- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784862805096
感想・レビュー・書評
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借りたもの。
感情論を抜きにして、戦争を“経済活動”として紐解いてゆく。
歴史の勉強でそうした視点をもって語られないためか、経済と政治の問題を分離して考えがちだ。
それらが密接に絡んでいるにも関わらず。これは日本だけだろうか?
先の太平洋戦争では、日本の敗戦にGDP以上の戦費がかかったこと(急激な戦線の拡大、それに投入する軍備・物資の不足のため)、当時の株価から日本人(一般人)が戦況に対して楽観的な姿勢を持っていた(日清・日露戦争を勝利したことも要因だろう)ことが、証言以外の具体的な数字として裏付けが取れると思った。
有事の際にかかる予算の内訳についても具体的な数字を出しており、興味深い。
戦争によって、巨額のマネーが動くことも。日本が戦後、準ハイパーインフレを起こしたが、朝鮮戦争による特需によって持ち直したという事実に目を背けてはならないだろう。何というラック…?
この本でもう一つ語られているのが「地政学」。これ自体、経済との関係が密接で、シーパワーとランドパワーについて言及される。
EUをアメリカ経済圏に対抗するため巨大経済圏と見る視点以外から紐解く。地政学的な理由から「ドイツを独り勝ちさせない」という周辺諸国の思惑…… エマニュエル・トッド 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』( https://booklog.jp/item/1/4166610244 )もこれに通じるのだろう。
茂木誠『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』( https://booklog.jp/item/1/4813284620 )でも指摘されていた。
歴史を振り返れば、シーパワーを制したものが世界の覇権を握っていた。シーパワーは防衛よりも海を使って貿易を行い、富を増やすことに熱心になるため。
一方のランドパワーは隣国と地続きであるため、領土保全を最優先に考えざるを得ない。
このランドパワーとシーパワーの国家間の駆け引きが、日本の安全保障にも影響を与える。
アメリカがずっと中国を敵視するとは限らず、妥協する姿勢を見せた場合、ともすれば中国に委ねられてしまう場合もある(そしたら言論の自由も無くなったり、利益を吸い上げられてしまうんだろうな……)。
戦争の経済と言っても、武器弾薬の製造だけがそれではない。
後方支援――交通、水道、電気通信網などインフラの整備――が戦況にも関わる。
そのひとつの形として、IT技術の重要性を言及。
無人戦闘機然り、情報戦の面からも言わずもがな。3Dプリンタの発達も後方支援に影響を与えることも指摘。
日本学術会議だったか…2017年に防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」に大学が協力しないようにと提言した。
しかし、世界的にみても民間と軍事の技術の垣根は限りなく低くなっており、双方で一から独自開発したら単純にコストは2倍。その間に連携している方が時間と金のコストもかからずはるかに発展するだろう。
この本を読んで、「日本は戦争が“できない”」としみじみ思う。
これは憲法があるからではなく、「経済成長をしていないから軍備が足りない」ためだ。
だからこそ「IT技術を活かし低予算でどこまで有事に対応できるか?」という視点があるが、どこまで補えるだろうか……orz
余談。憲法9条があるからといて非戦になるわけではない。
戦争を“仕掛けてくる”国があれば相手は仕掛けてくるだけだ。
それを“防御(迎撃)”するだけの軍備はあるだろうか?これもまた“お金”が絡む。
それが発生する予兆の指標としても、経済活動(と技術の発展)を視野に入れるべきだと思う。
