世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
- 英治出版 (2012年11月13日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784862761095
作品紹介・あらすじ
ドラッカーなんて誰も読まない!?米国ビジネススクールで活躍する日本人の若手経営学者が世界レベルのビジネス研究の最前線をわかりやすく紹介。競争戦略、イノベーション、組織学習、ソーシャル・ネットワーク、M&A、グローバル経営、国際起業、リアル・オプション、ベンチャー投資…ビジネス界の重大な「問い」は、どこまで解明されているのか。知的興奮と実践への示唆に満ちた全17章。(Amazon.co.jp)
感想・レビュー・書評
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「世界の経営学者はいま何を考えているのか」
入山教授
1.購読動機
経営に関心があり、かつ事業を発展させる経営とは?を整理したかったから。
当然、この一冊でどうこうなるという結論を期待していなかった。
一方で、著書にある数種類の研究に浅く接することにより、思考回路に穴を開けたかったから。
2.結論
思考に穴をあける、考えを整理するという意味で⭐️五この評価となりました。
3.⭐️五この理由
①不確実性高い現代ビジネス世界
競合がいない業界はもはや存在しないと考えています。
さらに、競合との競争は激化し、かつそのスピードは早くなっているとも考えます。
こうした不確実性が高い現代ビジネスにおいて、企業はどのように計画を作るのがよろしいのでしょうか?
②著書からの示唆
・仮定、ifを必ず書き出しておくこと。
時間軸とともに、検証、洗い替えすること。
・内、外リスクを書き出しておくこと。
外リスクはコントロールしづらい。
ゆえに、行動してリスクを変化、観察できるよう
にしておくこと。
・悲観シナリオ
悲観シナリオを作ること。
その場合、どうする?!を想像、準備すること。
4.言い訳をイメージする
目標、計画。
達成しない場合の言い訳は、
①行動しなかった
②行動したが、やり方が▲だった
のふたつ。
ならば、事前に①と②を重要度高いものに限り、
つぶしておけばよい。
そのようにならない体制、環境を作るという
こと。
#ビジネス書好きなひとと繋がりたい
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枕元に積んでありましたがようやく読みました。
経営学がまだ若い学問であり発展途上という事がよくわかりました。組織の記憶力の考え方が非常に面白かった。 -
昨年末から勤務先近所の書店で平積みされていて気になっていた本だったのだが、アカデミック色が強いのかと思って敬遠していた。しかし、クライアントさんが新年の目標を考えるために読了したとfacebookで報告していたので、それでは読まないわけにはいかないということで読んでみた。
冒頭述べた「アカデミック色」というのはまったくないわけではない。というのは、筆者は非常にリファレンス豊富でさすが学者という感じ。しかし、文章のテンションが著者も言うとおりエッセイ風であったり統計などの難解なものについてはわかりやすく(かなり端折ってが正しい)書かれているので、経営学初心者でも十分読みやすい。
さて、内容はというと、大変実務にとっての示唆に富んでいて、ビジネスマンであれば一読の価値がある。経営者よりもマネジメント業務についている方々が読まれるといい気がする。というのも、経営者としての意思決定よりもう一歩現場に落ちたところでの参考になるものが多いからだ。
個人的には第5章のトランザクティブ・メモリーと第6章の見せかけの経営効果、第15章のRBVが非常によかった。
トランザクティブ・メモリーの考え方は恥ずかしながら初めて目にする理論であった。RBVは私が修士論文を書く際に援用した理論枠組みであったため、それを否定する理論があることを知り、非常にワクワクしながら読むことができた。
筆者も書かれているが、それぞれの理論やフレームワークはもちろん立派なことであるが、経営学の限界としてはそれらを一般化して各企業に落とし込んだところですべてが理論どおりに成長企業になるわけではないことだ。ここが経営学が難しくておもしろいところなのではないかと再認識させられた。
筆者は今後は早稲田MBAの教授になるなんていううわさもあるが、こんなに過激に書いて大丈夫なのだろうか?(笑) -
米国の最先端の経営学者達が、『何に関心を持ち、どんなテーマについて、どのような手法で研究しているのか』が分かりやすく書かれている。
まず、経営学についての3つの「勘違い」から始まる。経営学者は、日本では大人気のドラッカーの本を読まない。これは自分自身の経験からも十分実感できる。MBAレベルにおいても、ドラッカーの著作や論文はほとんど登場しないから。まして、それを超えるレベルでは当然だろう。ドラッカーが「経営学のすべて」であるかの如く演出されていた日本の「ドラッカーブーム」に、著者も相当な違和感を覚えていたことだろう。
ドラッカーの本は、経営学というよりも「名言」や「経営哲学」の集積である。「名言」だから解釈の幅は広く、人によって解釈も異なる。これは科学とは言えない。だからといって、「経営哲学」に意味がないわけではない。「経営哲学」はとても重要だ。
ハーバードビジネスレビュー(HBR)は学術誌ではないというのも納得できる。経営者や経営管理者向けに、(最先端の)研究成果を分かりやすく紹介することが同誌の目的だから。もっとも、MBAレベルではHBRを読む機会はかなり多いし、世の中一般水準からみれば相当学術的ではある。
最後に、ビジネスクールの教授の評価の基準は、良い授業をすることでなく、権威ある学術誌に載せる論文の数だという。ビジネスクールもアカデミックな世界であるから、こうした評価基準は分かるが、行き過ぎてしまうと、現実の経営問題との関連性が希薄になる危険がある。
