アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】

  • 晋遊舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863912809

作品紹介・あらすじ

単純な「チェックリスト」が日常に起きるミスを減らし、災害・事故に際しては人命を救う。絶対にミスの許されない医療現場で著者が辿り着いた真実。経営者、投資家、医師、パイロット、建築家、料理人…、あらゆるプロフェッショナルが信じる成功のエッセンスがここにある。米誌「TIME」の「世界で最も影響力ある100人」に選ばれた著者の提言。

感想・レビュー・書評

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  • 2024/01/31 ギブアップ

    一言:チェックリストによる医療現場での有用性の列挙

    感想
     チェックリストによる有用性を話した後、実体験でのエピソードがたくさん記載ありました。途中で飽きてしまい断念。

  • ☆4(付箋15枚/P238→割合6.30%)
     
     
    どちらかというと、「チェックリストという方法の再発見」だった。
    外科医だった著者は医療で基本だろうということを見落としてしまうようなミスを避ける方法をずっと探していた。
    人間の失敗には「無理」と「無知」と「無能」があって、無知の領域が減った分できることが複雑化し、無能になってしまうことがあるということ。
    そして問題には、毎回同じように繰り返せる単純な問題とレシピが決められない困難な問題、それと子育てのように毎回結果が異なる複雑な問題があるということ。
    その二つをコントロールするヒントが、大規模施設をミスゼロで建築する建設業界やミスの許されない環境に乗客を運ぶ航空業界だったのだ。
     
    ・研修医の時に読んで以来、ずっと印象に残っている文章がある。1970年代にサミュエル・ゴロビッツとアラスデア・マッキンタイアという二人の哲学者が書いた短いエッセイだ。彼らは、どうして私たち人間は失敗してしまうのかについて考えた。二人によれば、多くの場合は「無理」が原因だ。私たちは、この世界の大部分を理解することも、それに対して影響を及ぼすこともできない。科学技術の助けを借りても、私たちの肉体と精神には限界がある。人間は全知でも全能でもないので、どうしても無理なことがあるのだ。
    一方で、高層ビルの建設、大雪の予知、心筋発作や刺し傷の患者の治療など、私たちができることもたくさんある。そして私たちが何かをできる領域では、失敗の原因は二つだけだ、とゴロビッツとマッキンタイアは言う。
    一つめが「無知」である。科学は発達したが、わかっているのはまだほんの一部分だ。建設できないビル、予知できぬ大雪、治せない心筋梗塞など、私たちが知らないことはまだまだ多い。二つ目が「無能」だ。正しい知識はあるのだが、それを正しく活用できない場合を指す。設計ミスで崩落する高層ビル、気象学者が予兆を見落とした大雪、凶器が何だったかを聞き忘れることなどがこれにあたる。
    人類の歴史の大半では、「無知」が一番の問題だった。その最たる例が病気だ。ほんの少し前までは、病気の原因や治療法などはほとんどわかっておらず、人間は病気にされるがままだった。だがここ数十年で、無知と無能のバランスは驚くほど大きく変化してきた。私たちが急速に知識を得たことで、「無能」は「無知」に負けないくらい重要な問題となった。

    ・世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD)第九版には1万3千種類以上の病気や怪我が載っている。そして、私たちはそれらのほぼ全てに対して何らかの処置を施せる。完治できなくとも、病気の害やつらさは軽減できる場合がほとんどだ。だが、その方法は、病気ごとに異なり、多様で複雑だ。医学の進歩は、医者に6千の薬と4千の手技を与えた。だが、それぞれに使用条件、リスク、注意点がついてくる。医者が判断しなければならないことの数は膨大なのだ。

    ・2001年に、ジョンズ・ホプキンス病院の集中治療の専門家ピーター・プロプロノボスト医師は、医者のためのチェックリストを作ってみることにした。ICU(集中治療室)での全ての業務のためのチェックリストを作るのは難しい。だから彼は、数百ある業務のうちの一つ、中心静脈カテーテルの挿入に目をつけた。
    中心静脈カテーテルを挿入する際の感染予防の手順は以下の通りだ。

