このミステリーがひどい!

著者 :
  • 飛鳥新社
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本棚登録 : 148
感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784864104142

感想・レビュー・書評

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  • まあ、ミステリーもちょこちょこ読む身ではあるんだけれど、正直な話としては、名作で通るものでも「?」と思うものが結構ある。私の感覚がファン歴が長い人の評価とずれまくっているような気もするので、あんまりそこは言わないで黙っておこう…と思っていたところに、こんな本が出たのが昨年の夏。読みそびれていたものをこのたび手に取った。

    作家・比較文学者の小谷野敦さんによる、ミステリーのメッタ斬り書評…かと思えばちょっと違った。小谷野さんは小説の中でも私小説を至高のものとお考えのかたなので、「私小説にあらずんば小説にあらず」とばかりにばしばし切り捨てていくパターンを予想していたのだが、実はそうでなく、お若いころにガチでミステリーを読みあさり、今でも心が動けば手にとって読んだ末の、作品ごとの「ひどい」認定である。「あんなもんつまんねえよ」とジャンル全体をくさすのではなく、読んでみたうえでの「まあ自分にはよさがわからなかった」という、非常に個人的・紳士的なダメ出しである。ミステリーと非ミステリー文学が交互に出てくるので、私みたいにジャンルを問わずにふらふらと読んでいるものにとっては非常にうなずける部分も多い。ねちねちした怨嗟がなく、意外なことにすがすがしさを感じる。

    小谷野さんの人生が文章の端々から立ち上がってくるし、登場人物(特に女性)の好みが「ふふふ~、文系男子!」という感じだし、さすが私小説作家の筆致で面白い。それに、「むしろモンテ・クリスト伯のように、自分自身の恨みのために戦うやつのほうが私は好きだ(p162)」や、「私はノワール化の中にも二種類あって、静かだけれど恐ろしい人間の性を描くものはよしとするが、残酷趣味に走っているものは歓迎しない(p198)」をはじめとするいくつかの観点は私のストライクゾーンど真ん中だったので、「私、小谷野作品好きなんじゃね?ちゃんと読んだことないけど」と思ってしまった。

    文中に登場する作家に関する脚注と、巻末の推理小説年表、索引が充実していて素晴らしいので、この本をミステリーファンが無視しているとすればそれは視野が狭いのだと思う(まあ既知のデータだろうが)。ジャンルのマニアに突き付ければ嫌な顔をされる部分が多いだろうけれど、そういう部分が怖くてミステリーの話ができない読書好きも結構いると思うので、私はそういう人には「それでいいのだ」とこの本を勧めたい。ネタバレ続出なので、繊細なかたはちょっとよけたほうがいいかもしれないけど。

  • ミステリーのこと「ちょっと性に合わないな」ぐらいだったのが、筆者の意見に激しく同調してめっちゃ嫌いになってしまった。

  • ミステリ愛好家としてはかなり構えて読んだのだが、意外にもうなずけるところが多い。
    ねちねちしたところのないさっぱりとした「面白くない」の断定は、ときにユーモアも感じられ、小谷野節健在だなあとニヤリとさせられる。ここ数冊の著書の中では最高の質なんじゃないかなあ。

    にしても「俗謡に合わせて人が死ぬと何が面白いのであろうか」には吹き出してしまった。えー!面白いじゃん!むちゃくちゃ面白いじゃん!
    そこの感覚の有無が、ミステリ好きになるか否かの分水嶺になるような気がするな。

  • ミステリファンのうるさいひとり言と思ってください。
    ご不快になられたのならごめんなさい。まず謝っておきます。

    まず、単純な事実誤認が多すぎます。
    例えば、『興奮』の主人公は「コックニー訛り」ではなく「オーストラリア訛り」、『シャム双子の秘密』でクローズドサークルになった理由は「火山の噴火」ではなく「山火事」(噴火だと『月光ゲーム』ですよ)、『砂の器』の真相部分に触れたところに大きな事実誤認、『魔女が笑う夜』に出てくる像の名前は「わらう後家」ではなく「ばくれん後家」(『わらう後家』はポケミス版のタイトル)、などなど。これではどこを信用していいのかわかりません。

