新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に

著者 :
  • バジリコ
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862381293

感想・レビュー・書評

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  • ずっと読みたいと思っていたが、刺激的でおもしろかった。

  • たとえば、ある沖縄の農家はマンゴーをネットで販売していますが、ただ単に販売しているだけでは売れないし、お客さんも集まらないので、マンゴー畑の写真をアップし、おいしいマンゴーの栽培について情報を掲載し、また日々情報更新を行い、コンテンツを絶やさないように努力しています。これは、この農家のウェブサイトはもはやメディアなのです。マンゴーを中心としたコンテンツを編む、年商数千万〜一億円規模のメディア企業と言っていいかも知れません。

    特定の読者に対して情報を提供し、コミュニティを組成し、そのコミュニティに価値が宿るのではないでしょうか。つまり、メディアビジネスとはコミュニティへの影響力を換金することであり、自動車販売や家電品のようにすっきりしないのは、一台売っていくら、という商行為ではないからです。メディアという言葉のうさん臭さと高貴さは、コミュニティの価値を自らプライシングしているからであり、その価額と価値については厳密なモノサシ(発行部数やページビュー数)以外に上乗せされる部分、ブランド価値が付随するからです

    楽天がなぜTBSを買収したいのか、この解は「放送と通信の融合」などと語られたりしますが、もっと簡単に言ってしまえば、それはウェブ上においてオーディエンスを惹きつけるためには、すべてのサイトはメディア(情報を核としてユーザーを引きつける)化しなければならないからでしょう

    一部のマスコミ人の悪いところは、「誰かがお膳立てしない」と文句ばかり言うところです。「それ、儲かるのか?」、ううむ、儲かることが明らかだったら皆やってるよ!市場を創出した先人たちは寝ないで考えたんですよ。次を明らかにすべきかと


    アテンションエコノミー
    インターネットやさまざまなメディアプランニングの普及により、情報が供給過多となり、その中で人々の注意(アテンション)を喚起すること自体が、経済活動の中でも重要な役割を占めていることです。そして、人間のアテンションは無限ではなく、有限であるため、狭いパイの奪い合いとなるわけです

    ウェブではトラフィックが通貨と言われているが、メディアにおいては、アテンションこそが通貨
    大切なのは、アテンションの濫用ではなく、グッドインテンション(善意)に立ったコンテンツの運用にメディアとしての自覚を持つこと。もう退屈なお仕着せコンテンツや、うざいSPAM(迷惑メール等、不要な無差別配信コンテンツ)は要らないってことなんですけどね。

    アグリゲーター

    紙のメディアと違い、パッケージングされた文脈から切り離されたコンテンツは、単独にデリバーされたとき、ユーザーのアテンションをどれくらい喚起できるのか

    見込み顧客や投資家、それらの予備軍に対し、アテンションを喚起するためには、「よりアクセスしてもらい、囲い込むためのコンテンツ」戦略が基本となる。これは、すでにメディアパワーが受け手側に移譲されたという認識でよいかと思う。それを前提にコンテンツ戦略を練らなくてはならない。メディアパワーは、発信者側がコントロールできるものであるという話は、メディアの数が限られていた時代の話。そんな中受け手が欲するコンテンツを供給することが、メディアの持つグッドインテンションになる