戦争とは感情論で勃発するのではない。
戦争をするだけの経済力があったればこそ、外交を自身の有利に運ぶための最終手段であることを意識させる。
flier紹介。( https://www.flierinc.com/summary/875 )詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本を読んで認識を新たにしたことは、国家間の戦争とは、いわゆる「喧嘩」ではないということです。個人間であれば「喧嘩」は感情的に行われるものですが、国家間の場合では、戦争をすることで国民を始めとして多大な影響を与えるので簡単に行うことができません。
従って、戦争の場合はそれを遂行するための「経済=お金」が密接に絡んでいる、ということをこの本は解説しています。そうすると、日清・日露戦争に日本が勝てた理由、太平洋戦争で日本が負けた理由も見えてくるような気がしました。
歴史の授業では、戦争というものを政治的・思想的な観点からのみ捉えてきた気がしますが、この本の様に経済(お金)の観点から見ると、また違った見方ができ興味深く感じました。
以下は気になったポイントです。
・経済的な対立が政治的な対立になり、そして軍事的な対立に発展する可能性は常に存在する。戦争が起こったとき、経済や社会がどう動くのかについて予め知っておくことは重要である(p5)
・日清、日露戦争の戦費は、GDP比較で各々、0.17、0.6倍であり、日中・太平洋戦争の、8.8倍(国家予算の74倍)とは大きく異なる。通常の手段で戦費は賄えなかったので、戦費のほとんどは日銀の直接引き受けによる国債発行で賄われた、さらに占領地域に国策金融機関を設立して、現地通貨・軍票(約束手形)により調達を行った。名目上の交換レートは据え置かれたので、書類上は戦費が膨れ上がるが、実質ベースで計算すると、2000億円程度となる(p25、28)
・米国の場合は、第二次世界大戦の戦費は、GDPの3.2倍、朝鮮戦争は0.1倍、ベトナム戦争は0.15倍、イラク戦争は0.1倍(p31)
・ベトナムやイラク戦争によって米国が疲弊した、経済的に行き詰って戦争を始めたといわれることがあるが、数字から見ると、強い経済があったから長期間戦争を遂行できたと解釈すべき(p34)
・空母保有は米国のプレゼンス強化につながっていたが、最近では兵器のハイテク化、コンパクト化が進み、空母のコスト効率の悪さが目立つ(p43)
・1年のうち、いつでも作戦行動に出られる状態にしておくには、最低2隻の空母が必要(日本に配備の原子力空母は、5月に出向、夏休みを挟んで12月に帰港、春までメンテナンス)、米軍が11隻も空母を保有しているわけ(p47)
・日露戦争は、急激に進みつつあったグローバル金融システムとイノベーションをフル活用した、太平洋戦争はこれに背を向け、ガラパゴスな状況で遂行した、これが両者を決定的に違ったものにした。日露戦争の戦費は、英国・米国の投資銀行を経由して、ロンドンとニューヨークで調達した(p53)
・日露戦争の日本海海戦の連合艦隊における旗艦「三笠」は、英国ヴィッカース社製の最新鋭の戦艦、現代でいえば米国製イージス艦というイメージ、日本の艦船が燃料としていたのは、英国製の高級無煙炭で煙少なく、高出力運転が可能(p55)
・日清戦争の賠償金は、銀で支払予定であったが、それができなかったので、英国に対して外債を発行、相当額のポンドを借り入れて銀を購入する予定であったが、銀価格の暴騰等もあるので、日本政府は賠償金を「英ポンド」で受け取り、これを金地金と同価値とみなして金本位制をスタートした、明治政府の指導者は、グローバル金融システムの仕組みを理解していた(p56、57)
・米国はゼロ戦の性能は負けたが、メンテナンスが容易で安全性の高い航空機を大量投入した、パイロットの育成もシステム化、乗務員の個人的な能力にできるだけ依存しない体制が組まれていた(p60)
