「生きる力」の強い子を育てる (BE HERE NOW BOOKS人間性教育学シリーズ 2)

著者 :
  • 飛鳥新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784864100878

作品紹介・あらすじ

誰の目から見ても"いい子"は、本当は非常に危うい。学歴や学業成績が人生を決める時代は終わった。ソニーの上席常務として、数多くの"エリート"たちの盛衰を見つめてきた著者による、子どもの内なる力を引き出す、新しい教育のためのヒント。

感想・レビュー・書評

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  • 単にペーパーテストでいい点を取るようにトレーニングするのではなく、大地をしっかりと二本の足で踏みしめ、自らの存在を肯定し、自らを常に磨き、自己実現へ挑戦し、明確な意思を持って、物事を前向きに解決するように積極的に行動する事。
    大自然を畏敬し、周囲と調和し、全体の中で適切で調和的な立ち位置を確保し、人生を楽しむ事ができる。感受性と独創性が豊かで、好奇心が旺盛で創造する喜びを知っている者が育つ教育が望ましい。


    「生きる力」の定義
    1、大地をしっかりと二本の足で踏みしめて立つ力
    2、自らを肯定する力
    3、自らを常に磨く力
    4、自己実現へ挑戦する力
    5、意思の力
    6、物事を前向きに解決する力
    7、大自然を畏敬する力
    8、全体の中で適切で調和的な立ち位置を確保する力
    9、人生楽しむ心
    10、感受性、感性
    11、独創性
    12、決断力
    13、好奇心
    14、やる気
    15、人間的魅力
    16、積極性、行動力
    17、バイタリティー
    18、交渉力


    国連加盟国の中でシュタイナー教育が公教育として認められていないのは北朝鮮と日本だけ。


    国家主義教育学
    国家や支配者に忠実で、隣人に親切で、社会のルールやマナーをよく守り、勤勉で国の発展に献身的に貢献する人を育てる。国に押し付けられた枠の中でしか発想できず、視野が狭く、自らの価値観を確立できず、個性や独創性に乏しく、ひとつの方向に猪突猛進する、洗脳された戦士を育てる。

    どうしたらフローに入れるのか?
    一つには完全な自由を与えなければならない。どこでいつ何をするか、強制があってはならない。


    褒めるという行為はフロー教育では御法度。なぜならば、人から褒めてほしいという欲求(外発的動機)が強くなると、子ども達の心は外に向いてしまい、内側からこみあげてくる声(内発的動機)が聞こえなくなってしまう。内発的動機に接地できないと人は「フロー」に入れない。


    セルゲイブリン、ラリーペイジ、ジェフベゾス、ジミーウェルズは、モンテッソーリ教育を受けた。
    卒業生は知的独立心が強く、権威が嫌いで人から指示、命令される事を好まず、パラダイムをたたき壊してブレイクスルーする傾向がある。

    何の予備知識もない母親がごく自然に自分の産んだ子に接すれば、無条件の受容はひとりでに発露される。ただし、出産直後に30分以上、母親と赤ちゃんだけで、誰にも邪魔されずに過ごす事がとても大切。
    それは、出産直後は母子ともにオキシトシンやβエンドルフィンといった愛を司る機能があるホルモンが濃厚であり、心の絆が結ばれやすくなるから。僅か30分でもその絆は一生続く。

    最近の出産風景は、明るい部屋で分娩台に乗せ、産婦にドンドン話しかけたり、理想の出産をイメージさせたりしている。あれでは新皮質が活性化してしまい、わざわざ難産を誘導するようなもの。

    「生きる力」を伸ばすには、新皮質の暴走を抑え、古い脳を活性化しなければならない。


    人間の無意識には、性欲、バーストラウマ、死の恐怖、トラウマ、シャドーなど、5匹のモンスターが巣食っており、そこから反社会的な衝動がフツフツとわき上がってくる。
    その衝動が強すぎてペルソナや超自我による統制能力を超えると、問題行動となる。
    一方、モンスター達のさらに奥には「もう1人の自分」が眠っており、それが首尾よく目を覚まして活動を始めると、子供たちは善良で誠実で「生きる力」の強い子に育つ。

