自主独立農民という仕事―佐藤忠吉と「木次乳業」をめぐる人々

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著者 : 森まゆみ
  • バジリコ (2007年3月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862380302

自主独立農民という仕事―佐藤忠吉と「木次乳業」をめぐる人々の感想・レビュー・書評

  • 大阪ならば、自然食品を扱う店を探せば、かなりの確率で「木次牛乳」に出会える。
    私は青いパッケージのパスチャライズノンホモ牛乳がお気に入り。飲んでみると、明らかに他の大メーカーのものとは味が違う。「薄い」というのは正確じゃない。「すっきりした味」あるいは「のど越しがいい」と言うほうが正しい。喉が渇いた時ならば下手すれば1リットル一気にいってしまう。それに、それだけ飲んでも胸が焼けたりお腹がもたれる感じがない。

    森まゆみさんほどのベテランライターでも、木次乳業の重要人物である佐藤忠吉さんに会って話を聞くうちに、文章をあれこれいじくるといった“加工”は出来るだけしないほうが良い、って感じたのだろう。この本の中では、佐藤さんの語りのかなりの部分が、カギカッコでそのまま載っている。それは森さんの手抜きではなく、素材を損なうことなく生かそうとしたら、自然とそうなったのだろう。そう、まるでパスチャライズ牛乳を作るように、やさしく丁寧に。

    そうすることで、佐藤さんのメッセージが生き生きとした形で活字になって表されている。まるで、講談の名人による絶妙な語りを聞くかのように。あるいは宮沢賢治の詩に接するときのように。
    おそらく、しゃべり放題であっても、他人の悪口が出てこないからなのだろう、嫌味がない。読み手の心がフワフワっと気持ちよくなるから不思議だ。
    佐藤さんの出雲弁を交えた軽妙な語りをうまく写し取った森さんの“技あり”。
    この本を語る人の多くが、佐藤さんや木次の魅力ある人々に焦点を当てるのは仕方ないとしても、森さんの話を引き出す力と、本として組み立てたライターとしての力量も、評価しておきたい。

    悪口が出ないとは先に書いたけど、「自主独立農民」という佐藤さんの姿勢は、私たちに対する強い批判を含んでる。まず、佐藤さんの半生は決して成功話ではない。普通の人ならば心が折れてるだろうっていうような失敗と不幸の連続だ。
    だから佐藤さんの今の生活に対して気楽に「憧れる」とか「うらやましい」と言うのは、今も自主独立のために前を向き、強い意思と実行力で困難な道を進み続ける佐藤さんに対して、ものすごく失礼に聞こえる。
    もちろん、日本に住む者の大多数(私も含めて)は、自ら耕し、自ら食べ物を生産し、余った物を人に分けるという生活ではないけど…

    でも、そんな難しい話でもないのでは。佐藤さんの生き方に近づこうとするならば、私たちは「自主独立」という部分を写し取ればいい。先人の知恵を受け継ぎ、自分の住む土地の恵みを受け入れ、自分が幸せと感じるものを育み、そして少しあまった幸せを他人に分ける。だから、「自主独立サラリーマン」でいいし、「自主独立子育て母さん」というのもあり得るはずだ。そう思う。
    (2013/2/27)

  •  エメンタールチーズ作りを見にいく。赤ちゃんは母乳で育てましょうと保冷トラックに書いてあった。寒冷乾燥地原産のホルスタインは高温多湿な出雲ではムリだ。乳量の少ないブラウンスイスは乳牛と認めてもらえなかった。牛は感情豊かな動物だからこころの問題が大きい。なんでオス牛が乳を出すんですか。凝固しはじめた牛乳をあたためる温度は企業秘密である。

  • 生きる作法についての話でした。

    ここのところ、日に何度となく思い出す、佐藤忠吉さんの言葉。

    「なぜ自分の命が、何千億分の確率でここに生まれたのか。その命の重さをどう受けとめるか、に立ち返ることが大事です。食べるというのは、自分の命と相手の命をとりかえる。命ある獣や魚や野菜や米の命をいただくということです。命をいただく感謝をする。なるべく多くはいただかない。足るを知る。地球六十億分の一の生活をめざすことです。食べることにも作法がいる。愛撫にも作法があるようにね」(pp. 155-156)

  • 島根県雲南市で出会った佐藤忠吉という人に、僕はすっかり魅せられてしまった。名刺の肩書きは百姓。文字通り地に足をつけ、理を用いても理にとらわれず、謙虚な物腰で淡々と、しかしユーモラスに話すその姿に、僕は憧れずにはいられなかった。

    3年ほど経つが、いつも身の程知らずにも、どうやったらあんな人になれるのかと、つい考えてしまう。

    忠吉さんのことを思い出したくなった時、たまにこの本を開く。

    忠吉さんは「書かれたものなんか信じちゃいかん」と言うそうだけれど。

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