ヒトの心はどこから生まれるのか: 生物学からみる心の進化 (ウェッジ選書 34)

制作 : 長谷川 眞理子 
  • ウェッジ
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  • Amazon.co.jp ・本 (175ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863100343

作品紹介・あらすじ

人間の心はどのように進化したのか?不可思議な心というものの存在を、生物学から読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • 前半は4名の著者が各章で専門について書いている.個々の内容は面白いがテーマとしての統一感に欠けている.
    後半は3名の対談である.過去の研究内容についてこぼれだす知識はこれまた面白い.ただ,ウェブや携帯といった,将来の情報系の話については随分と保守的であり,思考の発展を何故か停止してしまっているようである.

  • 進化生物学の日本におけるオピニオン・リーダーとよべる
    長谷川眞理子氏が中心となってまとめている
    「ヒトの心」をテーマにした一冊。

    タイトルはわりとビッグな領域なのだけれど、
    全部で200ページにも満たないうえに、文字サイズも大きい。
    目次を見ればわかるとおり、研究者たちが自分の領域から
    短く語っていく第一部と、長谷川、岡ノ谷一夫、信原幸弘の
    3氏の鼎談による第二部からなっている。

    そこまで目新しい話もない、というか、
    研究書じゃなくて多分一般誌のコラムを集めたような
    感じなので、それは当然なのだが、
    おかげで読みやすいといえば読みやすい。

    第二部の鼎談から、おもしろかった点を拾っておく。

    p.133
    長谷川
    「他者理解に関する話というのは、ミラーニューロンの発見以降の
     理解に基づいて話をしたほうがいいですよね。ミラーニューロンの
     ようなニューロンがあるなんて、誰も思っていなかった。
     そうしたら自分がある行為をするということと、他者がある行為を
     しているのを見ることとで、同時に発火するニューロンがあったわけです。
     だから、行為自体を自分の意識に上らせる回路が、別にもう既にある動作、
     他者の動作ということは連結できることになる。だからミラーニューロンが
     発見された後、意識や他者理解はかなり塗り替えられているから、
     そこから出発するのがいいんじゃないでしょうか。」

    生物学者たち、そして認知科学者たちにとって、
    どれほどミラーニューロンの発見と研究の進展が革命的インパクトを
    もたらすものだったかがよくわかる言葉である。
    「人間関係」に関する心の捉え方については、ミラーニューロン以前の
    研究はもうほとんど説得力が薄れているケースも多いということだ。

    これも考え方によっては、人類の生得的資質を、
    二元論で強引にひっぺがして明らかにしようとしてきたパラダイムが、
    「いや、人は生まれつきこんなふうなのが自然なんですよ」という
    ダーウィン以降の生命観によって否定されていくプロセスの
    ひとつといえるのかもしれない。

    p.144
    岡ノ谷
    「じゃあ、すごく強いミラーシステムの働きは新生児にあって、
     人間以外の霊長類では、それを抑制するメカニズムが発達に
     伴ってどんどん出てくる。でも、われわれ人間は、それが一度解けちゃう。」
    長谷川
    「うん。だから人間の場合も新生児模倣自体は消えるんだよね。だけど、
     14ヶ月以後くらいにアクティブな真似が楽しみとして出てくるのは、
     私、この三項関係『私』『あなた』『マイボディー』のメカニズムだと思う。」
    信原
    「いまの話だと、14ヶ月以後というのは、お母さんの表情を赤ちゃんが模倣した
     ときに、その赤ちゃんは、「お母さんを自分が模倣した」ということで、
     笑顔になったりして反応するということでしょう? そうすると、そのことが
     逆に必要条件、つまり決定的な鍵になっているわけですね。
     ある意味で物真似芸ですよね。だから、観客がちゃんと笑ってくれないといけない。」

    ミラーニューロンに関わる真似についても、
    人間の真似は特別であるということ、
    そして、実はそれが2つの時期に分けられているということは
    興味深い。
    どうしてほかの霊長類は真似を封じてしまうのか?
    おそらく、生まれたときの強さと成長の早さの問題につながるのではないかと
    私は思う。
    よく言われるように、人間の新生児はとても未熟で、自分ではなにもできない。
    (大きな脳に成長しては母親の産道を通れないから、未熟に生まれるしかない)
    母親や周囲の人間に守り育ててもらい、数年かかって立ったり話したり
    できるようになる。
    個体として生殖可能になるには、基本的に15年ほどかかる。ああ、なんという
    長さ。

    したがって、真似をする本能、そこに快を見出す性質を
    生得的にみんなが持っていて、それを無意識下だろうが意識下だろうが
    ばんばん発動させていくことはとても重要だ。
    赤ちゃんは母親や周囲の人間の真似をすることで、おのずから、
    その人々の愛と加護を受けるという自分にとっての利得を発生させている。

    だから、模倣のうちの時期1…多くの霊長類も発揮するほうの模倣に加えて、
    愛を受けて生き延びるために、模倣時期2…「わかってやっている模倣」に
    エンドレスに突入していくのではなかろうか。

