「教養」として身につけておきたい 戦争と経済の本質

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著者 : 加谷珪一
  • 総合法令出版 (2016年6月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862805096

「教養」として身につけておきたい 戦争と経済の本質の感想・レビュー・書評

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  • この本を読んで認識を新たにしたことは、国家間の戦争とは、いわゆる「喧嘩」ではないということです。個人間であれば「喧嘩」は感情的に行われるものですが、国家間の場合では、戦争をすることで国民を始めとして多大な影響を与えるので簡単に行うことができません。

    従って、戦争の場合はそれを遂行するための「経済=お金」が密接に絡んでいる、ということをこの本は解説しています。そうすると、日清・日露戦争に日本が勝てた理由、太平洋戦争で日本が負けた理由も見えてくるような気がしました。

    歴史の授業では、戦争というものを政治的・思想的な観点からのみ捉えてきた気がしますが、この本の様に経済(お金)の観点から見ると、また違った見方ができ興味深く感じました。

    以下は気になったポイントです。

    ・経済的な対立が政治的な対立になり、そして軍事的な対立に発展する可能性は常に存在する。戦争が起こったとき、経済や社会がどう動くのかについて予め知っておくことは重要である(p5)

    ・日清、日露戦争の戦費は、GDP比較で各々、0.17、0.6倍であり、日中・太平洋戦争の、8.8倍(国家予算の74倍)とは大きく異なる。通常の手段で戦費は賄えなかったので、戦費のほとんどは日銀の直接引き受けによる国債発行で賄われた、さらに占領地域に国策金融機関を設立して、現地通貨・軍票(約束手形)により調達を行った。名目上の交換レートは据え置かれたので、書類上は戦費が膨れ上がるが、実質ベースで計算すると、2000億円程度となる(p25、28)

    ・米国の場合は、第二次世界大戦の戦費は、GDPの3.2倍、朝鮮戦争は0.1倍、ベトナム戦争は0.15倍、イラク戦争は0.1倍(p31)

    ・ベトナムやイラク戦争によって米国が疲弊した、経済的に行き詰って戦争を始めたといわれることがあるが、数字から見ると、強い経済があったから長期間戦争を遂行できたと解釈すべき(p34)

    ・空母保有は米国のプレゼンス強化につながっていたが、最近では兵器のハイテク化、コンパクト化が進み、空母のコスト効率の悪さが目立つ(p43)

    ・1年のうち、いつでも作戦行動に出られる状態にしておくには、最低2隻の空母が必要(日本に配備の原子力空母は、5月に出向、夏休みを挟んで12月に帰港、春までメンテナンス)、米軍が11隻も空母を保有しているわけ(p47)

    ・日露戦争は、急激に進みつつあったグローバル金融システムとイノベーションをフル活用した、太平洋戦争はこれに背を向け、ガラパゴスな状況で遂行した、これが両者を決定的に違ったものにした。日露戦争の戦費は、英国・米国の投資銀行を経由して、ロンドンとニューヨークで調達した(p53)

    ・日露戦争の日本海海戦の連合艦隊における旗艦「三笠」は、英国ヴィッカース社製の最新鋭の戦艦、現代でいえば米国製イージス艦というイメージ、日本の艦船が燃料としていたのは、英国製の高級無煙炭で煙少なく、高出力運転が可能(p55)

    ・日清戦争の賠償金は、銀で支払予定であったが、それができなかったので、英国に対して外債を発行、相当額のポンドを借り入れて銀を購入する予定であったが、銀価格の暴騰等もあるので、日本政府は賠償金を「英ポンド」で受け取り、これを金地金と同価値とみなして金本位制をスタートした、明治政府の指導者は、グローバル金融システムの仕組みを理解していた(p56、57)

    ・米国はゼロ戦の性能は負けたが、メンテナンスが容易で安全性の高い航空機を大量投入した、パイロットの育成もシステム化、乗務員の個人的な能力にできるだけ依存しない体制が組まれていた(p60)

    ・日本は、基本的な体力差を直視しない、職人芸的な技を過大評価、システマティックな部分を軽視、現状に対する批判を社会として受け入れない、という風潮が今の日本にも見られる(p61)

    ・満州でのビジネスの話を反故にし、力づくで満州を属国化したので、米国の経済的利益をすべて葬ったことになる、ハルノートを突きつけた理由も見えてくる(p66)