著者は、先端経営学の主流が演繹的アプローチに偏りすぎているという点に危惧を抱く。演繹的アプローチとは、仮説を設定し、膨大なデータを統計的なアプローチによって分析し、理論を実証するという方法である。また、研究(理論)の新奇性が重視されるため、90%以上の理論仮説が、その後研究者によって実証研究されていないという。放置された理論が山ほどあるということだ。
(老婆心ながら)一点注意すべきなのは、Porter(あるいはMintzbergやBarneyなど)の理論が、今では全く役に立たなくなっている、あるいは、学ぶに値しないということではない。定番理論の「他に」も注目すべき経営理論や研究は沢山ある、経営学は日々進歩している、だからこうした最新の動向にも目を向けるべきだ、ということを著者は主張しているのだ。
定番理論をきっちり押さえるのがいわばMBA教育である。本書の主張の多くは「その上のレベル」の話であることに注意すべきだろう。本書は非常に分かり易く書かれているので、国内外で経営学に関する基礎的な教育を受けていない人にも十分読める内容だが、逆に、(途中のMBAレベルの話が省略されているため)誤解を招く可能性もあるような気がする。
本書では、参考文献(論文)が随所に紹介されているのが嬉しい。特に、内生性、ソーシャルキャピタル、不確実性などが興味深い。RBVも改めて読み直す必要がありそうだ。論文をダウンロードして、時間を見つけて読んでいきたい。
(経済学もそうだが)、社会科学である経営学は、現実の企業経営に役立つ知見を提供すべきものであり、「象牙の塔」の中の論理に支配され、研究のあり方が歪められてしまっては意味がない。今後の経営学の方向性に注目したい。 -
マイケルポーター
SCP
structure conduct performance.競争しないポジショニングを取る事。
組織論
学習にはlearning curveがあり、経験の蓄積により、ある一定レベルまでは急速に生産性、効率性が向上し、これは組織でも同様に言える。
組織では同じ事を全ての人間が学ぶのではなく、各スタッフがそれぞれの専門性を磨き、記憶の分担共有(transactive memory)を行う事が肝であり、この時、「誰が何を知っているかwho knows what」を認識する事が重要。
知の探索explorationと知の深化exploitationの両利きambidexterityを組織的に整備する事。業績が良いと、知の深化を重視した組織創りを進める一方、知の探索を怠りがちになり、知の近視眼化myopiaが起こりやすい。
中長期的なイノベーションが停滞するリスクが企業組織に本質的に内在する。これをcompetency trapと言う。
類似する「イノベーションのジレンマ」は経営幹部個人の認知問題として捉えているが、competency trapは問題の本質を組織に求めている。
Social capital
人と人の繋がりそのものが資本であるという考え。
strength of weak ties
弱い繋がりの方が強い繋がりよりも新しい情報を得やすい。
強い繋がりの人間とは住む世界がほぼ同じであろう為。
Structural hole
ソーシャルネットワークのハブの事。
パンカジュ ゲマワットによる海外進出の留意点
"CAGE"
Cultural 国民性
Administrative 政府
Geographic 地理(本国からどれだけ遠い?)
Economic 所得格差
ホフステッド指数(国民性を数値化したもの)
以下の6項目で全世界のIBM従業員からリサーチしている。
Individualism = Collectivism
Power distance
Uncertainty avoidance
Masculinity
long term orientation
rentraint = indulgence
日本人と最も近いのはハンガリー人、次いでポーランド人。
最も遠いのはオランダ人、スウェーデン人。
born global firm
生まれながらの国際ベンチャー
新事業投資時のCriteria
小額投資をしつつ、不確実性を明らかにしていくReal option手法。
1、全ての不確実性を洗い出す。
2、上記を外生的、内生的に分類する。
3、それぞれの楽観ケースと悲観ケースを想定し、戦略オプションを検討する。
4、段階的な投資に基づいて、それぞれのケースの収益性を評価する。
5、事業開始後、洗い出した不確実性を定常確認する。
ドゥシュニツキー、レノックス「リサーチポリシー」2,289企業30年の調査で、CVC投資が多いほどイノベーションパフォーマンスが高まる。企業価値が高くなる。
理由1
DDの時点で技術を知る事ができる。
理由2
ボードメンバーになる事で、技術やビジネスモデルの情報を知る。
理由3
スタートアップの業績で事業の将来性を判断できる。
M&A
買収プレミアムについて、アメリカは平均35.6%、日本は平均19.9%のプレミアムが支払われている。
新興国が先進国の企業を買収する場合、平均16%のプレミアムを払っている。
コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)
CVCはR&D予算の1-3%。 -
刺激的。日本の経営学は一社または数社を丹念に観察するケース・スタディーの研究が多い。数値化できる経営の法則を証明できないか研究する欧米の経営学のフロンティアの紹介。
・企業とは何か、経営学には四つの視点がある。
①効率性を重視し、「市場取引ではコストがかかりすぎる部分を組織内部に取り込んだもの」を企業と考える。
②企業の「パワー(力)」を重視するもの。
まさに今この事が起きているのが鉄鋼業界。鉄鋼市場は国際的なレベルで見ると企業集中度が低く、多くの企業が小さいマーケット・シェアを持ってせめぎあっています。他方でその主要素材である鉄鉱石の市場はBHBビリトンなどの三大メジャーに牛耳られているのが原状です。そこで鉄鋼メーカーは鉄鉱石メジャーに対して不利な力関係を克服するために、M&Aなどを通じて業界再編を行い、さらには鉄鉱石ビジネスにも参入するようになっています。世界最大の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミタルはその代表例でしょう。
③「企業は経営資源の集合体である」とする見方。
