戦争の経済学

  • バジリコ
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  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862380579

作品紹介・あらすじ

憲法9条改正?自衛隊を正規軍に?でもその前に一度、冷静になって考えてみよう。戦争は経済的にみてペイするものなのか?ミクロ・マクロの初歩的な経済理論を使って、現実に起きた戦争-第一次世界大戦から、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争まで-の収支を徹底分析!「戦争が経済を活性化する」は本当か?徴兵制と志願兵制ではどちらがコストパフォーマンスが高い?軍需産業にとって実際の戦争にメリットはあるか?核物質闇取引の実際の価格は?自爆テロはコストにみあっているか?…などなど、戦争についての見方がガラリと変わる、戦争という「巨大公共投資」を題材にした、まったく新しいタイプの経済の教科書。自衛隊イラク派遣の収支を分析した、訳者 山形浩生による付録「事業・プロジェクトとしての戦争」も必読。

感想・レビュー・書評

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  • 戦争は儲かるのか

    戦争が起きると経済が上向くという話は本当であるか、というそのものずばりのお題に基づいて書かれている。
    第2次世界大戦で負け、多くの国民と領土を失い、経済損失だけでなく国際的な信用までも失った日本人は、戦争が儲けと直結するとは思わないだろう。一方、日本人には朝鮮特需の印象も残っているから「戦争は儲かる」との印象を持っている方もいるかもしれない。しかし、経済合理性にかなう戦争はかなり限定的なことがこの本を読むとわかる。

    この本は、アメリカの事例に基づいており陸軍士官学校でも用いられている。アメリカは世界で1番軍事費をあてがう国であるから事例は豊富で、個別事例を明瞭な経済モデルに置き換えての説明はとてもわかりやすくて面白い。細かなところではプルトニウムの価格まで明示し、大量破壊兵器の経済効率まで検証しているほどだ。

    ○果たして戦争はペイするのか?

    戦争が儲かるか?の答えは、ケースバイケースであるが、基本はペイしないと思ったほうがよさそうで、気になった記述は以下の通り。
    ・第1次世界大戦、第2次世界大戦では勝てば経済メリットはあった。ちなみに勝った側(連合国側)はおしなべて1人あたりGDPが上回っており、第2次世界大戦では連合国ながらいくらか1人あたりGDPが劣っていたロシア(ソ連)だけが戦後は大きな苦境に陥った。
    ・経済メリットがある戦争は、①開戦時点で経済が停滞気味、②短期決戦である、③本土戦ではないこと、④資金調達ができていることと結論づけている。ただ、これらを満たす戦争はなかなか存在しない。
    ・戦争による政府支出は一時的であり、防衛産業の株価は有事にはあがっても、すぐに元の水準になる。

    GDPの点など指摘されればもっとものことだが、データに基づいてロシアなどの事例を引き合いに説明しているのが興味深い。ちなみに、日本が国防を真剣に考えるのなら、1人あたりGDPがだだ下がりの現在、軍事費捻出よりも先にすべきことがあると思われる。また、島国の日本は防衛を念頭にすると、必ず本土戦となるので経済的な損失はかなり大きいと考えるべきなのだろう。

    ○志願兵と徴兵された兵のどちらが経済的か?

    総志願軍(AVF / all-volunteer force)対 徴兵軍という項目で、ベトナム戦争時の抽選方式の徴兵システム(Selective Service System)を事例にして解説している。この抽選方式とはドラマ『THIS IS US』で兄弟の絆を引き裂いた非情なくじ引き式の徴兵システムのことである。ここでは論を進めて傭兵である民間軍事会社(PMC / private military company)についても触れている。

    ・徴兵は1人あたりの費用は安いが軍とのマッチングや素質を考慮しないので非効率な面がある。一方、志願兵は福利厚生など含めて費用がとても高くつく。
    ・やはりPMC(傭兵)は安くて有能、つまり生産性が高く値段も安い。

