若者たち-夜間定時制高校から視えるニッポン

著者 :
  • バジリコ
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862381354

作品紹介・あらすじ

夜の闇にひっそりと佇む夜間定時制高校。そこには、時代の矛盾が見事なほどに堆積していた!ヤンキー系、いじめ被害者、元・援交少女、被虐待児、リストカッター、性犯罪被害者…さまざまなアウトサイダーが集う、教育システム最底辺校で見たリアルな日本の現実。生きることに希望を見い出せない貧しい人々の世代間連鎖。親と子、地域社会、あらゆる関係が分断される孤独大国・日本。格差、ワーキングプア、闇社会、精神の病…時代の矛盾を真っ先に受け止める若者たちに、いま何が起こっているのか?その最前線を伝える衝撃のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 本書に記されているのはヤンキー系、いじめ被害者、元・援交少女、被虐待児、リストカッター、性犯罪被害者…さまざまなアウトサイダーが集う、教育システム最底辺校で見たリアルな日本の現実でございます。

    あまりプライベートのことなので、書くのは躊躇するのですが、僕の生家の近くには定時制高校が二つあって、夜、家に帰るときにはそこの学生らしき男女とすれ違うことが時々あります。近い将来にはそこを取材してレポートにまとめて公開をしてみたいという思いも若干ないではないのですが、それがいつになるかは見当がつきません。

    本書では夜間高校、もしくは定時制高校に通う生徒たちを通して、現代日本に存在するさまざまな「矛盾」を浮き彫りにするものである、と個人的にはそう捕らえております。また話し外れますが、大学時代に出会った人間のうち、何人かは定時制の高校出身者で、彼らか彼女らの話を少しだけ聞いたことがありますが、まぁ、本当に「昼の世界」しか知らなかった当時の自分には衝撃的なことばかりで、そういったことも読みながら思い出しておりました。

    この本に出てくる定時制高校の生徒たちはヤンキー系、いじめ被害者、元・援交少女、被虐待児、リストカッター、性犯罪被害者…、とそれぞれがそれぞれに重い過去を背負っており、本書に出てくる高校の先生が「定時制高校はトレンディですよ」と筆者に語っていた理由が本当によくわかるような気がしました。

    読みながら思い出したことが「夜回り先生」こと水谷修先生が当時進学校に勤めたころ、夜間学校に勤める友人の先生とすし屋で飲んでいたときに
    「寿司だって魚を選ぶよな。腐った魚じゃ、うまい寿司は握れない。教育もそうだ。お前は優秀な生徒に恵まれ優秀な教育が出来る、でもオレが勤めているのは夜間高校だ。腐った生徒に、いい教育は出来ない」
    という言葉をきっかけに大喧嘩となり、その友人は学校を辞めて塾の講師に、水谷先生は進学校を辞めて夜間高校の教師になったそうです。そんなことを思い出しました。

    それはさておき、ここに出てくる生徒のほぼすべての背中に重くのしかかっているのは日本社会のあらゆる矛盾―生きることに希望を見い出せない貧しい人々の世代間連鎖。親と子、地域社会、あらゆる関係が分断される孤独大国・日本。格差、ワーキングプア、闇社会、精神の病…。そういった「負」の部分が一点に集約されているような気がしてなりませんでした。

    「希望」というものはそれぞれの中にしかない、というのが僕の考えでありますが、彼ら彼女の中にも、願わくばそういうものがあってほしい。そういうことを願ってやみません。

  •  テレビ・ドキュメンタリーや報道番組を多く手がけてきた映像ジャーナリストの著者が、9ヶ月間にわたって2つの夜間定時制高校に通いつめ、生徒たちや教師、父兄たちに取材したノンフィクションである。

     味も素っ気もないタイトルはいただけないが、内容は素晴らしい。濃密で読みごたえのある良質なノンフィクションであった。

    《夜間定時制の取材を始めてまず感じたのは、まるで野戦病院のような場所だということだった。夜間定時制高校は、学校という戦場で、あるいは家庭で、傷ついてきた若者たちが運び込まれてくる野戦病院である、そう思った。》

     著者がそう書くとおり、本書で光を当てて描かれる約20人の生徒たちは、それぞれ深く傷ついた心をもっている。性的虐待やレイプ、イジメの被害者であったり、援助交際をくり返したり、リストカットの常習者であったり……。
     いっぽう、恐喝する側、暴力をふるう側の生徒も登場するが、彼らの暴力の背景にもまた、親などに深く傷つけられた体験がある。

     いわゆるケータイ小説はほとんどの場合絵空事だが、本書には、ケータイ小説に登場するような壮絶な青春を送る生身の若者たちが多数登場するのだ。彼らが語るエピソードのすさまじさに、読者は終始圧倒される。

     登場する生徒たちが、著者には心の傷をさらけ出して語っていることに驚かされる。著者が取材者としてきわめて優秀である証であろう。そして、彼らが心の傷について語る、血を流すような言葉の一つひとつが、深く胸を打つ。

     たとえば、生後間もなく親に捨てられ、乳児院に入れられたという少女が語る、こんな言葉――。

    《「本当のお母さんに会えたら、何をしてほしい?」
     私は彼女に尋ねた。
    「名前を呼んでほしいんだ。『ヒカリ』って」
     彼女は間髪を入れずに答えた。
    「それだけ?」
    「ええ。それだけで充分よ」》

     また、子どものころに母親の男友達から性的虐待を受け、母親からは暴力をふるわれ、イジメやレイプの被害者でもある少女との、こんなやりとり――。

    《「死にたいと思ったことはなかった?」
     私は思わず、ケイコに聞いてしまった。
     ケイコはちょっと考えてから、しっかりした声でこう答えた。
    「死ぬ? 違うね。消えてなくなりたい。生まれてこなければよかった。そんな感じかな」
     それからケイコは挑発的にこちらを見た。》

     日本の若者たちが抱えたさまざまな問題が凝縮された、夜間高校という場所。そこをフィルターとして教育問題を語った本だが、傷ついた若者たちの心に分け入ったルポルタージュとしても秀逸だ。

  • 私は
    誠心誠意を持って
    他人と関わっているのだろうか。

    寛大な心で
    その人の“人となり”を
    受け止めて受け入れて生きていきたい。

  • 広い教育に取り組んできた定時制定時制だから出来ること

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著者プロフィール

ノンフィクションライター・映像ジャーナリスト。1978年早稲田大学卒。80年代より映像作家として、アジア文化、マイノリティ、教育問題などを中心にドキュメンタリーや報道番組を手がける。
著書に『ヌサトゥンガラ島々紀行』『ビルマとミャンマーのあいだ』(凱風社)、『老いて男はアジアをめざす』『若者たち―夜間定時制高校から視えるニッポン』『六〇歳から始める小さな仕事』(バジリコ)などがある。

「2012年 『アジアの辺境に学ぶ幸福の質』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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