはできるかもしれない。

  • ・現在までの市場の秩序は、九つの市場形式をたどってきた。では、この変遷を「中心都市」の推移を順に追って考察するか(ブルージュ、ヴェネチア、アントワープ、ジェノヴァ、アムステルダム、ロンドン、ボストン、ニューヨーク、ロスアンジェルス)、または大量消費財の登場を順に追って考察するか(食品、衣服、書籍、金融、運輸手段、家庭用電気製品、コミュニケーション・娯楽)、商業圏の拡大を可能としたテクノロジーの進展を順に追って考察するか(船の舵、キャラベル船、印刷機、会計、オランダ船、蒸気機関、内燃機関、電動機具、マイクロプロセッサ)、支配的通貨を順に追って考察するか(グロ金貨、ダカット金貨、ギルダー、ジェノヴァ通貨、フローリン、リーヴル・スターリング[ポンド]、ドル)もしくは「中心都市」を代表する芸術家や哲学者を順に追って考察することも可能であろう。

  • 2008年に日本語版の初版が売り出され、この書評を書く2023年時点ではすでに15年以上が経過していますが、本書の価値は全く色あせていないし、むしろ価値は増している気がします。本書は未来の人類から見た21世紀の歴史書という位置づけですが、大まかなストーリーは以下の通りです。まずアメリカ帝国の終焉のはじまり。そして「超帝国」時代(第一波)を引き起こしていきます。「超帝国」とは国家の軸を超えた地球規模の市場原理によるガバナンスです。ここでは、国家は弱体化し多極化世界が登場します(しかしグローバルに個人及び企業は市場原理で結びついている)。そして国家の弱体化が皮肉にも「超紛争」時代(第二波)を引き起こします。ここまでだと極めて悲観的な内容になってしまうのですが、「しかし」と著者はある意味願望的な意味合いを込めて希望を示します。それが、超紛争時代後に到来する「超民主主義」時代(第三波)です。これはグローバル市民の誕生を意味します。

    このストーリーの背後で重要な社会キーワードとなるのが、市民の「ノマド化(遊動民化)」です。具体的には、3種類のノマド(超ノマド、バーチャルノマド、下層ノマド)の勃興を予測します。
    (1)「超ノマド」とは、企業の所有者、資産家、ソフトウェア開発者、アーティスト、金融事業者など「超帝国」をけん引する存在です。彼らは容易に国境を越えて移動し、税率が低い国や安全・快適な国に住みながらリモートで仕事をします。
    (2)「バーチャルノマド」とは超ノマドの下の中層にいて、物理的な移住はしませんが、バーチャル空間上で活発に移動・活動する人々です。今風に言えば、ネットやメタバース上で多くの時間を費やす人々ということになります。
    (3)「下層ノマド」とは平たく言えば難民です。自然災害だけでなく、紛争が引き起こす経済・政治難民、固定的な家を持たない人々となります。

    細かな点はともかく、大まかなストーリーについては、(書評執筆時点の)2023年時点でもだいぶ当てはまるのではないかと思います。特に人類のノマド化はまさに実現しそうですが、著者はノマドという軸で3層の新たな社会階級を描いている点がとても興味深く感じました。本書で書かれていることが正しいかどうかは脇においても、多くの人が一読すべき本だと思います。