・日本は、基本的な体力差を直視しない、職人芸的な技を過大評価、システマティックな部分を軽視、現状に対する批判を社会として受け入れない、という風潮が今の日本にも見られる(p61)
・満州でのビジネスの話を反故にし、力づくで満州を属国化したので、米国の経済的利益をすべて葬ったことになる、ハルノートを突きつけた理由も見えてくる(p66)
・ロシアは、米国や日本、中国と異なり、グローバルに通用する金融市場を持っていないので、資金調達力には限界がある。莫大な戦費を無理に調達すればインフレが加速する(p71)
・クリミア戦争では、自国で戦費を調達できず、敵国である英国の金融街シティで調達せざるを得なかった(p72)
・中央銀行が国債を直接引き受けするということは、戦費という形を通じて、市中に大量のマネーを供給すること、通貨の価値は減少、インフレが発生、名目GDPは増えるが実質GDPは増えない(p97)
・日本の実質GDPは、1943年までは増加した、1944年に少し減少、1945-1946年にかけて激減、闇市価格と公定価格で15倍程度であったので、実質には45倍であった、最終的に東京の小売価格は180倍(p100,109、236)
・戦争期間を通じて3倍の物価上昇で済んでいたのは、国家による強力な価格統制があったから、1938年に国家総動員法により統制(p108)
・国債の大量発行と極端な供給制限の顕在化によって、準ハイパーインフレともいえる状況にまで物価は加速した。しかし戦時中は食料確保のためあまり意識されなかった、意識するようになったのは、自由経済取引が解禁されてから(p110)
・戦後復興のために、大量の資金が必要となり、政府は興銀から分離させる形で、復興金融公庫(現在の日本政策投資銀行)を設立した、これによりインフレを誘発したが、ドッジライン(超緊縮政策)により沈静化した(p147)
・中国のチベット、モンゴル、アフガニスタン、ロシア南部から東欧一部(ハートランド)は特別な場所である、河川を使って太平洋・インド洋・地中海に出ることができない独特な地形であるので(p162)
・ランドパワーとシーパワーがぶつかる三ケ月型のエリア(リムランド)は、日本・朝鮮半島・台湾・東南アジアであるが、この地域は地政学的に見た場合、紛争になるリスクの高いエリアである、日清・日露・日中・太平洋・朝鮮戦争はすべて朝鮮半島と中国をめぐる共通の地政学的要因で発生している(p165、170)
・かつての英国と同様、旧ソ連のアフガニスタン侵攻(1979)、米国のアフタにスタン介入の理由は、地政学的な野心があった(p177)
・ドイツ一国の台頭を防ぎ、欧州が一つになっているのは、地政学的に見て非常に重要(p181)
・距離1000キロ、荷重1トンあたりの輸送コストは、飛行機:15万円、トラック:2.5万円、船:1万円、鉄道:1.2万円であり、今も海上交通というインフレに頼る必要がある(p185)
・ビットコインとドルをうまくリンクできれば、全世界にドルとビットコインの金融覇権を確立することが可能となる、ビットコインは全ての取引をネット上で追跡可能(p190)
・米国が覇権国家として振舞うようになった理由の一つは、中東の原油を確保するためであるが、エネルギー自給できるようになったことで潜在的には不要となった、これにより米国の方針が大転換する可能性もある(p198)
・米国と中国で、アジア太平洋地域の安全保障についてある種の合意が成立すれば、日米安保はその存在意義を失い、日本近辺の安全保障は米国の合意のもと、中国に委ねられる可能性もゼロではない(p201)
・日本は業種ごとではなく、会社ごとに労働組合がある珍しい形態となっていて、中小企業の待遇が悪い原因の一つとなっているが、これは国家総動員体制により強制的に作らされた。労使協調のための産業報国会が結成されて既存の労働組合は解体された(p222)
・軍需企業の指定になると、前渡し金制度が適用、政府が発注する金額の4分の3までを発注額に支払われる、これにより企業は資金繰りを気にせずに事業実施できた(p224)