    1.石鹸で手を洗う
    2.患者の皮膚をクロルヘキシジンで殺菌する
    3.滅菌覆布で患者を覆う
    4.マスク、滅菌ガウン、滅菌手袋をつけ、カテーテルを挿入する
    5.刺入点をガーゼなどで覆う

    決して難しい手順ではなく、昔から教えられている通りの方法だ。こんな当たり前の手順にチェックリストを作るのは馬鹿らしく思えるかもしれない。だが看護師に医師を一ヶ月間観察させると、三分の一以上の患者で一つ以上の手順が飛ばされていることが分かった。
    プロノボスト医師と彼のチームは病院の役員たちを説得し、医師が一つでも手順を飛ばしたらカテーテル挿入を止める権限を看護師に与えた。また、カテーテルを長期間入れておくのは感染の原因になるので、抜くべきカテーテルがないか、看護師は毎日医師に確認することになった。
    …それから一年間、カテーテルの感染率を追ったプロノボスト医師たちは信じがたい結果を得た。カテーテル挿入から10日間の感染率が11%から0%に下がったのだ。その後15ヶ月間にもわずか2件しかカテーテルの感染は起きなかった。ジョンズ・ホプキンス病院は43人の感染と8人の死を防ぎ、200万ドルの経費を節約できた計算になる。

    ・ヨーク大学のブレンダ・ジマーマン教授とトロント大学のショロム・グルーバーマン教授は、複雑性について研究を重ねてきた。二人によれば、世の中の問題は三つに分類できるという。
    一つ目は「単純な問題」だ。ケーキの焼き方などがこれにあたる。いくつかの基本的な技術を学ぶ必要はあるかもしれないが、それらを覚えてレシピ通りにやれば高確率で成功する。
    二つ目は「やや複雑な問題」だ。ロケットを月へ飛ばすのはこれにあたる。複数の「単純な問題」に分解できることもあるが、単純なレシピは存在しない。予期せぬ困難が頻発し、チームワークと専門知識が成功には不可欠だ。タイミングや協調が重要な課題となる。
    三つ目は「複雑な問題」で、子育てが良い例だ。月へのロケットは、一度やり方がわかれば、また同じやり方で飛ばせる。何度も繰り返すことによって、飛ばし方を改良していくこともできる。だが、子供は一人ひとりが違う。一人子供を育てたからといって、次がうまくいく保証はない。経験は有用だが、それだけでは不十分だ。

    ・医療には「単純な問題」「やや複雑な問題」「複雑な問題」が混在している。だから中心静脈カテーテルのようにチェックリストで改善できる部分もあるが、そうでない部分がほとんどなのではないだろうか。また、とにかくやるべきことをやらねばならないという状況が医者には多々ある。「書類の記入なんてやってられるか。まずは患者のケアだ」という場合だ。「正しい手順」やチェックリストがあっても、時にはそれを無視する必要があるのだ。
    私はこれらの問題について長い間考えてきた。私は出来る限り良い医者になりたい。そのためにも、マニュアル通りに動くべき場合と、自分の判断で動くべき場合を見極めるのは非常に重要だ。単純な仕事は確実に行われるようにしつつ、創意工夫の余地や不測の事態に対応できる柔軟性も残したい。チェックリストは単純な問題にはとても有効だ。しかし、医療のようにん単純な問題と複雑な問題が混在している場合はどうなのだろうか。
    答えは意外なところで見つかった。ある日、道を歩いていたら、答えに出会ったのだ。