    情動に接地できなければ、動的な能力は伸びず、「生きる力」は強化されない。

    あらゆる能力に関して、表面的なスキルを伸ばそうとして、教えれば教えるほど、より本質的な情動や知能の発達を妨げる事がある。それは子供たちの「生きる力」を奪う事に他ならない。

    家庭教育や保育の失敗で、情動に蓋をしてしまった子は、
    徹底的なフローに入る事ができれば回復し、「生きる力」を身につける事ができる。
    全身を使う、長期間ひとつの作業に夢中になって取り組む、泥とまみれる、などを組み合わせると、効果はさらに大きくなる。

    グラウンディングとはなにか
    1、地に足をつける
    2、大地に根付く
    3、固い基盤に人を降ろす
    4、地面との感情的ないしはエネルギー的な接触を確立する
    5、自分がどこに立っているかを知っている
    6、自分が何者であるかを知っている
    7、自己の存在の根本実在に触れる
    8、現実に根を下ろしている
    9、身体、セクシャリティとつながっている
    10、喜び、安心感とつながっている
    11、肝が据わっている
    12、人々とつながっている


    私達が自分自身だと信じている、ペルソナ、自我、超自我などは、長年にわたって人の目を意識して作り上げてきた。
    大自然と真摯に対峙すると、それらは存在意義を失って縮小する。それに伴い、無意識レベルに巣食っていたモンスター達もおとなしくなる。その結果、もう1人の自分、野生の自分が目を覚まし、生きる力が強化される。

    生きる力が伸びる4要素
    1、無条件の受容
    2、大脳新皮質がいろいろ学ぶ前に古い脳を徹底的に鍛える
    3、フロー
    4、大自然との対峙


    いろいろ深く考えていくと、結局は子供を強制せず、大自然の中で夢中になって遊び回り、たっぷりフローを体験すれば、子供たちの生きる力が伸び、いい人生につながるという
    きわめて平凡な結論に達する。

  • 「学力は落ちてもいい」が衝撃。

    全員がクリエイティブである必要があるのだろうか?

  • 「生きる力」を育む教育学に関する話
    正直、賛否が判断しづらい。
    そりゃそうだよなーって思うことと、本当か?って思うことに分かれた。主観論が多すぎて、半信半疑って感じ。

    中には研究結果の引用もあり、そこは納得できた。
    (愛着形成がうまく行ってる子は、離れてたお母さんが迎えにきてもちらっと見て遊びに戻る、とか)

    実際こんな教育できなくない?怖くない?っていう気持ちもある。(勉強させずに大自然の中でフロー体験させて、その後勉強に集中投下して本当に巻き返せるの?とか)

    この教育を極端に進めたら、今の世の中には適合しないよねっていう気持ちもある。(牛乳をこぼしてジャバジャバ遊んでいるフロー状態を邪魔しない→他の人の家でもやる、とか)

    ただ、共感できるところもある。
    (幼少期の古い脳が育たないうちに、大脳新皮質が関与する読み書きそろばんを教え込むのは、発達の順番がちぐはぐでエラーが起こりやすい。とか、無条件の受容を行うことで子どもが安定するとか)

    ____________
    生きる力、とは、社会に変革を及ぼすような力のこと。

    日本では、過去「国家主義教育(与える教育)」を行っていた。
    これは、一つの方向に向かって一心に進む力を育む。一方で、自分で考えて進む力が育ちにくい。(戦争頑張っちゃうとか)

    その後、「生きる力」を育むべく、「ゆとり教育」が始まった。
    しかし根本の人本来が持っているものを伸ばすには中途半端で、失敗に終わった。

    本来、「生きる力」は、下記4点で伸ばすべき。
    ・無条件受容
    ・大脳新皮質より先に古い脳を鍛える
    ・フロー (なにかを夢中になって突き詰めること)
    ・大自然との対峙