・戦時中の経済統制の影響として、時限的措置であった、年功序列・終身雇用制度は、現在では若年層と高年層の年収格差は大きくなっている。終身雇用の正社員を維持するしわ寄せは、下請け・非正規社員に及ぶ(p233)
・雇用環境だけでなく、産業界の構造そのものが戦時中の体制からほとんど変わっていない業界もある、新聞・テレビ局、広告代理店の寡占的事業形態は、戦争が作り出したといっても過言ではない、1941年の新聞事業令により、全国に100以上あった日刊紙は55に統廃合、東京では、朝日・毎日・読売・東京・日経の5紙となった、全国紙と地方紙が明確に峻別されたのもこのときの統廃合がきっかけ(p234)
・全てのお金を銀行に預金させた9か月後に、財産税法を施行、最高で90%、預金の少ない人で25%の財産税が課せられた(p237)
・当時は明治憲法が効力を持って現在とは異なり財産税は課税可能であったが、預金封鎖は国会の議決を必要としない政令で実施されているので、現在でもこうした措置は不可能ではない、キプロスは実施した(p238)
・預金封鎖には抜け道があり、株を購入する場合だけは、お金を引き出せた、株式処理がスムーズに進まないと企業の損失処理や再編がうまくいかないので(p238)
・オバマ政権は最大級の軍縮を行い平和志向の大統領と言われるが、ドローン攻撃は急激に増加、ブッシュ時代には40回だが、オバマ政権では400回、現在のCIA長官のブレナン氏はCIAにおいてドローンオペレーションを積極的に進めてきた人物(p245)
・テクノロジーと戦争、あるいは経済力と戦争の関係がより密接になり、実際に戦う前から実質的な勝敗が決まってしまうという現実が、戦争を少なくする原因の一つになる(p247)
・車両の故障率を100キロ当たり5%(100キロ走ると100台のうち5台が使えなくなる)とすると、投入車両1000台、進軍距離300キロだった場合、目的地に到達するまでに150台が使い物にならなくなる、ということ。こうした車両は整備工場まで、大型トレーラーに乗せて道路を走る、つまりインフラ未開拓の地域に現代的な軍隊は投入できない(p252)
・米軍がイラクに大量展開できたのは、イラクが豊かな国であり、道路網・電気といったインフラが整っていたから(p252)
・3Dプリンタが普及すれば、設置できればそこは車両の整備工場となる、また医療器具などを作り出す衛生拠点ともなる、戦争の主体は人から、、無人機・ロボット兵による機械の比重が高まる(p253)
・買収した外国ハゲタカと批判するが、当の日本企業が海外に対して積極的に株式を買ってほしいと営業していた事実からは目を背けている(p264)
2017年10月29日作成 -
本要約チャンネル
・戦争の勝敗は経済力が決めると言っても過言ではなく、圧倒的な経済力の差があれば戦争そのものを回避することも可能となる
・日本は過去20年間ほとんど防衛費が変わっていない
それは、経済成長ができていないことと、GDPに占める割合が1%と続いていること
・戦勝国でも負けた国でも、常にインフレに見舞われるリスクがあるということが歴史的事実から見て取れる
太平洋戦争で負けた日本、ハイパーインフレで180倍になった
・第1次対戦における好景気や朝鮮戦争特需のように、日本は第三者的立場として戦争に便乗することで経済成長を遂げてきた
・ 人の死に便乗して金儲けをするというのは、はなはだ不謹慎ではあるものの、これも戦争が持つひとつの側面であり目を背けてはいけない現実である
株を買えば預貯金が引き出せ、安値で買うことができ、その後株価は上昇し儲けた人がいた
《感想》
戦争は野蛮なもので嫌っていたが、ウクライナもこともあり、他人事ではなくなった感覚で勉強した
違う側面がわかってよかった
戦争と経済は密接に結びついている
経済が豊かなアメリカは、ウクライナに軍事支援ができ、戦争特需の恩恵が受けられることを見込んでいる