④認知心理学ディシプリンのアイデンティティやビジョンを重視する見方。「企業とは経営者や従業員がアイデンティティやビジョンを共有できる範囲のことである」
・1972年から1997年までの全米40産業、6772社の時系列データを用い、企業が10年以上続けて同じ業界のライバルよりも高い業績を残している場合「持続的な競争優位」を持っているとみなした。
そこから、
①アメリカでは「持続的な競争優位」を実現する企業はたしかに存在するが、その数はすべてのうちの2~5%にすぎない。
②近年になればなるほど、企業が競争優位を実現できる期間は短くなっている。すなわち、持続的な競争優位を実現する事はどんどん難しくなってきている。これはアメリカの企業全般にみられる傾向である。
③他方で、いったん競争優位を失ってからその後再び競争優位を獲得する企業の数が増加している。すなわち、現在の優れた企業とは、長い間安定して競争優位を保っているのではなく、一時的な優位をくさりのようにつないで、結果として長期的に高い業績を得ているように見えるのである。
→つまり、理論的には、より積極的な競争行動を取る企業の方が高い業績を実現できる(実証研究でもいくつかそれを裏付ける研究がある)。
さて興味深いのは、これらの研究で主張されてきたことは、一見するとポーターのSCPパラダイムの「競争しない戦略」と逆の考え方のように聞こえるという事です。SCPの主張の中心はライバルとの競争を避けることにあります(ファイブ・フォースつまり、「新規参入圧力」「企業間の競合圧力」「代替製品・サービスの圧力」「顧客からの圧力」「サプライヤーからの圧力」があり、それをなるべく避けられる業界を選び、それが難しければ業界内でユニークなポジションを目指す)。
・ビジネスでは、同じ業界内の企業同士でも、主要な顧客のいるセグメントがライバル企業と重複していることもあれば、ライバル企業との重複が少ないこともあります。たとえばアパレル業界では、ある婦人服と子供服を作っているメーカーAは、同じように婦人服と子供服を作っているメーカーBとは市場が重複することになりますが、紳士服に特化したメーカーCとは重複度が低い、ということになります。
…アメリカの航空会社では、どの路線に飛行機を飛ばしているかで、企業の間の路線(セグメント)の重複度合は異なります。たとえば1989年のアメリカの航空路線のデータを使った分析によると、アメリカン航空はノースウェスト航空とは路線があまり重複しませんが、デルタ航空と重複度が高いという結果になっています。
このような状況下で、もしアメリカン航空がある路線で価格を大きく下げたらどうなるでしょうか。競合するデルタ航空は、その路線の価格を引き下げるだけでなく、対抗措置としてアメリカン航空が飛行機を飛ばしている他の路線でも価格を引き下げるかも知れません。
このようにコンペティティブ・ダイナミクスの研究者たちは、「市場(セグメント)の重複度が高い企業同士は、互いに積極的な競争行動が取りにくくなる」と主張したのです。
ここからが私論になります。この命題が正しいとすると、ある企業が積極的な競争行動を取れる一つの条件は、ライバルとのセグメントの重複が少ない、ということになります。これはまさにSCPパラダイムの骨子でした。もちろんユニークなポジションを取れているということは「うまく守れている」ということなのですが、ただ守るだけではいつかは競争優位を失う可能性井が高いのですから、同時に攻めの競争行動を取る事も理にかなうはずです。
・一つの病院で過去に行われた1151の関節置換手術のデータを入手した。平均は3.6時間、最短は28分、最長は11.5時間。その組織の学習効率を計測して分かったこと。
①執刀チームが同じメンバー同士で繰り返し手術を経験するほど、手術にかかる時間は短くなる。分析結果では、同じメンバー同士が10回の手術を経験する事で手術時間は約10分短くなる。つまり「チーム」としてのラーニング・カーブが存在する。
②病院そのものにもラーニング・カーブが認められる。病院全体で100回の手術を経験する事で、執刀チームの手術時間が平均で34分知事○ことが確認された。
③個人の経験は、短期的にはチーム・パフォーマンスを下げるがあ(施術中に多くの責任を任され、一時的に作業効率が落ちると解釈できる)、中長期的にはプラスの影響を与える。
・アメリカのすべての企業でラーニング・カーブが存在し、学習効果の高い企業は利益率も高い傾向にある。しかし、産業ごとに学習効果の差は大きい。アメリカで学習効果の最も高い産業の上位三つは、コンピュータ産業、医薬品業、石油精製業であり、逆にもっとも学習効果が低い産業は、革なめし業、製紙業、製糸業だということです。
・組織の記憶力に重要な事は、組織全体が何を覚えているかではなく、組織の各メンバーが他メンバーの「誰が何を知っているか」を覚えておくことである(トランザクティブ・メモリー)。そしてトランザクティブ・メモリーが効果的に働くためには、組織のメンバーそれぞれが専門性を深めている事と、相手が何を把握しているかを正しく把握していることが重要である。
・記憶力ゲーム。科学、食べ物、歴史、テレビ番組など七つのジャンルごとに文章が与えられて、単語を覚える。各カップルはそれぞれ自分の判断でジャンルを選び、その際にペアの相手に相談する事はできない。カップルの合計点で評価が決まる。
交際期間三ヶ月以上のカップルを集め、一部はカップル同士、一部はランダムに入れかえ、その内の半分にジャンルを指定して覚えてもらった。
つまり、
①もともと交際していて、ジャンル指定のなかったカップル
②他人同士で、ジャンル指定のなかったカップル
③もともと交際していて、男女それぞれが覚えるべきジャンルを指定されたカップル
④他人同士で、男女それぞれが覚えるべきジャンルを指定されたカップル
を作った。
①と②では①の方が結果が高くなった。これは、カップル間で相手の好きなジャンルを予測できる、トランザクション・メモリーが形成されていると考えられる。しかし、③と④では④の方が結果が高かった。これは、自然に形成されたトランザクション・メモリーを外部から無理やりゆがめると、両者の軋轢が非効率を生み出すことを示唆している。