    これは、サドベリー校、シュタイナー教育、モンテッソーリなどで行われていることと紐づく。

  • お子さんがいる方、保育士や教師など子供に関するお仕事をされている方にとって、もしかしたら、ご自身の考えている教育方針、子育ての考え方に迷いが出てしまうかもしれないけど、自分の頭に新しいアンテナがニョキって出てくる感じがした。

    以下、転載です。(自分用メモとして)

    ■この著者が定義する「生きる力」の特徴:

    人間の大脳の中で、爬虫類時代までに発達した「古い脳」のはたらきがコアになっている能力や資質のみを「生きる力」と呼んでいる。

    逆にいうと、理性、論理、知識などの大脳新皮質のはたらきだけで完結している表面的な能力は「生きる力」に含めていない。外から強制された枠に従って実行している正義感、倫理観もそれに含まれる。(「生きる力」には含まれない) 
    ※それをいかにしたら強化できるかを本書で掘り下げている。

    ■この本に出てくるキーワード・トピック:

    ・「与える」教育ではなく「引き出す」教育。

    ・すべての子どもは、自分自身の中に神を持っている。自我が満たされた自由な子どもはその神を発揮する。善悪や正邪の価値基準を与え、子どもを型にはめようとすると、その内にある神を悪魔に変えてしまう。つまり、法律や規則でしばり、道徳で抑え込もうとするから、罪を作り、反逆者を作り出すのだ。

    ・サドベリー教育:「自由に遊び尽くす」ことにより「生きる力」が強化されることを重視した教育。

    ・チクセントミハイが提唱する「フロー理論」。

    ・「フロー(流れ)」とは、「夢中になって、我を忘れて、何かに取り組んでいる状態」をさす。

    ・フローにはいるひとつの条件として、何事も強制されることなく、完全に自由な状態で、自らの心の深いところからこみ上げてくる欲求にしたがって行動する必要がある。これを「内発的動機」にもとづいて行動する、と表現する。
    遊び尽くした子どもは、今度は学習意欲が高まり、先生と交渉して自ら授業を企画する。つまり、内発的動機にもとづいた学習が始まるのだ。子どもたちは、遊びを通じて「フロー」に入りやすい体質になっており、学習の効率は極端に高くなる。
    事実、小学校六年間で教わる算数の内容は、二十四時間程度で完璧に身につけてしまうという。

    ・「生きる力」の強化は、「バーストラウマ」をいかに軽減するかにかかっている。

    ・子どもに関する真理はひとつしかない。それは、愛され、自由であり、自分自身であることが許されるなら、誰しもが攻撃性が少なく、表裏のない、誠実さと思いやりの心にあふれた、善良で、平和で社交的な人間になることだ。

    ・もし、世界中の母親が、医療の介入を受けることなく自然に分娩し、すぐに赤ちゃんを抱いて初乳を与え、母乳と愛情をたっぷり与えて育てることができたとしたら・・・おそらく・・・この地球の上から戦争はなくなるでしょう。

    ・人間教育の土台は早期文字教育などではない。あらゆる感覚器官、運動器官が、この瞬間模倣力の最も強い時期(0〜2歳)に発達する。(中略)このときは何という意欲に満ち満ちているか。それなのに多くの兄弟姉妹、友だちをもつこともなく、狭い教室に閉じ込められて、この二度とない大切な時期を過ごさなくてはならない子どもたちのことを思うと心が痛む。

    ・「生きる力」が伸びる四要素
    1.無条件の受容
    2.大脳新皮質がいろいろ学ぶ前に、古い脳を徹底的に鍛える
    3.フロー
    4.大自然との対峙

    ・日本の親たちに目覚めてほしいという願いを込めて、本書を書いている。

    ・「生きる力」の重要性をすべての人が理解し、それを強化する方法論のトレーニングを受けた人が増える必要がある。何よりもまず、優秀な保育者を大量に育成することが急務だ。

  • すごい!