    それはひょっとして、10歳とか15歳とか、自分で行動できるようになっても
    残っているものだと私は思う。
    ミラーシステムは一生働き続けるのだろう。
    だから、私たちは共感が得意だし、他人と喜びや悲しみを共有できる(感覚が発生する)。

    個人的話になるが、先日階段を小走りに駆け下りている人を
    見たとき、なぜか私もその人についていくように小走りに
    なってしまった。急ぐ必要なんてなかったのに!
    とかく、真似をする快ということは、あらゆる人間関係の場面で立ち上がる。

    p.172
    岡ノ谷
    「生物学の立場としては、われわれが進化の過程できちんと育ててきた能力に、
     現代の情報機器やゲームが巣くっているんだということを言っていきたいですね。
     依存によって、自分自身が滅ぶ。」
    長谷川
    「そうですね。携帯電話やゲームは、われわれが進化で身につけた鋭敏な能力を
     搾取している。
     だから本来、対面して表情やゼスチャーを見ながら成り立っていたコミュニケーションと
     いうものが、その一部だけを誇張して利用したことによって、対面していた
     頃よりも情報が減ってしまった。もちろん疑似満足は感じるけれども、
     実は本当の働きはしていないということです。」

    この生物の専門家たちが、現代のパーソナル電子メディアをどう捉えているのかが
    なんとなくわかる。
    言っていることにはすごく筋が通っている。私も、対面を前提とした意思疎通能力を
    ヒトは持っていると思うので、メディア・コミュニケーションではそれが
    不協和を起こすのは同意できる。
    ただし、ちょっとこの議論は申し訳ないけれど「オッサン、オバハン」の
    居酒屋談義だという印象も否めないのだ。
    なぜかというと、人間の環境適応性をまるで考えていないからである。

    生まれたときから電子メディアに囲まれていれば、たとえ生得的には
    メディア機器を使いこなすようにはできていなくても(当然だが)、
    自分の快であるとか、利便性とかの追求のために、そしてそれを他者関係に
    おけるベストを求めていくということまでも含めて、
    ヒトは(すべてだとは思わないが、相当の割合の人は)使いこなして
    いけるのだと私は思っている。
    ただし、それはまさに「ネイティブ」であることが欠かせない。
    新生児が猛烈に言語を習得するちからを発揮するように、
    メディア・コミュニケーションについてもネイティブであるならば、
    そこにはきっと悲観的未来ばかりではないと思う。

    申し訳ないけれど、この著者たちはネイティブではない。成熟してから
    電子メディアに触れたわけだ。
    私自身は7歳くらいでパソコンを触りだし、12歳くらいで
    電子メールを使い始めたから、「ちょいネイティブ」くらいだろう。
    もっと下の世代は、リアルネイティブがたくさんいるだろう。

    自然科学の知見のような不動に思われるものさえ、
    実はパラダイムの産物じゃないかというのはクーン以来の科学観であるが、
    人間の文化なんかに至っては、もうそれこそ、常に
    コントロール不能なレベルで増殖して進化していくわけなので、
    人類が滅亡さえしなければ、数百年後には、
    それはそれでなにかしらのまとまりがあるかたちにはなっていると私は思う。

    人間そのものについては、そんなに先のことは心配しなくてよい。
    資源とかエネルギーとかの物質的リミットをどうにかするべく、
    未来への科学は力を発揮してほしいと思う。



    もくじ
    http://www.bk1.jp/DtlBibCollectionList/?bibId=3052126

    心の探求 長谷川眞理子 著 13−37
    動物の社会に見られる個体間の関係 粕谷英一 著 39−66
    こころをえがく遺伝子 安藤寿康 著 67−101
    フェロモンを介する動物のコミュニケーション 森裕司 著 103−110
    人間の「心」とは何か 長谷川眞理子 述 111−175

  • 心というものの物質的基盤は確かに脳神経系の働きである。
    遺伝というのは一生涯変わらないものではなく、むしろ生きる田mえに必要な変化を導いていると理解すべき。
    馬鹿は死ななきゃ直らない、じゃなくて、馬鹿も死ぬ前には変化する。

  • 前半はエッセー風の読み物四本、後半は座談会という形式。前半と後半で共通しているのは長谷川氏のみで、扱っている話題も全く違うので(前半は遺伝子の話が中心、後半は脳科学の話題)、ちょっとまとまりがない印象の本だが、通勤途中などに読むにはよい分量・動物の行動を「喜んでいる」などと解釈するような共感性が心の理解には必要か?これを否定してしまうと、できることは表出と脳の状態を測定することだけになってしまう。かつての行動主義?・サルの子は母親の体毛を掴んでいるので、抱っこされるときは顔が胸につく(顔を見つめあうことがない)。ヒトは体毛がないので横抱きになり、親子で見つめあう・「個体発生は系統発生を繰り返す」というフレーズが頭から去っていかないため、発達がそうだから心もそのように進化してきたと考えがち。が、これがかならずしも正しいとは限らない

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