・従業員の多くが「他の人が何を知っているか」を自然に日頃から意識できる組織作りを目指すと良いのではないか。
・企業が多角化から高い業績を得られるのは、その企業が多様な知的資産を有している時に限り、多角化自体は企業にマイナスの影響を与える。
多角化と業績の関連だけを数値化して研究すると、知的資産の与える影響を見逃す。
・ウォルマートの成功の理由の一つがその徹底した低価格戦略にあるということは、業界では誰もが知っていることでした。さらにウォルマートは低価格化の実現のためにITシステムの構築に拒否を投じていたこともよく知られていました。そこで長らくナンバーワンの地位をウォルマートに明け渡していたKマートは、チャールズ・コナウェイ会長のもと積極的にIT投資を行い、思い切った低価格戦略に舵を切ってウォルマートに対抗しようとしたのです。
実は、これはビジネススクールでよく紹介される話しなのですが、ウォルマートが低価格戦略を実現できている背景には、複数の因果関係が複雑に絡み合っていたと言われています。
たとえばウォルマートが巨大なITシステムを構築した背景には、それにより同社の充実したロジスティクス網を管理することでオペレーションの圧倒的な効率化を加速させるねらいがありました。またウォルマートは都市近郊に進出していたKマートとは異なり、郊外を中心に出店を進めて他社との競争を避けていました。さらに「Everyday Low Prics」の印象を消費者に与えることで広告費を抑え、それはたんなる経費の抑制だけでなく、販促活動を減らして売り上げ変動を減らし、その結果ITシステムを使っての販売予測をより正確にする効果もありました。
・イノベーションを生み出す方法は、すでに存在している知と知を組み合わせることである。
・企業組織は本質的に知の深化に傾斜しがちで、知の探索をなおざりにしやすい。事業が成功している企業ほどこの傾向が強く、これをコンピテンシー・トラップという。イノベーションの停滞を避けるために、企業は組織として知の探索と深化のバランスを保つ体制を作る必要がある。
(デザインコンサルティング企業IDEOの七つのルール)
・ソーシャルな結びつきにおいて、一つのテーマについて深く情報を得ようとするならば強い結びつきが効果的であり、逆に多様な情報を効率的に集めたい時は弱い結びつきの方が効果的。
ある研究で、企業間のアライアンスの種類により、それらを「強い結びつき」と「弱い結びつき」に分類した。例えば、合弁事業、資本提携、共同研究開発などは時間、人材を多く割く必要があり、企業間の調整も複雑なので、「強い結びつき」。他方、企業間の共同マーケティングやライセンシング契約などはコストも時間も前者より少ないため、「弱い結びつき」。
半導体産業と鉄鋼産業で企業間のアライアンスデータを取得して分析したところ、「半導体産業では弱い結びつきのアライアンスを多く持つ企業の利益率が向上し」、逆に「鉄鋼業界では強い結びつきのアライアンスを多く持った方が利益率が向上した」。
半導体のように技術革新のスピードが速く不確実性の高い環境では、企業は積極的にイノベーションを起こす必要があるため、新しい「知の探索」が必要となります。逆に鉄鋼産業のように比較的安定した事業環境では、新しい技術を探索するよりも、既存の技術をより深く活用する方が効率的でしょう。
・国民性を計測するホフステッド指数。
①その国の人々が個人を重んじるか、集団のアイデンティティを重んじるか(個人主義⇔集団主義)。
②その国の人々が、権力に不平等があることを受け入れいているか。
③その国の人々が、不確実性を避けがちな傾向があるか。
④その国の人々が、競争や自己主張を重んじる「男らしさ」で特徴づけられるか。
これを指数にし、各国間で「国民性の距離」を計測することができる。 -
日本人が知っている経営学と最先端の経営学のギャップを埋める本。それぞれのトピックはサラっと触れる程度だけど、視点の勝利と言える。もっとこういう本出て欲しい(^-^)/。
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この時点ですでに「両利きの経営(深化と探索)」を唱えていたのか。
これだけ情報が伝播するのが一瞬という時代にも関わらず、人の心に言葉が根付くのには逆に時間がかかっているような気がしてしまう。
2021年の今でこそ、社内のみならず各所で「両利きの経営」の話を聞く。
しかもこの著作、約10年前に発行であるが、この10年間で両利きを達成して業績をV字回復した会社はほとんどないということか?
それだけ「両利き」が根付いてないということか。
この10年で両利きを意識していれば、必ず業績は回復しているはず。
「『両利き』なんて10年前の理論じゃないか」で切り捨ててもいい話だ。
しかし10年経った今でもこれらが実現できていないことは何を示唆しているのだろう。
本書でも書かれているが、ドラッカーもポーターも今の経営学者は研究していない。
学問にも栄枯盛衰はつきものと思うが、それではこの10年間でどの部分がどう進化していったのかが知りたいところだ。
ビジネスは確かに大きく変化している。
個人的な考えだが、日々の技術進歩、科学の進歩があって、それがビジネスに転用されて変化していっているように感じる。
理想的な経営理論があって、それに合わせて後追いでビジネス自体が変化するということはないと思う。
やっぱりテクノロジー起点と考えるのだが、それは偏った考えだろうか。
一方で最近は人事組織についてもテクノロジーを活用するようになっている。
経営は「戦略」という言葉が一般化したくらい、戦争・競争と切っても切り離させない。
どういう組織が強いのか。どういう人材がいれば勝負に勝てるのか。
ライバル企業に打ち勝つために、この辺をHRテックとして効果的に管理する方法も流行っている。
本書を読むと「必ず勝つ戦略」がどこにもないことに気が付いてしまう。
それは当然であって、もし必ず勝つ戦略が体系化されていて、誰でも真似が出来たらどうなるだろうか。
どの企業もその必ず勝つ戦略を使ったらどこが勝つのだろうか。
そう考えると「どうすれば勝てる組織を作れるか」という点に集約されていくのだということが見えてくる。
なぜ成功した経営者ほど、M&Aでオプションを多めに積み上げてしまうのか。
