モンキービジネス 2009 Fall vol.7 物語号
- ヴィレッジブックス (2009年10月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
- / ISBN・EAN: 9784863321878
感想・レビュー・書評
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チャールズ・レズニコフが紹介されている。『証言ーアメリカ合衆国(1885ー1915)』からその一部を訳したものだ。法律家だった彼がその職業からかアメリカで実際あった事件の裁判記録をもとに、極力その記録の言葉を変えずに作った詩であるという。
実際読んでいて胸の詰まるような悲しい記述がある、また何とも不可思議な男女の愛憎もある。しかしここで語られているのはその出来事のみだ。物書きが裁判を元に物語を書くというのはそう珍しいことではないだろう。事件をヒントにある物語を紡いでいく。登場人物の背景や因果関係、事件を起こしてしまう動機、その顛末等いかに読者にリアリティを与え、共感を覚えさせるか心血を注ぐのが作家の仕事なんだと思う。
チャールズ・レズニコフはそういったことを一切しない。いやむしろそこにあるはずの『物語』を削り取ろうとしている。読まされたこちらはただ有無を言わさず事件の起きたその場所に立たされた気分だ。
彼の名前を知ったのはポール・オースターの『空腹の技法』からだった。
四月
小枝の強ばった線
が蕾によってぼやける。
月夜
木々の影が芝生の黒い水たまりに広がる。
橋
雲のなかに鋼の骨たち。
破れ靴の浮浪者
服も汚く皺だらけ
汚い手と顔ー
ポケットから櫛を取り出して
丹念に髪をとかす。
ニューヨークからほとんど出なかったというレズニコフの詩。オースターはカルティエ・ブレッソンの『決定的瞬間』を引き合いに出して優れたスナプショットのような、と言っている。
少ない言葉で無限の広がりを見せてくれる詩がある。たとえば一行で百年の歴史以上ものを。だがこの一行にすべてが隠されているわけではない。一行はただの一行だ。この一行がこちらの中にある何かを開いてくれるのだ。
世界はこちらにあるがそれがまるでわからない。レズニコフの言葉はチャンネルだ。見たこともない自分の世界を見せてくれる。
チャールズ・レズニコフの作品が日本語訳で読めるのはこのモンキービジネスVol.7と先のポール・オースター『空腹の技法』のみだという。翻訳者宮本文氏に感謝したい。今後の訳出を強く望む。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
相変わらずのさすがなラインナップ。
細かくはまた後日。