防衛費なんてムダなだけと思っていたが、経済を指し示すことができ、日本国という立場上、防衛費が増えていないということは、この国は資金が枯渇、守りが手薄なんて思われているかもしれない
アメリカの基地がある点が、唯一、邪魔な存在なのではないか
これから軍事費の推移も見ていきたい
2022.8家庭教師のトラコで「防衛費にお金を使うくらいなら世界中と仲良くなれよ」に心打たれた -
ロシアのウクライナ侵攻を見て、戦争と経済の関係をおさらいするために本書を再読
過去の戦争において、どれくらいの戦費がかかったのか。本書を読むと、日本の行った太平洋戦争が、いかに経済合理性に欠けていたのかがよくわかる。(1章)
戦争の資金調達という観点からも、日露戦争はうまく立ち回っていたのに、太平洋戦争においては、当時グローバル金融システムの主導権を握っていた米英を敵に回しどん詰まりの状況を自ら作っている。(2章)
GDPを用いて戦争と経済を読み解いた3章も、戦争とインフレの関係が読み解かれており、わかりやすい。また、実は日本は隠れたテロ大国と紹介されているが、安倍元総理が銃撃されたこともあり、むべなるかな。
4章は日本の日清・日露、太平洋戦争の戦局と株価の関係が興味深い。また戦後の日本復興は、朝鮮戦争特需による外貨獲得が大きな役割を果たしたこと等が理解できた。
5章は地政学のポイントが押さえられている。
現在も、本書の見立てとほぼ同じ状況にある。
ロシアはグローバル金融システムから切り離されたが、それでもウクライナの侵攻に踏み切った。太平洋戦争に踏み切った日本に似ているようにも見えるが、ロシアは資源供給国であるところが大きく異なる。今後の戦況とロシアへの経済制裁がどのように影響していくかを考えるうえで、本書は基礎知識を把握することができ、参考になると思う。 -
SDGs|目標16 平和と公正をすべての人に|
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/713670 -
歴史の授業で学ぶべき内容。地政学とかドライな国際関係など、前提として把握すべきことが簡潔に書かれている。
第一章
全世界のGDPの2.3%が軍事費。
GDPをあげたら軍事費もあげられる。
1976年三木内閣にて日本は軍事費をGDPの1%以内におさめる閣議決定。1986年に中曽根内閣がこの制限を撤廃したけど、実質的には継続されている。
第二章
日露戦争前後で米国資産家が日本国債を引き受けたのは、戦後日本が獲得すると予想された満洲ビジネスチャンスを狙ったから。
同様に、ミャンマーの民主化を欧米各国か推すのは、その後のミャンマー市場開放でのビジネスチャンスを狙っているから。
人権やら、現場の民衆の安全というのは表向きの理由であり、ドライな見方が正しい。
TPPの本質は、参加国の中で経済規模が大きい国が圧倒的に有利になること。ただし、日本国内の農業といった、ミクロな視点でいうと、グローバル化によって現状は維持できないのが明白。
原油が採れる、というのは核兵器並に有利なカードになる。米国が油田発見により、外部調達の必要性がうすれた。これにより、原油価格が下落し、ベネズエラのように輸出95%が原油であるような国の経済が落ちる。
原油はロシアからではなく米国から買え。
第三章
Y(GDP)=C(個人消費)+I(設備投資)+G(政府支出)
日本は
C:60% I:20% G:20%
日本に関係する戦時下においては、開戦時にGDPが上がるが、戦後に反動で下がる。
→日清戦争、日露戦争、太平洋戦争
日本に関係しない戦時下においては、ただただGDPが上がる。
→第一次世界大戦、朝鮮戦争
★朝鮮戦争の特需がなければ、現在の日本経済は存在していないと言える。
米国においても、戦争開戦時にGDPが上がり、後半で鈍化する傾向があるが、体力を超えるような軍事費を組むことはしなかったので、全体的には昇っていってる。
太平洋戦争による準ハイパーインフレでは、闇市の登場のせいもあり、物価が1940年から1950年で180倍になった。これは、国債の大量発行と供給制限の顕在化によるもの。
第四章