日本人は集団主義と言われるが本当なのだろうか。
やはり企業は人と組織で左右される。
究極の経営とは、実は人事なのではないだろうか。
そんなことすら本書を読んで考えてしまった。
(2021/12/21) -
2012年に書かれているので、「いまなにを考えているか」という観点ではちょっと古くなっているのかもしれないが、平易な文章でアカデミアの経営学と実学を連結させようという筆者の意図が伝わってくる。読みやすい。総花的になっているため、結局何だったのかという感想になる可能性は高いが、ざっくりと2010年代前半までの経営学の研究潮流をとらえる(計量的な分析が多くなっているが、定性的な分析も有効性あるよね)のには良い。
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ー 誤解をおそれずにいえば、ドラッカーの言葉は、名言ではあっても科学ではないのです。
たしかにドラッカーの言葉一つ一つには、はっとさせられることが多くあるかもしれません。しかし、それらの言葉はけっして社会科学的な意味で理論的に構築されたものではなく、また科学的な手法で検証されたものでもありません。 ー
科学としての経営学の側面を分かりやすく教えてくれる作品。実際の論文は退屈なのだろうが、本作は面白い。
偉大な経営者の名言ではなく、成功した企業のケーススタディでもなく、成長企業の分析でもなく、科学としての経営学に関心があれば参考になる。 -
世界の経営学の潮流の一端がつかめる。
著者のセレクションが素晴らしく、興味の湧くテーマが多かった。
統計的な取り扱いとか、数式ではなく自然言語定義によるトートロジーなど、学術チックな話は個人的には面白いと思った。
学際領域故の経済学・社会学・心理学のどれを基本思想とするかで、事象の捉え方が異なるというのも興味ふかい。
確かに、自分が比較的取り扱う人材や組織というテーマは心理学や社会学をベースにしている気がするが、たまに扱う戦略やマーケ、営業改革などは経済学にベースとする部分が多い気がする。
実務の観点から見ると、最新の理論は、ちょっと高尚すぎて現場から乖離しているような気がしないでもない。
現場の悩みはもっとプリミティブなものだという感覚だ。
個人的には、経営学の理論がもう少し統一されて、現場のリテラシーが高まれば、最新の理論にチャレンジできる機会も増えるかなと思う。
とはいえ、経営学の一般法則は、やはり●●の産業においてとか、●●の経済状況においてとか、●●の競争環境においてとかの非常に細かい前提において成り立つものなのだと思う。 -
早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄氏が書き下ろした本。これからMBAを考えている方には必見。学問で経営学のポジションニングや流派、そしてトレンドについてとても簡潔にかつ分かりやすく書かれている。
第一章:日本人が抱えている経営学の3つの勘違いがある。
第一にアメリカの経営学者はドラッカーを読んでいないのであるといういこと。それは名言であっても科学ではないから。
第二に世界の経営学は科学を目指している。経営学者の仕事は「企業経営を科学的な方法で分析し、その結果得られた成果を、教育を通じて社会に還元していく」こと。また「科学」とは「世の中の真理を探究すること」である。
第三にHBRは学術誌ではないということ。HBRは現実に応用しやすいように組み直した「意思決定・企業分析のためのツール」が紹介されている。科学的な仔細が報告されているわけではないため。
世界の経営学は科学を目指していが、発展途上の学問である。
第二章:経営学は居酒屋と何が違うのか。
経営学は他の化学分野と同様に理論分析と実証分析を行う。理論分析は「なぜそうなるのか」を理論的に説明し、「仮説」を導き出す。そして「仮説」が世の中の企業に一般的にあてはまるのかをテストする必要がある。これが実証分析。
欧米の経営学者は「理論仮説を立て、それを統計的な手法で検証する」、いわゆる「演繹的なアプローチ」。他方日本の経営学者は一社かあるいは数社の企業を選び、たんねんに観察されるケース・スタディ(事例分析)のアプローチ、いわゆる「昨日的なアプローチ」。
現在の主流は演繹的アプローチだが、統計分析はビジネスの表層的な部分をとらえがちである。しかし企業の内部に入り込んで、定性的に深く分析することも重要。
第三章:なぜ経営学には教科書がないのか。
経営学はマクロとミクロに分かれており、「ミクロ分野」とは企業内部の組織設計や人間関係を分析する研究領域で、「組織行動論」。たとえば人事制度・人間関係・グループ編成・リーダーシップ。「マクロ分野」は企業を一つの単位としてとらえ、その行動や、他企業との競争関係・協調関係・組織構造のありかたを分析。たとえば「経営戦略論」。
3つの理論ディシプリンがある。①経済学ディシプリン:経済学に基礎をおく。「人は本質的に合理的な選択をするものである」という仮定におかれる。マイケル・ポーターやRBVやリアルオプションもこのディシプリン。
②認知心理学ディシプリン:認知心理学に基礎をおく。古典的な経済学が想定するほどには人や組織は情報を処理する能力がなく、それが組織の行動にも影響を及ぼしているという考えを出発点。サイモン教授・野中教授やイノベーション経営の「知の探索・深化」・トラんザクティブ・メモリーというコンセプト。
③社会学ディシプリン:人と組織がどのように「社会的に」相互作用するかが研究されており、その理論を応用。一貫した仮定をおかないため、論理にあいまいな部分があるが影響力は絶大。ネットワーク理論やソーシャル・キャピタルがこのコンセプト。
第四章:ポーターの戦略だけではもう通用しない。
企業の目的は「持続的な競争優位」を獲得することである。SCPでは優れたポジションをとることで持続的な競争優位を獲得できることであり、とくに「競争が少なく、新規参入が難しく、価格競争が起きにくい産業が望ましい」とされている。したがって、ポーターのSCPは「差別化戦略」が重視され、逆に差別化がないまま、価格だけで勝負するのは避けるべきということ。