    最後に自分の備忘録として、本書でアタリ氏が述べているキーメッセージを記しておきたいと思います。

    ●「いかなる時代であろうとも、人類は他のすべての価値観を差し置いて、個人の自由に最大限の価値を見出してきた」
    ●「ユダヤ・ギリシャの理想とは、自由こそが究極の目的であり、また道徳規範の遵守ともなり、生存条件でもあることを明確にした」
    ●「アジアでは、自らの欲望から自由になることを望む一方で、西洋では、欲望を実現するための自由を手に入れることを望んだのである」
    ●「宗教の教義は、たとえどれほど影響力があったとしても、個人の自由の歩みを遅らせることには成功しなかった。実際に、宗教であろうが宗教から独立した権力であろうが、現在までにいかなる権力も、この歩みを持続的に押しとどめることはできなかった」
    ●「ヴェネチアを含め、その後のすべての「中心都市」とは過剰と傲慢の産物である」
    ●「外国人エリートの受け入れは、成功の条件である」
    ●「新たなコミュニケーション技術の確立は、社会を中央集権化すると思われがちだが、時の権力者には、情け容赦のない障害をもたらす」
    ●「欠乏こそが人々に新たな富を探し求めさせる。不足とは、野心を生み出すための天の恵みである」
    ●「技術を発明したのが誰であるかはさほど重要ではなく、文化的・政治的にこれを活用できる状態にあることが重要である」
    ●「戦争の勝利者になる国とは、常に参戦しなかった国、またはいずれにしても自国領土で戦わなかった国である」
    ●「多くの革新的な発明とは、公的資金によってまったく異なった研究に従事していた研究者による産物である」
    ●「将来有望な産業を二つ挙げると、保険業と娯楽産業である。この二つの産業は、すでに世界経済を支配しており、今後さらに躍進する」

  • ノマドライフからのリファレンス。

    仏大統領の諮問委員会としてアタリ政策委員会の委員長を務める著者により、かつて手塚治虫が「火の鳥」で鳴らした警鐘に近いトーンの、決して明るくない未来が、2050年頃国家の解体が始まるとされるまで展開される。
    冒頭「日本語版の序文に変えて」から、歯に衣着せぬ日本の未達課題が淡々と提示される。第一に、既存産業、不動産による超過利得、官僚周辺利得を過剰に保護しすぎたため技術的ダイナミズムを犠牲にしているとあり、第二に、海運業ほか海上覇権にもかかわらずアジア圏の友好的な地域関係を創出できていないとあり、第三に、外国からのアイデア、投資、人材を幅広く受け入れられていないために、クリエーター階級を育成できていないとある。
    特に第二の課題が軍事コストに繋がり、2025年の日本の経済力は世界第五位ですらないかもしれない、と述べられている。否定できるだろうか。
    地獄の底のような将来で子孫を徘徊させないために、別の未来をぶつける必要があり、本書を通じて述べられるような未来を予見し、超民主主義と著者が呼ぶ、気候変動の抑制、水やエネルギー資源の再生、肥満と貧困の解消、非暴力、民間企業の公益重視にむけた合理的な活動を経験していく必要があるとしている。
    民主主義を否定するのではなく、民主主義の本来的な姿を省みて共有し、SRIやマイクロファイナンスに見られる資本回収のあるべき姿を提示している一冊。

  • 21世紀の後半にいるという視点で地球の歴史を人間目線で描いている本です。単なる予測本とは異なり、きちんと論理に基づいて書かれているのが特徴です。今後の世界に興味がある人、必見です。

  • 流行になったノマドワーカーの記述はフロリダの『クリエイティブクラスの世紀』のクラス・クリエイティブに通ずる。突き詰めると似たような結論にたどり着くということか?

  • これからの社会を生き抜くために、これまでの歴史を振り返ることで、課題を明確にしようとしている。

  • 壮大な世界史。人類の発祥から未来の卓越した洞察。特に技術発展について深い考察。しかし、残念ながら2025年の未来予測については外してしまった。この10年の現実の変わりようが劇的であったことを改めて自覚した。不甲斐ない日本が見透かされている。フランス人の世界観、特に日本がどのように捉えられているかを知るには勉強になる。

  • 思ったより、面白くなかったというのが正直なところ。執筆時から10年が経っているから?実証的なデータが示されてないから?後者については、トッドの方が面白いものね。

  • 4〜12 世紀
    商業的・政治的自由が、歴史の原動力となった。
    14世紀初頭、資本主義というシステムが形成された。
    日本だけでなく、世界でも、外国人エリートの受け入れは、経済的成功の条件である。


    レビュー
    非常に読みやすい。

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著者プロフィール

ジャック・アタリ(Jaques Attali)
1943年アルジェリア生まれ。パリ理工科学校を卒業、1981年大統領特別顧問、1991年欧州復興開発銀行初代総裁。1998年に発展途上国支援のNPOを創設。邦訳著書に『アンチ・エコノミクス』『ノイズ』『カニバリスムの秩序』『21世紀の歴史』『1492 西欧文明の世界支配』など多数。

「2022年 『時間の歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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