    ・今まで自分が学んだ、コーチングの基礎になる考え方、
    ・学校教育に関する、モヤモヤした感情
    ・”ゆとり教育”失墜の本当の理由

    が順を追って、わかりやすくまとまっている。
    これを読むと、これまでの子育て教育感が間違っていなかった
    ことが判ると同時に、人間の能力を伸ばすために必要な環境
    についてのTipsが、知識として獲得できる。

    後は、いかにこれらを実践するか?
    だな。

    本書を通じて知った、サドベリー校については、
    また別の書籍を通じて見聞を深めたい。


    以下、気になったキーワードを書籍からピックアップしておく。


    ・”ゆとり教育”は、教師の力量が問われる
     優秀な教師には、スポットがあたらず、
     ダメ教師のお粗末授業ばかりがクローズアップされた。

    ・アメリカのボストン郊外にあるサドベリー・バレー校
     NHKが紹介した番組(1997年放送)のビデオを入手
     ここは、「生きる力」を強い子を育てる教育の数少ない実践例

    ・日本ほど教育内容の規制が厳しい国は他にない
     アメリカでは、デューイ教育以外にも
     シュタイナーやモンテッソーリの教育など、多くの
     特にな教育が許されており、サドベリー教育でさえも
     公教育として認められ、政府からの補助金が支給されている。

    ・「与える教育」ではなく、「ひきだす教育」を
     適切な環境を用意し、自然に育った子どもは、いまの社会の常識に
     とらわれずに自らの価値観を熟成し、社会を改革する力を身につけていく

    ・「人間性教育」←著者が推奨している定義
    の系譜
    01.ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778:フランス)
    02.ヨハン・ハインリッヒ・パスタロッチ(1746-1827:スイス)
    03.ヨハン・フリードリッヒ・ヘルバルト(1776-1841:ドイツ)
    04.フリードリッヒ・ヴィルヘルム・フレーベル(1782-1852:ドイツ)
    05.エレン・ゲイ(1849-1926:スウェーデン)
    06.ジョン・デューイ(1859-1952:アメリカ)
    07.ルドルフ・シュタイナー(1861-1925:ドイツ)
    08.マリア・モンテッソーリ(1870-1952:イタリア)
    09.アレクサンダー・サザーランド・ニイル(1883-1973:イギリス)
    10.セレスタン・フレネ(1896-1966:フランス)
    11.ロリス・マラグッチ(1920-1994:イタリア)
    12.ダイエル・グリーンバーグ(1934-:アメリカ)

    ・グリーンバーグが提唱したサドベリー流の教育は、極端
     徹底的に遊び尽くして満足した子どもは、必ず学習意欲が高まる時が来る。
     日本の母親達は、必死になって就学前から文字を教え、知識を教えよう
     としているが、まったく無駄である。むしろ失ったものが大きいと考える。

    ・子どもを癒すには、「無条件の受容」が必要。
     「〜ができたら、〜を与える」ではない。

    ・近代に入ってからは、
     ルソー著『エミール』(1963年)が「性善説」の代表格
     J・ズルツァー著『子どもの教育と指導の試み』(1748年)が、「性悪説」の代表格

    ・いまの教育は、社会の枠組みを絶対的な正義とみなして、
     子どもたちを強制的にその枠の中に押し込めようとしている。
     ところが、枠が存在することにより抑圧が生じ、子ども達のモンスターが
     肥大してさまざまな問題を生じているというメカニズムを十分に理解していないと、
     本当はまともな教育は望めない。

    ・昔から、「リーダーは声の大きいやつから選べ!」という格言がある。
     岡田武史前日本代表監督は、それを聞いて
     「そういえば俺も、昔から声のでかいやつばかりキャプテンに選んできたな。。。」
     と言っておられた。

  • 心身共にたくましい子に育ってほしい。1歳半の子どもに願うこと。「生きる力」の強い子を育てる、というタイトルに惹かれて読みましたが、いい意味で予想外でした。
    というのは、古い脳を鍛える、フロー、大自然の中で思い切り遊ぶ、という主張の背景として教育学、歴史の観点から整理して説明していたこと。なかなか興味深いです。
    一部共感納得できない部分もありましたが、読む価値ありでした。
    今後も参考にして子育てを楽しみたいと思います。

