これからの「日本サッカー」の話をしよう 旧ユーゴスラビア人指導者からの真摯な提言
- カンゼン (2010年11月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784862550781
感想・レビュー・書評
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次のステップのための育成の本
読む前の前提として、色々知っておく必要があるかもしれない。
まずは、旧ユーゴスラビアが多くの優秀な指導者を輩出していること。
ボラ、オシムは有名だが、ミリヤニッチ、ボスコフなどレアル・マドリッドにタイトルをもたらした監督もいることを忘れてはいけない。
次に知るべきは、欧州の主要リーグでプレーする外人数をみると、ブラジル、アルゼンチンに次いで多いのが、旧ユーゴスラビアを構成していた国々(スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニア)からの選手になる。
つまりはタレントの源泉でもあり、指導者の源泉でもあるのが旧ユーゴだ。
著者のズドラヴコ・ゼムノビッチも旧ユーゴ出身。
清水エスパルスで指揮も執ったことがあり、現在は千葉県サッカー協会のテクニカルアドバイザーとエスパルスの顧問だそうだ。
彼が持っている知識を残したいということで現実となったこの本は、日本が次のステップへ進むための提言が記されている。
前述の通り、多くの指導者と選手を輩出している国からの提言だとすると、これは耳を傾けたほうがいいに決まっている。
一番大事な点は育成についての箇所だろう。
特に小中高生に対する部分は、あまり日本のマスコミが取り上げない部分なだけにより大事だ。
いくつか紹介したい。
上手い子は甘やかすな
アイディアはミスから育つ
コーチの6か条 SVIDIK
Selekcija 選考
Vodjenje 指導
Igra 駆け引き、ゲーム感覚
Doziranje 加減。練習時間や休憩の取り方、スケジュール立て方
Individualni rad 個別練習、特徴を伸ばすこと
Kombinacija コンビネーション
小学生の育成に関して
スタイルが皆同じ
ミスを恐れる雰囲気を小学生時代からつくり、中途半端な知識で指導するくらいなら、トップリーグを経験した選手を派遣すべき。
この年代は楽しさを知ってもらうことが重要
中学生の育成に関して
3学年で一つのチームになるため、最大の問題
個人の練習時間が少なくなると共に、試合の経験数が少なくなる
高校生の育成に関して
リーグ戦でないため、創意工夫の余地がない
個人練習の時間が絶対的に不足している
ゼムノビッチのこれらの問題に対する提言は、基本的にヨーロッパがそうであるように、1歳毎に区切ってリーグ戦を行うことである。
そうすれば試合数も多く経験し、個人の特徴に焦点をあてやすくなるのではないか?ということになる。
確かに日本では部活という特殊な事情があり、欧州のクラブ文化はまだ浸透していない。
これらの融合に最も取り組んでいるのがサッカー界なわけだが、まだ試行錯誤といえるだろう。
そのためには、大人の指導者が平日に時間を作れる環境が必要になってくる。
言い方を変えると、経済的に指導者として(特にユース)食べていける環境をつくるということである。
優秀な指導者になれるのに、経済的に厳しいがゆえにサッカーとは関係のない職についている人はたくさんいるだろう。
このギャップをできるだけ埋めることが第1歩かもしれないし、逆にJリーグ経験者のエリートをあえてコーチングライセンス取得後数年はユースの指導をする縛りを設定するのもおもしろいかもしれない。
現在U-17代表が快進撃をしている今だからこそ、小中高生の育成に目を向けるべきかもしれない。
そういった意味でも、発売のタイミングも含めて貴重な一冊だと思う。
本の中盤以降は、Jリーグへの提言だったり、ユーゴスラビアのサッカー名人(指導者、選手)の紹介だったり、日本代表論だったりでこれもなかなか興味深い。
せっかくなら彼を千葉県サッカー協会だけに止まらず、協会の指導者のための指導者のポジションに抜擢するとかできないだろうか?
育成年代専門でもいいだろうし、それ以上のレベルも大丈夫だろう。
それになんといっても彼の旧ユーゴスラビア人脈を活かすことも協会に取ってはプラスだろう。
日本には世界でも有数の指導者が来ることがあるのだが、決まって彼の残した功績が彼と共に去っていく傾向がある。
これはどんなスポーツにも言える。
ちなみにゼムノビッチ氏は永住権を取得しているそうだ。
彼はどこにもいかないのだとすると、彼の力をもっと有効活用できないだろうか?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
清水エスパルス元監督で、セルビア人のゼムノビッチ氏が、語り手として西部に協力を依頼して、共著としてできた本。ゼムノビッチ氏の元ユーゴスラビア人としての世界基準と、今の日本のおかれる状況を分析して、日本サッカーがもっと強くなるための提言をまとめている。
本人の自伝や、元ユーゴスラビア人の紹介なども入っているが、基本的には育成の提言が多いと思う。それは、技術の磨き方と、ゲームで自分でアイディアをだして実行する場面を多くするために、学年ごとのチームとリーグ戦を導入していくことだろうと思う。学校の部活の場での育成が多い日本だが、それはメリットとともにデメリットも産んでいる。デメリットもやはり意識していくべきだろう。
しかし、家族でピクニックのように試合観戦をして、応援するJリーグのスタイルは、世界基準からかけ離れていても良い面もある。試合で危険を感じる思いをしたゼムノビッチ氏は、その後日本に移住して何年も住んでいる事から考えても、日本の良さも感じなければならない。
ある意味、のほほんと学校の部活サッカーをしている、日本の光と陰の関係を大きく感じた本だった。