    ・建設業界では中世以来、棟梁を一人雇って任せるというやり方が長い間主流だった。棟梁はデザインや構造設計を一人でこなし、玄関から配管まで工事の全てを監督した。ノートルダム大聖堂、サン・ピエトロ大聖堂、アメリカ合衆国議会議事堂はそのようにして建てられた。だが、20世紀半ばには伝統的な棟梁は絶滅してしまった。建築のありとあらゆる側面が高度かつ多様に進化し、一人の人間が全てを習得するのが不可能になってしまったのだ。
    まず、設計と工事が切り離された。さらに設計はデザインと構造設計に分けられ、それぞれが細分化していった。工事も同様に細分化し、タワークレーン業者や内装大工などに分業された。超専門家されたという点においては、建築と医療は似ている。
    だが、医療はいまだに棟梁の時台のシステムで動いている。

    ・リスクがある状況では、上層部は権限を集約してしまいたくなりがちだ。だから、上層部の要求を部下に忠実にこなさせる、という目的でチェックリストが使われることも多い。私が建築業界を見学した時、最初に見たチェックリストもそうだった。会議室の右側の壁に貼られたチェックリストには必要な手順が詳細に書き込まれており、業者がいつ何をすべきかがはっきりと分かるようになっていた。ミスを予防してリスクを減らすというのは合理的で、このようなチェックリストは単純な仕事にはとても効果的だ。
    しかし、会議室の反対話の壁に貼られたチェックリストは、全く別の哲学で作られたものだった。予想外の複雑な問題に対処するには、決定権を中央から末端に分散させるべきだという考え方だ。32階建てビルの建設中に14階の中心が沈んでしまっても、各自が知識と経験を生かした対応ができるような権限を与えておく。その代わり、コミュニケーションは確実に取らせ、責任も負わせる。

    ・(ニューオーリンズのハリケーンカトリーナ被害の際)
    昔ながらの上から下への指令システムはあっという間に破たんしてしまった。決断すべきことは山ほどあるのに、どこにどのような援助が必要かという肝心の情報は不足していた。
    それでも政府は今までのやり方を変えようとしなかった。状況が刻々と悪化していく中、誰が権限を持つべきかという論争が何日も続いた。連邦政府は州政府に権限を渡そうとせず、州政府は地元政府に権限を譲ろうとしなかった。ましてや民間に権限を渡すなんて考えられないことだった。
    その結果は悲惨だった。水と食料を満載したトラックは、「我々が頼んだものではない」と政府に追い返された。避難用のバスの手配は何日も遅れ、正式な要請が運輸省に届いたのは、数万人が閉じ込められてから二日後のことだった。地元のバス200台が高地にあったのだが、それらは全く使われなかった。
    政府が決して非情だったというわけではない。だが、複雑な事態に対処するためには権限をできる限り分散させる必要がある、ということを理解していなかった。これが致命的だった。誰もが助けを求めていたが、権限を中央に集中させた政府の救援策は機能しなかった。
    後日、国土安全保障長官のマイケル・チャートフは「誰にも予期できない、想定の枠をはるかに超えた大災害だった」と弁明した。しかし、それこそがまさしく「複雑な問題」の定義なのだ。それに対処するのが彼らの仕事なのだから、何の説明にもなっていない。

    ・ある日のラジオで、ロックミュージシャンのデイビッド・リー・ロスの逸話を聞いた。ヴァン・ヘイレンのボーカルを務める彼は、コンサートの契約書に「楽屋のボウル一杯のM&M’sチョコレートを用意すること。ただし、茶色のM&M’sはすべて取り除いておくこと。もし違反があった場合はコンサートを中止し、バンドには報酬を満額支払うこと」という事項を必ず含めるそうだ。実際、ロスが茶色のM&M’sを見つけてコロラド州のイベントを中止したこともある。一見有名人にありがちな理不尽なわがままに聞こえるが、詳しく聞いてみると見事な方策だということがわかった。
    ロスは自伝の『クレイジー・フロム・ザ・ヒート』でこう語る。「ヴァン・ヘイレンは、地方の巡業に巨大セットを持ちこんだ初めてのバンドだった。それまでは多くても三台と言われていた中、機材を満載した大型トラック九台で各地を回った。梁が重量を支え切れなかったり、床が沈んでしまったり、ドアが小さすぎて機材を搬入できなかったりといったトラブルも多かった。スタッフや機材の人数が多いので、契約書は電話帳並みに分厚かった」
    その契約書に試金石としてM&M’sの項目を入れておく。「そして、もし楽屋で茶色いM&M’sを見つけたら、全てを点検しなおすんだ。すると必ず問題が見つかる」それが命に関わることだってある。コロラド州のイベントでは、興行主が重量制限を確認しておらず、セットは会場の床を突き破って落ちてしまうところだった。