  • <もくじ>
    まえがき
    1章 エリートシステムの崩壊
    2章 なぜ「ゆとり教育」は失敗したのか
    3章 「生きる力」を失った日本人
    4章 世界一教育規則の厳しい国、日本
    5章 お国のための教育
    6章 「与える」教育ではなく「引き出す」教育を
    7章 文字や計算の早期教育は不要
    8章 「フロー」体験のすすめ
    9章 千住家の教育白書
    10章 家庭内保育の落とし穴
    11章 子どもの根源的な傷を癒す
    12章 育児の常識は間違いだらけ
    13章 「しつけ」は子どもへの不信の裏返し
    14章 無意識に巣くうもんスターたち
    15章 子どもたちの中に「神」を見出す
    16章 「お勉強」では健全な知能は発達しない
    17章 顔から手や足が出ている絵は健全に育っている証拠
    18章 教えると発達が止まる!
    19章 奇跡の保育
    20章 ブロックを取り除く
    21章 内なる野生を呼び覚ます
    むすび
    付録 1996年中教審答申「生きる力」
    「人間性教育学」シリーズによせて




    2014.03.22 『10歳までが勝負!「生きる力」をはぐくむ子育て』を見つけた時に見つける。
    2014.06.15 借りる
    2014.06.30 読了

  • まさに目からウロコの一冊でした。
    徹底的な受容、大脳新皮質が育つ前に大脳辺縁系を育てる、無我夢中になる集中力、大自然と対峙する。

  • 著者は、42年間ソニーに勤務し、CDや犬型ロボットAIBOなどの開発
    を主導して、上席常務にまでなられた方です。また、ソニーコンピ
    ュータサイエンス研究所を設立し、初代所長に就任。茂木健一郎氏
    や北野宏明氏などユニークな人材を輩出することに貢献します。引
    退後は、教育や医療の分野で活動をされ、エジンバラ大学から名誉
    博士号を授与されるかたわら、アメリカのネイティブアメリカンの
    長老に称せられるなど、怪人ぶりを発揮されている方です。

    本書は、そんな著者が教育について語った一冊。題名にあるとおり、
    「生きる力」を育てることがテーマです。

    「生きる力」は、現在の学習指導要領において、公教育の目標とさ
    れているもので、もともとは、悪名高い「ゆとり教育」の導入に伴
    って公式に使われるようになった言葉です。かつての学力偏重・つ
    めこみ型教育に対するアンチテーゼとして使われるようになったも
    のですが、ゆとり教育廃止後も、公教育の目標とされ続けています。
    ただし、ゆとり教育の「失敗」を繰り返さないよう、「生きる力」
    には「学力」も含まれると再定義がなされています。(すなわち、
    「学力」が低い=「生きる力」が低いとなってしまうわけで、これ
    はこれで非常に問題のある定義だと思います、、、)

    本書の前半では、ゆとり教育の前後を軸に、教育政策がどのような
    思想で行われてきたのか、それが本来の教育が目指すものとどのよ
    うにズレてきたしまったのかが整理されています。そこで明らかに
    されるのは、どのような教育にするにせよ、国が教育の中身を決め
    る国家主義教育である限りは、ダメなのだという現実です。既に欧
    米では、国家主義教育から人間性教育へと主流がシフトしつつある
    のに、日本では、国家主義教育から抜け出せないまま。「生きる力」
    を育てるには人間性教育へシフトすることが不可欠なのに、それを
    国家主義教育において進めようとしていることの矛盾が、説得力を
    もって語られます。

    では、生きる力を育てる人間性教育とはどのようなものなのか。そ
    れは、ルソー以来の伝統を持つもので、現代の認知工学や心理学の
    知見も加味して煎じ詰めると、以下の四つの要素に集約できるので
    はないかということが本書の後半で語られます。

