NR (新鋭短歌シリーズ5)

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著者 : 天道なお
制作 : 加藤 治郎 
  • 書肆侃侃房 (2013年8月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863851191

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NR (新鋭短歌シリーズ5)の感想・レビュー・書評

  • 天道なおの第1歌集。就活の学生時代の終り頃⇒就職⇒恋愛⇒結婚⇒出産⇒子育てと会社生活の両立⇒離職のそれぞれの過程を歌に詠んでいる。表題のNRは、ノー・リターンの略。通読すれば、彼女の四半生のドラマのようでもある。歌は一部に英語のアルファベットが混じったりはするものの(それとても現代短歌では、もはやごく普通のことだが)、言葉も表現も平明である。自らの感情を直情的に歌い上げるのではなく、一歩引いたところから眺めるもう1人の自己がいるかのような歌いぶり。そのように常に理知的で冷静なのだが歌全体には抒情が漲る。また、歌のリズムの軽快さもいい。一首を挙げるなら「さみしさは(ぽん、ぽ、ぽぽぽん)ランダムに押すスタンプのようであり(ぽん)」。  注「ぽ」はpoです。

  • 一駅も一生(ひとよ)も同じ時として光る栞を胸に抱きぬ
    約束をやぶってごめん惨惨とやさしい雨が降る場所にいる
    万緑の笹ざわめいてああどうか燃えてください燃えてください
    月光に血管微かに透かしおり冷たき窓辺の白い半女半鳥(ギンダリ) 
    すみやかに感情などは折り畳み折り畳んだのち受話器を取りぬ
    歳月が彫りし容貌(かお)なり地下鉄の車窓にぼうと映るわたくし
    おさなごの内にも燃える音があり心電図グラフ連なりてゆく
    さみしさは(ぽん、ぽ、ぽぽぽん)ランダムに押すスタンプのようであり(ぽん)
    シュレッダーざむざむ刻むひとひら(ドキュメント)を例えるならば彼らの舌だ
    山間部および都市部はおよそ雨、NR(ノーリターン)とあるホワイトボード
    しきしきとセロリの茎を食みながら等しく老いるわれら二人は
    街角にHotto Mottoが増えていきお帰りなさい僕の怪物
    誰がために働くわれかしろしろと冷える陶器に乳ながしおり
    ぎんいろの棚にミネラルウォーターの透明な森深閑とあり
    旧姓のシャチハタの朱濃くうつり天道さんと呼ばれし日々よ

    15首選。絞るのが難しい。学生時代から就職、結婚、母になるまでの歌。身に積まされる歌もあり、共感する歌もあり。「 短歌という表現様式は、記憶を補強するメディアであると常々考えている。 」から始まるあとがきも秀逸。
    短歌とは心で撮る写真のようなものだと私は思っていて、考えさせられた。

    「山間部および都市部はおよそ雨、NR(ノーリターン)とあるホワイトボード」
    山間部および都市部という言葉から、ぱっと盆地のような景色が浮かぶ。山間部の透明の雨というから、濃緑、冷たいが澄んだ空気、水の音。
    下の句は一転して、ホワイトボード、社内風景である。ノーリターンなのは誰なのか、ともかく静かで人の減った午後なのだろう。雨とあいまって少しさみしい、しかし雨の気配が色濃くなる歌である。NR(ノーリターン)は歌集タイトルにもなっている。歌集では学生時代から就職、結婚、出産、さまざまなステージが切り取られている。決して戻りはしない、進んでいく、NRということだろうか。
    「歳月が彫りし容貌(かお)なり地下鉄の車窓にぼうと映るわたくし」地下鉄の窓に映る「わたくしの容貌」は「歳月が彫りし」かおだった。そしてまた地下鉄に乗り進んでいくのである。

    「一駅も一生(ひとよ)も同じ時として光る栞を胸に抱きぬ」
    この歌もまた、駅がモチーフとして使われている。「一駅も一生も同じ時として」というのは、いまこの駅に立つ一瞬も、通りすぎるステージとしての今、通りすぎてきた時期もすべて同じ重さで、ととらえた。「光る栞」は大切な思い出か記憶か、またはその記憶を補強したうたか。
    栞という言葉で全てが本に綴じられていく、途中駅も、線路も、一生も。きらめく栞のイメージが美しい。そして、その栞の1つ、あるいは一駅がまさにこのNRなのであろう。代表歌として引かれるのにふさわしい歌だと思った。

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NR (新鋭短歌シリーズ5)の作品紹介

香り高い歌が拡がる。
天使の都から日本のオフィスまで、
現代の言葉が世界を駆け抜ける。
加藤治郎

自選短歌五首
こいびとは遠き日曜 電磁波の時雨に濡れてきみはいまごろ
勝ち負けは淡くあのこはもういないそろり足首ひたす泥濘
山間部および都市部はおよそ雨、NR(ノーリターン)とあるホワイトボード
たった今排出されたファックスの微熱ばかりがいとしい夜だ
激しくも西日射し込むこの部屋で全世界色見本帳繰る

NR (新鋭短歌シリーズ5)はこんな本です

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