    ・彼の病院では、21項目の手術用チェックリストを試験的に導入してみた。手術で起こりうる様々な問題をできる限り防ぐように作られたものだ。抗生物質の投与、輸血用血液の準備、重要な画像や検査結果が手元にあるか、特別な機材は必要か、などをスタッフたちは声を出して確認することになった。
    また、「チーム・ブリーフィング」というものもチェックリストに入っていた。スタッフは手術を開始する前に話し合い、重要事項をチーム全体で確認する。手術はどれくらいかかりそうか、出血量はどれくらいになりえるか、チームが知っておくべき患者の情報はないか、などだ。
    レズニック医師は、どのように高層ビルが建てられているかは知らなかった。だが、彼の採った方法は建築業界と一致していた。作業とコミュニケーションの両方をチェックすることで複雑性に対応していくというやり方だ。

    ・手術には四つの大きな死因がある。感染症、出血、麻酔、予期せぬ出来事だ。最初の三つに対しては、科学と経験が対策を示してくれる。手術前の抗生物質など、数多くの有効な対策がある。それらを確実に実行させるには、手順がわかりやすく書かれている古典的なチェックリストが効果的だ。
    だが、四番目の予期せぬ出来事、というのは全く違うタイプの問題だ。人間の体を開いて中をいじるという行為自体が複雑で、起こりうる全ての問題を事前に知ることはできない。だから、一つのチェックリストで全ての問題を予防することは不可能だ。彼らはそれぞれ独自にそれに気づいた。そして、話し合う時間を作り、各患者の状態やリスクをチームとして確認しておくのが最善の方法だという結論に達したのだ。だから彼らのチェックリストには、コミュニケーションのチェックが含まれていた。

    ・ジョンズ・ホプキンスのチェックリストには、手術を開始する前にスタッフがお互いに名前と役割を紹介しあうこと、という項目があった。「アトゥール・ガワンデ、外科医です」「ジェイ・パワーズ、外回り看護婦です」「ズー・ション、麻酔科医です」といったようにだ。
    この自己紹介には正直違和感があったし、効果にも懐疑的だった。だが、実はとてもよく考えられたものだった。お互いの名前を知っているグループの方が、そうでないグループよりもずっとチームワークが良いというのは、様々な業種で行われた心理学の研究で示されている。ジョンズ・ホプキンスの心理学者、ブライアン・セクストン氏は、手術の研究でも同様の結果を得た。手術を終えたスタッフを捕まえて、手術中のコミュニケーションの評価と、一緒に手術したスタッフたちの名前を聞いてみると、約半分しかお互いの名前を知らなかった。だが、チームメンバーの名前を知っていたスタッフは、コミュニケーションの評価が断然高かった。
    ジョンズ・ホプキンスや他所の研究者たちによれば、自己紹介にはもう一つの効果もあるそうだ。手術開始前に看護師に自己紹介と懸念を話す機会を与えると、その後も問題を提起したり、解決策を出したりしやすくなる、という研究結果が出た。彼らはこれを「活性化現象」と呼んだ。