    アテンションを喚起し続けるには、記事タイアップは「点」でしかありません。さらに、インターネットのおかげで、たとえばクルマ雑誌なら「あのメディアは外車礼賛のくせに、広告をもらっているから、国産のホニャララ社のクルマばっかり褒めてるぜ」ってのがバレバレになっています。また、ある業界向け雑誌には企業のトップが記事を書いていますが、実はお金を払ってページを買い取り、寄稿しているように見せかけているだけということもあります
    点と点を繋いで線とするには継続する必要がある。しかし、さらにそこからユーザーの中に文脈を醸成させ「面」にまで持って行くためには、専業のメディア企業が発行する媒体の中で繰り返しても、コミュニティ組成はなかなかできません。
    応援団をつくるためには、企業自らが発行者となり、メディアを継続運用するほうが効率的なのです。なぜなら、コンテンツによって、人々を集め、そこからコミュニティを組成するということは、メディア企業が自社媒体で行ってきた活動そのものなのですから。そのためには、顧客層の気分を先取りし、またニーズに合うコンテンツを送り届け、信頼関係を醸成する必要があります。つまり、メディアになるということなのです。アドバトリアルやタイアップ記事などは、コンテンツ=提供したい情報という、提供したい情報をいかにユーザー側の視点で再構成し、アテンションを獲得するかというテクニックに立脚していますが、わたしが述べるアテンションエコノミーの時代は「アクセスしてもらうためのコンテンツ」戦略では、方法論は異なります
    むしろ、こそこそと記事に宣伝を忍ばせるのではなく、堂々と広告すればいいんです。つまり、受け手側主体でコンテンツを編むとき、企業側が読んでほしい記事はエディトリアルのオマケとなるのです。なぜなら、メディアはあくまで相手が読みたいものを提供するわけですから。その企業が言いたいことが第一義に来る訳ではありません。最初に想定読者が読みたいものを提供し、そのインターバルに言いたいこと(売り込みたいこと)を織り込んで評価を待つのです。
    広告の功罪はいろいろあるでしょうが、たとえば、哲学も技術もなにももたない金儲けしか頭にない企業を、よりよく魅せてあげる片棒を担ぐことがままあります。しかし、これからはネットがある限り、そういった底上げ作戦も長くは続きません。後に問題を起こしがちな新興企業ほど宣伝費を多く遣うものです。今後は、「本物」として思想や技術を発信することで、ブランドとなり、またモノ言う消費者たちとの友好的な関係を築くべき転換点にあるのです
    それも既存メディアが「これはあくまで、スポンサーではなく自分(=既存メディア)の主張ですよ」というように、お金をもらってこっそりと織り込むやり方ではなく、企業自らが「われわれの言いたいことはこれですよ」と、堂々と織り込めばいいのです

    PRからストーリーの提供へ
    企業が言いたい情報の提供ではなく、相手が読みたいストーリーを提供すること。そして、そのストーリーの中や、あるいは近くに「企業が言いたい情報」への導線を確保することが必要になってくるでしょう

    コンバージョン
    CTR(クリック率)

    ストーリーの提供で価値を創出する
    コンテンツセントリック
    MommyCast.com、前田建設ファンタジー営業部

    多くの人は、これまでのマスメディアと同じ延長で新しく勃興するメディアを捉えがちです。そのため、文脈を欠いたまま、コンテンツばかりに頼り過ぎる傾向があります。むろん、ある種のコンテンツは人を動員する威力を持っていることは事実です。しかし、肝心なのは、そのコンテンツにあった「再クリエイティブ」にあると思われます。つまり、新しい価値を創出する場合、コンテンツよりも文脈を編むことの方が重要であり、それはある意味、より創造的な方向を選択するということを意味します

    未来を見通す法則(未来学者ポール・サッフォ)
    見通せないことがあることを知れ
    突然の成功は、20年以上の失敗の上にある
    未来を見通すには、その倍、過去を注視せよ
    前兆を見逃すな
    (見通すときは)中立であれ
    物語れ、あるいは、図にするがよい
    自分の間違いを立証せよ

    「他人の進化を奪取する」ためには、「進化なき場所」が最適なのです。そのような領域は、まだまだ未開拓の地なのですから

    情報の種類
    フロー=新聞雑誌 ストック=書籍 エコー(こだま)

    日本の出版社は「ディストリビューションオリエンテッド」であり、デジタル化についてはディストリビューションチャンネルが増えた程度の認識であることが多々ある。本当は、「ユーザー・オリエンテッド」もしくは「テーマ・オリエンテッド」による、ビジネスの水平展開について検討するべき

    メディア企業の可能性は、「自らが編んだ情報を伝えたい」という編集者の欲求を満たすためにのみ存在するのではなく、そこから先の「情報によって、つながった人たち」の欲求を満たすために、何をすべきかを考え、立体的にサービスを提供できるよう価値転換をはかるところにカギがある