ウィギンズとルエリフの三つの発見。①アメリカでは「持続的な競争優位」を実現する企業は存在するが、2-5%ぐらいにすぎない。②近年持続的な競争優位を実現することは難しなっている。③競争を優位と失ってから再び獲得する企業の数が増加している。「一時的な競争優位の連鎖」。
ダヴェニはハイパー・コンペティション下では理論的にはより積極的な競争行動をとる企業のほうが高い業績を実現できるといった。
まとめると、
・ポーターの競争戦略論(SCPパラダイム)とはライバルとの競争を避けるための戦略、いわば守りの戦略のことである。
・ウィギンズとルエリフの分析によると、ハイパーコンペティションが進展している。
・ハイパー・コンペティション下では攻めの競争行動が有効になる。
第五章:組織の記憶力を高めるにはどうすればよいのか。
組織のラーニング・カーブは実在し、学習効果の高い企業の利益率も高くなる傾向があり、もっとも高い産業の上位三つはコンピュータ産業・医薬品業・石油精製業であり、低い産業は革なめし業、製糸業、製紙業。トランザクティブ・メモリーとは人の記憶と組織の記憶のメカニズムの違いを説明する考え方。大事なのは、Who knows what、「知のインデックスカード」が重要。グループのパフォーマンスにプラスの影響をもたらすことが分かり、中でも「専門性」と「正確性」が重要。ただし、互いを知ることで自然に形成されるトランザクティブ・メモリーを強制的にゆがめると、むしろ組織の記憶の効率は落ちる可能性がある。
第六章:「見せかけの経営効果」にだまされないためには。
多くの経営効果は過大評価されている可能性がある。経営戦略論では回帰分析が多く使われている。これは計量経済学という分野で飛躍的に発展してきたものであり、AがBに影響を与えている可能性があるか、を統計的に分析する手法。計量経済学には「内生性の問題」があり、あたかも因果関係があるかのように過大評価してしまうことがある。経営学ではこの対応が遅れてきたが、現在は内生性の問題を排除することは必須である。惑わされないためには、因果関係図を描く、業績が低迷している企業も対象に加えること。
第七章:イノベーションに求められる「両利きの経営」とは。
「イノベーションを生み出す一つの方法は、すでに存在している知と知を組み合わせることである」知識はほどほどに広ければよく、多様すぎてもダメ。企業組織というのは中長期的に「知の深化」に偏りがちで、「知の探索」をなおざりにしがちである。中長期的なイノベーションが停滞するリスクがあり、これを「コンピテンシー・トラップ」と呼んでいる。
第八章:経営学の三つの「ソーシャル」とは何か。(1)
①ソーシャル・キャピタル:人と人が関係性を持つことそのものが資本になりうるという考え。「自分が相手に良いことをすれば、いつかそれが何らかの形で自分に返ってくる」という合理的に信頼できるようになる。深い人間関係がメリットをもたらす、という考え。学力向上にも寄与する。
②関係性のソーシャル・ネットワーク
有用な情報は「弱い結びつきの強さ」からもたらされる。クリエイティブな成果にも寄与。
第九章:第八章:経営学の三つの「ソーシャル」とは何か。(2)
「深い」情報は強い信頼関係から入手、「クリエイティブ」な情報は弱い結びつきから入手。半導体やコンピュータ業界は進歩が速いため知の探索が必要であり、弱い結びつきが有効。一方鉄鋼産業は知の深化が重要で、強い結びつきが有効。
③構造的なソーシャル・ネットワーク
情報を自分のところで留めてそれを利用する人が出てくる、ということを考える。ストラクチュアル・ホールを活用する。
第十章:日本人は本当に集団主義なのか、それはビジネスにはプラスなのか。
海外進出時のリスク評価指標「CAGE」①国民性(Cultural)②行政上(Administrative)③地理的(Geographic)④所得格差(Economic)で自国との距離を把握する。「ホフステッド指数」とは国民性の概念は①その国の人々が個人を重んじるか、集団を重んじるか②その国の人々が権力に不平等があることをうけいれているか③その国の人々が不確実性を避けがちな傾向があるか④その国の人々が
競争や自己主義を重んじる「男らしさ」で特徴づけられるか。GLOBE指数もある。
調査の結果、アジアでは日本は個人主義の傾向が強い。国民性が近いのはポーランドやハンガリーでオランダやスウェーデンは一番遠い。アメリカのような個人主義は外部を一番信用しやすい。
第十一章:アントレプレナーシップ活動が国際化しつつあるのはなぜか。
スロヴェニアのスタディオ・モデルナ、シンガポールのアジア・リーナル・ケア、インドのテジャス。一般に起業家やVCは一定の地域に集中する傾向がある。理由は知識は飛ばないためである。リソース入手、ネットワークなどのメリットがある。人と人の直接のコミュニケーションが重要であり、「人に根付いた」深い知識やインフォーマルな情報を求めるため。1知識は人に根付いたものであること、2知識を持つ人が一つの地域内にとどまれる環境があれば知はそこに集積されていくこと。
VCも飛ばない。平均距離はわずか94キロ。
アメリカで教育を受けて母国に帰ってたりして、特定の国とインフォーマルなコミュニティが形成されつつあり、インターネットでは手に入らない情報が行き来している。これを「超国家コミュニティ」と呼ぶ。人の移動は逆方向の知識移転も起きており、「頭脳の循環」が起きている。著名なVCは、サンブリッジ代表アレン・マイナー、DCMの伊佐山元、八木博。
第十二章:不確実性の時代に事業計画はどう立てるべきか。
経営戦略論の研究者は①コンテンツ派「どのような戦略をとるべきか」②プランニング派「どういうやり方で戦略を立てるべきか」の二種類いる。プランニング派は落ち目。アンゾフの「計画主義」は不確実性の時代には通用しない。ミンツバーグの考える前にまずやってみるべきという「学習主義」。この橋渡しが事業計画法のリアル・オプション。段階的な投資で、将来望ましくない状況が実現した場合のリスクをおさえることができる。また望ましい環境になったらその機会を取り逃がさない。さらに学習ができる。不確実性が高くなるほど上ぶれのチャンスが大きくなる。リアル・オプションで注意する点は、仮定は仮定に過ぎないことを念頭に、「仮定のチェックリスト」を作る。そしてマイルストーン分析で過程の検証する。もう一つは不確実性を仕分けること。コントロールできること、できないことを明確にする。
