もうひとつのこの世《石牟礼道子の宇宙》

著者 :
  • 弦書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863290891

作品紹介・あらすじ

〈石牟礼文学〉の特異な独創性が渡辺京二によって発見されて半世紀。互いに触発される日々の中から生まれた〈石牟礼道子論〉を集成。現世と併存するもうひとつの現世=人間に生きる根拠を与える、もうひとつのこの世、とは何か。石牟礼文学の豊かさときわだつ特異性はどこにあるのか。その世界を著者独自の視点から明快に解きあかす。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の渡辺京二は、石牟礼道子と共に水俣闘争を戦った仲間。(聞き覚えのある名前だと思ったら、「逝きし世の面影」の作者でした)
    彼女の影響力が大きいのか、波長がよほど合うのか、彼女の作品や活動を分析し、その素顔を表現する。
    実際に著書を読まないと、肯定も否定も出来ないとしても、分析力は凄い。

    内容の一部。
    石牟礼道子にとって世界は世間ではなくファンタジー。この点で彼女は宮沢賢治に非常に近い。彼女の作中人物は世間を超えたところ、あるいはそれからはずれた場所に生きていて、現実という膜を通してもっと永遠なものの相にふれたところがある。彼女が狐や狸、山や海辺に棲むもろもろのあやかしどもを好んで登場させるのも、この世だけが世界だとは思っていないから。この世はいつでもあの世に変換されうるので、そういう彼女の世界の多重性・多次元性はむしろ中世文学に近いのかもしれない。

    彼女の共感能力は人間に対してだけではなくもろもろの生類、さらには自然現象に対しても発揮される。これは古代人的な能力だろうが、これが彼女の中に生き残っているのだ。だからよる辺ない無力な者を見ると自分で悶えてしまうということになるが、それは一歩進めると、この世では心美しいものは必ず迫害されるのだという強迫観念になりかねない。彼女自身にこの世でどうもうまくやってゆけない、自分だけでなく人間というのはそもそもこの世とうまく合わないのじゃないかという感覚があって、それが作品創造の原動力になっているのではないか。
    その隠れた存在の次元は、近代化以前、工業化文明以前の、さらに言えば文字文化以前の、土を耕し、海の生きものをすなどり、牛や馬を追う、山河と密着した生活のありかたの中で常に感知されていたもので、それなしには農民としての、あるいは漁民・牧畜民としての現世の世俗生活も存続の根底を失うような、「もうひとつのこの世」だったのだ。

    彼女は、「この世」と併存する「もうひとつのこの世」の様相を、ひとりの浪曼主義者的な幻視としてではなく、日本の伝統的な農民世界、漁民世界、さらにそれらの周辺部分、周辺でありながら中核でもあるような遊行民の世界の伝統に添った幻想的世界として描き出して来たのであって、こういうことができたのは、日本近代文学史上彼女が初めてであった。
    とくにそれが集中的、顕示的に表われているのが、「あやとりの記』と『天湖』。

    彼女の小説は私小説ともまったく異っている。物語の構造は、現在と過去が常に混淆していて、現時点で進行している出来事と、過去の回想が截然と区別しながら物語られるのではなく、混りあいながら同時進行してゆく。言い換えれば、彼女の小説には過去がなく、過去はすべて現在に現前している。

  • まだ石牟礼道子さんの著書を読んでいないのだけれど、石牟礼さんに対する本書の著者の熱い想いが伝わってきた。そして、石牟礼さんに欠けている部分の指摘もあり、冷静な姿勢もある。

    石牟礼さんの読書歴を明らかにしていたが、なぜ文章力を身につけられたかについて言及してほしかった。

  • 「老人が一人亡くなることは、図書館が一つなくなるようなものである」
    を 思ってしまいました

    そして 石牟礼さんはまだご存命だけれども
    著作がこれからも 「叡智の財産」として読まれて
    いくのだろうな とも 思った

    本当にたいせつなものは
    目に見えないのだよ

    本当にたいせつなものは
    耳に聞こえないのだよ

    その 見えない 聞こえない 
    そのものを 綴ってこられたのだろう
    とも 思いました

    聴き巧者としての
    渡辺京二さんもまた素敵だな
    と 思いました

  • 愛媛新聞読書欄。

  • 「情念が支える知の全体性」[評者]三砂ちづる=津田塾大教授 Chunichi Bookweb(TOKYO Web)
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013070702000184.html

    「畏敬と敬愛のまなざし」[評者]長薗安浩=作家 北海道新聞社
    http://www5.hokkaido-np.co.jp/books/

    弦書房のPR
    「〈石牟礼文学〉の特異な独創性が渡辺京二によって発見されて半世紀。互いに触発される日々の中から生まれた〈石牟礼道子論〉を集成。現世と併存するもうひとつの現世=人間に生きる根拠を与える、もうひとつのこの世、とは何か。石牟礼文学の豊かさときわだつ特異性はどこにあるのか。その世界を著者独自の視点から明快に解きあかす。」

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著者プロフィール

1930年、京都市生まれ。
日本近代史家。2022年12月25日逝去。
主な著書『北一輝』(毎日出版文化賞、朝日新聞社)、『評伝宮崎滔天』(書肆心水)、『神風連とその時代』『なぜいま人類史か』『日本近世の起源』(以上、洋泉社)、『逝きし世の面影』(和辻哲郎文化賞、平凡社)、『新編・荒野に立つ虹』『近代をどう超えるか』『もうひとつのこの世―石牟礼道子の宇宙』『預言の哀しみ―石牟礼道子の宇宙Ⅱ』『死民と日常―私の水俣病闘争』『万象の訪れ―わが思索』『幻のえにし―渡辺京二発言集』『肩書のない人生―渡辺京二発言集2』『〈新装版〉黒船前夜―ロシア・アイヌ・日本の三国志』(大佛次郎賞) 『渡辺京二×武田修志・博幸往復書簡集1998~2022』(以上、弦書房)、『維新の夢』『民衆という幻像』(以上、ちくま学芸文庫)、『細部にやどる夢―私と西洋文学』(石風社)、『幻影の明治―名もなき人びとの肖像』(平凡社)、『バテレンの世紀』(読売文学賞、新潮社)、『原発とジャングル』(晶文社)、『夢ひらく彼方へ ファンタジーの周辺』上・下(亜紀書房)など。

「2024年 『小さきものの近代 〔第2巻〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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