    ちなみに英国の王立海軍はこのPMCに似た運用をしていたとある。陛下の海軍は、やっつけた敵数によるインセンティブ給与方式だったらしく、英国海軍の強さの秘密は忠誠心なんかではなかった(笑)。こんな運用をしていたとは、陛下はなんともえげつない。

    ○防衛産業、軍事企業について

    2000年の防衛企業100社の売上の6割は、アメリカ企業43社の1570億ドル。ただ、これは自動車産業6000億ドル、飲食品4910億ドルに比べると少なく、軍事産業はけっして巨大産業ではない。

    また、軍事企業は以下のように経済的に特異な立場にいる。
    -政府が独占受容家で買い手が政府しかいない。
    -基本は自国の寡占市場。
    -価格より品質で費用は度外視されることもある。
    -ひとたび受注するとメンテやサポートと長らく独占できる。
    -受注した業務は高額で長期のプログラムとなる。
    -一方、受注状況に大きく左右され業績の波が激しくなる。
    -政府は機密保持の為に補助金など企業を手厚く遇するが、規制もあり大きく経営に介入される。
    -国土ミサイル防衛(NMD)など多額で不確実性が高い計画もあり、企業側は先払いを求める。結果として手抜きなどモラルハザードが生じる可能性があり、対策として政府側は契約を使い分けて対処している。
    -実は国際兵器市場の規模は小さく、ほとんどが自国向けであり、軍需に特化していない企業も多い。

    軍事企業は独占的でメリットが多いように思えるが、考えて見ると運営の自由が損なわれているので経営はかなり難しいかもしれない。また、市場規模が大きくないのも意外であった。それ故に米国の軍事企業は統廃合や分業化を繰り返し、兵器以外の事業でも儲かるようにしてきたようだ。
    書籍『戦争がつくった現代の食卓-軍と加工食品の知られざる関係  アナスタシア・マークス・デ・サルセド著』にあったように軍事から派生する技術は多い。というか、この本を読むと我々がスーパーで買ってきて日常的に口にする食べ物のほとんどがレーション(戦闘食、ミリ飯)の発展型であり、戦地で兵士が食事をする為の技術でなりたっていることがわかる。開発した技術を民生用に転化して稼ぐのも、こうした軍事企業の生き残る術のひとつらしい。

    ○紛争について

    「マクドナルドが開店した国同士ではそれ以降戦争することはない」と面白い事例があった。実際、紛争(≠戦争)を除けば大枠は当たっているようで、経済のグローバル化によって戦争が減るらしい。

    要するに異論こそあるが、貿易は戦争を減らすとのことで、その理由は
    1.相手国との関係を絶つと経済成長しなくなるから。
    2.国が発展していると戦争より貿易のほうが富を生み出すし、戦いでインフラ(産業基盤)を失うこともない。
    3.貿易は相互理解が進み、平和をもたらす。
    4.貿易により経済発展が進むと民主化も進み指導者は国民を戦争に狩り出しにくくなる。

    一方、内戦は経済発展の大きな障害であり、貧困(低開発国)は警察や軍の能力が低くなり、不正も起こりやすいから、紛争も起こりやすいとある。教育水準が高いほど、国民は紛争に関わらないし、雇用機会が充分であれば反乱分子となることも少ないので紛争は起きにくくなるようだ。

    また、資源輸出が依存度がGDPの26%以上になると紛争リスクが高まる。それくらい紛争と天然資源の関係は深い。
    紛争と資源の関係に6つの説がある。
    1.内戦中の国の資源単価を抑えると紛争も短期になる。
    2.不満分子は資源集中地区を分離独立させようとする。
    3.天然資源の分配が偏ることによって、国内に不平等を生む。
    4.天然資源に頼って政府が怠けがちになる。
    5.資源の国際価格の変動を受けやすく経済基盤が弱い。
    6.近隣国家からちょっかいを受けやすい。
    現在、戦争中のロシアも資源国家と言えるので、これらの説の一部が該当すると思う。例えば、国際協力によって原油価格にキャップをはめてロシアに対抗することは理に適っているし、資源が集中するウクライナ東部をロシアが分離独立させようとしていることも説の通りである。
    また、天然資源に頼る国は不安定この上なく、国家運営はやっかいとみられる。資源は儲かるので強欲を刺激し内戦が起こりやすいということだ。その為、権力者も相応の守りに入ったり権力にしがみついたりするのだろうから、資源国家は国民にとって幸せな国になりにくいのかもしれない。資源の少ない日本にはわからぬ国家運営の悩みがあるのだろう。