第十三章:なぜ経営者は買収額を払いすぎてしまうのか。
「思い上がり」、「あせり」、「プライド」
第十四章:事業会社のベンチャー投資に求められることは何か。
投資額はR&Dの1-3%ぐらいだが、オープンイノベーション戦略である。スタートアップに投資を行うことで業績を高められるのは、投資審査でその技術を知ることができる、技術やビジネスモデルの深い情報が得られる、仮に失敗しても学ぶことが多い。
第十五章:リソース・ベースト・ビューは経営理論といえるのか。
RBVとはパフォーマンスを発揮するには、内部リソースに注目すべき、という考え。命題①ある企業のリソースに価値があり、それが希少な時その企業は競争優位を獲得する。②そのリソースが模倣不可能で、代替するものがないとき、その企業は持続的な競争優位を獲得する。
反証不可能なものは理論命題とはいえない。科学理論にとって重要な条件はその命題が反証可能であること、「その命題が正しくない可能性が論理的に存在すること」である。理論命題は反証が可能なときだけ、それが現実世界で正しいか正しくないかを実証分析できる。
第十六章:経営学は本当に役立つのか。
課題①経営学者の理論への偏重が理論の乱立化を引き起こしている。②おもしろい理論への偏重が重要な経営の事実・法則を分析することを妨げている。③平均にもとづく統計手法では、独創的な経営手法で成功している企業を分析できない可能性が残っている。
第十七章:それでも経営学は進化しつづける。
エビデンス・ベースト・マネジメントとは、多くの実証研究で確認された経営法則、すなわち「定型化された事実法則」を企業経営の実践にそのまま応用していく考え。「外れ値」企業の分析は定性的な手法(ケース・スタディ)に再注目したり、ベイズ統計を活用する。
「競争戦略」ポーター1980年、「国富論」アダム・スミス1776年、「雇用・利子および貨幣の一般理論」ケインズ1936年。まだまだ赤ん坊。 -
学生に時の経営学を学び、ドラッカーも読んだが、経営学がいかに論理の学問かがあらためてよく分かった。著者が最後に書いている、エビデンスベースドマネジメント、メタアナリシスに期待します。どちらも医学統計ではよく使われています。
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経営学でも仮説について統計データを使って検証するのがブームらしい(数量経済学からの影響)。
社会科学系の学問では、数式を使うと科学っぽく見えるので、経済学でもかつて同じような統計分析ブームが起きたけど、経営学も同じ道を歩んでいるのかな。
ガシガシデータ分析した結果の結論が、なんか当たり前の話っぽくなってしまうのは社会科学系の学問の悲しい所。(読んでる自分が後知恵の罠にハマってるだけなんだろうけどね。 -
今年の初めに、本屋に積んであったので手に取ってみると、ドラッカーファンにはいささか挑発的な文句が目に留まった。
曰く、「経営学者はドラッカーを読まない」。
ほう、と思いつつ、経営学自体に関心があるわけではなかったので、今年中には読んでみようかと友人話したところ、もう読んだんでやるよ、と譲ってくれた。
ずいぶん後回しにはなってしまったが、結構なボリュームがある割には、よく整理して書かれているので、すぐに読めた。
で、感想は、経営学ってこんなもんかい?ということ。
ドラッカーに対する挑発的な言葉は、著者のドラッカーについての認識不足で、彼が優秀な経営学者だとすると、合わせて、経営学者のレベルってこんなもんかい?という疑念をもった。
著者によると、経営学には大きく分けて3つの流派があり、理論的基盤として、経済学、認知心理学、社会学などにもとづくものがある。
本書の中心は、それらの中から、世界の経営学の知のフロンティアとして、12の分野の研究や論点を紹介している。
しかし、最先端ということなので仕方がないかもしれないが、そこにあるのは決着の付いた結論ではなく、こんなことが議論されているといったレベルのもの。
また論点のいくつかは、学説の客観性についての議論で、過去主流派だった理論が、実証的研究の後に疑義がもたれるに至ったとのことだった。
著者がいうには、経営学はまだ新しい学問で、一般法則を導くため、一つの社会科学となることを目指している、とのこと。
この経営学のスタンスが、科学的ではないドラッカーは経営学の範疇では扱うに値しない、という冒頭のキャッチコピーにかかっている。
ドラッカーは、彼の初期の著作である「企業とは何か」において、「経営政策において重要なことは、うまくいくか、いかないかであり、マネジメントは実学である。」といっている。
こうした点で、自身のマネジメント論が経営学者と異なり、自分は学界向きではない、といしている。
ドラッカーはマネジメントの父とか呼ばれたりしているが、彼は自分自身を社会生態学者と呼んでいた。
彼の目指したことは、多元的な組織社会となった現代において、どのようにすれば人は幸せになれるのか?の探求であり、その流れから組織におけるマネジメントの重要性と有効性を明らかにした。
そもそも、ドラッカーは経営学という狭い領域の中で、マネジメントを研究していたのではない。
こんなことは、ドラッカーをちょっとかじった人間ならだれでも知っていることだ。
本書を読み進めると、最後に、経営学は本当に役立つのか?の自問自答がある。
「統計的手法は、独創的な経営手法で成功している企業が分析できるのか?」というものだ。
経営学は科学であるために、平均にもとづく統計的手法をとるが、往々にして、成功している企業は、「外れ値」となるので、それを一般化できるのか?ということ。
よく引き合いに出される、アップルやサウスウエスト航空、トヨタなどの成功事例は特異な事例であり、そこからの一般化は可能か、という問いである。
従来の平均的な統計手法での限界を超えるために、複雑系を応用した実証分析で解決できないかなどと、最近の議論の事例が紹介されている。
しかし、成功事例から一般化できる法則を抽出するという経営学の目的が、成功事例を応用して、別組織での成果を目指すものであるのなら、これらは非常に回りくどいアプローチであるとは言えないか?