    1.無条件の受容
    2.大脳新皮質がいろいろ学ぶ前に、古い脳を徹底的に鍛える
    3.フロー
    4.大自然との対峙

    「なにも難しいことはない。子どもたちを勉強机からひっぺがし、
    大自然の中に連れ出して、思い切り遊ばせればいいのだ」というの
    が著者の結論ですが、一番難しいのは最初に掲げられている「無条
    件の受容」かもしれません。これは子どもの可能性をどこまで信じ
    ることができるかということと関連するからです。子どもにせよ、
    他人にせよ、その可能性を信じて待っていれば、いつかはなるよう
    になるはずなのに、それが普通は我慢ができません。相手の中に神
    が眠っているということをなかなか信じることができない。それで
    神の目覚めを待てずに、余計な介入をして、おかしくしてしまう。

    相手のもつ可能性をどこまで引き出すことができるか。これは子育
    てに限らず、後進の育成などにおいても重要なテーマです。ですか
    ら、本書は、子育てや子どもの教育に悩まれている方のみならず、
    部下や後進の育成に関心の高い方にも、きっと得ることの多い一冊
    となることでしょう。個人的には、デューイなどに比べて言及され
    ることの少ないニイルの教育哲学を知ることができたのが大きな収
    穫でした。

    人間の持つ可能性、神性について考えさせてくれる一冊です。
    是非、読んでみて下さい。

    =====================================================

    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

    =====================================================

    入社してから活躍する人は、趣味やクラブ活動やボランティア活動
    などを通じて、知識や学力とはまったく異質の「何か」を身につけ
    ている。それは、自らを常に磨く力であり、集団の中における適切
    で調和的な立ち位置を確保し、人生を楽しみ、目的を定め、挑戦し、
    自己実現に向かう力だ。
    そういった一連の力を、全部ひっくるめて「生きる力」と呼ぶこと
    にする。

    (2007年中教審答申では)「生きる力」は、「確かな学力」「豊か
    な人間性」「健康・体力」の三つが支えていると定義し直し、再び
    「学力偏重教育」へ舵を切ったのだ。つまり、もともとは行きすぎ
    た学力偏重教育の弊害を是正するために出した「生きる力」という
    概念を、それとは正反対の意味で使い始めた感がある。

    「生きる力」というのは、ことばを換えれば「自己実現」に向かう
    力だ。自分の能力を伸ばすとともに、それをいかんなく発揮し、思
    いを実現して、社会の中で意義のある活動をし、自らの位置づけを
    獲得していく力だ。

    国連教育加盟国の中で、シュタイナー教育が公教育として認められ
    ていないのは北朝鮮と日本だけだという。

    「国家主義教育学」というのは、次のような両面性を持っている。
    A.国家や支配者に忠実で、隣人に親切で、社会のルールやマナーを
     よく守り、勤勉で国の発展に献身的に貢献する人を育てる。
    B.国に押しつけられた枠の中でしか発想できず、視野が狭く、自ら
     の価値観を確立できず、個性や独創性に乏しく、ひとつの方向に
     猪突猛進する、洗脳された戦士を育てる。

    日本のフリースクールは、不登校児を救うために数多く設立された
    が、大多数は「人間性教育学」を実践している。

    知識は、人間の形成にとってはほとんど意味を持っていない。だか
    ら、知識の習得を教育の中心にすえてはいけない。むしろ、無意識
    の表出としての遊びと創造に道を譲るべき。木工、美術、音楽、ダ
    ンス、ドラマなどを重視すべき。文明国には、十分に遊んだ子がい
    ない。子どもが学んでいないと時間を無駄にしているという考えは
    呪いだ(ニイル)。

    「生きる力」には、「与える」教育はまったく無力であり、「引き
    出す」教育以外にはあり得ない。

    すべての子どもは自分自身の中に「神」を持っているのだが、通常
    はその神が眠っている。たとえ表からは見えなくても神の存在を信
    じて、その子を徹底的に信頼し、その神が目覚めるようにするのが
    教育の本質だ。

