動的平衡2 生命は自由になれるのか

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  • 木楽舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863240445

感想・レビュー・書評

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  • 生命は、壊される前に自ら壊して更新することによって、時間による劣化(つまり、エントロピーの増大)を免れている。小は細胞内の物質交換や細胞自体の更新から、大は個体そのものの再生産(死と誕生)によって。もしかすると「種」さえもこうした流れの一部なのかもしれない。

    それなのに、科学者は生物の正体を解明するためにこの流れを止めようとする。福岡は言う。
    「生命を構成している要素が、絶え間のない消長、交換、変化を遂げているはずの細胞。その細胞を殺し、脱水し、かわりにパラフィンを充填し、薄く切って、顕微鏡でのぞく。そのとき見えるものは何だろうか」

    「細胞」を「業務」に置換すれば、これはまさしく我々システム屋がやっていることと同じだと気付く。
    生きた業務がシステム上に構築できないといって、嘆いてはいけないのである。システムとは、あらかじめそのように運命づけられているのであって、我々には他の手段が与えられていないのだ。

    構造化もオブジェクト指向も、結局のところは「細胞を殺し、脱水し、かわりにパラフィンを充填し、薄く切って、顕微鏡でのぞく」ための方法論でしかない。
    我々にできることは、できるだけ新鮮な(死んだばかりの)細胞を手に入れて、できるだけ正確に薄く切り、できるだけ仔細に観察して、深く考察することだけなのだから、来年も頑張ってその道に邁進しようと思う。

    ところで、アジャイルってどうなんだろう?

    2011/12/29 記

  •  副題には「生命は自由になれるのか」とある。生物はどこまで遺伝子DNAの束縛から自由であるかというのが大きなテーマ。かつて、ドーキンスの『利己的な遺伝子』が一世を風靡し、生物は遺伝子の乗り物にすぎないと言われた時期もあった。しかし、機械論的・還元主義的進化論から脱出する糸口がエピジェネティックスという分野により切り開かれつつあるという。一般的な遺伝(ジェネティックス)から離れて(エピ)生じる遺伝の研究である。ヒトとサルの遺伝子は2%しか違わないのに、なぜ両者では大きな違いが生じるのか。遺伝子のスイッチのオン・オフの制御が大きく関係していることは確かだろう。ここから、ヒトはサルのネオテニー(幼形成熟)として進化したのではないかという魅力的な仮説も生まれる。
     生命は絶えず変化しながらバランスを保っているという動的平衡の概念から、さらに一歩踏み出し、生命の多様性・柔軟性・可変性へと言及しており、「生命はこんなにも自由だ」という生命賛歌となっている。

  • 遺伝子以外の何かが生命を作っている、かもしれない。時間軸を意識しなければならない。全体としては、著者のいつもの主張で、自分の中の動的平衡を想像しながら、少しおかしな気持ちになれる本です。
    印象に残ったのは、9章の「木を見て森を見ず」。CO2や放射線で騒いでいる世の中に対して、細胞と同じで、全体は見えなくても、お隣にヒントがあるかもよ、というお話。そうなのか。そうなのかも。

  • 私のように遺伝子とか生命現象については全くの素人にはとても楽しく読める本。

    福岡先生の絵画や音楽に対する造詣の深さにも感銘。

    衝撃的だったのは、「この世に因果関係は存在しない」という項目でした。サイエンティストがこんな風に言い切っていいの?と思ったのですが。後から、先生は昨年人文系の教授に転身されていることを知り、なるほどねぇ、と思った次第。
    http://podcast.jfn.co.jp/poddata/susume/susume_vol307.mp3

    兎に角、せっせと良質の水を摂りつつ、出来るだけ必須アミノ酸のひとつであるロイシンを口にして、適度な運動を心がけ、健康な毎日を過ごすことに心がけるか・・・。

  • この人の考え方は、一貫しているし、とても面白いと思う

    けれど、なんだか物足りなく感じてしまったのは、何故だろうか。

    動的平衡の続編だしねー、仕方ないのかもしれないけれど。


    エピジェネティックスという考え方はとても興味深かったです

    遺伝子がどのようなタイミングで活性化されるかで、ヒトとチンパンジーが違うかもしれないだなんて、(勿論遺伝子にも差異はありますが)、想像するだけで面白い!