    よく語られる「マスメディア対ウェブメディア」や「オールドメディア対電子メディア」という構図は、メディア設計の観点から換言すれば「ブロードキャスト対ターゲットキャスト」ではないでしょうか。これはコンテンツ・プランニングからデリバリーまでを含めた設計思想の差異でもあります。ブロードキャストの場合、大きな喚起を促すなどして、認知(パーセプション)の変化をもたらす「投げ網大量漁業」といった感じですが、ターゲットキャストは、狙う獲物によって仕掛けや餌、釣り場が変わってくる「ピンポイント漁業」になります

    出版はプロトコル(手順)であり、編集というスキルがあれば、紙というメディアのみに特化することなく、幅広くメディアを組成できると思う

    パッケージングメディアは、芸術作品のように「閉じていて」それ自体が完結しています。それゆえ鑑賞の対象にはなりますし、編者のプロ意識も高いのですが、ウェブメディアはフローによって成立しているのでそこからアクションを起こすことに繋げなければ意味がない

    極論すれば、インターネットは情報が商材。どんなビジネスをしているのかは関係なく、換金化手段の違いであり、人々の関心を集めるのはあくまでも情報。ですから、情報の見せ方や並べ方、他サイトへの導線の作り方など、メディア企業や小売店、卸屋さんでもやるべきことは同じなのです

    フローが高くなっても人間にとっての時間は有限ですから、閲覧できるコンテンツ数は限られます。そんななか、「なにを知るべきか、またどのような意味があるのか」といった文脈を編むことが、より重要になってくるかもしれません。情報の収集はソフトウェアでできますが、文脈を編むためには人間の視点が欠かせません。そのような編集の価値がいまより高まるだろうと思われます。なぜなら、相対的に質が低いものが萬延するからです

    人間は便利を欲しつつも、どこかで折り返し地点のようなものを内蔵していて、過剰な便利さに疲労するとそれを折り返し地点とした揺り戻しが起きるのではないかと。そして、書店はそれらの揺り戻した人々に対して、どのようなソリューションやサービスを提供できるのか、つまり、高付加価値化が課題だと考えます

  • 出版社(特に雑誌)が、オンラインメディアで何が出来るのか、何に特化すべきなのかということが、体系的に良く書けている。

    WEBの連載をまとめたということで、仕方が無いという面もあるのだろうが、文体は同じでも、調子が回によって異なっており、読みにくさを感じた。「」のような、定義づけの文章がやたら多い回があったり、ノリが軽かったり、堅かったり。。。。

    連載を本にする際は、加筆修正をきちんとやって欲しいな。
    メディアを論じている本で、この読みにくさはねーだろ。と思う。
    著者は、プロデューサーに過ぎないということなのだろうか、それとも担当編集者の怠慢か。

    内容は、5点
    書籍としての評価は、3点

    間を取って、総合評価4点。

  • 編集者としての意義をあえて再定義してくれたのが、とっても心に響きました。

  • 「フロー」と「ストック」とは別に「エコー」(コピーと換言してもいいもの)という情報の種別を持ち出している点は、あらためて興味深い指摘のように思う。「編集という行為は、情報のハブ(データの集約・中継装置)づくり」であり、「雑誌の価値は編集者でも、記事にあるのでもなく、それは雑誌を取り巻くコミュニティにある」とするならば、いかにして振舞うのがもっとも合理的であるか、という問いかけ。

  • 特にメディア系、IT系の仕事をされてる方はすぐ読んだ方がいいです。良書だと思います。ただ、情報鮮度がありそうなのでここ半年〜1年で読まないと意味なくなります。ほぼ同じ世界にいる人間としては、「そんなIT系も過去の既得権益を守ることで精一杯じゃない?」という気がしなくもないですが、やっぱり全般的には良書です(2009.05.21読了)

  • 「新聞・出版よ、もういちど勃ちあがれ。そのための方法はこんなふうにある。早いところ目を覚ませ。」と言っている本。
    でもこれを読んで動き出せる業界人がいるかどうかは、不明。
    もしかしたら、ここで取り上げられている事象(Webで起こっていること)の理解が、脳内に実感として具体化できないかもしれない。