    ・トロントの研究では、チェックリストが使われるところを実際に観察した。わずか18件の手術だけだったが、その10件で、チェックリストが重要な問題や曖昧な点を明らかにしてくれた。抗生物質の投与を忘れていたこと、輸血用血液の在庫があるか知らなかったことなどだ。さらに、チェックリストで防げるとは思っていなかったような、その患者特有の問題までもが防げた。
    例えば、ある患者の腹部の手術のために、脊髄くも膜下麻酔を使った時のことだ。この麻酔を使う時は、手術中に少しでも痛みを感じ始めたら、患者なそれを医者に伝える必要がある。麻酔が切れかけているので、麻酔薬を追加する必要があるからだ。この患者には重い神経障害があり、会話をすることができなかったので、手で合図してもらうことになっていた。普段の手術では、患者が外科医や手術野に触れてしまわないように、手と腕は固定しておく。スタッフは、この患者の手と腕もいつも通り固定してしまった。当然、患者は手で合図を出せない。だが、手術を始める直前までチームはそれに気づいていなかった。
    外科医はガウンと手袋を身につけ、手術台の横に立った。だが、手術をすぐには開始せず、チェックリストにある通り、スタッフと話し合いの時間を持った。トロントの報告書にはその時の会話が載っている。

    「麻酔に関して何か気をつけることはないかな?」と外科医は聞いた。
    「構音障害だけだな」と麻酔科医は応えた。外科医は一瞬考えていった。
    「麻酔の効き具合を確認するのが難しいかもしれないな」
    「ああ。でも手で合図してもらうことになっているから大丈夫だ」
    「それならば彼の腕は出しておかないと駄目だな」
    麻酔科医はうなずいた。チームは彼の腕を引っ張りだし、手を自由にしつつ、手術野に触れられないようにした。麻酔科医はさらに言った。
    「もう一つ気になるのが、ここにいる人の数の多さだ。雑音が多いと、患者とのコミュニケーションが取りにくいかもしれない」
    「よし、みんな、今回の手術は静かに行おう」と外科医は言った。問題は解決された。

    ・ブアマン氏(ボーイング)いわく、チェックリストを作るにあたって決めなければならないポイントがいくつかある。まず、いつチェックを行うか、つまり一時停止点をはっきり決めないといけない。警告灯の店頭やエンジンの停止などのように、それが明らかな場合もあるが、そうでない場合ははっきりさせておく必要がある。また、「行動のち確認」のチェックリストにするが、「読むのち行動」のチェックリストにするかも決めなければならない。

    ・チェックリストを使ったスタッフたちの感想が興味深い。三か月の試用期間後、外科医、麻酔科医、看護師、その他を含む250名以上のスタッフが匿名のアンケートに答えてくれた。チェックリスト導入前は有効性を疑う者が多かったが、三か月にはスタッフの80名が「チェックリストは短時間で簡単に使え、手術をより安全にしてくれた」と答えた78%は、チェックリストがミスを防止するのを実際に目撃した。
    もちろん、全員が納得したわけではない。残りの20%は、「チェックリストは時間がかかって使いづらく、手術をより安全にしてくれなかった」と思っているわけだ。
    だが、私たちはアンケートにもう一つ質問を入れておいた。
    「もしもあなたが手術を受けるとしたら、その時にチェックリストを使ってほしいと思いますか」
    93%が「はい」と答えた。

  • この本は,チェックリストの具体的な内容と言うよりは,医療現場の中で,チェックリスト作成に至った背景と過程,その過程の中で,著者(医師)が他分野の方々から得た知見をふまえ,どの様にしてチェックリストが出来てきたかが物語のように書かれています.
    チェックリスト作成におけるポイントは巻末にまとまっていますが,物語の要所要所でも触れられています.
    逆にこの本は,具体的な(詳細な)チェックリストの内容・書き方は,本質的な内容はありますが,具体的な内容は殆どありません.しかしこれは,具体的なチェックリストの作成は読み手に委ね,この本では,チェックリストの内容・書き方では補えないもの(チェックリスト作成の背景・過程・啓蒙)にポイントを置いているからだと思います.そうして読めば,物語のように書かれているのも分かります.
    著者は医師ですが,本書は本質的なところをおさえていると思いますので,各分野の各現場でチェックリスト作成の時に参考になると思います.