1946年、日本政府は預金封鎖と財産税の徴収を強行し、太平洋戦争によって発生した膨大な債務を処理することになった。つまり、国民の資産を根こそぎ奪う形で太平洋戦争の帳尻を合わせたことになる。
→ここは政府主導となっているけども、戦勝国である米国の意図が無かったとは到底思えない。
★1951年から1953年の朝鮮戦争のため、米軍から日本企業へ10億ドル以上の注文が入った。1ドル=360円とすると、3年間で3600億円はいることになる。1年で1200億円。当時の日本のGDPの3%に相当する金額が入ったことになる。
1955年には戦前の生活水準に戻っていて、1956年の経済白書では「もはや戦後ではない」という一文が盛り込まれた。朝鮮戦争特需(ドルの取得)のおかげ。
第五章
英国の地理学者マッキンダー「デモクラシーの理想と真実」
ユーラシア大陸の中央を「ハートランド」、その南の沿岸部を「リムランド」とする。チベット、ウイグルなどはハートランド所属。日本や韓国はリムランドに所属。
★中国がもともと漢民族の土地ではないチベットやウイグル、内モンゴルを制圧して侵略しているのは、ハートランドを支配下にすることの重要性を、地政学の面で十分に理解しているから。逆にこの場所を他国に取られることは致命的な脆弱性になる。
ただし、南にはチベット山脈、西には天山山脈があり、地理的な理由でそれ以上の進出は現実的ではない。
★ロシア、中国からみたときの日本はすごく邪魔。これを逆に利用しているのが英国や米国などの西側諸国。日本を防波堤にしておけば、ロシアや中国が太平洋に進出する速度をある程度止められる。これにより、西側諸国が太平洋の覇権を維持することができる。適当に人参ぶら下げて日本をペットにしておけば、人柱になってくれる。
★中国は、ハートランドのチベット、ウイグルを制圧してコントロールすることで、リムランド側の香港や台湾への制圧にリソースをさけるようになる。尖閣諸島や沖縄の内乱誘発など、太平洋進出ラインを巧妙に攻めているのが現状。
アフガニスタンはハートランドの中心なので、紛争はなくならない。
EUはドイツの封じ込めのためにある。けして理想的な経済圏ではない。
有効な輸送手段として空があるが、やはりコストを考慮すると圧倒的に海運が優れている。なので、海軍力が肝になる。
LINEは韓国資本なので、当然そこで蓄積された情報が韓国や韓国を通して中国に流れることはリスクとして存在する。
★自国のサービスをグローバル展開できない国が情報戦において不利になるのは地政学上の世界では常識。
ビットコインが怖いとか言ってないので日本も積極参加しよう。
★米国の外交戦略は、常に地政学的に決定される。決して日本への情とか無いから勘違いするなよ。全部リップ・サービスだから。朝鮮戦争やベトナム戦争だって、リムランド周辺をおさえることが目的なので、そこに「正義の心」など存在しない。
★基本的人権を尊重している米国だけども、基本的人権が無視されているサウジアラビアとはお友達。だって、地政学的には有益だから、レイプされたはずの女性を石打ちの刑にしているとか見えないですね。
中国のことを考えるときは、米国の視点を考慮すべき。日本はチワワなので、銃器フル装備の両国の方向性とか、カードバトルの行方を見て動くしか無い。悲しい。
第六章
米国の軍企業は、ダウ平均よりもパフォーマンスが良いが、乱高下が激しい銘柄。
専門企業であるロッキード・マーチンなどは、軍需部門の売上が全体の80%になってたりする、ピュアな軍需企業。そのため、戦時下の影響をモロに受ける。
一方、日本の軍需企業は財閥系が事業の一部でやっている。三菱重工で売上の7%。
米国の軍需企業と違い、戦時下の影響をモロに受けない代わりに、いわゆる民間の全体的な経済状況に影響を受けやすい。
「日本の伝統」だとされているようなものの多くは、太平洋戦争下の遺物である。
・国家総動員法により、企業の配当制限や株主の権利が大幅制限された結果、企業は「従業員のもの」というような風潮が強くなった。本来は米国型の資本主義社会だった。