    自らの感情に、しっかり接地した子どもを育てなければいけない。
    感情が自由であるなら、知性はひとりでに発達する(ニイル)。

    私は人間が生きていく上でどうしても必要な要素を「歌と踊りと祈
    り」の三つに集約した。

    「生きる力」が伸びる四要素
    1.無条件の受容
    2.大脳新皮質がいろいろ学ぶ前に、古い脳を徹底的に鍛える
    3.フロー
    4.大自然との対峙

    いろいろ深く考えていくと、結局は、勉強を強制せず、大自然の中
    で夢中になって遊び回り、たっぷり「フロー」を体験すれば、子ど
    もたちの「生きる力」が伸び、「いい人生」につながるという結論
    に達する。
    なにも難しいことはない。
    子どもたちを勉強机からひっぺがし、大自然の中に連れ出して、思
    い切り遊ばせればいいのだ。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ●[2]編集後記

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    先日、高校時代の旧友と久々に会いました。昔やった悪行の話から、
    彼が常習していた万引きの話になりました。

    小学校低学年から始まった万引きは、何度警察につかまっても止め
    ることができず、結局、高校二年まで続けていたと言います。ある
    種の中毒症でしょう。経験者が語るずぶずぶとはまっていくプロセ
    スは、リアルな恐怖がありました。

    そんな彼が万引きを止められたきっかけは、万引きを発見された私
    服警官に、「お前の目は死んでいる」と言われたことと、引き取り
    にきた母親が全く怒らなかったことだそうです。

    自分が人間として終わっているという事実を面と向かって言われ、
    実の親からも完全に見放されたことがわかって、それで更生する気
    になったのだそうです。親御さんは、さんざん彼が目覚めるのを待
    ち続けて、いよいよもうダメだと諦めた時に、ようやっと彼は目覚
    めたわけで、人間というのはわからないものですね。

    彼はその後、有名私大に入り、現在は総合商社で立派な会社員をし
    ています。

    自分の子どもが万引きに手を染めた時、自分ならどうするか等々、
    色々と考えさせられた体験でした。

  • まだざっくりのななめ読みしかしてないけれど、
    つまりは生き物としての本能を高めるってことかな?
    古い脳の担当している部分を鍛えるって、
    人間としての高度(というのが適切かなぞだけど)な教育を施すのではなく、
    野性を取り戻すような、ありのままの状態で保育するということのように感じられた。

    「無条件の受容」が伴うから、動物とは違うのかもしれないけど。

    でも生きる力=本能を高める、って考えてみれば当たり前のことのような気もする!


    思っていたのとは少し違ったけど、
    早期教育はやはり必要なさそうって改めて思った。
    心や脳、自己肯定を高めてあげることが大事だね!
    お勉強はやる気になればいくらでも出来る。


    心理学の話が面白かった。
    生まれながらに罪を背負っている、ことの意味とか。
    他にも色々読んでみようかな

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著者プロフィール

工学博士(東北大学)、名誉博士(エジンバラ大学)。1964年、東京工業大学電子工学科卒業後、42年間ソニーに勤務。上席常務を経て、ソニー・インテリジェンス・ダイナミクス 研究所(株)所長兼社長などを歴任。現在、「ホロトロピック・ネットワーク」を主宰、医療改革や教育改革に携わり、瞑想や断食を指導。また「天外塾」という企業経営者のためのセミナーを開いている。さらに2014年より「社員の幸せ、働きがい、社会貢献を大切にする企業」を発掘し、表彰するための「ホワイト企業大賞」も主宰している。著書に『「ティール時代」の子育ての秘密』『「人類の目覚め」へのガイドブック』『実存的変容』『ザ・メンタルモデル』(由佐美加子・共著)『自然経営』(武井浩三・共著)『幸福学×経営学』(小森谷浩志・前野隆司・共著)『人間性尊重型 大家族主義経営』(西泰宏・共著)『無分別智医療の時代へ』『「自己否定感」』『「融和力」』(いずれも小社刊)など多数。2021年の夏、これからの生き方や在り方、暮らし方をみんなで学ぶオンラインサロン「salon de TENGE」をスタートした。

「2022年 『「正義と悪」という幻想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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