  • とにかくチェックリスト大事だよ!ということを、あらゆる事例を紹介しながら伝えている。ここまでシンプルな内容を、あれもこれもそれもと並べているのも珍しいほどで、逆に面白かった。
    しかしこれだけ大切なチェックリストが軽んじられるのもわかる気がする。地味なものほど重要であるいい例。

  • 『アナタはなぜチェックリストを使わないのか』

    高層建築は多くの業者に分業されており、一つの連携ミスが計画を狂わせ、一つの作業漏れが大惨事に繋がりかねない。建設現場では以下の2種類のチェックリストが使われている。
    ①単純な手順の間違いを防ぐためのチェックリスト
    ②予想外の困難も確実に全て解決するため、必要な場面で必要な項目について関係者に話し合いをさせるチェックリスト

    特に2つ目について、
    「起こりうる全ての問題を事前に予測するのは不可能だが、問題が発生しやすそうな工程や時期は予測できる。だから事前にコミュニケーションの予定を入れておくことで、問題が発生しても対応できる。」
    「各専門家は自分の分野には詳しいが建築の全てに精通しているわけではない。各専門家が独断で動くと大惨事になる。」
    「現状把握とコミュニケーションの円熟化こそが、建築業界のここ数十年の最大の進歩だ。」
    という。

    「本当に複雑な状況、つまり一個人で知るのは不可能な量の知識を必要とし、不確定要素が多い状況では、中央から全て指示しようとすると必ず失敗する。これがハリケーンカトリーナの本当の教訓だ」
    「状況が刻々と悪化していく中、誰が権限を持つべきかという論争が何日も続いた。連邦政府は州政府に権限を渡そうとせず、州政府は地元政府に権限を譲ろうとしなかった。まして民間に権限を渡すなんて考えられないことだった。その結果は悲惨だった。水と食料を満載したトラックは、『我々が頼んだものではない』と政府に追い返された。」

    対してウォルマートの社長は「自分が持つ権限移譲の判断を下さなければならない状況もたくさん発生すると思う。手元にある情報を元にベストの判断をしろ。そして何より、正しいことをしろ」と各店長に命令した。

    ロックバンドのヴァン・ヘイレンはコンサートの契約書に「楽屋にボウル一杯のM&M’sチョコレートを用意すること。ただし、茶色のM&M’sは全て取り除いておくこと。」と記載して、違反した際には実際にコンサートを中止した。ヴァン・ヘイレンは持ち込み機材や関係スタッフの多いバンドで、電話帳並みに契約書が分厚かった。M&M’sの項目は契約書が隅々まで確認されているか試す機能がある。実際、楽屋で茶色のM&M’sが見つかった会場では、重量制限の確認がされず、セットが会場の床を突き破って落ちるところだった。

    1954年のロンドンのコレラ大流行は、①感染者の居住地のマッピングと聞き取りによって井戸が原因と推測、②井戸の取手を取り外す、という手順で解決された。後日汚水溜めから漏れが発見された。この手法はその後感染拡大防止の手法として採用された(=再現可能なチェックリスト)。
    パキスタンの10人に1人の子供は15歳になる前に亡くなり、主な死因は下痢と急性気道感染症だった。水道や汚水処理システムは不十分、教育がいい届いていないため衛生の知識がない、都市は職を求める人で混雑し、腐敗した官僚政治は役に立たない。そんな多様で根深い問題がありながらも、解決策はシンプルに石鹸だった。配るだけでなく、使う場面と正しい使い方を教えた(=チェックリスト)。