・産業報国会が結成され、既存の労働組合が解体され、企業ごとの労働組合を組織するようになった。業種ごとの労働組合が本来の姿だが、これにより、中小企業の待遇が劣悪になった。
・隣組を作り、一連の強制措置を円滑に実施。町内会は隣組の名残。
・年功序列制度や終身雇用制度。
・新聞テレビ広告代理店の寡占的な事業形態。全国紙と地方紙の明確化、新聞社にニュースを配信する通信社も国策通信社である同盟通信に一本化された。同盟通信の広告代理店部門が独立して電通となっている。
1943年軍需会社法が制定され、政府が軍需会社として承認すると、直接政府の統制を受けることになるが、その分、政府が発注する3/4の資金を前受けすることが可能となった。つまり、軍需会社とされたら資金繰りに困らないし、バランスシートの総資産がどんどん増えていくことになる。
国際興業グループの小佐野賢治は、軍需会社に指定されたことを皮切りに、軍需省からの発注を受け、全国から自動車部品を買付けては納品する、ということをすすめ、資産を築いた。当然、大量のキャッシュを持つことで有利な交渉が可能となり、業績は伸び、さらにキャッシュがくるのでそれを公務員に賄賂として使って、さらに有利な発注を受けることを繰り返した。50億稼いだ。まさに戦争特需を活かした商才の塊。
マスメディアの歴史
理想)戦時下における政府の言論弾圧に断固反対し、言論弾圧の自由を求め争った!
現実)紙の配給を優先して受けたいので、決済権のある軍の将校を女や酒や金で接待して便宜を図ってもらっていた。
日本の占領下のフィリピンにて、任務でリゾートホテルに行くことになった山本七平は、そこで別世界を見た。フィリピン人や中国人資本家に取り入り、便宜を図ってもらって財をなしていた日本軍将校が混じっていたとか。物資調達の際、現地資本家の協力が必要となり、その目的で関係ができていたっぽい。
戦後の預金封鎖には抜け道があり、一定額以上の引き出しができない代わりに、株を購入する場合はその制限が解除された。これに目をつけたうちの一人、野村證券の元会長の田淵節也は、この抜け道を資産家や寺院に提案し、相当な利益をあげた。賢い。
第七章
モジュール化がはかどっているから、それらを組み合わせていくんだよ。
3Dプリンタで兵站(ロジスティクス)が捗る。戦車進軍して途中でぶっ壊れても、直せる設備をもっていける。
米軍入隊時には、体力だけじゃなくて数学力と読解力が求められている。らしい。
IT化している時代なので、新しいテクノロジーと金融システムの両者を制覇できた国が次世代の覇権国家となる。→中国!? -
戦争を経済として見る点が大変ユニーク
現在コロナ戦争下にあって経済・社会の運営はまさに戦時体制 ワクチン普及後のポストコロナをどう構想するか、本書も大いに参考になる
1.戦争をデータで分析 面白い
戦争を経費で捉える→戦争エコノミクス
短期効果は景気対策と同じ
長期的には経済体質の劣化
財政は経費の負債が累増
→増税・インフレ・資産税・賠償
2.経費の調達
日露戦争 海外から調達 米国・英国
太平洋戦争 引受先がいない 日銀引受
→この違いは何か
3.戦争は国家戦略の一部
しかし太平洋戦争は戦争が目的化
軍人の栄達「手柄を挙げて勲章・爵位」
陸軍人事の誤り エリート養成の失敗
海軍はGlobal・Scienceだがやはり軍人
4.国家戦略
各国は自国の戦略を持っている
戦前の日本は「国策」あれど「国家戦略」不在
5.国家破綻とインフレ
戦費の調達は日銀による国債引受
敗戦はハイパーインフレ 国家の債務の減価
経済基盤の混乱・毀損→一括処理「預金封鎖」「財産税の課税」
抜け道・・・株・不動産・貴金属宝石 -
TPPを安全保障と捉えていた自分にとって、再確認できた著。
省人化され、戦争そのものの変化についても触れられており、さらに掘り下げ、調べてみたいですね。 -
投資をしている人は読んだ方が良い。
具体的なリスク回避方法を知るというより、投資家リテラシーとして読むべき本。