骨狩りのとき

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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861823084

作品紹介・あらすじ

姉妹のように育った女主人には双子が産まれ、愛する男との結婚も間近。貧しくもささやかな充足に包まれて日々を暮らす彼女に訪れた、運命のとき。全米注目のハイチ系気鋭女性作家による傑作長篇。米国図書賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 4.67/31
    『1937年、ドミニカ。姉妹同様に育った女主人には双子が産まれ、愛する男との結婚も間近。ささやかな充足に包まれて日々を暮らす彼女に訪れた、運命のとき。全米注目のハイチ系気鋭女性作家による傑作長篇。
    【アメリカン・ブックアワード受賞作!】

    ハイチとドミニカ共和国の間に一本の川があり、そこには多くの死者の霊が眠っています。(…)川を訪れている間、私は彼らのために深く悲しみました。今もまだ悲しみ続けています。私は、虐殺の川を生き延びたすべての人びとのために、ハイチ人の首を切り落としたナタと切り落とされた頭を数えた指に苦しめられたすべての人びとのために、深く悲しみました。けれども、川の魂の子どもたちに会って、私は希望を取り戻しました。洗濯をしていた女の人、ラバを連れた男の人、水浴びをしていた少年たち、兵士たち、そして本書の登場人物たちさえ、皆が、私の愛と激しい怒りを呼び起こしてくれただけではなく、私の心の最も深いところで、共同体(コミュニティ)と人間であること(ヒューマニティ)の意味を明らかにするようにと促し続けています。連帯と親近感のなかで、彼らの物語と本書が、皆さんの心にも何かを語りかけてくれることを願っています。――「日本の読者への手紙」より』(『作品社』サイトより▽)
    https://sakuhinsha.com/oversea/23084.html

    原書名:『The Farming of Bones』
    著者:エドウィージ・ダンティカ (Edwidge Danticat)
    訳者:佐川愛子
    出版社 ‏: ‎作品社
    単行本 ‏: ‎332ページ

  • 2010-12-25

  • ハイチもドミニカも名前を聞いたことある程度である。そんな国々の歴史や風俗、景色などに触れることができるのだから、翻訳小説は面白い。
    アマベルやセバスチアン達ドミニカに住むハイチ人たちの暮らしぶりは凄まじく、現代日本に生きる自分なんぞにはとても共感できるものではない。そんな彼ら彼女らの笑顔のシーンは少ない。また、裕福であるバレンシア奥さまもピコですら眉間に皺が刻まれている印象を受けた。誰もが人生の舵を自分ではなく時代に握られているように見える。困惑し混乱している。
    そんな中、パピやコンゴ、フアナ、ルイスには迷いがないように感じた。どっしりとした厚みというか、なんというか、影も皺も混じった笑顔があったように思う。
    フアナ、ルイスの気持ちはわからないが、コンゴはここに残ると固く決めていた。反対に、アマベルやセバスチアンたちはハイチに逃れることを決めた。真偽の分からない噂が溢れる中、どうすべきかを自分で判断するのは難しい。こんな混沌の状況で正しい判断なんかできるわけがないと思った。どんな歴史でも未来から結果論でこれは間違いとか簡単に言い切る輩の愚かさを、この場面で強く思った。それどころじゃないんだよ、と思った。
    生活も逃亡も厳しい中であっても、それぞれ人々が助け合ってどうにか生きていた。そんな助け合いがなんとも自然で美しくみえた。

  • カリブ海にある西インド諸島・イスパニョーラ島。
    この島にあるスペイン移民の末裔たちの国家、ドミニカ共和国。
    この国は1930年代、隣国の黒人国家・ハイチから仕事を求めてやって来たハイチ人たちを虐殺したと言う過去があり、本書はこの史実を基にして書かれたフィクションです。

    主人公はドミニカ共和国の白人一家でメイドとして働くハイチ人の若い独身女性。
    彼女や彼女同様に同国で働くハイチ人たちをドミニカ共和国を統べる総統が指揮する民族浄化作戦が襲い、彼らはハイチへ向けて必死に逃亡することになります。

    本書はその逃亡の過程、そして逃亡成功後の生きたまま死んだ様な日々を主人公の両親の思い出を織り交ぜながら描いたものです。

    当初テーマとなった虐殺の事を知らなかった為、ストーリーの背景が理解し辛かったのですが、Wikipediaのドミニカ共和国の項を読み、上記の総統とは誰か?、総統の末路は?等を知り、理解を深めることができました。
    私の様に両国の歴史に明るくないと言う方は、本書を読む前にまず歴史的背景の把握を行うと良いかも知れません。



    尚、巻末に以下の文があります。

    「名を成した者たちは、決して本当に死ぬことはありません」
    「煙のように早朝の空気の中に消えていくのは、名もなく顔もない者たちだけなのです」


    総統の名は残り、彼の犠牲者たちは煙になった。
    そして著者は主人公の口を借り、煙になった彼らに名を与えたかった。

    そう言う事なのかも知れません。

    一読をおすすめします。

  •  ハイチ人のアマベルは8歳で両親を亡くしドミニカ(スペイン)人の父娘に拾われる。親切なお屋敷の人々の中で、聡明で有能な少女へと成長し、サトウキビ農園で働く恋人もできる。しかしささやかな幸せが全て奪われてしまう運命の日が少しずつ近づいてくる。
     ヒトラーに傾倒したドミニカ大統領トルヒーヨによるハイチ人大虐殺エル・コルテ。(数日の間に2~3万人のハイチ人が殺された)
     この大虐殺をテーマにした作品だけれど、作品全体に流れている空気は静かで文章もきれい。
     美しい文章がアマベルの過酷な運命を綴っていくのを是非多くの人に読んで欲しいと思います。

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著者プロフィール

1969年ハイチ生まれ。12歳のときニューヨークへ移住、ブルックリンのハイチ系アメリカ人コミュニティに暮らす。バーナード女子大学卒業、ブラウン大学大学院修了。94年、修士論文として書いた小説『息吹、まなざし、記憶』でデビュー。少女時代の記憶に光を当てながら、歴史に翻弄されるハイチの人びとの暮らしや、苛酷な条件のもとで生き抜く女たちの心理を、リリカルで静謐な文体で描き出し、デビュー当時から大きな注目を集める。95年、短篇集『クリック? クラック!』で全米図書賞最終候補、98年、『骨狩りのとき』で米国図書賞受賞、2007年、『愛するものたちへ、別れのとき』で全米批評家協会賞自伝部門受賞、2020年、『すべて内なるものは』で全米批評家協会賞小説部門と最もすぐれた短篇集に与えられるThe Story Prizeを受賞。邦訳に、『ほどける』、『海の光のクレア』、『地震以前の私たち、地震以後の私たち』、『骨狩りのとき』、『愛するものたちへ、別れのとき』(以上佐川愛子訳、作品社)など。

「2020年 『すべて内なるものは』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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