    ①介入がシンプルである
    ②効果を丁寧に測定している
    ③介入の効果が増幅して広がる
    ROIが高い=てこ。

    チェックリストを作っても習慣化させるのが難しい。手術室のホワイトボードに手術準備のチェックリストを書き、看護師が声に出してチームに確認した。準備の際に看護師がメスの上に「離陸準備完了」と書かれたカバーを掛け、チェックリストを確認した後、看護師がカバーをとる。それまで外科医は手術を始められない(=権限の再分配)。

    チームワークを向上させるチェックリスト
    ①1分でもいいからチーム全員が必ず話し合うこと
    ②お互いの名前を知っておくこと
    その後も問題を提起したり解決策を出しやすくなる。当事者意識と責任感が高まる。

    航空用語で「ポーズポイント(一時停止点)」を設け、そこに到達するとチームは立ち止まっていくつかのチャックをしなくてはいけない。

    ・チェックリストは声に出す。
    ・長く不明瞭なチェックリストは機能しない。

    ◼️使いにくいチェックリスト
    ・現場を知らないデスクワーカーが作る。
    ・現場の人間は馬鹿だと思って全ての手順を事細かく書き出そうとする。

    ◼️良いチェックリスト
    ・効率的で、的確で、明確。
    ・全てを説明しようとせず、重要な手順だけを忘れないようにさせる。何より実用的であることが良いチェックリストの条件だ。

    チェックリストを渡しただけでは使ってくれない。
    ・そう訓練されているから。人間の記憶力と判断力は不確かで、その事実を認識しないと死者が出る。
    ・価値を見出しているから。実績から、自分の勘よりもチェックリストを信用している。

    ◼️決めなければいけないポイント
    ・いつチェックを行うか(一時停止点を決める)
    ・「行動のち確認」なのか「読むのち行動」なのか
    ・項目の数は5〜9個だが、猶予時間によって変えて良い
    ・一つの一時停止点に60〜90秒かかってしまうと邪魔に感じる。手順を省かれやすくなってしまう。
    ・飛ばされがちだが致命的なキラーアイテムのみに絞る。
    ・業界人なら誰にでもわかる言葉で書く。
    ・1ページに収まり、余計な装飾や色使いは避け、大文字と小文字を使い分けて読みやすくする。
    ・Helveticaのようなサンセリフ書体を推奨。
    ・初稿での完成度は必ず低いので実戦でテストする。

    チェックリストはマニュアルではない。全ての手順を詳細に説明するものではない。熟練者を助けるためのシンプルで使いやすい道具なのだ。
    重要な発見があった時、分厚い資料を作成して配布しても情報量の多さに対応できず、広まらない。最も重要な部分だけを抽出したわかりやすい形に変換しなければいけない。
    各学校や病院で少しずつやり方が違うので調整してもいい。

    ◼️つまずきポイント
    ・誰がチェックをするのか。権威ある人物(主治医、パイロット)は作業に気を取られて省くかもしれない。責任感と発言のしやすさにつながるため権限の分散がいい。
    ・チェックボックスにテェックするのか、口頭で言うだけなのか。
    ・問題の発生確率と被害の大きさを確認して、ROIの高い改革のために項目を絞る。確率が低くても大問題になるものは残す。
    ・チェックリストを使ってもらうために説明会などの活動も必要。印象に残すため、悪い例を笑いとともに見せるのも良い。

    チェックリストを使った投資家が成功しても、誰もチェックリストを使おうとはしない。自分の直感を信じたいのだ。
    チェックリストとチームワークがハドソン川の奇跡を起こしたことは事実なのに、英雄は直勘や技術で困難を切り抜けると思っている。
    チェックリストは退屈だ。
    チェックリストを使うと機械的な作業になっていざという時に目の前の現実に対処できなくなると危惧する人もいる。
    しかし良いチェックリストは簡単なミスを防ぐ作業から思考力を解放してくれる。その分より複雑な問題に対して集中して取り組めるようになる。

    どんな職業にも共通するプロフェッショナリズムの3要素がある。
    ①無私であること。他人から責任を預かる者は自分の利益よりも頼ってくるものの問題や心情を考えるべきだ。
    ②腕があること。技術と知識を日々研鑽することが求めらている。
    ③信用に足ること。自分の職務に誠実な態度で臨む必要がある。