    <その他の書籍紹介>
    https://jtaniguchi.com/tag/%e6%9b%b8%e7%b1%8d%e7%b4%b9%e4%bb%8b/

  • 「 戦争の経済学 」 戦争経済学の本。戦争により経済を成長させたアメリカのしたたかさ、日本の無謀さが 際立つ内容だった


    主なテーマ
    *第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争がアメリカ経済に有益に働いた理由
    *ベトナム戦争以後は 有益とならなかった理由
    *戦争別の戦死者の人命価値の金額
    *自爆テロ、核兵器の経済合理性
    *平和維持活動、徴兵制の非効率性
    *軍縮により経済が成長し、貿易の拡大が戦争を減らすことの検証


    戦争が経済的に有益となる条件
    *戦争前の経済成長率が低く、遊休リソース(土地、資本、労働)がたくさんある
    *戦時中に巨額の政府支出が続く
    *自国が戦場にならず、期間が短く、資金調達が円滑


    戦争経済学
    *軍事支出→経済成長や失業率改善→インフレ
    *軍事支出のための資金調達〜増税、非軍事支出の削減、紙幣と債券の発行



    アメリカの一人あたりの人命価値
    第二次世界大戦時750万ドル、ベトナム戦争時1515万ドル、湾岸戦争時5932万ドル

    徴兵制は 軍人の資質がなく、他の仕事についた方が経済を良くする人物も軍人にしてしまうので 非効率


    第二次世界大戦当時、日本は 一人当たり GNPが 3倍近く大きいアメリカに無謀な戦いをしたことに驚いた









  • シンプルに面白い。かつマクロ、ミクロ経済学の基礎知識を結びつけながら実際のデータを大量に提示してくれるので、無機的になりがちな基礎経済学の入門教科書にかえてすらすら学ぶことも可能。

  • 普通に戦争について初歩的な経済学で分析した本。
    儲かる戦争の定義が明確になったのは収穫。
    自国以外が戦場、経済的、人的なリソースに余裕があること
    。まあ、よく言われていたことですが、戦費の調達を経済を過熱させないように行うことも必要と。
    かなり範囲は狭いですが、確からしいと思える。

  • ※2章まで

  • 戦争の経済的な側面について、マクロ経済学、ミクロ経済学の観点から分析します。

    戦争の鉄則(戦争は経済にとってよいものである)が成立するのはどのような場合か?

    安全保障のジレンマをゲーム理論にあてはめる。

    民間軍事会社の効率性

    など、いろいろなテーマが経済学の観点から分析されます。

    おもしろかったです。

  • 徴兵制なんて今どきありえない?それでは労働需要・供給曲線で予算費用と資本集約度を比較してみよう。
    自爆テロなんて不合理?それではゲーム理論と費用便益分析でテロ犯の合理性を検討してみよう。
    戦争って儲かるの?それでは計算してみよう。

    ファンタジーを現実的に計算することを試みる空想科学読本というシリーズがあるが、本書は現代日本においてはもはやファンタジーと言っても過言ではない戦争について計算する。
    それは戦争という抽象的で超大で影響範囲が計り知れないものを、なんとか人が理解できる範疇に収めようとする努力であり、例えば心理的影響は株式市場の成績や消費支出、民間投資から間接的に推し量る。
    そう、本書で試みるのは素人でも理解可能な経済学を駆使した説明であり、本来であれば変数が多すぎて手に負えないであろう戦争を、専門外の人間が読んでわかる範囲に上手く落とし込んでいる。