おそらく、経営学者がすったもんだの議論を繰り返している間に、世の経営者は成功事例から自組織に適用できることとできないことを嗅ぎ分け、実践していることだろう。
学者には学者なりの言い分があり、業界内の事情もあるだろうから、外野の人間がとやかく言うことではないかもしれない。
しかし、経営学が、学問として成り立つことに腐心するあまり、学説の客観性の追求や実証研究に追われていると、経営という実学の意味を失ってしまうのではないかと考えた。 -
「経営学」そのものにはあまり関心がないのですが、他ならぬエコハさんがお勧めしてらしたので読んでみました。
言葉遊びや理論のための理論に落ち込みかねない社会科学の分野で、科学的に研究するとはどういうことなのか、ということを面白く読めました。 -
2013年17冊目。
自社本のため割愛。 -
この本は非常に面白い。経営学の最新は科学分析なんですね。経営者にしてみればなんだ当たり前のことじゃないかと思っていることも、科学的に要素分解するとこうなるとは中々理解できないこともありますが、組織で応用してみたい事例がいっぱいで、参考になりました。ぜひ紹介された論文を読んでみたいです。
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経営に関連する最近の理論的フレームワークについての紹介本。頭のストレッチをするには良い本。理論に深入りしないので、サクサク読める。
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なんか、よくわからない本でした。
たぶん、僕が勉強不足だからだと思いますが、
アカデミック過ぎて、読むのがしんどかったし、
特に印象に残っている内容もないです。 -
こういう書籍は必要です。
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「競争戦略とは、競争をしない戦略である。」
読み始めてしょっぱなから
「世界の経営学者はピータードラッカーを読まない」
ときて、ドラッカーの赤い著作集を読破しようとしている自分からするとつんのめりました。
社会科学としての確立を目指す経営学だけど、社会科学とは一般的な法則や傾向を研究するもので、しかし企業は独創的で特徴的な戦略をとるからこそ成長するわけで、そこには根本的な矛盾があるそうで、これはなるほどと納得。
経営に関する本は、どれも「これで成功した」という今現在の事実のみでこれみよがしに説く経験論がほとんどだけど、やはりそれは特異な個別解ということで「あぁすごいね」程度で終わることが多いです。
ですが、最先端はやっぱりワクワクするようなでした。
特にここ何年かで賑やかになっているソーシャルネットワークに関する話題が面白かったです。 -
経営学を俯瞰して見れる点でいいと思う
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日本で人気のドラッカーはアメリカでは経営学とは見なされていない、というような衝撃的なメッセージに惹かれた。
「世界の経営学のフロンティア」から日本が遅れている。それは日本人がアメリカで経営学を勉強することが減っていること。MBA取得はあくまでも日本に帰ってビジネスをすることが前提になっているため、アメリカで研究を続ける人が少なく、また最新の経営学が日本には紹介される機会が少ない、という事実。
さてドラッカーだが言い得て妙なのは「ドラッカーの言葉は『名言ではあっても、科学ではない』」という筆者の言葉。日本人は座右の銘や格言が好きだからドラッカーがはまるのかも知れない。
筆者が言いたいことは、経営学は科学的なアプローチをするのが今のアメリカの手法であり、メッセンジャーの言葉だけではなくて、仮説と統計学的に証明をされたコンテンツが主流だ、ということ。そのためには母数をあつめた事例を統計的に研究し、それを学術誌に投稿して議論に持ち込む必要がある。(その点においてやはり日本人が好きなハーバードビジネスレビューは学術誌ではないので、日本ほど重用視されていない。)
マイケル・ポーターの「競争の戦略」ももはやそれだけでは完璧ではない。筆者はポーターの戦略論はつきつめて言えば「競争をしない戦略」と切って捨てる。なぜなら科学的に分析をすると競争優位は永続的には続かず、最近は一時的なものですぐに他社にとって変わられる時代。これを「ハイパー・コンペティション」と名付けられているが、短い競争優位の環境を再び取り戻すためにはより積極的な競争をしなくてはならない。ポーターの戦略ではこれが出来ない。
「組織としての記憶力」の研究紹介は興味深い。組織全体が情報を共有しているよりも、誰が何を知っているかを知っている(トランザクティブ・メモリー)がむしろ生産性を高める、という考え方。
日本ではまだ根付いていないがアメリカではオープンイノベーションが当たり前の世界になっている。これを活用するためには「知の探索」と「知の探求」がバランスよくある必要がある。前者は知を広げることで、後者は既知の知を深めたり重ね合わせたりしてイノベーションを創出すること。
「ソーシャル」についても多くの誌面を割いている。面白いのはひとり一人が強い結びつきであるよりも、むしろ弱い結びつきの方がネットワークが機能する、という理論。強い結びつき(たとえば親友)は先入観があるし、第一強い結びつきは簡単には作れない。震災の際にTwitterは機能したけどmixiは災害対応にはあまり役立たなかったことを思い出してみると良い。
様々な理論が本書では紹介されているが、最後に課題も投げかけている。理論の偏重が理論の乱立を招いていること。平均に基づく統計手法が独創的な経営手法の分析を妨げていることなど。
本書はドラッッカー好きの日本人に最新の経営学を学ぶきっかけを与えるにはとても良い書であると言える。一方でアメリカ中心の経営学の簡単な紹介にとどまっている。つまり本書を読んでなんらかの経営に役立つ戦略を作り出せるか、というとそれは出来ない。なぜならあくまでも紹介集にすぎないから。しかも百花繚乱の様相を示している経営学のほんのさわりを紹介することしか1冊の本には出来ない。入山氏の考える経営論についての続刊を期待したい。