    航空業界は4つめを加えた。
    ④よくできた手順には従うこと。必ず他者と協力すること。

    最高の部品を集めても最高のシステムは生まれない。次々と新しいテクノロジーを発見してもそれをどう調和させるかほとんど議論されない。成績を計測し続けたり失敗を徹底的に分析したりはしない。だから努力を重ねる以外の解決法はないと思い込んで、同じミスを何度も何度もしてしまう。

    人間の限界を認め、チェックリストを活用するべきだ。

  • チェックリストの大切さを具体的な実践現場の例を用いて教えてくださっています。マニュアルとは違う。だからこそ自分の仕事でチェックリストが必要なこと、チェックリストが不要な事を見極める必要がある。確かに…。
    わかってはいるのですが、具体的なチェックリストを1つか2つ、見たかったです。

  • 読了し、しばらくして仕事で見積書作成にミスを連発した。
    この本を思い出し、間違えやすい点をチェックリストにして
    使ってみた。
    「なぜ私はチェックリストを使わなかったのか」と正直思った。
    以後、同じ間違えは繰り返さなくなった。
    チェックリストでいったん平常心に戻って確認できる効果、有効です。

  • チェックリストそのものがどのような力を持っているのか、そしてチェックリストが利用者に与える規律とチームワークの創造などについての一冊。

    チェックリストのおかげで危険を回避したパイロットや機長、外科医、成功した投資家、ホワイトハウスに招待された英雄やロックスターまで、実務にどのようにチェックリストが活かされ、どのように無視され失敗したかを事例を使ってていねいに解説してありました。なぜチェックリストなのか、なぜチェックリストを使わない人がいるのか、についても簡単ながら解説してあり導入にも役立てることができそう。

    巻末に「チェックリストの作り方のチェックリスト」があってこれ1枚で今の仕事の問題点を改善することができるようになっています。

  • 航空機のパイロットは、当たり前のようにチェックリストを活用している。
    人間は忘れることが当然だし、突然のトラブルが発生すると大なり小なり同様もあるし、パニックになることもある。そんなときにチェックリストを見て確認しながら対応するシステムができている。そのシステムを参考に、医療現場に適用すべくWHOで安全な医療現場のためのチェックリスト作成をしたのが著者であるガワンデさんだ。
    本書は、具体的な事例とともにチェックリストの効果をじわりじわりと伝えてくれる。私自身もどちらかというと、チェックリストがあることの効果を信じていなかった方なので、本書を読んで考えを改めた。
    また、本書は読み物としても抜群に面白い。そして、ビジネスの現場にも役立てることができる本としての側面もある。もっと早く読んでおきたかった。

  • 良いチェックリストとは
    1.いつチェックを行うかを明確にする(一時停止点)
    2.「行動後の確認」タイプか「読みながら行動」タイプか決める
    3.原則、項目の数は5~9個(60秒から90秒程度の確認時間)で
     本当に致命的なものだけに絞る
    4.シンプルで明確な文章、知っている言葉で
    5.改良を重ねる

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著者プロフィール

1965年生まれ。ブリガムアンドウィメンズ病院勤務、ハーバード大学医学部・ハーバード大学公衆衛生大学院教授。「ニューヨーカー」誌の医学・科学部門のライターを務め、執筆記事はベスト・アメリカン・エッセイ2002に選ばれ、2010年に「タイム」誌で「世界でもっとも影響力のある100人」に選出されている。著書 『コード・ブルー』医学評論社 2004、『予期せぬ瞬間』みすず書房 2017、『医師は最善を尽くしているか』みすず書房 2013、『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』晋遊舎 2011、『死すべき定め』みすず書房 2016)。 [個人サイト]Atul Gawande http://atulgawande.com/

「2017年 『予期せぬ瞬間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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