    チンパンジーのネオテニーがヒトだって、なんだか魅力的よね

    福岡伸一の本は、生命の不思議について様々な想像を私たちにさせてくれることがとても面白いと思います



    それから、マイケル・クライトンの、アンドロメダ病原体、を読んでみたいなと。

    これはメモです笑

  • 過去に読んだいくつかの福岡氏の他著との重複が多く、特に前半はまとまりに欠ける印象が否めず、やや不満が残る。既に読んだ内容をさわり程度に書かれているだけに見えるからだろうか。
    あまりに簡素な感じがしたので、細かいコラムのようなものをつなぎ合わせた本なのかと後付けを確認したが、それほど細切れに書かれたものでもないらしい。
    ついこの前読んだ「センスオブワンダーを探して」と重なる部分が非常に多かったので尚更かな~。伸一少年が博物館へ発見した虫を見せに行く話とか、フェルメールの話とか、ネオテニーの話とか…。

    重複しつつもところどころ心に留めておきたい言葉なども見つけたし、後半8章9章あたりは興味を引く内容もあったが、う~ん、物足りない。
    似たような本を書きすぎ??読みすぎ??

    追記。
    一年以上前に買ったきり読んでいなかった「働かないアリに意義がある」という長谷川英祐氏の本と、スティーブン・グールドの「ワンダフル・ライフ」(こちらは5年以上も積読…)が紹介されていた。そうだった、まだ読んでなかったっけ、と思い出した。読もう。

  •  『生物と無生物のあいだ』で、生命現象を特徴づけるのはドーキンスが提唱した自己複製だけでなく、たえず合成と分解を繰り返しつつ一定の恒常性を保つあり方、すなわち動的平衡にあるのではないかと主張した著者が、エピジェネティクスという新しい生命観に注目し解説している。同じ遺伝子を持っていたとしても、遺伝子の動くタイミングや順番、ボリュームが異なるからこそ多様性が生まれるのではないかということだ。確かに、遺伝子の突然変異だけではカンブリア紀の爆発的な生命の横溢とその多様性は説明しにくい。楽譜は同じでも演奏家が出す音の強弱でまったく異なる曲のように聞こえるように、遺伝子の発露のタイミング、強弱で多様性が生まれるという仮設はそれなりに説得力があるように思った。

  • 生物学者、福岡伸一の新刊。面白い。この人の本を読むたびに、生物学者というものに憧れます。血も動物も虫も苦手ですが。
    すべてのシステムは、摩耗し、酸化し、ミスが蓄積し、やがて障害が起こる。つまりエントロピー=乱雑さは、常に増大する。このことをあらかじめ織り込み、エントロピー増大の法則が秩序を壊すよりも先回りして自らを壊し、そして再構築する。生物が採用しているこの自転車操業的なあり方、これが動的平衡である。P243 

  • 「生物と無生物のあいだ」から一貫した主張。「変わり映えなし」という印象ではなく、何度も「やっぱりそうだった」と思える。生命現象から、社会問題解決へのヒントを学ぶ。

  • 前著である「動的平衡」の続編である。が、前著を読んでいなくても問題は全くない。というのもこの作者「生物と無生物のあいだ」からあまり主張が変わっていないからである。良く言えば、心が通っている科学者であるが、読み手から見ては、またこれかよ!なんて思ってします。
    著者は処女作から一貫して、「生命とは何か」ということを問う。
    それは、動的平衡つまり絶えず変化してエントロピー増大の法則に対抗していることであると主張する。今回も、この主題をあるときは音楽に、あるときはダンスに例えて技巧的に表現している。筆者の優れている点は、現象の比喩が巧みであり、言葉選びにセンスがありまるで小説を呼んでいる錯覚に陥るということであると思う

    今回の著書の新しいトピックとしては、エピジェネティクスである。これは、遺伝というのは同然先天的な要素であるが、それに加えて外部の環境に適合するように遺伝子のスイッチがONとOFFになることで多様性が生じるという仮設である。
    生命は遺伝子の設計図の通りに作られるというのが高校生物から学ぶことであるが、我々の住んでいる社会を見渡すと多種多様な人間がいる。
    これは環境による差異が遺伝子のONとOFFのタイミングを遅らせ(又は早まらせ)、多様性を構築しているのだという。

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著者プロフィール

福岡伸一 (ふくおか・しんいち)
生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、青山学院大学教授。2013年4月よりロックフェラー大学客員教授としてNYに赴任。サントリー学芸賞を受賞し、ベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)、『動的平衡』(木楽舎)ほか、「生命とは何か」をわかりやすく解説した著書多数。ほかに『できそこないの男たち』(光文社新書)、『生命と食』(岩波ブックレット)、『フェルメール 光の王国』(木楽舎)、『せいめいのはなし』(新潮社)、『ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで』(文藝春秋)、『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー)、『生命の逆襲』(朝日新聞出版)など。

「2019年 『フェルメール 隠された次元』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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