    つまらない面白いという評価が書いてあればいいほうで、あらすじしか書いていない、評価がなされていない作家・作品も多く目につきます。

    「何が面白いのか説明してほしい」的な文章が散見されますが、どこがつまらなかったか、あるいは理解できなかったかを具体的に書いてもらわないと、読者はそれらを漠然と察するしかなく、説明をするにしても曖昧になってしまいます。

    「クリスティーはストーリーテリングが下手」「連城三紀彦は小説が下手」「グレアム・グリーンは二流作家」「泡坂妻夫はバカミスの帝王」「横溝正史は乱歩の亜流の二流作家」「フィリップ・マーロウは『ワル』」など……「純文学作家」・「比較文学者」が読めばそうなのかもしれませんが、一般の評価とはかなり離れていて、独自の視点をお持ちなんだなと思いました。

    あと一点、エラリー・クイーンの「読者への挑戦状」を批判していましたが、本作で触れられている『シャム双子の秘密』『日本樫鳥の秘密』『Yの悲劇』には「挑戦状」はついていません。シャムは国名シリーズで唯一「挑戦状」がついていない作品として有名なのでは? あえて「挑戦状」がついていない作品を選んだ可能性も考えました(著者は小説の知識が豊富ですし)。国名シリーズでも有名な、ギリシャ・オランダ・エジプトあたりを読まれていたら、本文で触れていてもおかしくないと思うのですが……。もしそれらを読まれていないのであれば(読んでいるとは思いますが)、学生向け雑誌の付録のみでクイーンの「挑戦状」を批判するのはフェアではないと思います。

    『推理小説の美学』でエドマンド・ウィルスンの評論を読まれているなら、ドロシー・L・セイヤーズのミステリの歴史についての記述も読んでいるはずなのですが……。古典的寓話や神話、戯曲などにミステリ的要素があるのはその当時から指摘されていることで、ジュリアン・シモンズが『ブラッディ・マーダー 探偵小説から犯罪小説への歴史』のなかで、推理小説がポーを始祖とするかとともに仔細に検討しています。その本を読んでおいてほしいとはつゆにも思いませんが、そのようなものに触れた人は大体思いつくことです。

    ミステリというジャンルを嫌いな方がいらっしゃるのは当然のことですし、そのこと自体は全然かまいません。批判のないジャンルは衰退しますが、「文学者」が雑に読んで(「読み飛ばした」、映像のみ、などが頻出するので)、雑に論評するのは、ファンとしてはいい気分はしないな、と思いました。お金を払って居酒屋で知らない酔っ払いの戯れ言を聞かされている感覚です(お酒をたしなまれるかは存じ上げないですが)。

    あと随所に「中学生レベル」といった感じの言葉が出てきますが、中学生もミステリファンもバカにしている印象を受け、なんだかなぁと思いました。

    それと、直木賞や芥川賞、作者の最終学歴などにこだわりすぎる印象を持ちました。それぞれの作者紹介でこんなに最終学歴が掲載されているのを読んだのははじめてかもしれません。学歴には詳しくはなりましたが、作家としての素質と何か関係があるのだろうか? といぶかしんでしまいました。

    ただ、意外にある程度ミステリについて納得できる点や、文学界の人間関係、作品に関するうんちく、ミステリ嫌いの人がどう考えているかなど、参考になる部分はあったので、読んで損とまではいかなかったです。

    最後に。私小説的ミステリなら、ジェイムズ・エルロイの『ブラック・ダリア』を推薦します。悪人しか出てこないノワール小説なので、勧善懲悪が好みの著者の趣味とは離れているだろうとは思いますが。

