終身刑の死角 (新書y 222)

著者 :
  • 洋泉社
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本棚登録 : 60
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862483539

作品紹介・あらすじ

ギリギリの決断を迫られかねない裁判員の死刑判定を回避すべく、死刑と無期刑の中間刑として導入が検討されている「仮釈放なしの終身刑」。だが、出所という一縷の希望もない終身刑囚を、現場の刑務官はいかに統制するのか。導入後に待っているのは、たとえ刑務所内で暴れてもこれ以上、刑が重くなることのない終身刑囚への優遇措置の蔓延と、寝たきりの彼らの介護、そして"死の看取り"である。"死ぬまで監禁刑"が孕む弊害を、法社会学の俊英が問う。

感想・レビュー・書評

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  • ○「物騒な世の中になったねぇ」とはごくありきたりな聞く会話ですが、実際わたしたちは凶悪犯罪の報道をたびたび見かけます。そうしたメディアの影響からつくられていった厳罰化を求める風潮と、それとは反対に死刑を廃止すべきだという考え方を折衷するように生まれたのが、仮釈放のない終身刑(絶対終身刑)を導入すべきだという考え方です。つまり「死刑では非人道的、けれど社会復帰の適わない犯罪者(野放しすべきではない犯罪者)もいる。だから絶対終身刑だ」ということですね。そんな背景を踏まえて、この本は、絶対終身刑の根底にある厳罰化・死刑廃止の流れに”待った”をかけるところから始め、絶対終身刑を導入する動きに対して切り込んでゆきます。

    ○そもそも、人々が何となく「物騒な世の中になった」などと語るのとは裏腹に、統計データからは凶悪犯罪の増加は読み取れない。そして、無期懲役刑についてしばしばいわれる「10年で仮釈放(凶悪犯の野放し状態という論調)」もルール上の話。実際に仮釈放されるのは1%にも満たない人で、いずれも20年以上服役している。さらに、仮釈放された無期刑囚の再犯率は1%(p. 122)。

    ○さらに、絶対終身刑そのものにも問題があるといいます。絶対終身刑受刑者に釈放の望みはないということは、脱獄への意欲が増すことにつながりかねません。そうすれば、受刑者のために設備を堅牢にする必要があるでしょう。また、彼らが刑務所のなかで生きがいを持てるような待遇(優良な態度をとれば優遇されるというような)を用意するならば、一般の貧困者よりも豊かな生活ということになりかねない。かといって非人間的な待遇にすればよいというのは、人道的な立場から死刑廃止を唱えることと矛盾をきたしてしまう。

    ○結局のところ絶対終身刑とは、厳罰化と死刑廃止の両方を同時に叶える制度のようにみえて、根本的な誤解があるということなのでしょうね。少なくとも著者によれば。

  • 読みやすくて興味深かった。
    私たちの誤解の元をひとつひとつ解きほぐして、データに対しての現実的な解釈を教えてくれる本。

  • [ 内容 ]
    ギリギリの決断を迫られかねない裁判員の死刑判定を回避すべく、死刑と無期刑の中間刑として導入が検討されている「仮釈放なしの終身刑」。
    だが、出所という一縷の希望もない終身刑囚を、現場の刑務官はいかに統制するのか。
    導入後に待っているのは、たとえ刑務所内で暴れてもこれ以上、刑が重くなることのない終身刑囚への優遇措置の蔓延と、寝たきりの彼らの介護、そして“死の看取り”である。
    “死ぬまで監禁刑”が孕む弊害を、法社会学の俊英が問う。

    [ 目次 ]
    第1章 凶悪犯罪の実態―犯罪は増加も凶悪化もしていない
    第2章 日本の刑務所―基本姿勢は「なるべく入れない、できるだけ早く出す」
    第3章 死刑制度の実像―日本の死刑制度はいかに運用されてきたのか
    第4章 無期刑囚の実態―知られざる仮釈放制度の運用状況
    第5章 仮釈放なしの終身刑が抱える矛盾―“死ぬまで監禁刑”は現場の混乱を招く
    第6章 被害者の視点―目指すべきは犯罪者への「厳罰」ではなく遺族の「再出発」
    第7章 日本社会の犯罪者に対する古い掟―犯罪者は世間から永久追放

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    [ 参考となる書評 ]

  • 勉強になった。

  • 「仮釈放なしの終身刑」が抱える矛盾や問題点が著者によって明らかにされていくにつれ、頭が混乱しそうになる。一体何が望ましい方法なのかわからなくなる。だが、書かれていることは明快でわかりやすい。超党派の会の議員はもちろんのこと、いろんな人が読むべき本だと思った。

  • 鳩山内閣に亀井、千葉、福島、仙谷各大臣がいる以上、いずれ議論が巻き起こるであろう死刑廃止問題。
    死刑に代わる最高刑として検討される「仮釈放なしの終身刑」の問題点について分析。
    議論の前提として読んでおいて損はない。

  • 教育機関に身を置いていると、いかに文科省が現場を理解していないか、これを思い知らされること度々である。昨今のインフルエンザ対策を巡る混乱も、おそらく医系技官の現場知らずが大きな要因であろう。現場を知らずに提案される対策は的外れなだけでなく、極めて有害である。そういうわけで、犯罪対策の現場を知りたい方は、同著者による『日本の殺人』(筑摩書房・2009)と併せて、本書の購読を強くお薦めしたい

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