    戦争の経済効果の他には、軍隊の経済学(防衛支出と経済、志願と徴兵、民間軍事会社)、安全保障の経済面(内戦・テロの経済的影響)、大量破壊兵器の経済性について。
    本書が教えてくれるのはその手法であり、だからどうなのか、これからどうすべきなのか、明確な結論が示されるわけではない。
    そもそも現代において戦争を語るときはどうしても、恣意的または無意識的な操作が入り込む余地が多すぎるが、本書ほどその気配を薄くできた本は他に知らない。
    これをベースに個人が戦争についてのリテラシーを身につけるのは当然の使い方として、
    それ以外においても。物事を考えるときにどのように経済効果を考えるか、という思考の構築に役立てるだろう。

  • 戦争を、経済的な視点から説明した一冊。
    経済の専門的な用語が多く出てくるため、経済について専門的に勉強をしたことがないと深い理解まではできない。
    しかし、専門的な解説以外の部分も多く、平易な文章表現と例え、細かな章分け、要点、などから、非常に分かりやすく読みやすい本ではある。経済学についての基礎本を読んだ後に、再読したい。

    本書は、戦争、軍隊、内戦、テロ、大量破壊兵器について述べているが、特に内戦やテロの項目は興味深く面白かった。日本人としてはなかなか馴染みのない送金方法であるハワラ取引についての項目や、自爆テロに向かう人々の心理を合理性の観点から解説している点(心理学の本ではまずこんな解説はないだろう)は、興味深く勉強になった。

    映画「ブラッド・ダイヤモンド」を見て、戦争と経済の関係性に興味を持ち本書を読んだが、本書の内容を踏まえてもう一度映画を見直してみたい。また違った視点から映画を鑑賞できるかもしれない。

    本書は数か所に誤字が見受けられた。

  • つんどく。

    【目次】
     謝辞/序文
    第1部 戦争の経済効果
     第1章 戦争経済の理論
     第2章 実際の戦争経済:アメリカの戦争 ケーススタディ
    第2部 軍隊の経済学
     第3章 防衛支出と経済
     第4章 軍の労働
     第5章 兵器の調達
    第3部 安全保障の経済面
     第6章 発展途上国の内戦
     第7章 テロリズム
     第8章 大量破壊兵器の拡散
      付録 事業・プロジェクトとしての戦争
      訳者解説/参考文献/索引

  •  「戦争はもうかる事業なのか」を経済学を使って検証する……っていうのがおもしろい。朝鮮戦争までは、戦争は経済を刺激したけれど、それ以降はそういう原則は崩れている。要するに、余剰の生産力があって失業があって不況の状態にあるときに戦争が起これば景気はよくなる。でも、いまはそういう人命や物量をたたきつけて地面に埋めるような戦争じゃなくなってるし、常駐軍の範囲内で間に合ってしまうので公式が成り立たないというのだ。
     こういう大きい戦争だけでなく、途上国の内戦や、PKO活動、大量破壊平易の拡散などもまな板の上にのせて、それを経済学から見るとどうなるかという話になっていて、議論の広がりがおもしろい。たとえば、途上国で紛争が起こるリスク要因としておおきなものはなにか? 〈もっとも強力なものは、その国のGDPの相当部分が原材料(鉱物、宝石、石油などの天然資源)の輸出からきているという条件だ。具体的には、原材料依存度がGDPの26%に達すると、紛争リスクは最大になる。〉なんてことを解説した後、人々の所得格差がどのように紛争に関係あるかを説明するくだりなど、説得力がある。〈最大の民族集団が人口の45-90パーセントを構成しているとき、紛争が起こる確率は28%になる。比較的均質な民族構成(主要な民族が人口の9割以下)の国で紛争の可能性が高くなるのは、支配的な民族が少数民族からリソースを奪うことで利益を得たりするからだ。でも、ほぼ完全に優位だと(1つの民族が9割以上を占める場合)、紛争の可能性は減る。少数民族があまりに少なくて、それを収奪してみたところで、リソース収奪行動の費用のほうが大きくなってしまうからだ。〉
     言ってることは普通のことでも、数字が入るとなんかすげーナットクしちゃうとか。反対に、数字で示されると意外な結果になるとか、「へーふん率」の高い本だった。

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