• バジリコ
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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862381002

感想・レビュー・書評

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  • とても美しい、幻想小説だった。

    幻想と現実のヴィジョンの境目はなく、血も髪も氷も、凄惨で美しい。
    生死に大した意味がなく、痛みと恐怖と幻想の世界に、ただただ浸かっていた。
    他のも読みたい。

  • 文庫版まで出た、というので読んでみたのだったが、主観的で見通しのきかない世界に終始している感が強い。虐待された過去を持つアルビノの少女を、二人の人物が、一方は自分のものにしようと他方は救出しようと繰り返すのだが、実はどちらの人物も「私」なのでは、ということに早い時点で気づかされる。作家自身の持つオブセッションにつき合わされているようで居心地が悪い。他者というものが存在しないエゴセントリックな世界になじめない読者であるこちらの方が、所詮縁なき衆生なのかもしれない。

  • なんかすごい!! 何度も再読したい。 (幼並感)

  • 起こっている事象を理解しても、次の行では先ほどまで描写されていた事象が全てなかったことになっている。現実か妄想か、はたまた夢か、そもそも視点は統一されているのか、最後まで答えは示されない。好き嫌いがかなり分かれそうな作品。

  • SFともとれるけれども、そうでない要素もあるのでね…

    冒頭から察することはできることでしょう。
    もう確実に世界が終わりを迎える世界軸です。

    そんな中何らかの使命を帯びた男が出会ったのは
    何やら訳あり気な少女だったわけです。
    そして、彼は少女を追い求めますが…

    これってまさか「○○」じゃないよな…
    結末は確実に破滅な点で
    なんとなくそう思えるのよね。
    あと著者に関しては…

    滅ぶものは美しい。
    さいごのあがきがな。

  • 妄想と現実、自己と他者との境界が曖昧な主観を綴る濃密な文章のかたまり。
    迫りくる雪と氷に追い立てられるように読んだ。
    権力と支配の象徴である長官と同化することで、自身もそうだと錯覚する主人公。反転して、認めがたい自身のパーソナリティを自覚するための鏡像たる長官。少女の自立を許さずに、自分の庇護下でなければ生きられないのだと共依存を望む歪な欲望。
    著者もこのような世界を見ていたのだろうか?そして自分ならあなたを救うことができるし理解したいと言い寄るうぬぼれた人たちに嫌気が差していたのだろうか。

  • まず、これが1967年の作品だということに、ひどく驚かされた。読みやすくて、全く古びていない。ほとんど改訳というのも頷けた。

    カヴァンの作品は、これで2度目の出会いだが、最初は、主人公の終始一貫しない行動理念にいらいらして、つまらなく感じられた。

    しかし、終盤にきて、まさにこれが生きているってことだよ、と至極納得させられた展開が、圧倒的な終末論をあおる風景の描写と相まって、とても美しく感じられた。

    また、時折、矛盾している描写が明らかに挿入されている寒々しさは、カヴァン特有の、幻覚を見せられている感(これが主人公自身の幻想か、作者自身の幻想かは分からないが)があって印象に残るし、主人公と長官と少女の3人が、1人の人間の様々な人格を表しているのではと思わせる感じも、怖いけど、何か惹き付けられるものが私の中にはあった。

    最も怖かったのは、死の間際という、刹那的瞬間でしか、生きているということを感じられないかもしれないと思ったこと。

  • 再び氷河期に入ったのか氷が迫り来る世界で、北国のスパイのような中年男の主人公がアルビノの「少女」(とだけ書かれてるけど、実際は大人の女性)を追ってあちらこちら危険な旅をするというような話。男は「少女」に対する庇護欲と嗜虐的な欲望の間で揺れており、「少女」の方も男に対してアンビヴァレントな態度をとっている……とだけ書くと、なんだか普通の小説のようだけど、場面はいきなり飛ぶし、誰の視点かわからない描写が続くし、書かれていることが主人公の幻想だか現実だかわからないし、ついて行くのに頭がくらくらするような幻想小説(作者は重度のヘロイン中毒だったと後で知って納得した)。
    迫り来る氷の壁、それが頭の上で轟音と共に崩れ落ちててくるイメージ、その氷とも共鳴するような透明感のある少女のイメージが美しい。破滅に惹かれているところが少しバラード風(そういえばバラードの推薦の言葉が裏カバーにあった)。
    でも中年男の狂気じみた執念に付き合うのは疲れる。

  • あるとき、世界規模の異常気象が起き、かつてない寒波が人々を襲う。氷の力に屈して滅びてゆく国々。生き残った人々の絶え間ない抗争。主人公の「私」は、とある国の重要機密に携わる身だ。しかし迫り来る人類の終末を目前に任務を離れ、己の心の欲するままに旅を始める。その旅とは、かつて愛した一人の少女を追い求める旅だった。白銀の髪と華奢な肢体。か弱く孤独な彼女は、男から男へと流れ流されて生きている。
    虐待されて育った少女の犠牲者のような表情がそうさせるのか、少女の庇護者は常に彼女の加虐者でもある。少女が「私」を捨てて夫に選んだ男性も、少女を拉致した「長官」も、暴力と高圧的な態度で少女を支配する。
    「私」は「長官」の支配力に魅了されつつ、彼の手から少女を助け出そうと奮闘する。そんな「私」の中にもまた、少女へのサディスティックな欲望は潜んでいる。男たちの少女への執着は、愛情というよりむしろ強迫観念的なもので、その点についてだけは支配関係が逆転していると言える。特に「私」の少女への執着心は病的なほどだ。男たちと少女、加虐と被虐の危うい関係が燠火のように行間を焦がす。そしてその火をも消し去ろうと忍び寄ってくる氷の存在感が寒々しい。
    苛烈に凍てついてゆく現実世界と、「私」が頻繁に陥る退廃した幻視の世界。交互に現れる二つの世界が織り成す物語は氷雪のタペストリであり、倒錯した愛のファンタジーでもある。無国籍で綴られる上、主人公たちに名前も個性も付与されていないため、寓話としても読める。奔放に行動する「私」の資金や移動手段が決して尽きないのは、現実にしてはあまりにご都合主義。
    しかし、この物語の真の主人公は世界を覆う氷であり、リアルであるべきは氷がもたらす終末のヴィジョンだけなのだと、読後に納得した。
    翻って私たちの現実世界を眺めれば、温暖化が叫ばれる昨今だ。しかし映画『デイ・アフター・トゥモロー』で描かれたように、温暖化の後に氷河期がやってくるという学説もあるという。学説が正しければ本書は予言書ともなるだろう。終末が迫るとき、人は最も自分の心に忠実になる。そんなシンプルな真実も、再認識させられる。

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著者プロフィール

1901年フランス生まれ。不安と幻想に満ちた作品を数多く遺した英語作家。邦訳に、『氷』(ちくま文庫)、『アサイラム・ピース』(国書刊行会)などがある。

「2015年 『居心地の悪い部屋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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