    ・ロシアは、米国や日本、中国と異なり、グローバルに通用する金融市場を持っていないので、資金調達力には限界がある。莫大な戦費を無理に調達すればインフレが加速する(p71)

    ・クリミア戦争では、自国で戦費を調達できず、敵国である英国の金融街シティで調達せざるを得なかった(p72)

    ・中央銀行が国債を直接引き受けするということは、戦費という形を通じて、市中に大量のマネーを供給すること、通貨の価値は減少、インフレが発生、名目GDPは増えるが実質GDPは増えない(p97)

    ・日本の実質GDPは、1943年までは増加した、1944年に少し減少、1945-1946年にかけて激減、闇市価格と公定価格で15倍程度であったので、実質には45倍であった、最終的に東京の小売価格は180倍(p100,109、236)

    ・戦争期間を通じて3倍の物価上昇で済んでいたのは、国家による強力な価格統制があったから、1938年に国家総動員法により統制(p108)

    ・国債の大量発行と極端な供給制限の顕在化によって、準ハイパーインフレともいえる状況にまで物価は加速した。しかし戦時中は食料確保のためあまり意識されなかった、意識するようになったのは、自由経済取引が解禁されてから(p110)

    ・戦後復興のために、大量の資金が必要となり、政府は興銀から分離させる形で、復興金融公庫(現在の日本政策投資銀行)を設立した、これによりインフレを誘発したが、ドッジライン(超緊縮政策)により沈静化した(p147)

    ・中国のチベット、モンゴル、アフガニスタン、ロシア南部から東欧一部(ハートランド)は特別な場所である、河川を使って太平洋・インド洋・地中海に出ることができない独特な地形であるので(p162)

    ・ランドパワーとシーパワーがぶつかる三ケ月型のエリア(リムランド)は、日本・朝鮮半島・台湾・東南アジアであるが、この地域は地政学的に見た場合、紛争になるリスクの高いエリアである、日清・日露・日中・太平洋・朝鮮戦争はすべて朝鮮半島と中国をめぐる共通の地政学的要因で発生している(p165、170)

    ・かつての英国と同様、旧ソ連のアフガニスタン侵攻(1979)、米国のアフタにスタン介入の理由は、地政学的な野心があった(p177)

    ・ドイツ一国の台頭を防ぎ、欧州が一つになっているのは、地政学的に見て非常に重要(p181)

    ・距離1000キロ、荷重1トンあたりの輸送コストは、飛行機:15万円、トラック:2.5万円、船:1万円、鉄道:1.2万円であり、今も海上交通というインフレに頼る必要がある(p185)

    ・ビットコインとドルをうまくリンクできれば、全世界にドルとビットコインの金融覇権を確立することが可能となる、ビットコインは全ての取引をネット上で追跡可能(p190)

    ・米国が覇権国家として振舞うようになった理由の一つは、中東の原油を確保するためであるが、エネルギー自給できるようになったことで潜在的には不要となった、これにより米国の方針が大転換する可能性もある(p198)

    ・米国と中国で、アジア太平洋地域の安全保障についてある種の合意が成立すれば、日米安保はその存在意義を失い、日本近辺の安全保障は米国の合意のもと、中国に委ねられる可能性もゼロではない(p201)

    ・日本は業種ごとではなく、会社ごとに労働組合がある珍しい形態となっていて、中小企業の待遇が悪い原因の一つとなっているが、これは国家総動員体制により強制的に作らされた。労使協調のための産業報国会が結成されて既存の労働組合は解体された(p222)

    ・軍需企業の指定になると、前渡し金制度が適用、政府が発注する金額の4分の3までを発注額に支払われる、これにより企業は資金繰りを気にせずに事業実施できた(p224)

    ・戦時中の経済統制の影響として、時限的措置であった、年功序列・終身雇用制度は、現在では若年層と高年層の年収格差は大きくなっている。終身雇用の正社員を維持するしわ寄せは、下請け・非正規社員に及ぶ(p233)

    ・雇用環境だけでなく、産業界の構造そのものが戦時中の体制からほとんど変わっていない業界もある、新聞・テレビ局、広告代理店の寡占的事業形態は、戦争が作り出したといっても過言ではない、1941年の新聞事業令により、全国に100以上あった日刊紙は55に統廃合、東京では、朝日・毎日・読売・東京・日経の5紙となった、全国紙と地方紙が明確に峻別されたのもこのときの統廃合がきっかけ(p234)

