ヨーロッパ史学史: 探究の軌跡

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  • 知泉書館
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862850591

作品紹介・あらすじ

歴史的なものの考え方の特質とは何か。歴史学とはいかなる学問か。古代ギリシアから現代のアナール学派にいたる歴史叙述の歴史を個々の歴史家とその著作に即して辿ることにより、ヨーロッパ史学史全体の見取り図を描こうとする意欲作。

感想・レビュー・書評

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  • 流し読みをした箇所もあるが、歴史家個々人の関心や歴史叙述の仕方などに注目しつつ通読した。
    正直なところ、「歴史の父」ことヘロドトス登場からアナール学派出現まで、その長きにわたる歴史学の足跡をたどる道のりは、非常に苦しいものがあった。もはや「闘い」とまで形容してもよいくらいである。読者が根をあげそうなのだから、本書を書き上げた著者の苦労はいかばかりか。あとがきを読んで、著者の歴史愛になんだか胸が熱くなる。歴史学の歩みは牛歩のごとく、さればこそ着実に地道に智は蓄積されてきたのだ。

    しかし今、文学部ないし史学部は科学の隅に追いやられつつある。歴史学とはなにか。この問いに真摯にこたえてゆくこと、それなしには歴史学の未来は暗い。
    マルク・ブロックは言う。「現在の無理解は運命的に過去の無知から生まれる」。現在の個人が、地域や国が、世界が直面している困難とはなにか。歴史は、たしかに困難の克服の仕方や具体的な道具を生み出すことはしない。しかし、原因を明らかにし示唆をあたえる。
    またブロックはこうも言う。「現在についてなにも知らないなら、過去を理解しようと努力してもおそらくは同じように無駄であろう」。歴史は懐古主義のお遊びで終わるものではない。ヘロドトスにしろ現在の歴史家にしろ、その時代を生きて、生きたからこそ出る問いにこたえをみつけるため、試行錯誤を重ねてきた。著者とともに歴史学の歩みをたどれば、歴史学とはなにかという問いにこたえるヒントを得られることだろう。

    通読してみて、やはりアナール学派出現は革命的な出来事であったように思う。アナール学派紹介の章の一歩手前がマイネッケ紹介だったからか、はたまたわたしがブロックに洗脳されているからか、どちらにしてもなにかが確実にガラリと変わっている。マイネッケが国家について熱く議論を展開しているのに対して、リュシアン・フェーブルは庶民の生活事情を語るわけであるから、てんで違う学問なのではないかと思うほどである。けれど、両者の議論が同じ舞台に並びえた。これは異変と呼んでもよいかもしれない。先の大戦が影響しているのか、これもまた当時だからこその問題提起だったのだろう。

    さて、現在の歴史学はなにを残せるだろうか。現在は、あらゆる格差、環境破壊、多様化・相対化にともなう孤独、無差別テロ・・・さまざまな困難に四方を囲まれている。この時代を生きて、どんな風穴をあけることができるだろうか。著者もあとがきにて述べているが、本書に挙げられた偉大な歴史家のような仕事をなせる力量を持つ人は少ない。だがしかし、彼らと同じく、歴史に自らの問いのこたえをみつけようと、この道を愛している者として、現在と過去との対話のなかに未来をみたいと思う。

    余談だが、女性の歴史家が挙げられていない(というよりあげるべき人物がいない)のが同性として悔しいと思った。また未来のだれかが史学史を書いたなら、そこには女性の歴史家の名があがるように。まだまだ頑張らねば。

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著者プロフィール

国立音楽大学教授

「2012年 『教養としてのバッハ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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