  • 結局本書で小谷野敦の言いたいことは「僕たくさんミステリーを読んでるんだよ」程度なんです。百人組手よろしく古今東西のミステリーをバンバン斬っていくのですが、とにかくすべて雑。タイトル上げて一言ディスって、タイトル上げて一言ディスってのくり返りで掘り下げる気ゼロ。
    『このミステリーがすごい!』をもじった炎上狙いのゴミみたいなタイトルをつけてるんだから、せめてもう少しミステリー小説というジャンルとがっぷり四つで勝負して下さい。

  • ただつらつらとミステリのタイトルが並べられて、よくない、わからない、わからないとはつまらなかったということだ、などのぼやきが続くばかりなんだけどさ。読み進めていくと、これが意外と面白い。膨大な量のタイトルが出てきて、中には雑読みしたり、途中でやめたり、読んだけどわすれてしまった、というのもあるものの、それだけの本を手に取るだけでも今どき珍しい人ともいえるだろう。作品をとりあげ、こまかく評するのも面白いこともあるけど、こうやってざっくりとただひたすらタイトルと〇か×かだけを並べるだけ、というのもわかりやすくてよい。

    自分で読んで、あ、やっぱりつまんなかったんだ、という本もあれば、えー?あれ、そんなにダメかなというものもある。そういうものだと思う。本を読んで感じるものなんて、人それぞれちがうんだからさ。

    本について、ああでもない、こうでもないという話を聞く楽しみを味わえたね。

  • まえがきを読み、なるほどと思い購入し読んだが、この人の文書がすごく分かりづらい。私が馬鹿なんでしょうか。

    結局、好き嫌いがこの人の評価基準なんだから、ここまで作者やその作品を貶す必要もないのでは。そもそも、作品を批判する際に、細かい瑕疵をあげつらう人がいるが、それって本当にその作の価値を徹底的に貶めるほど重要なことなのでしょうか。

    この人が褒めている「ロートレック荘事件」は私も面白い作品だと思うが、筒井氏の作品ではそれより良いものもたくさんあるような気がする。

    いずれにしても、読後感は良くない。作者の書いた小説を一度読んでから、この人の批評眼を信用するかしないか判断したい。

  • 著者の好き嫌いを紹介しているのでしょう。
    SFもあれば、漫画も映画もありと、非常に幅広く扱っている。
    筒井康隆『ロートレック荘事件』は絶賛。
    良い作品ではあるが、この作品と同等かそれ以上に面白い作品もたくさんあるのでは、というのが自分の意見。
    全体的に海外ミステリの評価は低すぎない?

  • この人の本は読んでる時は面白いのだが、断定のもたらす爽快感によるところが大きいな、と気づく。

  • 注:この本には過去の名作などのネタバレが多数出てくるので注意が必要です。
    あらゆるミステリを様々な点から検証して酷評する本かな、と思いきや、ここに書かれているのは1962年生まれの著者による文句の垂れ流しである。
    「この小説はよかった」「これは良くなかった。途中で読むのをやめた」ではその本を読んだ者には勝てないし評価をしてはいけない。著者自身、様々なミステリを読んでいるようではあるが、そのどれも視点が独特すぎてついていけないよこんなの……というのが本音。ネタバレも含んだバカミス論はなかなかに面白かったが、この本、ギャグで書いているのならnoteかブログでやるべきだし、本気で書いているなら作者はどこかで人生の何かを大幅に間違えたのだろう、と思った。

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著者プロフィール

小谷野 敦(こやの・あつし):1962年茨城県生まれ。東京大学文学部大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了、学術博士。大阪大学助教授、東大非常勤講師などを経て、作家、文筆家。著書に『もてない男』『宗教に関心がなければいけないのか』『大相撲40年史』(ちくま新書)、『聖母のいない国』(河出文庫、サントリー学芸賞受賞)、『現代文学論争』(筑摩選書)、『谷崎潤一郎伝』『里見弴伝』『久米正雄伝』『川端康成伝』(以上、中央公論新社)ほか多数。小説に『悲望』(幻冬舎文庫)、『母子寮前』(文藝春秋)など。

「2023年 『直木賞をとれなかった名作たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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