    ・全てのお金を銀行に預金させた9か月後に、財産税法を施行、最高で90%、預金の少ない人で25%の財産税が課せられた(p237)

    ・当時は明治憲法が効力を持って現在とは異なり財産税は課税可能であったが、預金封鎖は国会の議決を必要としない政令で実施されているので、現在でもこうした措置は不可能ではない、キプロスは実施した(p238)

    ・預金封鎖には抜け道があり、株を購入する場合だけは、お金を引き出せた、株式処理がスムーズに進まないと企業の損失処理や再編がうまくいかないので(p238)

    ・オバマ政権は最大級の軍縮を行い平和志向の大統領と言われるが、ドローン攻撃は急激に増加、ブッシュ時代には40回だが、オバマ政権では400回、現在のCIA長官のブレナン氏はCIAにおいてドローンオペレーションを積極的に進めてきた人物(p245)

    ・テクノロジーと戦争、あるいは経済力と戦争の関係がより密接になり、実際に戦う前から実質的な勝敗が決まってしまうという現実が、戦争を少なくする原因の一つになる(p247)

    ・車両の故障率を100キロ当たり5%(100キロ走ると100台のうち5台が使えなくなる)とすると、投入車両1000台、進軍距離300キロだった場合、目的地に到達するまでに150台が使い物にならなくなる、ということ。こうした車両は整備工場まで、大型トレーラーに乗せて道路を走る、つまりインフラ未開拓の地域に現代的な軍隊は投入できない(p252)

    ・米軍がイラクに大量展開できたのは、イラクが豊かな国であり、道路網・電気といったインフラが整っていたから(p252)

    ・3Dプリンタが普及すれば、設置できればそこは車両の整備工場となる、また医療器具などを作り出す衛生拠点ともなる、戦争の主体は人から、、無人機・ロボット兵による機械の比重が高まる(p253)

    ・買収した外国ハゲタカと批判するが、当の日本企業が海外に対して積極的に株式を買ってほしいと営業していた事実からは目を背けている(p264)

    2017年10月29日作成

  • 戦争の本質の話、経済は隷属するので扱いが低い

  • ・多くの日本人にとって「戦争は現実的な話ではない」は改める必要がある。戦争の多くは経済的な対立の延長線上で発生しており、勝敗のカギをを握るのもやはり経済力。戦争とお金との間には、切っても切り離せない密接なつながりがある。

    ・平時の経済活動が活発で、人の往来が多く、新しい技術やサービスがたくさん登場する国ほどじつは高い戦争遂行能力がある。また、高度な金融市場を持ち、世界各国からお金を集めることができる国は圧倒的に有利な立場で戦費を調達することが可能。一方、内向きで経済が活発でない国は、戦争でも大きな成果をあげることができない。つまり、強い国家になるには、日常的なビジネスを活発にすることが何より重要となる。日常的な力の差が、戦争の勝敗を決定づけることになり、最終的には戦争そのものを回避する有力な手段となるのが現実。

    ・経済的な対立が政治的な対立となり、軍事的な対立に発展する可能性は常に存在している。戦争が起こった時、経済や社会がどう動くのかについてあらかじめ知っておくことはとても重要。戦争にないに越したことはないが、昔から日中韓は紛争の火種を抱えており、日本は常に紛争に巻き込まれるリスクを抱えている。

  •  詳細なレビューはこちらです↓
    http://maemuki-blog.com/?p=10547

  • 請求記号:333.3/Kay
    資料ID:50084152
    配架場所:図書館1階東館 め・く~る

  • 経済的損失は先進国が戦争を自国領土内、または主要地でやらない理由の一つだろう。利益が戦争の原因だから当たり前。
    一方で、開発国は損失規模が低いとは言わないが、リカバリーの範囲内と考えるのか、始めることに躊躇がない。いや、経済等というレベルを超えた戦う理由(わけ)があるのだとしたら、あるははずだが、他国が止めることは出来ないのも当たり前か。

  • 日清戦争、日露戦争、太平洋戦争などを戦費とGDPの観点から解説するなど、戦争を経済的側面から捉えて紹介。
    おもしろかったです。

  • 戦争をすると経済が活発化して株価があがる。
    地政学を知ると世界の動きがわかる。
    歴史と世界的経済と現状の日本の立場がわかる。
    なにも知らないよりかはいいかなという本。

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