あひる

著者 :
  • 書肆侃侃房
3.45
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本棚登録 : 1475
感想 : 222
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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863852419

感想・レビュー・書評

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  • あひるののりたまと両親のものがたり。
    自分の子供時代を思い出すような昭和な風景が描かれていた。

    子供の無邪気さと冷静さと少しの残酷さ。
    こどもは大人が思っているより物事をわかっているけど、そう思いたくないのは大人たちだなというお話し。
    表題作他に短編2つ入

  • 表題作『あひる』は、読み進める内に知らず知らず心拍数が上がっていく。ぼやけた部分で本当は恐ろしいことが起こっているんじゃないかと。

    平凡だけど何かが欠乏した家族。その病変がじわじわと広がっていくようで未来に胸騒ぎを覚えてしまう。長女の存在が悲しくてしょうがない。

    『おばあちゃんの家』と『森の兄妹』は連作になっている。子供の敏感な心の動きに感じ入ってしまった。
    この二話にも鳥が出てきて、それがあひるとの対比にも見える。

  • 可愛らしいローズピンクの装幀、あひるの絵、一見牧歌的なこの本の中身には、毒や棘がチクチク仕掛けられていて大変怖かったです。中編3作収録、どれも長閑な田舎を舞台に子供たちが登場するにも関わらず、読後にはなんともいえない不穏な気持ちになる。

    表題作は、老いはじめた両親と暮らす主人公女性の家で、引っ越す知人から引き取ったあひるの「のりたま」を飼い始めた途端に、あひる見たさに小学生たちが庭に訪れるようになる。両親は賑やかになることを喜び子供たちをもてなし、交流がはじまる。一見ほほえましい情景だ。

    しかし、ストレスで弱ったあひるを素知らぬ顔で取り換える父、妙な宗教にはまっていると思しき母、資格のために勉強しているが働いたことのない主人公、二十歳そこそこで家を出て結婚した弟は帰宅するなり怒鳴り散らし、子供たちはあひるが好きなだけでこの家を好きなわけではない。

    作者の、ちょっとした棘の仕込み方が絶妙だなと感心してしまうのは、たとえば主人公の年齢や経歴についてなんの説明もないのでせいぜい20代前半かなと推測して読み進めていると、かなり後半になって弟は結婚してまる8年子供ができなかったと書かれていることで、少なくとも弟は20代後半以上の年齢であり、つまりその姉である主人公はすでに30代であることに読者は気づいてしまう。でも彼女は働いたことがない。

    あるいは孫が欲しいと思う母、それ自体は罪ではなく自然な感情だけれど、それを息子とその嫁にぶつければ当然相手はストレスに感じるわけで、息子に怒鳴られてから母はそれを言わなくなったけれど、自分のデリカシーのなさに気づくことはないだろう。代わりにあひるを見に来る小学生を可愛がることの裏側にあるこの両親の闇。誰も本当の悪人ではないけれど、ウンザリさせられてしまう細部のリアリティ。

    同じように「おばあちゃんの家」も「森の兄妹」も、おばあさんと交流する子供の話という表層だけなら微笑ましい話のはずなのに、なんともいえないザラザラしたものが読後に残ってしまった。悪気のない残酷さ、今村夏子は怖い。

    ※収録
    あひる/おばあちゃんの家/森の兄妹

  • 初読

    人の家の暗がり、独特の臭い。
    少し前に誰かが座っていた温もり。
    どうという事もない、そこはかとない不快。

    そういう印象。
    なんとなく、どことなく、皆が知ってるような。

    三羽ののりたま。
    孔雀のような雉。

  • 今村さんってなんでこんなにゾワっとする作品を書くのが上手いんだろう…すごいぞわぞわした。とくに芥川賞候補に挙がった表題作のあひるがぞわぞわ。止まらない。
    星の子でも宗教的に触れてたけどなんか縁があったのかな、宗教的なことに、と思ったり。
    あひるののりたま…ぞわる。
    おばあちゃんの家も不気味すぎて怖いし、怖いというか本当に起きそうで怖いし…面白かった! すごーく。

  • 怖い。
    一見ハートフルとも思える始まり方で、じわじわと、気がつけば脱出不可能な、地獄のような日常に追い詰められている恐怖。
    読後しばらくは謎の焦燥が止まらない。

  • ゾワッ怖!
    人の生きがいは他人との触れ合いなんだろうな。

  • kindleunlimitedで扱われていたので読んでみた。著者の今村夏子は今年の芥川賞候補に挙がっている。

    優しい文体で過去を振り返るような、懐かしさがある。しかし決して快いだけの「昔」ではなく、幼い純真と現実の硬さがチクチクと痛い。

    昨日山形のばあちゃんが亡くなったと母から電話があった。3年ほど前に施設に入っているばあちゃんにあった。いろんなことは忘れていっているみたいだったが、僕のことは覚えてくれていた。僕が結婚して奥さんがいて、子供がいることは忘れちゃっていたみたいだったけど。一緒に暮らしていたわけじゃないし、もう94にもなるからと気持ちは静かだけれど、心が何かを感じようとしている気がする。

    読みながらばあちゃんのことを思いだした。じっと考える良い機会を与えてもらった。


    17.6.24

  • +++
    あひるを飼うことになった家族と学校帰りに集まってくる子供たち。一瞬幸せな日常の危うさが描かれた「あひる」。おばあちゃんと孫たち、近所の兄妹とのふれあいを通して、揺れ動く子供たちの心の在り様を、あたたかくそして鋭く描く「おばあちゃんの家」「森の兄妹」の3編を収録。
    +++
    表題作のほか、「おばあちゃんの家」 「森の兄妹」
    +++

    外から一見すると、ほのぼのとした日常の暮らしのひとコマのように見える。だが、一歩近づいてみると、そこにはほんのわずかな歪みや傷があり、胸のどこかをざわめかせるのである。しあわせそうに見える光景から、表面の薄皮をはいでみたら、見てはいけないものがふと現れてしまったような、不穏な心地にさせられるのである。かと言って、ほんとうにひどいことが行われているわけでもない。その不穏さの忍び込ませ方が絶妙で、何となく厭な気持ちになりそうになりながらも先へ進まずにはいられないのである。あっという間に読めてしまうにもかかわらず、胸の奥深くまで沁みとおる一冊である。

  • 可哀想な人って誰ですか?

    それを決めるのは誰ですか??

    静穏に見えている日々にも
    それぞれの思惑はあって……

    小説ならではの居心地の悪さが
    心地いい。

    ヒップホップのパンチラインの様に
    毒がチクチクと刺さりこむ。

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著者プロフィール

1980年広島県生まれ。2010年『あたらしい娘』で「太宰治賞」を受賞。『こちらあみ子』と改題し、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で、11年に「三島由紀夫賞」受賞する。17年『あひる』で「河合隼雄物語賞」、『星の子』で「野間文芸新人賞」、19年『むらさきのスカートの女』で「芥川賞」を受賞する。

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