  • 新世紀メディア論 新聞・雑誌が死ぬ前に
    小林弘人

    1. あなたの知っている「出版」は21世紀の「出版」を指さない
    2. 「注目」資本主義は企業広報を変えた
    3. ストーリーの提供で価値を創出する
    4. デジタル化で消えてゆくのは雑誌・書籍・新聞のどれ?
    5. 雑誌の本質とは何か?
    6. 無人メディアの台頭と新しい編集の役割
    7. 既存メディアの進化を奪う
    8. 名もなき個人がメディアの成功者になるには? マジックミドルがカギを握る
    9. 名もなき個人がメディアの成功者になるには? 人はコンセプトにお金を投じる
    10. メディアが変わり、情報の届け方も変わった
    11. 個人ブログはメディアか?
    12. ブログ時代の新しいメディア・ビジネス
    13. 地域コンテンツというキラー・タイトル
    14. ネットでブランドメディアを確立するには?
    15. 立ち上げたら稼げるという幻想は捨てなさい
    16. 情報のリサイクルや整理整頓による新種メディア台頭
    17. ニッチメディアがプロフェッショナル出版の主流になる
    18. ウェブメディアはターゲットキャストである
    19. ウェブメディア全盛時代の新セオリー
    20. スォーム時代のメディア・ルネッサンス
    21. ブティック・パブリッシャーとマスメディア 出版の新しいカタチ
    22. ブティック・パブリッシャーとマスメディア 小さく生んで大きく育てる
    23. ブティック・パブリッシャーとマスメディア ビデオキャストの可能性
    24. ブティック・パブリッシャーの換金化
    25. 米国出版者のアプローチにみるウェブメディア トレンドの波は3年周期に
    26. 米国出版者のアプローチにみるウェブメディア 取り組みのバリエーション
    27. 「誰でもメディア」時代のジャーナリズム
    28. 「誰でもメディア」時代を生き残るには?

    ネットのクオリティと可能性を知ること。
    メディアの未来、広告の未来。
    無限に増殖する声は、拾われ、広げられ、大きな力を作り上げていく。

  • 半分くらい読んだ(090430)。
    なかなか読み進めない。

  • 一言で説明すると『あらゆる情報ビジネスが出版であり、メディアであるため、今後過度に増大するメディアの洪水の中で、いかに既存メディアが生き抜くか、もしくは、新メディアが、既存メディアの果たすべき進化を奪取できるか』ということについて書かれています。

    これからのメディアを生き残るための編集者という視点で語られているところが面白い。

    「そう、編集とはその対象と分かち合う相手への『愛』」

    「玉石混交ゆえ、質の低いメディアも夥しい数に上ることでしょう。今後はこれらをスクリーニングすることが、人力、つまり編者の力となるかもしれません」

    ■未来を見通す法則 - ポール・サッフォ
    ・見通せないときがあることを知れ
    ・突然の成功は、20年以上の失敗の上にある
    ・未来を見通すには、その倍、過去を注視せよ
    ・前兆を見逃すな
    ・中立であれ
    ・物語れ、あるいは図にせよ
    ・自分の間違いを立証せよ

    ■WEB時代の編集者
    (1)ウェブ上での人の流れや動きを直感し、情報を整理して提示する編集者としてのスキルを有する
    (2)システムについての理解をもち、なおかつUIやデザインについて明確なビジョンと理解をもつ
    (3)換金化のためのビジネススキーム構築までを立案できる職能者である

    「“次代の編集者”は、いま考えられている“編集者”ではなく、越境によって職能を超えた地点に立つものと推測される」


    まあ、大変興味深く、ためになる本ではあるのですが、小林弘人がカタカナ好きすぎでビックリします。
    編集者なら、もう少し平易な言葉でわかりやすく書けないものだろうか…。

著者プロフィール

1965年長野県生まれ。株式会社インフォバーン代表取締役CEO。
1994年、雑誌『ワイアード』日本版を創刊。1998年、インフォバーン設立。月刊『サイゾー』を創刊。ブログ黎明期から著名人ブログのプロデュースに携わり、眞鍋かをりを筆頭にブログ出版の先鞭をつけた。また、数多くのウェブサービスを立ち上げ、IT業界の仕掛け人として知られる。2007年、全米で著名なブログメディア「ギズモード」の日本版を立ち上げる。
著書に『新世紀メディア論』(2009年4月/バジリコ)がある。

「2010年 『【電子書籍版】デジタルコンテンツをめぐる現状報告』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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